ユーザーブロマガは2021年10月7日(予定)をもちましてサービスを終了します

「郵便局」赤字転落で蠢く「再国営化」の大愚策
閉じる
閉じる

新しい記事を投稿しました。シェアして読者に伝えましょう

×

「郵便局」赤字転落で蠢く「再国営化」の大愚策

2021-05-07 21:47

     「郵便局は国営に戻さないと維持できない」

     最近、そんな声を永田町で耳にすることが増えた。「日本郵政」の増田寛也社長が有力国会議員などを回り、「窮状」を訴えていることが背景にある。

    日本郵政が11月13日に発表した9月中間期の連結決算では純利益が1789億円と24.4%減り、子会社で郵便事業を営む「日本郵便」の純損益は65億円の赤字となった。中間期で赤字に転落するのは3年ぶりのことだ。

     新型コロナウイルスの蔓延で、「アマゾン」など宅配サービスが大きく伸びた中で、日本郵便は赤字に転落したのだ。

    金融収益の大幅減

    日本郵便などによる自動配送ロボットの公道走行実証実験を視察する加藤勝信官房長官(中央)=2020年10月31日、東京都千代田区【時事通信社】

    日本郵便などによる自動配送ロボットの公道走行実証実験を視察する加藤勝信官房長官(中央)=2020年10月31日、東京都千代田区

     日本郵便には全国一律のサービスを提供する「ユニバーサルサービス」が義務付けられており、これを受けて「郵便局」が全国各地に配置されている。2020年10月末時点で、その数は2万3823局に及ぶ。集配郵便局エリアの8割が赤字で、黒字エリアは2割に過ぎず、窓口業務も4割が赤字とされる。郵便局網の維持費として、日本郵政の銀行子会社である「ゆうちょ銀行」と「かんぽ生命保険」が、「業務手数料」や「拠出金」の形で毎年1兆円を負担し支えてきた。

    問題はその支援資金が急速に細っていることだ。2019年夏に発覚したかんぽ生命の不正販売問題で、保険の解約などが相次いだことで、保険販売から得られる手数料が減っているほか、保険の契約数などに応じて入る拠出金も今後、大きく減少していく見通し。また、低金利の長期化でゆうちょ銀行の経営環境も悪化していることから、同行から入る手数料や拠出金も減る。つまり、郵便局を維持するために頼みになっている金融収益からの資金が、大幅に減っているのだ。

     実は、郵便局を守るための金融子会社への資金拠出ルールは2019年度から変わっている。それまでは金融2社が自社商品を郵便局で販売してもらう「業務手数料」として、すべて支払われていた。それが、金融2社からの資金の一部を、独立行政法人の「郵便貯金簡易生命保険管理・郵便局ネットワーク支援機構」にいったん拠出した後、日本郵便に交付金として支払われることになったのだ。

     2020年度は、独立行政法人への拠出金はゆうちょ銀行が2374億円、かんぽ生命が561億円と合わせて2935億円にのぼり、直接支払う「業務手数料」と合わせて8594億円が支払われることになった。2019年度に比べて1090億円も減ったのだが、2021年度はさらに減少すると見込まれている。

     資金の一部を独立行政法人を通す形に変えたのも、裏がありそうだ。自民党の「郵政事業に関する特命委員会」(細田博之委員長)からの提言で決まったのもだが、その際の理由は、独立行政法人を通して交付金とすることで、消費税の支払いを半分以下に抑えられるというものだった。だが、それは建前に過ぎないとみられている。

    政府の「孫会社」を脱却

    2021年用お年玉付き年賀はがきを販売する郵便局の窓口=20年10月29日、東京都内【時事通信社】

    2021年用お年玉付き年賀はがきを販売する郵便局の窓口=20年10月29日、東京都内

     「郵便貯金・簡易生命保険管理機構」は郵政民営化以前に預け入れられた定額貯金や積立貯金などの定期性郵便貯金を管理するための組織で、11兆円近い資金を持つ。これらの貯金は依然として国の保証が残っているが、設定された満期と共に役割を終えていく運命にある。その独立行政法人を、郵便局維持の資金の受け皿にしようというのが、本当の目的ではないかと疑われていた。

     日本郵政は11月13日に会見を開き、増田社長が次期中期経営計画の骨子を発表した。発行済み株式の89%を保有するゆうちょ銀行と、64%を保有するかんぽ生命の株式を2025年までに50%以下に減らすとした。

     もともと銀行と保険の金融2社は「民業圧迫」を避けるために、政府が日本郵政を通じて保有している株式を売却、「完全民営化」するはずだった。民主党政権下でその期限が先送りされ、自民党政権に復帰しても、ゆうちょ銀行とかんぽ生命の2社は政府の「孫会社」のままだった。ようやくそれから脱却するとしたのである。

     子会社から外れない限り、新規事業の開始などに制約があるため、株式売却は金融2社にとっても念願である。しかし、金融2社と日本郵政の親子関係が薄れれば、郵便局に委託している事務手数料の支払いが一段と減っていくことが予想される。そんなこともあってか、独立行政法人への拠出金は子会社でなくなっても支払い義務が残るとされている。

     それでも、ジワジワと郵便局維持のために金融2社から入ってくる収入は減ることは避けられないだろう。さらに、かんぽ生命の不正の影響が、2021年度に一気に現れてくることになれば、金融収益で郵便局網を支えるという長年の「構造」が限界にくる。もはや郵政グループの収益だけで、郵便局を維持することは難しい。だからこそ、郵便局を維持するには「再国営化」しかない、というわけだ。

     日本郵政からそうした内情を明かされ、

     「郵便局は地域の拠点として重要」

     「雇用を維持する上でも守る必要がある」

     と言われた政治家は、「確かにそうだ」と思うに違いない。自民党の大物議員の1人も、

     「郵政が大変なことになっている」

     と語っていた。自民党のベテラン議員からすれば、郵便局が長年「集票マシン」として機能してきたという思いもある。何としても郵便局網を残すことが重要だ、と感じるに違いない。


    下がる存在意義

    日本郵政グループの看板=2020年1月、東京都千代田区【時事通信社】

    日本郵政グループの看板=2020年1月、東京都千代田区【時事通信社】

     だが、全国に2万4000近くある郵便局に税金を投入して維持する必要は本当にあるのだろうか。

     インターネットが普及する中で郵便の取扱量は大きく減り、小包も民間事業者の宅配荷物に押されている。さらに、インターネットバンキングの普及や、非現金決済の広がりで、「郵便局」という拠点の重要性も落ちている。

     銀行でさえ、リアル店舗を閉鎖したり、最近ではATM(現金自動預け払い機)も減らしたりしている。

     にもかかわらず、日本郵便はビジネスモデルをほとんど見直していない。

     直営郵便局は、この8年で2万176から2万47に129減っただけだ。外部に委託してきた簡易郵便局は281減っているが、直営郵便局は金融収益からの「ミルク補給」によって、まったく見直されずに存続してきたのである。

     地方に行くと、町おこし関係者のほとんどは、コンビニエンス・ストアが欲しい、と口を揃える。郵便局を残して欲しい、という声は、関係者以外からはほとんど聞かれない。コンビニならばATMもあり、手紙を出すポストもある。

     70歳以上でパソコンを触らない人もいるが、あと10年もすれば大半の人が、インターネットでほとんどの金融取引ができるようになる。確実に郵便局の存在意義は下がっていく。そこに税金を投じる意味はまずないだろう。

     コロナの蔓延で、企業業績が大幅に悪化、巨額の赤字に転落するところが相次いでいる。航空会社や鉄道といったインフラ企業には、政府が資金をつぎ込んで救済すべきだ、という声が今後強まっていくと考えられる。そうした流れの中で、郵便局も重要なインフラだ、郵便局を国営に戻してしまおうという主張が出てくるに違いない。

     この半世紀、日本は官業を民営化することに力を注いできた。国鉄をJRに分割民営化し、電電公社をNTTグループに分けて、新規参入を促した。専売公社は民営化され、JT(日本たばこ産業)になった。郵政省(現総務省)の郵便事業は日本郵政へと分離されたが、郵政民営化は抵抗にあって、いまだに国の支配から抜けきれていない。

     しかも、そうした民営化会社の多くに「官業」へのノスタルジーがくすぶり続けている。人口減少が鮮明になり、事業自体が成り立たなくなる中で、そうした「官業回帰」への思いは一段と強くなっているように見える。(2020年12月)


    広告
    コメントを書く
    コメントをするには、
    ログインして下さい。