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  • 小飼弾の論弾 #274 「紅麹騒動で揺れる機能性表示食品、AIビジネスは儲からない?ビッグテックを訴える米司法省の勝算は?」

    2024-04-09 07:00
    550pt

     「小飼弾の論弾」で進行を務める、編集者の山路達也です。
     無料公開部分の生配信およびアーカイブ公開はニコ生・ニコ動のほか、YouTube Liveでも行っておりますので、よろしければこちらもぜひチャンネル登録をお願いいたします!

     今回は、2024年4月2日(火)配信のテキストをお届けします。

     次回は、2024年4月16日(火)20:00の配信です。

     お楽しみに!

    2024/04/02配信のハイライト

    • フォーミュラE感想「フォーミュラゼロやってほしい」
    • xzコマンドの脆弱性、そのヤバさと「闇のもの」
    • 紅麹問題と「Apple対規制当局」
    • 視聴者質問「どの野党に投票すれば?」と税制のコスト
    • AIはどうやって儲けるのか
    • 6本足マウスとドラマ『三体』感想、おすすめの漫画

    フォーミュラE感想「フォーミュラゼロやってほしい」

    山路:タイトルにちょっと入れ損なっちゃったんですけれども、今日、かなり弾さん的に、そうとうデカいよっていう、IT関係のニュースがあった。

    小飼:xzは、これは、すごくヤバい。

    山路:ちょっとこれ、xzの話題、多めに語りたいと思います。最初は軽い話題でいうと、東京の公道で、公道レースが開催された。

    小飼:これ、軽いのか。

    山路:軽い(笑)、まあ、軽いエンターテイメント的ということで。

    小飼:でも、公道でやったというのはね。

    山路:私、わざわざJSPORTSにも加入して見てみたんですよ。

    小飼:でも、スクリーンで見たわけで、現場に行ったわけじゃなくて。

    山路:そうです。

    小飼:お台場だと、現場に行こうと思えば、行けて。だから、けっこう現地で見た人も多いんだけど。でもさ、あれってさ、一番良い観戦手法っていうのは、ドローンで追っかけだよね。

    山路:『MFゴースト』ですよね(笑)。

    小飼:そうそうそうそう。

    山路:あれを、『MFゴースト』みたいなドローンのやつで見てみたい。

    小飼:ほんのわずかなクリップで、ほんの5秒ぐらいのクリップでもいいから、見てみてください。今までのフォーミュラとは、何が違うか、音付きでね、ここが一番重要。音なんですよ、一番違うのは音なんです。

    山路:キュイーン、

    小飼:そうなんですよ。ヴェーンじゃないんですよ。内燃機関のヴェーンがなくて、シュイーンなんですよ。

    山路:なんか、面白い音ですよね。普通のEVの音ともちょっと違うというか。回転数とかが違う。

    小飼:それは全然、出力が違うけれど、でも、そこに内燃機関の音がない。やっぱり全体的にずっと静かではあるんですけれども。

    山路:あれやっぱり、公道レースとかもやりやすいってことあるかもしれないですよね。もしかしたら音の問題とかも。

    小飼:なんだけども、やっぱり一番の危険要素というのはスピードなので。だから、その部分っていうのは、ICEだろうが、BEVであろうが、要するに内燃機関であろうが、電磁モーターであろうが、変わらないといえば変わらないんですよ。

    山路:確かに(笑)。

    「チケット買えなくて東京ビッグサイト内でパブリックビューイングで見ました」(コメント)

    山路:おおー。チケット、3分でもう全部完売だったそうで。私も買おうかなと思ったんだけど、もう完全に出遅れました。

    小飼:っていうのはさ、ここまで来たらフォーミュラゼロやってほしいね。

    山路:ゼロ。

    小飼:どういうことかっていうと、要はモーターに関するレギュレーションを取っ払っちゃう。内燃機関だろうが、エレクトリックモーターだろうが、好きなのを使いなさい。その代わり重量はこれだけに抑えなさい、とか。

    山路:もうまさに『MFゴースト』の世界になっていくのかな、それは。

    小飼:いや、でもあったんだよね、フォーミュラ0というコンセプトは。でも今のところはフォーミュラEというのはフォーミュラ1とは別格、だから別の規格で。ストレートであればやっぱりフォーミュラ1のマシンのほうが今のところは速いんですよ。

    山路:しかし本当にそういう制約とかがないことだったら、べつに弾さんがよく言っているように、EVの方がもうモーターカーのほうが全然速いってことが。

    小飼:速いというのか、もうじつはトランスミッションがいらない。変速器がいらないんですよ。まあ厳密に言うと、普通にエレクトリックモーターを設計した場合というのは、トランスミッションがいらないようなトルク特性になるんですよね。トランスミッションがあったほうがいいようなトルク特性というような設計にわざとするっていうこともできるけど、基本いらないんですよ。そう、それだけでロスが減るし。

    山路:加減速なんかがすごくスムーズみたいなこともあるわけですよね。

    小飼:そうなんです。なんで内燃機関にはトランスミッションがついているかと言ったら、トルク特性がクソだからです。だからクソなトルク特性というのをギアチェンジでごまかしているわけです。そのギアチェンジの部分というのも、昔のフォーミュラ1とか今のでは全然違ったんです。昔は人間がクラッチを踏んでいたんですよ。今は電子クラッチでパドルシフトになっています。

    山路:ゲームとあんまり変わらないですよね。

    小飼:その操作もいらなくなる。

    山路:そうかそうか。今のフォーミュラ1はまだギアはあるのか?

    小飼:もちろんある。フォーミュラ1はインターナルコンバッションエンジンなので。

    山路:フォーミュラEのほうは?

    小飼:フォーミュラEのほうはどうなんだろう? ないんじゃないかな。

    山路:あ、そうなのかな? あの操作は本当にギア操作ではないのか? 私も今パッと思っただけでよく調べていないんですけども。それにしても、フォーミュラE、そういうEVの特性ももちろんなんですけど、ゲームのルールの設定の仕方も上手いなと思ったんですよね。例えばこのEVの出力、アタックモードというのが用意されていて、通常の状態よりもプラスした出力を出せる瞬間というのがあるんですよ。そのモードになるためにはあるポイントを通過しないといけないとか。

    小飼:それもなくして、やっぱりフォーミュラ1マシンとガチンコ勝負させて。

    山路:制限なしのスポーツってことですよね。ある意味。

    小飼:そういうことです。

    山路:いやいや、思った以上にフォーミュラEの可能性を感じましたよ。エンターテイメントとして。

    小飼:だからあれでいいでしょ、やっぱり一緒に走らせて、やっと少なくとも動力源として内燃機関というのは電磁モーターには敵わないというのがわかるので。

    山路:フォーミュラE、もう10年になるそうじゃないですか。そういうとこに早めに参加してきたドライバーの、何ていうか、開拓心というか、フロンティア精神すごいなと思いましたよ。まだ海のモノとも山のモノともつかん時に、そっちのほうに可能性を見出したドライバーとかもね。なかなか面白かった。

    小飼:でも、フォーミュラマイナス1すら提言できるな。

    山路:え? 何それ? 裸で走るみたいな(笑)。

    小飼:外部給電も解禁する。じつは今、フォーミュラレーシングの一番のフォーミュラというのか、レギュレーションで厳しいのは燃料周りなんですよ。フォーミュラ1もそうだし、フォーミュラEもそうだけど、そこの部分のレギュレーションというのが一番厳しい。

    山路:それこそ、マイクロ送電みたいなのとか、無線給電みたいなこともOKにしちゃうっていう(笑)。

    小飼:そうそうそう。そうなったら本当にどうなったのかな?

    山路:レーザー送電みたいなのもありにするとかね。面白そうですよね。モータースポーツ、やり方次第でもっと面白くなるかもしれないですよね。

    小飼:ただ、費用の方もどうかっていう。だから、そろそろホストするほうがきついんだよね。で、ホストするほうがしょぼいと、大会もしょぼくなるというのは、日本もトヨタがやらかしてるじゃないですか。富士スピードウェイで、ちゃんと観客の送迎インフラというのを全然整えてなくて。ものすごい大会になってしまったという。

    山路:ああ、確かに確かに。

    小飼:結局、鈴鹿一本に戻ったじゃないですか。

    「F-ZEROみたい」(コメント)

    山路:って。あの任天堂のF-ZEROですよね。たぶん、実際に記事に書いてあったんですけど、アタックゾーンとかのルールのアイディアは『F-ZERO』から来てるって書いてありましたね。

    小飼:いやでも、何度も言ってるように、スポーツの面白さ、競技の面白さを決める一番の要素というのはルールなんです。ルール、ルール、ルールなんですよ。で、なんで人類に一番人気のあるスポーツがフットボールなのか、サッカーなのかって言ったら、まさにそこなんです。手を封じたという。

    山路:ルールもいろいろバージョンアップしてるわけですしね。

    小飼:ルール細かく変えてるけど、一番根本なところは、手使っちゃダメよと。

    山路:ルール変える時の、もう何ていうのかな、錦の御旗っていうのが、それ、観客が喜ぶやろっていうのが一番強い。そこは、すごいわかりやすいですよね。

    小飼:だからそれが持続可能性を決めてるんですよ。

    山路:面白い話でしたんで、見る機会があったらぜひフォーミュラEとかの番組も見てくださいと。もう一つ軽い話題として、昨日、エイプリルフールだったじゃないですか。

    小飼:はいはい。

    山路:で、20年前のエイプリルフールに、このGmailが発表された。

    小飼:いやー、これ嘘から出たマコトというのか、ありがたいことはありがたいことでも、はしごを外された感がありますよね。

    山路:え、どういうこと?

    小飼:こう言ってはなんですけれども、Gmail一切使われてない人、ちょっと手を挙げてみてください。

    山路:うーん、確かにな。

    小飼:サブアカウントも捨てアカウントもなくて、Gmailは一切使ってないという方いらっしゃいます?

    山路:あー、それは確かに今の時代難しいかも(笑)。

    「そんなやつおるの」(コメント)

    山路:って(笑)。

    小飼:シーン。受験生とかでメールアドレスが要求された場合、真っ先に使うのは、仮に持ってなくても、作るでしょう、Gmailは。だから、たぶんそういった意味で一番大事なEメールインフラストラクチャーなのは間違いないんだけれども。その一方で、間違って自分の子供の裸写真をウプしちゃったら、Googleアカウントに(笑)、Gmailのアカウントも。だから、今、もはや単なるEメールアドレスじゃないんですよね。

    山路:あー、なんか、思いっきりGoogleに生殺与奪の権を握られちゃってるという(笑)。

    小飼:本当に、どっちが正しい? 「せいさつよだつ」? 「せいさいよだつ」? まあ、それはいいけれども。

    山路:「せいさつ」かな、この場合は。

    小飼:どっちだろう。早急(さっきゅう)なのか早急(そうきゅう)なのかって、まあそういうレベルの話。

    山路:そうそう、相殺の場合は「さい」ですけどね。

    「昔だったらHotmailだったけど」(コメント)

    山路:本当にGmailが出たことで、Hotmailっていうのがね、過去のものになってしまった。まあ、今でもまだあるのもありますけれども。

    小飼:いや、でも、Gmail以前っていうのは本当に、もうネットのゴミ溜め場だったじゃん。特にHotmailとかはすごいひどかったよね。今の、それの後継のLive.comとかOutlook.comというのはかなりまっとうな実装ではあるんですけど、なんか時すでにお寿司感じる(笑)のはあったよね。

    山路:昔ってもうHotmailって受け付けないようにしてるところってけっこうありましたよね、無条件で弾く(笑)。

    小飼:(僕のメールサーバーでも)捨てはしなかったけど、ジャンクメールフォルダに直行させてました。

    山路:いやー、懐かしい。ただ本当、この20年間かというのもまあまあびっくりな話ですよね。

    小飼:そうですね、本当に。

    xzコマンドの脆弱性、そのヤバさと「闇のもの」

    小飼:(コメントを見ながら)アウラ、それ、違った(笑)、「フェルンそれは嘘だ」と言いたくなってくるよ(笑)。あー、ヤバいの来た。

    山路:これっていうのが、そのヤバさがじつは普通の人にはわかりにくいっていうのと、さらに、なんていうのかな、影響の大きさっていうのが直感的に理解しづらいっていうところがあるんですけど、そもそもxzコマンドって何ですか? xzコマンド。

    小飼:xzコマンドというのは単に、データを圧縮する。具体的にはファイルを圧縮するコマンド、それだけですね。ただし、現在いろんな圧縮コマンドが、圧縮アルゴリズムですとか、圧縮コマンドですとか、圧縮ユーティリティっていうのがあるんですけど、その中では一番圧縮率が高い。そう、だから圧縮するのはすごい、そう、だからZIPのすごいやつ。圧縮する時間はかかるんだけど、圧縮率がすごい高いんですね、xzというのは。

    山路:これっていうのが、その脆弱性が見つかって大騒ぎって言うんだけども、そんなにこの影響って大きいものなんですか? xzって。

    小飼:xzというよりも、これ、xzを踏み台にして、Linuxの多くのディストリビューションで動いてる、SSHデーモン、要はSSHでアクセスする時のサーバ側にバックドアを仕掛けるというのがヤバい。

    山路:もしもこの脆弱性ってうまく攻撃側が利用したら、遠隔からもサーバーを好きなようにコントロールできちゃうようになっちゃう。

    小飼:そうです、そうです。だからLinuxサーバ入りたい放題になってたかもしれないんですね。xzコマンドというのは、たいていのLinuxディストリビューションだけではなくて、FreeBSDとかにも入ってますし、Macには直に入ってないんですけれども、MacPortsですとか、Hombrewですとかを使う。で、何かを入れると、大抵xzを使ってるのを入れるので、コマンドで。入るは入るんですけれども、一番大事なのはxzコマンドそのものではなくて、xzコマンドがデータを圧縮する時に使う共有ライブラリ、LibLZMAって言うんですけれども。最近のOSのコマンドっていうのは、コマンドそのものに重要な機能を入れとくんではなくて、共有ライブラリのほうに入れとくことが多いんです。それによって他のコマンドやアプリケーションも使えるわけですよ。xzコマンドだけではなくって。で、Linuxのディストリビューションでは、LibLZMAがSSHDにリンクされていることが多いんですね。そう、だから脆弱性が機能するためには、LibLZMAがSSHDにリンクされているっていうことが必要なので、じつはFreeBSDとかmacOSとかっていうのは、仮に脆弱性のあるバージョンを入れちゃっても、うまくいかない。バックドアが開かない。

    山路:素人考えなんですけど、SSHって遠隔でログインしたりとかする、そういうシェルなわけですよね。それってxzのライブラリとリンクしている必要なんてあるんですか? なんていうか、危険なだけなんじゃないんですか、あると便利なんですか?

    小飼:けっこうデータ圧縮というのは透過的にやるケースというのが今は増えているんですね。

    山路:透過的に行われる?

    小飼:透過的というのは、要は圧縮されていることを意識しない。何かデータを読むという時には、あらかじめそのデータというのは圧縮した状態で置いてあって、それを使う時に展開する。あるいはそのデータを送るという時には、圧縮してから送る。

    山路:じゃあもうユーザーはxzコマンドを使っているとか、ぜんぜん意識しないで使っている。

    小飼:意識してない。だからたぶん今一番よく使われているxzの事例というのは、Linuxのブートローダーです。今時のLinuxというのは、カーネルとそのカーネルを機能させるための最低限のユーティリティを収めたInitramfsという、メモリに展開するためのデータをあらかじめ用意してあって、ブートローダーはそれを読み込むんです。それを読み込む時に、xzで圧縮されたInitramfsを読み込むんですね。

    山路:そんな、最初の最初のところに脆弱性が(笑)。

    小飼:そうなんです。だから今時は普通に、特にzipとかしなくてもディスクに収納されている時に軽く圧縮されてたりもしますから。

    山路:へぇ。

    小飼:その中でもxzというのは、圧縮にはものすごい時間がかかるんだけれども、ものすごい圧縮率が高い。

    山路:バイナリに関してもテキストに関しても、両方とも。

    小飼:そういうことです。

    山路:この脆弱性が見つかったってことなんですけど、この脆弱性はうっかりだったんですか?

    小飼:いや、そこなんです。明らかにプロの犯行なんですよね。だから、これは事故でなくて事件なんですよね。

     
  • 小飼弾の論弾 #273 「TikTokは誰のモノに?4兆個トランジスタのAIチップ、死者も出たボーイングの闇」

    2024-03-26 07:00
    550pt










     「小飼弾の論弾」で進行を務める、編集者の山路達也です。
     無料公開部分の生配信およびアーカイブ公開はニコ生・ニコ動のほか、YouTube Liveでも行っておりますので、よろしければこちらもぜひチャンネル登録をお願いいたします!

     今回は、2024年3月19日(火)配信のテキストをお届けします。

     次回は、2024年4月2日(火)20:00の配信です。

     お楽しみに!

    2024/03/19配信のハイライト

    • SFを超えたカウンターカルチャーだった『DUNE』
    • マイナス金利解除の影響と「目をつぶる」重要さ
    • 「体育会系的」自民党JCと航空機市場の寡占問題
    • 視聴者質問「本に読まれるとは」「『ゴールデンカムイ』感想」
    • 「AppleのAI研究」と「ヒューマノイドの定義」
    • TikTok問題の影響の範囲について

    SFを超えたカウンターカルチャーだった『DUNE』

    山路:最初軽い話題ということで、

    小飼:そう、いつも軽い話題、軽い話題ってさ、軽い話題詐欺という、僕は個人的に呼んでるんですけど、

    山路:いや、本当に軽い話題だと思うんですけど(笑)、映画、見た映画の話ですよ。『DUNE』が、『DUNE』のパート2が。

    小飼:そうそう、来週だと思ってたら、なんか1週間ちょっと感覚がずれていた。

    山路:弾さんがこの『DUNE』をまだ見てないというこの不手際、

    小飼:うん、不手際です。いや、本当に、本当にもう申し訳ないというのか。

    山路:まぁ見てない人のためと、あと見てない弾さんのために、まぁネタバレとかじゃないですけど、

    小飼:でも、こういうのもなんだけど、原作はもう散々読んだわけだから、

    山路:原作からちょっと変えてあるみたいですよ。

    小飼:だからどこが変えてあるのかなっていうのがたぶん一番のネタバレで、だからそこは。どこを変えたんだろうなー。

    山路:第3作ではもしかしたらダンカン・アイダホがどうのこうのっていう(笑)、

    小飼:あ、そうか、映画だと第3作になるんだ。じつは原作というのか、フランク・ハーバート、原作者の第3編というのは一番ウェーッとくる作品で、どうせ映像化するのであれば、そこまでやってほしいなという気持ちが。これはもう原作出て久しいんで、そこだけネタバレしちゃいますと、ポールの息子の皇帝になった話ですね。そのポールの父親、第3作目の主人公から見ると、じいさんから名前を取ったレトですね。レト二世の話なんだけども。これがなかなかエグくて。ただそのヒントというのは第1作から出てます。第1作の一番の、なんと言えばいいのかな、コアというのは、要はスパイスはどうやって作られていたのか、なんで惑星アラキスの特産なのかということで、これはもうさすがに言ってもいいかな。砂虫が作ってきたというね。

    山路:みんな薄々気がついていたとは思うが。まだナビゲーターとかは本格的には出てきてないんですよね。

    小飼:そうなんですよね。前に映画化された『デューン』では、いちおうギルドナビゲーターも実写化というのか、映像化されている。

    山路:前の映画って、スティングがフェイド・ラウサをやったやつですよね。

    小飼:そうです。本当に人間離れしちゃってるんですけど、もっと人間離れした映像を見せてほしいですね。でも、これは第1作目だけの印象なんですけど、オーネソプターはすごいよくできている。

    山路:羽ばたき機ね。

    小飼:そうそう。

    山路:建物とかその他のことの臨場感、実在感がすごいですよね。小道具のそれぞれもそうだし。

    「先行上映のIMAX見た、よかったわ」(コメント)

    山路:良かったですよね。IMAXで見てほしいなと思いました。あと、

    「なんで最近の映画は3時間ぐらいが当たり前なんだ、砂の惑星水の膀胱」(コメント)

    山路:っていうコメント(笑)。スティルスーツを着ていかんといけないですよね。水分を外に出さないためには。

    「どこまで作るんだろう」(コメント)

    山路:とりあえず、3作目、パート3まで作ることは確定で、『砂漠の救世主』を映画化するのは確定のはずですけどね。

    小飼:第2作はより悲劇なので。ポールを皇帝にしてしまったばっかりに、みたいな話なので、第2作は。原作通りだとしてね(笑)。

    山路:パート1って、いちおうアメリカでヒットしたけど、ようわからなかったって言ってる人もいっぱいいたんですよね。

    小飼:そりゃそうだよ、

    山路:イントロダクションですもんね。

    小飼:主人公が一番苦しいところで終わってるので。物語の谷の部分で終わってたので。

    山路:本当に作品世界の紹介みたいなところで。それでもパート2作られて、パート3も作られるって、ヴィルヌーブ監督、ヒットメーカーになってきたじゃないですか。

    小飼:というのか、それ以上に原作がすごい強い作品だからね。

    山路:『DUNE』ってややこしいって言う人いますけど、話の骨格自体はシェイクスピアの古典劇みたいな感じですよね。

    小飼:ああ、というのかな、って言われると、僕はシェイクスピアの悪口だったらいくらでも(笑)。でも悪口が出る程度に、半強制的に読まされるんですよね、シェイクスピアって。なんだけども、話してるとこんなの絶対ありえないというのが、現代だったら実在のところどころに差し障りがありすぎて無理だという。たとえば、『オセロ』という話があるじゃないですか。4大悲劇の一つなんですけども、これがいかにありえない話かというのは、塩野七生がエッセイで書いているので。

    山路:弾さん的にはつまり、小道具というか、物語のディティールみたいなところがめちゃめちゃやんけっていうところが気になるところ?

    小飼:めちゃめちゃというのか、なんと言えばいいのかな。ハリウッドとかの忍者的な感覚で中世イタリアをとり扱ってるんですよね。

    山路:なるほどね。

    小飼:『ロミオとジュリエット』もいかにありえない話かというのも、いろんな人がいろんなところで解説しているので。なんだけども、今時のイタリア人は同じくらいミーハーなので、日本人が忍者だ忍びだというのを英米で取り上げるというのをむしろ歓迎しているのと同じような感覚で、イタリア人はシェイクスピアを受け付けているので。

    山路:なるほどね(笑)、インバウンド需要的な。

    小飼:インバウンドの需要的な。インバウンドの先輩なので。

    「ロミジュリにたった数日であんな恋が盛り上がるわけないだろうとかって?」(コメント)

    小飼:いや、そっちではないんだよね。そっちではないんだよね、なにがありえないというのは、

    山路:私の知り合いにも、1日で結婚決めたっていう人がいますからね。だから恋が盛り上がるわけないというのはちょっと違うかなとも思ったり。

    小飼:だけれども、たとえばどんなところがありえないかというと、『オセロ』だと、オセロ本人がああいう形でベネチアで出世するというのがありえない。だから、血統貴族主義なので、外様中の外様のオセロがあんな偉い立場に立つということがありえないというのが。

    山路:ストーリーの根幹に関わってくるところの設定が雑っていう、

    小飼:そうなんです。ベネチアはそんな国ではない。

    山路:そういうところの作りが甘いって話なのね。

    小飼:日本の江戸時代の時代劇で、将軍を選挙で決めてたみたいな違和感があるわけですよ(笑)。それでもあまりに人口に膾炙してしまった話なので、もはやあれはあれ、それはそれになっているわけですよ。やっぱり笑いが込み上げてきちゃう(笑)、

    「ラストサムライ的な勘違いっぷり」(コメント)

    小飼:いや、それどころじゃないの、『ラストサムライ』とかっていうのはむしろ時代考証をしっかりしてるぐらいの感覚なわけ。
     でもやっぱり、時代劇って大きな嘘を入れたやつのほうが面白いんだよね、『ゴールデンカムイ』にしてもさ、あれだけしっかりアイヌのこととか調べした上で土方歳三が生きてることにしてるわけじゃん、そういう大嘘が面白いんだけれども。

    山路:大嘘をやっぱり効果的に使うためにも、脇をきちんとつくっておかないとってことね。

    小飼:やっぱり実際のところどうだったのっていうのは知っておいたほうがいいですよね。それで言うと、『源氏物語』とかっていうふうになると、あれくらい昔になると危うくなるんだよね。当時は本当にどうだったのかとかっていうのは。

    山路:あと『DUNE』の話ですけど、パート1にも言えることなんですけど、そういうフレメンって中東の部族、絶対にモデルにしてるじゃないですか、回教徒、

    小飼:その通りです、

    山路:パート2ってそういう彼らの宗教的な要素っていうのがクローズアップされてくるんですけど、これ、今アラブ世界の人が『DUNE』の映画なり見たらどう思うのかなっていうのはちょっと。

    小飼:いや、だからロレンス・オブ・アラビア(アラビアのロレンス)がカリフとかシークになったような話ではありますよね、ド外様じゃないですか、ポール・アトレイデスなんて。ただ外様でもいいんですけども、じゃあ今のベドウィン的に、フレメンを集束、まとめようとしたら、ポールはチャニしか娶るってないわけです。実際に婚姻で部族をまとめて国を作ったといえば、

    山路:サウジアラビア、

    小飼:そうです。アブドゥルアズィーズですよ。サウド家の。4人まで妻を持てますよね。4人まで持てるだけではなくて、ちゃんと契約にのっとれば、離婚もできるわけですよね。だから4人娶って、5人目を娶るとき、1人を契約にのっとって離婚して、手切れ金を渡してっていうのを100回だか200回だか繰り返したんだったけな(笑)。そういうこともあって、サウジアラビアっていまだに国王が2代目なんですよね。まだ息子の代なんですよ。まだ孫の代までいってない。まぁでもそれは置いといても。あくまでもベドウィンにインスパイアされたという(笑)、

    山路:ただ、かなりイスラムのテロの正当化みたいなことに繋がったりとか、そんなことないですか?

    小飼:何しろジハードという言葉をそのまま使ってるしね。原作もその通りです。

    山路:そこのところで、よくアメリカで好意的に受け入れられてるなっていうのもちょっと思ったんですよ、今。

    小飼:それゆえ好意的に受け入れられたというところはあると思いますよ。だから、単なるサイエンスフィクションを超えて、カウンターカルチャーだったんじゃないかなと思ってるっていうのも、これは完璧にカウンターカルチャーとして受け入れられたという作品として超有名なのは、ハインラインの『Stranger in a strangeland』という、日本語で『異星の客』、

    山路:火星のやつね、

    小飼:そうです、火星人の話。あれはもう完璧にカウンターカルチャーで、単なるSci-Fiじゃなかったんですよ。だからどれくらい熱狂的に受け入れられたかっていったら、ビリー・ジョエルの歌で『We Didn’t Start the Fire』というひたすら歴史的なイベント、20世紀の歴史的なイベントを並べていく歌があるんですけど、そこにちゃんと出てくるんですよ(笑)。それは置いといても、

    山路:今特に、ガザとかパレスチナの話ってすごいアメリカなんかでも注目を集めているわけじゃないですか。アメリカなんかの民主党も共和党も、イスラエル寄りだったりもしますよね。だけど、この『DUNE』ってものすごくある意味、アラブの人のほうにどっちかというとシンパシーを感じさせる話になってませんか、それはちょっと穿ちすぎですかね?

    小飼:こういうのもなんだけれども、『DUNE』7部作なのかな、ハーバード本人が死んだ後も書かれ継がれたので、じつは。被抑圧者が抑圧者のほうに回る話でもある。映画の第3作目がそうなってほしいな。虐げられたアトレイデスが、虐げる側に回る話、本当にそうなんですよ。ハルコンネンがかわいく見えるほどの(笑)、

    山路:あらそうですか、めちゃめちゃパート3楽しみじゃないですか。

    小飼:ちゃんとそういう話になってくれてるかな、という。

    山路:ヴィルヌーヴ監督、やっぱり私、今まで『メッセージ』『ブレードランナー2049』と『DUNE』パート1見ましたけど、全部どれも刺さったので、私のなかでかなり信頼している監督にはなってますけどね。

    小飼:主人公が報われない話でもありましたよね。

    山路:ああ、どの作品にも共通してるかもしれない。

    小飼:その意味で期待してます。その意味では最初の映画というのはわりと勧善懲悪というのか、ポール・アトレイデスが虐げられて逆転する、逆転して勝った、で終わる話ではあるので。でも第1作っていちおうそれで終わりではあるんですよね。アトレイデスの逆襲なので(笑)、

    山路:『帝国の逆襲』ならぬ(笑)、

    小飼:そうそうそう。

    山路:『DUNE』パート2を見てないで20分語ってしまいましたね(笑)。

    小飼:いやでも、テッド・チャンの『あなたのための物語』というのは、いきなり報われないというのか、あれを本当にお話にしたのはすごいよなと。でもさ、英語のタイトルが『Arrival』で、日本語のタイトルが『メッセージ』だったっけ、ってしちゃったのはなー。でも、ちゃんと一番最初に最後を提示するというのは、本当に原作通りで。

    山路:私、原作未読で映画見ましたけど、映画、全部見終わってから席立つ前に、「そういうことか!」と(笑)、席立つ前にああ、そういうことだったのねと気づいた。

    小飼:ネタバレ耐性の強さがすごいね。
     それでいうと『ブレードランナー』の続き、シークェルはいちおうもう原作がなくて、自分でどうにでも脚本を書ける立場にいたわけじゃないですか。あれでああいう終わりにするっていうのも、渋い監督だなと。

    山路:どっちもやっぱり傑作なんで、もしも『メッセージ』と『ブレードランナー2049』見てなかったら、

    小飼:(コメントを見ながら)そうそう、バカうけが宇宙から来る話です。でも、そのバカうけが宇宙から来る前というのが本当に、映画の肝中の肝で。

    山路:さっそく次、もうニュース、

    小飼:(コメントを見ながら)第3作目もヴィルヌーヴ監督がやるの? それは期待高い。

    マイナス金利解除の影響と「目をつぶる」重要さ

    山路:今日の、今話題になっているニュースに行きますか。日銀マイナス金利解除を決定という。

    小飼:ずいぶんかかったね、というやつだけれども。

    山路:これってすごいことなんですか?

    小飼:それよりもマイナス金利を発動したということがすごいんですよね。歴史的には、どっちかというと。

    山路:白川さんの時だっけ、あれ、黒田さんの時だっけ、どっちだっけ、ちょっと忘れたけど。ある意味マイナス、日銀から民間の銀行へのところがマイナス金利になっていたわけですよね。

    小飼:そういうことです。当座預金に入れると、利子がつくじゃなくて金取ると。日銀のメッセージとしては、なるべく当座預金に入れとくなと。

    山路:で、市中にちゃんと金を供給しろというメッセージだったわけですよね。結局、それってあんまり効果的に働かなかったというか、前回、「今の日本の状況ってどうなんですか」って私が聞いたら、弾さんは「これはマイルドなスタグフレーションだね」って言ってたじゃないですか。要は物価が上がっても、賃金がそれに見合ってないっていう。それってどうしてマイナス金利とかで市中にお金を供給するように日銀がやったにも関わらず、そんなに金が回らなかったんですかね。

    小飼:それは日銀がお金を渡せる対象というのが、要するに銀行だけだから。いちおうウルトラCを使ってETFとかを買って、間接的に株式市場とかにもお金を流すということもやったけども、要は末端にお金を配る術というのを日銀は持ってない。だから日銀がどうしようが、どうしようもないわけ。

    山路:日銀にできるのはほんとにその当座預金の金利をどうするかみたいなことを調整したりとかするだけっていう、

    小飼:そうそう、日銀が無能とかっていうのではなくて、日銀の機能ではないんですよ。ただいちおうそのベースとして、最初に配るべきお金がどれだけあるかっていうのは、これは日銀マターで、これはもっとできたでしょうと。だから、あんまりETFを買うとかマイナス金利をやるとかではなくて、日銀がやるべきことというのは国債をドーンと買うという(笑)。貨幣を配ると。それを政府が受け取って、それを政府がばらまかなきゃいけなかったんだけど、これをやんなかった。

    山路:だから結局、金が一部のところに溜まっちゃって。

    小飼:そうなんですよ、政府は小賢しいことばっかりやってたわけ。

    山路:ポイントとかね(笑)。

    小飼:そうそうそう。

    山路:ポイント大好きだからなー。

    「日銀が大量に保有しているETFはどうするんでしょう」(コメント)

    小飼:それはこっそり市中に流すでしょう。

    山路:前、弾さんが言ってたようなベーシックアセットの原資にできないんですか? だって日本国のもんなんでしょ。だったら私らのもんでもあるわけじゃないですか。それって売却しなきゃいけないってことじゃないですよね、べつに。

     
  • 小飼弾の論弾 #272 「AIの計算コストを激減させる1ビットLLM、ホワイトカラーから「非」ホワイトカラーへの転職を政府が支援、ヤクザが核物質密売」

    2024-03-12 07:00
    550pt

     「小飼弾の論弾」で進行を務める、編集者の山路達也です。
     無料公開部分の生配信およびアーカイブ公開はニコ生・ニコ動のほか、YouTube Liveでも行っておりますので、よろしければこちらもぜひチャンネル登録をお願いいたします!

     今回は、2024年3月5日(火)配信のテキストをお届けします。

     次回は、2024年3月19日(火)20:00の配信です。

     お楽しみに!

    2024/03/05配信のハイライト

    • 閏年トラブルと「NVIDIAの牙城は崩れる?」
    • 1.58ビットLLMでなにが変わる?
    • 「ヤクザが核兵器」と「ロックビット対策に日本警察」
    • 視聴者質問「弾さんにしかできないこと」と「株の高値とリストラ」
    • 「ホワイトカラーとAI」と「日米就職事情」
    • 「水素資源ラッシュでなにが変わる?」と「新属発見」「重力測定」

    閏年トラブルと「NVIDIAの牙城は崩れる?」

    山路:最初、軽い話題から行こうと思ってるんですけど、弾さん、『MFゴースト』ってアニメ見たことあります?

    小飼:アニメというのか、いちおう原作は知ってはいる、知ってはいるレベルだよな、

    山路:『頭文字D』の続編で。そのアニメで感心した設定が、レーシングマシーンをドローンで追っかけて、リアルタイムで中継するってやつなんですよね。それがけっこう現実化してきたなと。

    小飼:なんかあれだね、Red Bullが時速350キロでチェイスできるドローンを開発したという、

    山路:YouTubeで、今リンク出したYouTubeで開発している工程とかをやってるんですけど、マジでF1のやつをちゃんと、ドライバーの腕もすごいんですけど、パイロットの腕も、これが出てきたらモータースポーツの中継って完全に変わりそう、

    小飼:それこそオートパイロットできるでしょう、

    山路:でしょうね、将来的に。東京でやる「フォーミュラ E」とかでもぜひやってほしいと思うんですけどね。

    小飼:でもあれだよね、一番喜びそうなのはお巡りさんだよね(笑)。

    山路:あー(笑)、

    小飼:空飛ぶオービス、

    山路:(笑)なるほどね。日本もそこのところでドローン解禁になっていくと面白いですけどね。これとVision Proみたいなヘッドセットを組み合わせたら、めちゃめちゃすごくないですか?

    小飼:けっこうあれは面白いことになるよね。

    「ドローンはどれくらいまで速く飛ぶ?」(コメント)

    山路:なんか300キロくらいは出てましたね、YouTubeの動画では。

    小飼:大きいやつ、グローバルホークとか737くらい大きなやつですけれども、あれは本当に旅客機と似たような速度で飛べたはずですよ。少し遅いかな、翼に後退角があんまついてないから、それよりは遅いけれども。それでもまぁ時速700キロくらいは出るんじゃないか。ただあくまでもそれは超高空をずっと飛んでるタイプの、

    山路:地表近くをキューンて飛ぶわけじゃないですからね。Red Bullは面白いところに投資してるなと思って。そういうちょっと小ネタだったんですけれども。今日3月の頭ということで、閏年が、

    小飼:2月29日が、

    山路:過ぎたところなんですけれども(笑)、

    小飼:4年に一遍の、

    山路:閏年のせいでいろいろシステム障害が起こってるという(笑)、

    小飼:いまだにね。

    山路:なんなんですか、これって。そんなに閏年の処理って難しいんでしょうか?

    小飼:今、普通のパソコンに入ってるOS、macOSにしてもWindowsにしてもLinuxにしても、に標準で入っている日付処理関数っていうのは当然、閏年も処理できるようになってます。が、メインフレームとかで使ってるやつっていうのは、それよりも古いし、そもそもOSレベルではなくて、アプリケーションレベルで作られていることが多いので。日付処理が標準装備されている環境ですら、自作しちゃいがちなんですよね。

    山路:ほー、閏年の処理は。今コメントであったんですけど、「2000年問題の頃に改修終わってると思ってた」って、2000年問題ついでにやんないもんなんですか。

    小飼:ねえ、

    山路:これ、4つの県警で運転免許証を発行できずってあるんですけど、これバラバラにやっとるんですか?

    小飼:たぶん免許証に関しては責任者、公安委員会なので。公安委員会というのは確か、都道府県単位でしょ。

    山路:今の時代になんというのか、都道府県単位でそんなシステムをいちいちポコポコ立ち上げて管理してるっていうのが、

    小飼:いや、それを言ったら戸籍とか市区町村単位よ。国保とかもそうですし、

    山路:ガバメントクラウド的に集約していかなきゃまずいんじゃないのっていう、

    小飼:いや、でも紙でやってた頃はそれは理にかなってたんですよね。膨大なペーパーワークが発生するじゃないですか。だから、そのペーパーを国がいちいち窓口作ってたら間に合わないですよね。ということで、市町村にやってもらってるわけですけれども。今や、マスターデータはコンピューターの上にあって、紙は単なるディスプレイなわけですから。電算化の時に引き取るべきだったんですよね。実際にレプリカは国が持ってるんですよ。だからそっちをマスターにしちゃえば良いというのか、そうするべきだったのに。というのはある。

    山路:どっちかというと、政治的判断の遅れみたいな感じなんですかね。

    小飼:なんでなんだろうね。いや、でも、本来国でやるものを地方自治体にアウトソースしてるものっていうのはあるんだけども、あんまり国のほうで引き取ってないっていうのも可哀想なところですね。そのくせ、ふるさと納税なんかやってるから、ふざけんなと(笑)。

    山路:なんかこう、本当に無駄な仕事を作る達人(笑)、

    小飼:国単位では「税金は財源でない」っていう言葉があるじゃないですか、要は国家というのは、

    山路:国債を発行して、

    小飼:要するに貨幣を自由に作れるじゃないですか。なんですけど、地方自治体は同じことできないんですよね。だから、その意味では普通の組織と変わらないわけですよね。

    山路:だったらなおさら、本当にその辺の何をどうするかっていう配分、どっちが何の仕事をするかということをちゃんと切り分け直さなきゃいけなかった、

    小飼:日本は意外と、その意味では中央集権的ではない。

    山路:いやー、いろいろ、よくマイナンバーカードでデジタル化の遅れみたいなことが言ってるけど、それどころじゃないっていう、

    小飼:じつは国は日本国民個々人の生老病死は知らないんです。それを知ってるのはじつは市区町村なんですよね。

    山路:なるほどね。

    小飼:生誕届けも死亡届けも、出すのは市区町村でしょ。

    山路:いろいろ日本って統計データが出てくるのがすごい遅いとか、いろんなことで言われたりするけど、それもやっぱり、

    小飼:国単位でできないかって言ったら、それはできるわけです、税務署はそうしてるじゃんか(笑)。だからちゃんと地方税の事務所と国税の事務所っていうのは、違うじゃないですか。もちろん連携はされてますよ。確定申告は国に出しますけど、その結果が地方自治体に送られて、地方税を払うわけです。

    「人口調査すらままならない」(コメント)

    山路:って、スピードが遅いってことですよね。ちゃんとやってるにしても。

    小飼:タイムラグが出る。実際に届けがない場合というのは黒市民ができてしまう。

    山路:黒市民、戸籍のない、

    小飼:戸籍のない。

    山路:根本的なところでいろいろ遅れてる感がすごいですね。じゃあ、ちょっとITの話にいきましょうか。時価総額、もう2兆ドルを超えたNVIDIAなんですけど。NVIDIAの強い力の一つとして、CUDAってあるじゃないですか、開発環境。例えばAMDなんかっていうのはCUDA用に書かれたソフトウェアをAMDのGPUで動かせるような、こういう仕組みとかをオープンソフトで作ってたり、

    小飼:当然な考えですよね。

    山路:これに対して、今度NVIDIAが打ち出した方策っていうのは、そういうCUDA用のソフト、他のとこで勝手に動かすみたいなやつはダメよんっていう、

    小飼:でも、「ダメ」できるのかな。そういうのはダメではありませんっていうのが、どっちかっていうと判決として多いのね。そもそもAMDというのは、x86の互換チップを主力製品としている会社ですよね。でx86の64bit版はAMDのほうが開発して、逆にIntelのほうがライセンスしているという倒錯した状況があるんですけど。その時に出た判決っていうのは、少なくともインストラクションセットというのはそれ自体は特許にはなり得ない。

    山路:じゃあけっこうCUDAに関してNVIDIAが言うだけ言っても本気で争う企業が出てきたら、けっこうNVIDIAは負けちゃう可能性がある。

    小飼:その通りです。

    山路:ちなみにここのとこ、コメントで、

    「NVIDIAの株価はもっと上がるの?」(コメント)

    山路:ってあるけど、NVIDIAの市場を狙っていろんなところが参入しようとしてきているわけではありますよね。例えばジム・ケラーさん、

    小飼:日本に工場をおっ建てるよとか言ってるみたいだけど。

    山路:彼は「CUDAは沼だ」とか言って、もっとAIならAIに適したようなものがあるだろうと。

    小飼:もちろんその通り。もともとグラフィックプロセッシングユニットだったわけですからね。もともとGPUの時代っていうのは、もっと大きな精度の計算をしたかったことが多いんですよ。doubleとかfloatとか。これがAIになった時に、AIをアプリケーションにした時にそんな精度いらなくねっていうので、かつてはなかった16ビット浮動小数点とかFP16とかっていう浮動小数点型が開発されたり、いや、それでも多いっていうので8ビットでいいだろうっていうのが出てて、ついに2ビットまで下がったと。2ビットです、1ビットではないです、ここ注意してください。いちおう1ビットでやってみようっていうのを試したみたいなんですけど、それはうまくいかなくて。±1と0の3値にしたところうまくいったと。それで確かに±1と0であれば、かけ算いらないんですよね、1かける1なので。

    山路:行列計算がってことですね。

    小飼:符号が同じだったらプラスで、符号が違ってたらマイナスっていう非常に簡単な演算になるわけですよね。

    山路:これ、ちょっと1ビットLLMの話に関しては後で、この次に話していただこうと思うんですけど。こういうふうな新しい2ビットなりとか、あるいはそういう今までの浮動小数点を使わないAIに特化したようなチップとかが出てきたら、NVIDIAの牙城というのは完全に崩されることもあり得るんですか?

    小飼:それを言ったらGoogleもTPUというのを開発したじゃないですか。たぶんその延長で、AI用の、LLM用のチップも開発されるんでしょうけども。同じようなことというのはNVIDIAもやるでしょうね。今のところ、TPUっていうのはGoogleのクラウドを通じてしか間接的にしか使えないんですよね、我々は。

    山路:結局TSMCの一番最先端半導体のプロセスを抑えているのがAppleとNVIDIAだったりするから、NVIDIAがAI半導体開発したら、真っ先に市場に送り出せるのもNVIDIAということですか。

    小飼:ただNVIDIAでなくてもいいんじゃね? っていうのは出るかもしれない。こっそりマイクロソフトがそれ用のチップを開発して作らせてて、いつの間にかAzureにはNVIDIAでないAIエンジンがいっぱい積まれてるっていう可能性だって、無きにしもあらず。やっぱり最先端のfabというのは誰が抑えているのかというのは、公然の秘密なので。

    山路:じゃあけっこうAI半導体ですごい性能が仮にできたとしても、それで簡単にゲームがひっくり返されるかというと、そういうわけでもない、

    小飼:そういうわけでもない。だから、x86の時に似たヘゲモニーが続くかもしれない。ジム・ケラー先生の言う沼というやつですね。でも、ジム・ケラー自体がさ、x86沼をより深くした超本人なわけじゃん、

    山路:再生産したわけ(笑)、

    小飼:しかも実はIntelも(その沼を)埋めたかったんだよね、64bitにする時に。Itaniumっていうのを出してたわけじゃないですか。

    山路:性能出なかったんですよね、

    小飼:だからみんな沼から出たくなかったんですよ。

    山路:ジム・ケラーさんも、沼とか言ってCUDAとか批判してるけど、絶対自分が開発したAI半導体も沼を作っていくことになるんですよ。

    小飼:しれっという。最も深い沼を掘った人でしょうね、ジム・ケラー先生は。

    山路:(笑)なかなか業が深い人ではありますね。でも、ジム・ケラーさんのAI半導体には期待しますけど。

    小飼:しかもまだ終わってないんですよね。

    「NVIDIAは空売りしたくなる」(コメント)

    山路:ってあるけど、さあどっちに出るのか。

    小飼:あー、でも、すごいよね。この株価でもPER71倍っていうのはすごいよね。

    山路:これって結局、仮に例えば来期とかで利益が2倍になったりしたらPER半分に下がるわけですよね。

    小飼:もちろん。これの半分って言ったら、AppとかGoogleとかそういうレベルよ。

    山路:じゃあもう、(NVIDIAの株価は)実需を反映しているという。いつも対抗馬が出てきてひっくり返すことはいくらでも起こるから、もう万全とか言う気には全くなりませんけれど。

    「空売りしたら死ぬぞ」(コメント)

    山路:っていう(笑)、どっちに出るんでしょうね。まぁ信用取引は私は怖くてようせんですけど。

    1.58ビットLLMでなにが変わる?

    山路:じゃあちょっと1ビット、1.58ビットLLMの話いっときましょうか。マイクロソフトの中国チームでしたか、が発表した正式名称なんて言えばいいんだ? Bit.net、1BitLLMというふうには通称で言われてるんですけれども。これって何がどう1ビットなのかというところ。

    小飼:まぁ±1と0だけなので、実はBit.netというのはバズワードで、最初本当に1ビットで試してたらしいんですよね。

    山路:ここで1ビットで表してるっていうのはディープラーニングの基本的なところで使われるニューロン同士が発火するときの値の扱いってことですよね。

    小飼:具体的には行列の各要素。行列の各要素が0、1だったら、かけ算っていうのが事実上不要なわけですよね。0、1だったら、本当に両方とも1の場合のみ1でっていう。

    山路:それに比べてこれが浮動小数点とかだったら、すげえ桁のかけ算とかをいくつもいくつもせんといかんっていう、

    小飼:そういうことです。それによる計算量の減少よりも、今のディープラーニングって一番精度が悪いやつでも、行列の1要素というのは8ビットなんですよね。それが2ビットまで下がるっていうことは必要なメモリっていうのは1/4で済むわけじゃないですか。あるいは同じ演算をするのであれば、4倍メモリに詰め込めるんですよね。今一番重いタスクっていうのは、メモリから別のメモリにデータを移動することなんですよ。これが劇的に減るっていうのは、やっぱすごい大きいです。今のGPUを使っても、もちろんベネフィットがある。このメモリがガクンと減るので。

    山路:ハードウェアとかが特になくても、恩恵がすごいあるわけだ。

    小飼:なんだけども、さっきも言ったように、今のGPUだと余計な演算をしてしまう。浮動小数点同士の掛け算というのは不要だよね、この場合。プラスマイナス1であれば。

    山路:余計なその分、回路を積んでおかないといけないし。

    小飼:符号が同じであれば+1だし、符号がそれぞれ違うのであれば-1だし、0なら0だしっていう。

    山路:これってLLM、大規模言語モデルを学習するときからも、それが使える?

    小飼:そう。学習させてから後でメモリを圧縮するのではなくて、演算中にもうそれをやってしまう。

    山路:これって同じような仕組みで作られたLLMでも、この1ビット、1.58ビットのやり方でやるとぐっと小さくなってという。

    小飼:ということです、計算も楽になるし。

    山路:精度は落ちないんですか?

    小飼:そこなんだよね、面白かったのは。落ちないんだそうです。要は、例えば8ビットでやってきたところを2ビットでやるっていうことは1/4になるわけですよね、メモリが。その代わりに4倍データを処理しちゃえば、精度はほぼ変わらずか、少し上がりさえするという。

    山路:これ、2020年にスケーリング則って発見されて、とりあえず計算資源とデータぶっ込んだらどんどんAI賢くなるぞみたいな乱暴な経験則が見つかったじゃないですか。それが加速するって感じなんですか?

    小飼:そうですね。

    山路:あと思ったのが、これってNVIDIAみたいなデータセンターとかで使われる、学習とかをする際のAIモデルを作るときにも効果あるんでしょうけど、推論のときにもやっぱりその恩恵ってでかいわけですよね? ってなると本当にスマホとかにGPT4クラスのLLMがひょいと乗ると、

    小飼:そうそうそう。AppleのSoCの売りというのは、Unified Memoryというやつですよね。普通のGPUというのは、CPUとは別のメモリ空間に別の物理メモリを乗っけてるので、引っ張ってこなきゃいけないんですよね。だから、ひと手間かかるんですよね。

    山路:それにしてもこのエッジ系というかQualcommとかAppleとか、そういう小さいもので、

    小飼:一家に一台AIというのであれば、すでに来てますよ。すでにAIがバンバン乗ってて、乗ってるおかげで例えば写真撮って、その中で文字認識するとかっていうのができてるわけだけど。要はLLMが乗るかどうかってことですよね。

    山路:しかも、たんなるLLMではなく、賢いLLMがってことですよね。そういう意味でいうと、QualcommとかAppleってめちゃめちゃ有利になる、

    小飼:そうですね、LLM積み込むのは大変かもしれないけれども、そうでないAIもいっぱいあるわけで。今はLLMがダントツで一番注目を集めてはいますけれども、地味に他のAIも使われてるわけですからね。

    山路:そうかそうか、べつにLLMに限らず、この1ビットLLMの技術みたいなものを応用すれば、同じように全部。

    小飼:それでだから精度足りるというふうになれば、ありとあらゆるところで使えるわけですよね。

    「前回の生放送で言ってた計算コスト下げる方法ということ」(コメント)

    山路:まさにそうですよね。ただ、前回言ったのは仮に計算コストが10分の1に下げられても、需要が20倍になったらエネルギー消費が増えるやろってことを言ってて(笑)。それが2週間でもうあっという間に現実化するような技術が出てきたっていうのがこのAI分野すごいところですけどね。

    小飼:メモリが4分の1になるっていうだけでも、すごい恩恵がある。あと、ここまでシンプルだと、メモリそのものにこういう演算ができる能力を組み込んでしまう。

    山路:ロジックとメモリが一体化されてるってこと?