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  • 「キャンセルカルチャーとは何か?」小林よしのりライジング Vol.481

    2023-09-26 20:0072
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    第481号 2023.9.26発行

    「小林よしのりライジング」
    『ゴーマニズム宣言』『おぼっちゃまくん』『東大一直線』の漫画家・小林よしのりが、Webマガジンを通して新たな表現に挑戦します。
    毎週、気になった時事問題を取り上げる「ゴーマニズム宣言」、『おぼっちゃまくん』の一場面にセリフを入れて一コマ漫画を完成してもらう読者参加の爆笑企画「しゃべらせてクリ!」、著名なる言論人の方々が出版なさった、きちんとした書籍を読みましょう!「御意見拝聴・よいしょでいこう!」、読者との「Q&Aコーナー」、作家・泉美木蘭さんが現代社会を鋭く分析「トンデモ見聞録」や小説「わたくしのひとたち」、漫画家キャリア30年以上で描いてきた膨大な作品群を一作品ごと紹介する「よしりん漫画宝庫」等々、盛り沢山でお送りします。(毎週火曜日発行)

    【今週のお知らせ】
    ※「ゴーマニズム宣言」…先週は9月7日に行われたジャニーズ事務所記者会見がいかに異常なものだったかを検証したが、その後もマスコミの暴走は止まらず、「ジャニーズ事務所」という名称を消滅させるまでに追い込んでしまった。ジャニーズ問題は、日本史上最大の「キャンセルカルチャー」となった。ある個人の過去の言動を問題化し、その人物の存在を社会から完全に消去してしまう運動のことを「キャンセルカルチャー」というが、果たしてこの「キャンセルカルチャー」とは一体何なのか?大衆が偽りの正義に酔いしれ、次から次へと「キャンセル」していく先には何が待っているのか?
    ※泉美木蘭の「トンデモ見聞録」…9月20日、この日、百田尚樹には事件が起きていた。ネットの「フリー百科事典」サービス・ウィキペディアから「日本保守党」のページが削除されたというのだ。百田のライブ配信のチャット欄には、百田シンパが集結し、「自民党の嫌がらせだな」「自民党の破壊工作だ」「言論統制だろ」「ウィキペディアは反日だ!」などの書き込みであふれていた。アンチ自民党だけに、「自民党に圧力を受けた」と考えたい人が多いようだ。削除された真相とはいかに!?
    ※よしりんが読者からの質問に直接回答「Q&Aコーナー」…神の存在をどう考えている?「24時間テレビ」は偽善番組ではないし、ジャニーズのエンタメ力によってココまで長続き出来ているのでは?ネットで話題となっている「私人逮捕」をどう思う?自称被害者は、何故ジャニー喜多川が生きているときに刑事事件で訴えなかったの?男性アイドルと女性アイドル、恋愛スキャンダルが出た時に抱く気持ちが違うのは差別?ジャニー喜多川の件、何もかんもキャンセルされる今の状況は、やはり当然の報いでは?…等々、よしりんの回答や如何に!?


    【今週の目次】
    1. ゴーマニズム宣言・第510回「キャンセルカルチャーとは何か?」
    2. しゃべらせてクリ!・第437回「感涙・血涙・空涙? 親子で大号泣ぶぁ~いやいやい!の巻【後編】」
    3. 泉美木蘭のトンデモ見聞録・第304回「エセ保守老害列伝~日本保守党2」
    4. Q&Aコーナー
    5. 新刊案内&メディア情報(連載、インタビューなど)
    6. 編集後記




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    第510回「キャンセルカルチャーとは何か?」

     先週は9月7日に行われたジャニーズ事務所記者会見がいかに異常なものだったかを検証したが、その後もマスコミの暴走は止まらず、「ジャニーズ事務所」という名称を消滅させるまでに追い込んでしまった。
     ジャニーズ問題は、日本史上最大の「キャンセルカルチャー」となった。

     2019年にジャニー喜多川が亡くなった際には東京ドームで「お別れの会」が開催され、一般参列者は8万8000人に及んだ。東京ドームで芸能関係者のお別れ会が行われた例は、現在のところ後にも先にもこれだけであり、参列者数は日本の著名人の葬儀関連行事で最多だった。
     ところが、そこまで称えられた功績が、今や丸ごと「キャンセル」され、「なかったこと」にされようとしている。
     ジャニー喜多川は「もっとも多くのコンサートをプロデュースした人物」「もっとも第1位のシングル曲をプロデュースした人物」として、2010年にギネス世界記録に認定された。性加害をしていようがいまいが、このプロデュース記録の事実に変わりはない。
     ところが、ギネスはこの記録を削除してしまった。そしてついには事務所に「ジャニーズ」の名を冠することすらできなくなった。
     もはや「ジャニー喜多川」という人物など、最初からこの世に存在しなかったかのように扱わなければ、許されないような有様になってしまっている。

     このように、ある個人の過去の言動を問題化し、その人物の存在を社会から完全に消去してしまう運動のことを「キャンセルカルチャー」という。
     もともとキャンセル(cancel)とは、「予定をキャンセルする」とか「計画をキャンセルする」というような使い方をする言葉だ。
     その「キャンセル」を、「これまであった好ましくないものをやめる、否定する、ボイコットする」といった意味で使う言い回しは、40年ほど前から黒人コミュニティで始まったそうだ。
     その形容を広めたのは70年代に人気だったファンクバンド「シック(Chic)」の「ユア・ラブ・イズ・キャンセルド(Your Love is Cancelled)」という歌だという。「お前への愛は終わった」ということを、まるでレストランの予約でもキャンセルするかのように「お前への愛をキャンセルする」と表現したわけで、これは奇をてらったジョークの性質を含んでいた。

     そんな軽薄で滑稽な言い回しだった「キャンセル」の意味合いが大きく変わったのは2010年代半ばからである。
     この頃から主にSNS上で、「キャンセリング(cancelling)」と呼ばれる糾弾行動が頻繁に起こされるようになった。
     芸能人や政治家などの著名人、あるいは一般人の過去の犯罪や不祥事、不適切な言動の記録を掘り起こして炎上させ、その過ちを徹底的に追及、その対象者に対して「ユー・アー・キャンセルド(You are cancelled. お前はキャンセルされた)」と宣告し、その人物を社会的に葬り去り、世の中から完全に消し去るまで糾弾を続けるという運動である。
     このような運動を「コールアウトカルチャー(call-out culture)」といった。

     そしてアメリカでは、このコールアウトカルチャーがリベラル派による人権運動と結びつき、一大ムーブメントとなった。
     2017年、ニューヨーク・タイムズが映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインによる数十年にわたるセクハラ問題を告発する記事を掲載、これが大反響となり、被害者が続々と「私も」と名乗りを挙げ、「#MeToo」運動に発展。ワインスタインは翌年逮捕され、禁固23年の有罪判決を受けた。
     #MeToo運動はさらに拡大し、俳優のケビン・スペイシーやコメディアンのルイ・C・K、NBC重役のマット・ジマーマンや看板情報番組の司会者マット・ラウアー、CBS大物ニュースキャスターのチャーリー・ローズ、メトロポリタン・オペラ名誉監督ジェームズ・レヴァイン、コメディアン出身の民主党上院議員アル・フランケン等々、多くの人が続々とセクハラを告発されてキャンセルされ、降板、解雇、辞職などに追い込まれていった。
     わしが好きな映画監督のウディ・アレンはハリウッドから追放され、作品はアメリカでは公開できなくなっている。

     そんなヒステリックともいえる「キャンセリング」の波が、日本にも押し寄せたことをわしが初めて意識したのは2018年4月、財務省の福田淳一事務次官が辞任させられた件だった。
     福田には女性記者に対して誰にでもかまわず「胸触っていい?」「手縛っていい?」などと口走るヘンな癖があった。もっとも実際に手を出したことは一度もなく、それまで取材に当たっていた女性記者はみんな受け流していたし、嫌なら「やめてください」と一言いえば済むはずのことだった。
     ところがテレビ朝日がこれを「セクハラ発言」と報じ、福田は否応なく辞職に追い込まれたのである。
     同年9月には雑誌「新潮45」が衆院議員・杉田水脈の「LGBTには生産性がない」とする原稿を掲載したために、廃刊させられてしまった。なぜか発言した本人ではなく、載せた雑誌がキャンセルされてしまったのだ。
     杉田の発言は差別心丸出しで論外のものだったが、だからといって言論の場をひとつ潰してしまうというのは、明らかにやりすぎだった。 
  • 「ジャニーズ記者会見の狂気」小林よしのりライジング Vol.480

    2023-09-19 17:49129
    300pt
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    第480号 2023.9.19発行

    「小林よしのりライジング」
    『ゴーマニズム宣言』『おぼっちゃまくん』『東大一直線』の漫画家・小林よしのりが、Webマガジンを通して新たな表現に挑戦します。
    毎週、気になった時事問題を取り上げる「ゴーマニズム宣言」、『おぼっちゃまくん』の一場面にセリフを入れて一コマ漫画を完成してもらう読者参加の爆笑企画「しゃべらせてクリ!」、著名なる言論人の方々が出版なさった、きちんとした書籍を読みましょう!「御意見拝聴・よいしょでいこう!」、読者との「Q&Aコーナー」、作家・泉美木蘭さんが現代社会を鋭く分析「トンデモ見聞録」や小説「わたくしのひとたち」、漫画家キャリア30年以上で描いてきた膨大な作品群を一作品ごと紹介する「よしりん漫画宝庫」等々、盛り沢山でお送りします。(毎週火曜日発行)

    【今週のお知らせ】
    ※「ゴーマニズム宣言」…9月7日に行われたジャニーズ事務所の記者会見は、異常としか言いようのないものだった。しかもその異常性を誰一人自覚することもなく、ひたすらジャニー喜多川やジャニーズ事務所を「悪」として排斥する動きが続いている。そこには常識も良識も正気も存在しないのに、誰もが「正義」を背負っていると思い上がっている。今回はその記者会見の異常さを記録として残そう。
    ※泉美木蘭の「トンデモ見聞録」…この原稿を書いているのは9月18日。敬老の日だが、老いをどう敬ったらいいのかわからない。今朝、わたしのスマホには、ある高齢者からの長文メールが送られてきた。「コロナ論」は「三文漫画」だとか、「すべての現象は地下水脈で繋がっている」「昆虫食と日本の養鶏畜産業の崩壊を俯瞰視すべき」だとかの陰謀論が書き連ねてある上に、3カ月前に送られてきたメールとまったく同じコピペ文だったので、困惑をこえて疲れてしまった。老化による認知能力の衰えが、脳を陰謀論に染まらせるのだろう。将来は自分にも起き得ることと考えて、自分の老いをものすごい高圧で見せつけてくる存在を、ちょっとだけ優しめの目つきで眺めることを、敬老の日の過ごし方としたい。さて、本日は、最近ウオッチしている、ものすごい高圧の老人についてリポートする。
    ※よしりんが読者からの質問に直接回答「Q&Aコーナー」…日本近海の水産物を根こそぎ乱獲、処理水放出した福島への迷惑電話などなど…中国人の民族性が直ることってある?民主主義には奴隷制度が必須なの?ワクチンの件等を考えると福島の処理水は本当に安全なのか?とモヤモヤするけど、先生はどう考える?サウナを利用したことはある?性加害にあったことがある身からすると、ジャニーズの被害者には同情してしまうが?『おぼっちゃまくん』の最高作品は!?もし先生が好きな女性アイドルが社長から強制わいせつを受けていても許せる?阪神タイガースの「アレ」についてどう思う?…等々、よしりんの回答や如何に!?


    【今週の目次】
    1. ゴーマニズム宣言・第509回「ジャニーズ記者会見の狂気」
    2. しゃべらせてクリ!・第436回「感涙・血涙・空涙? 親子で大号泣ぶぁ~いやいやい!の巻【前編】」
    3. 泉美木蘭のトンデモ見聞録・第303回「似非ホシュ老害列伝~日本保守党」
    4. Q&Aコーナー
    5. 新刊案内&メディア情報(連載、インタビューなど)
    6. 編集後記




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    第509回「ジャニーズ記者会見の狂気」

     9月7日に行われたジャニーズ事務所の記者会見は、異常としか言いようのないものだった。
     しかもその異常性を誰一人自覚することもなく、ひたすらジャニー喜多川やジャニーズ事務所を「悪」として排斥する動きが続いている。そこには常識も良識も正気も存在しないのに、誰もが「正義」を背負っていると思い上がっている。
     今回はその記者会見の異常さを記録として残そう。

     記者会見の質疑応答で出た質問のレベルの低さには、思わず耳を疑った。
     最初に質問をしたTBS「報道特集」の村瀬健介は、開口一番こう言った。
    「半世紀以上の長期にわたって、数百人の少年に対して性被害が行われたという、史上空前の加害行為ということになると思うんですけれども」
     ジャニー喜多川のしたことが、史上空前の加害行為!?
     報道特集は、ウクライナ戦争を扱っていないのか?
     ウクライナ当局によれば、これまでに少なくとも1万9000人のウクライナ人の子供たちがロシア支配地域およびロシア本土に連れ去られ、そのうち帰還できた子供はわずか400人足らずだという。国際刑事裁判所(ICC)はこれを戦争犯罪として、プーチンに逮捕状を出している。
     ジャニー喜多川が、子供を一人でも強制連行したか!?
     だが、この記者会見ではこんなデタラメな誹謗中傷でも何でも言いたい放題で、ひたすら故人を吊し上げるのみだった。

     そしてジャニーズ側も、ひたすら記者たちに同調してジャニー喜多川をどこまでも悪者に仕立て上げることで、許しを乞おうと決めていたらしい。
     新社長となった東山紀之は、いつも「ジャニーさん」と言っていたはずなのに、この会見では「喜多川氏」と言い続けた。そして、そのことを指摘して「ジャニーさんへの想い」を問う質問が出ると、こう答えたのだ。
    「喜多川氏に関しては、エンターテイメントというのは人を幸せにするためにあるもので、それはそうじゃなかったと」
    「沢山の人を巻き込んで迷惑をかけて、結果あの方は誰も幸せにしなかったなと。なので喜多川氏と呼ばせていただくことになりました。」
     ジャニー喜多川が作り上げたエンターテインメントは間違いなく多くのファンを幸せにしたはずだし、東山自身もその作品のひとつだったはずだ。
     ところが東山は「あの方は誰も幸せにしなかった」と決めつけ、もうそんな人を「ジャニーさん」とは呼びたくないから、距離を置いて「喜多川氏」と呼ぶことにしたと言ったのである。
     これはジャニー喜多川と共に、自分自身をも完全否定するものだった。

     東山がここまでベタ折れしたのを見て、取材側は「水に落ちた犬は叩け」とばかりにますます図に乗った。
     ユーチューブで発言しているという本間龍とかいう作家は、「ジャニーズ事務所」の名称を変更しないという件について、こんなことまで言ってのけたのだった。
    「ジャニーズ事務所と言えばジャニー喜多川氏の作った会社で、その方が下手をすると40年、50年、数百人、数千人の人々を不幸のどん底に叩き落としてきたという状況の中で、その方の名前を今後も頭に乗っけていくというのは、あまりにも常識外れだと思います。あえて言うと『ヒトラー株式会社』『スターリン株式会社』なんて無いわけですよね。それに匹敵するほどの犯罪を犯したというご自覚が足りないのではないかと思うのですがいかがでしょうか」

     ジャニー喜多川が、ヒトラーやスターリンに匹敵する犯罪をした!?
     ジャニーがいつ、600万人のユダヤ人を虐殺したホロコーストに匹敵するようなことをした?
     ジャニーがいつ、1000万人を虐殺したといわれる大粛清に匹敵するようなことをした!?
     こんな暴言を吐く馬鹿が、平気で記者会見の場に入り込めることが信じられない。ここまで来ると、いくらなんでも単なる名誉毀損だ。
     ところがなんと、この暴言に対しても東山は「おっしゃる通りでございます」と答えた。ジャニー喜多川はヒトラーやスターリンに匹敵する悪事を成したと認めてしまったのだ。しかも東山はその後さらに「本当に人類史上最も愚かな事件だと思います」とまで言った!
     ここまで故人の名誉を踏みにじっていいのだろうか!?
     もしかしたら、質問した方もされた方も、ヒトラーやスターリンが何をしたのかという知識すらなく、ただ漠然と「極悪人の代名詞」としか思っていないレベルだったのかもしれないが。

     そしてさらに仰天したのが、東山の「今回は法を超えて、救済、補償というものが必要だなと思っています」という発言だった。 
  • 「芸能とは何なのか?(後編)」小林よしのりライジング Vol.479

    2023-09-05 18:40215
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    第479号 2023.9.5発行

    「小林よしのりライジング」
    『ゴーマニズム宣言』『おぼっちゃまくん』『東大一直線』の漫画家・小林よしのりが、Webマガジンを通して新たな表現に挑戦します。
    毎週、気になった時事問題を取り上げる「ゴーマニズム宣言」、『おぼっちゃまくん』の一場面にセリフを入れて一コマ漫画を完成してもらう読者参加の爆笑企画「しゃべらせてクリ!」、著名なる言論人の方々が出版なさった、きちんとした書籍を読みましょう!「御意見拝聴・よいしょでいこう!」、読者との「Q&Aコーナー」、作家・泉美木蘭さんが現代社会を鋭く分析「トンデモ見聞録」や小説「わたくしのひとたち」、漫画家キャリア30年以上で描いてきた膨大な作品群を一作品ごと紹介する「よしりん漫画宝庫」等々、盛り沢山でお送りします。(毎週火曜日発行)

    【今週のお知らせ】
    ※「ゴーマニズム宣言」…ジャニーズ問題は案の定、慰安婦問題と同じ道を辿る一途だ。右も左も、日本が「文明開化」で西欧の価値観を無批判に受け入れていった明治以降の歴史しか知らないから、こうなるのだ。今回も前回に引き続き、本来の日本を取り戻すため、日本人が忘却した江戸時代以前の歴史について語っていこう。
    ※泉美木蘭の「トンデモ見聞録」…8月30日、厚労省がワクチン被害の認定審査会を開き、一気に54人の死亡被害を認定した。部会を4つに増やして処理をスピードアップさせたというが、どんどん申請数が増えて、いまだに4000件以上の審査が終わっていないらしい。久しぶりにワクチンを話題にしたのは、今週、メールボックスに、こんな件名のメールが届いたからである。〈コロナは終わりの始まりに過ぎず、本格的な修羅場が始まる〉……メールにはさらに、「NHKから国民を守る党」の立花孝志と、「ごぼうの党」の奥野卓志党首による『日本人削減計画・日本が終わる』という対談の切り抜き動画が添付されていた…。
    ※よしりんが読者からの質問に直接回答「Q&Aコーナー」…ウクライナの失地奪還は達成できずに終わってしまう?ハリウッド映画などで無理矢理、LGBTQや黒人を出したりすることも受け入れるべき?大きな悲しみや苦しみをどのように乗り越えられてきた?共同親権推進派は、「子の利益」のためと言いながら子を守る気なんて無いのでは?「クリーンな業界」へと変わろうとしている芸能界、もう蜷川幸雄やつかこうへいのような演出家は出てこないのかと思うと残念では?処理水を海に流したことをどう思う?クリストファー・ノーラン監督の新作映画『オッペンハイマー』が日本で公開されたら観る?混浴は恥ずべき因習?…等々、よしりんの回答や如何に!?


    【今週の目次】
    1. ゴーマニズム宣言・第508回「芸能とは何なのか?(後編)」
    2. しゃべらせてクリ!・第435回「猛暑でも酷暑でも夏はスイカ割りぶぁ~い!の巻【後編】」
    3. 泉美木蘭のトンデモ見聞録・第302回「インボーデミック ~それロシアのプロパガンダです」
    4. Q&Aコーナー
    5. 新刊案内&メディア情報(連載、インタビューなど)
    6. 編集後記



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    第508回「芸能とは何なのか?(後編)」

     ジャニーズ問題は案の定、慰安婦問題と同じ道を辿る一途だ。
     右も左も、日本が「文明開化」で西欧の価値観を無批判に受け入れていった明治以降の歴史しか知らないから、こうなるのだ。
     今回も前回に引き続き、本来の日本を取り戻すため、日本人が忘却した江戸時代以前の歴史について語っていこう。

     歌舞伎の元祖とされる「阿国歌舞伎」と、その人気を奪った「遊女歌舞伎」は売春と一体だったため、風紀を乱すとして幕府に禁止され、女性は舞台に立てなくなった。
     そして少年だけで構成された「若衆歌舞伎」も、男娼が問題となって禁止され、前髪を剃った男だけが出演できる「野郎歌舞伎」に代わった。
     当時は元服した男性は額から後頭部にかけて髪を剃っていた。剃る部分を月代(さかやき)といい、成人しても月代を伸ばしているのは病人か浪人くらい。少年の前髪は若さと美のシンボルであった。
     しかし前髪を剃ったくらいで男娼文化は全く揺らぎもしなかったことは、前回書いたとおりである。

     とはいえ、役者当人は前髪がないことを気にしていたようで、頭に綿をつけたり、頭巾を被ったり、色染めの手ぬぐいを置いたりして月代を隠した。
     さらには「前髪髷(まえたば)」と呼ばれる付け髪をつけて舞台に上がることが流行ったが、それでは前髪を禁止した意味がないと、幕府は前髪髷も禁止。そこで役者は方形の絹布の四隅に重りをつけて前髪に載せる「野郎帽子」というものを開発して舞台に上がるようになった。
     こうして役者は、無理やりにでも前髪がないことを隠して少年の若さを保っているということにした。また、野郎帽子が紫縮緬で作られるようになると、これがさらに優美であると人気を呼ぶようになったという。

     その頃の舞台は後世の歌舞伎とは比較にならないほど単純で、「華やかな服装の伊達者(かぶき者)が茶屋の遊女に通ってくるところ」とか「殿様が一人の小姓を特に寵愛していることに他の小姓たちが嫉妬して怒るところ」といった風景を寸劇にした内容で、演目の数も少なく、同じようなものを繰り返し上演していた。
     それがなぜ飽きられもせず続けられたかというと、舞台はいわば遊女屋の「張見世」みたいなものであり、客が役者を買うための装置として存在していたからだった。
     これがその後、舞台そのものの魅力で客を呼ぶエンターテインメントとして洗練され進化していって、現在の歌舞伎にまでつながっていくのである。

     歌舞伎の劇場の傍には上演前後に客が楽しむ茶屋があり、役者が客をもてなしていた。そのもてなしのひとつに男色があり、これが後の「陰間茶屋」の発祥といわれる。
     初期の時代の役者は不特定多数を相手にしていたわけではなく、パトロンとなる金持ちに身を任せる男娼だった。
     その後長らく男娼のことを「野郎」と呼んでいたが、18世紀初めの享保の改革でいったん下火になった男娼が復活した頃から「陰間」という言葉が使われるようになる。この言葉自体は以前からあり、まだ舞台に立てない未熟な者のことを指していたが、やがて舞台に関係しない者も含めて男娼全てを「陰間」と呼ぶようになった。
     当初は裕福な武士や僧侶くらいしか陰間茶屋の客にはなれなかったが、経済が発展すると町人の客が増え、それと共に女性の客も増えていった。そして、歌舞伎とは関係ない個人営業の陰間も出てくるようになったという。

     天保年間の『三葉雑記』という書には、役者を養成するには「男子を遊女屋の女を抱える如くに抱え置きて、芸をしいれるなり」とある。
     役者修業の間に、12歳になると肛門を少しずつ広げる訓練がされて肛門性交の技法が施され、舞台の芸と共に寝屋の芸までが仕込まれる。
     歌舞伎役者になるための教程には男色の技法も入っており、舞台に上り始めたもののまだ一人前ではない「舞台子」は、舞台で役者としての芸を磨くと同時に、客からの要請によって座敷も勤め、体を売っていた。
     また、本舞台に上がる前に田舎廻りで芸の修業に行くものは「飛子(とびこ)」と呼ばれたが、飛子は巡業に行って芝居の興行主から夜の伽を請われれば、自分の利益のため断ることはできなかった。

     男娼として売れるにも修練が必要で、容貌をよくするため、10歳から12歳くらいの時に毎晩、鼻を板で挟み、紐で結び付けて面をかぶったような状態にして寝させていたという。当時は目を整形することはできなかったが、これを続けることで、鼻筋はある程度高くできたらしい。
     肌をきれいに保つためにザクロの皮の粉末で体を磨き、歯を磨くにはハチクの笹の葉を炭にしたものを用いた。
     陰間は女性的な容貌と若さが勝負で、無毛や薄毛の者が人気だったため、ムダ毛の処理は入念に行われた。特にヒゲは陰間の大敵で、毛抜きを使って処理していたという。