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小飼弾の論弾 #24「ゲスト対談:マンガ家 鈴木みそ氏(その1):Amazonはマンガ家の敵、それとも味方?」
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小飼弾の論弾 #24「ゲスト対談:マンガ家 鈴木みそ氏(その1):Amazonはマンガ家の敵、それとも味方?」

2016-12-12 07:00

    「小飼弾の論弾」で進行を務める、編集者の山路達也です。11月21日(月)に行われた、マンガ家 鈴木みそさんとの対談を3回に分けてお届けします。動画も合わせてぜひご覧ください。

    次回のニコ生配信は、12月19日(月)20:00。ゲストは、行動遺伝学の第一人者、慶應義塾大学の安藤寿康教授です。

    行動遺伝学によって、身長や体重など身体的な特徴だけではなく、IQや性格への遺伝的影響も大きいという衝撃の事実が明らかになってきました。 遺伝が影響するというと、「才能は遺伝がすべて」「勉強してもムダ」「遺伝の影響は一生変わらない」と思われがちですが、それは誤解。けれど「努力しないヤツが悪い」という自己責任論も同じくらい間違っています。 では、私たちは遺伝とどう向き合えばいいのでしょうか? 遺伝にまつわる真実に迫ります。

    ■2016/11/21配信のハイライト(その1)

    • マンガ雑誌が読まれなくなってきた!
    • マンガ雑誌というビジネスモデルが崩壊しつつある
    • 編集者とマンガ家、どっちが大変?
    • 電子書籍はクリエイターの味方になる?
    • 電子出版に特化した新しいエージェントが登場している
    • マンガ家も自分でマネタイズしなければならない
    • 読み放題サービスがクリエイターに与えるインパクト

    マンガ雑誌が読まれなくなってきた!

    ―――本日はマンガ家の鈴木みそさんをゲストにお迎えしています。電子出版の未来や、Amazonの読み放題サービス「Kindle Unlimited」はクリエイターにどんな影響をもたらすかといったお話をうかがいたいと思います。

    鈴木:よろしくお願いします。マンガ家の鈴木みそです。

    ―――みそさんは、かなり早い段階から電子書籍を個人で出版されてきました。

    鈴木:それだけで売っていますから(笑)。

    小飼:僕にとって、鈴木みそさんといえば『僕と日本が震えた日』なんですよ。

     これは東日本大震災のルポマンガで、ご家族のことや実際に東北に行った時の経験が描いてある。僕はこれが鈴木みそさんの作品の中で一番好きな作品なんです。紙の方には、サインをいただいております。

    鈴木:ありがとうございます。

    小飼:なくしたくなかったので今日は持ってこなかったんですけども、Kindle Unlimitedでも読めるので、まだ読んでいない人は絶対に読んでいただきたいです。

    ―――トランプが大統領選で勝利するとか世界が大きく変わっていますけど、マンガ業界の変化はどうでしょう?

    鈴木:今はみなさん、本もマンガを読まなくなってます。

    小飼:えぇっ!? 本を読まないまでは分かるんですけど、マンガも?

    鈴木:数字的には、電子コミックは以前より読まれるようになってきたかな? でも雑誌が売れなくなってきています。マンガ出版社の事業も雑誌で成り立ってきました。

    ―――雑誌に連載を載せて人目に付くようにして、単行本を買わせて儲けるというビジネスモデルですよね。

    鈴木:そうです。マンガ家は単行本だけで食っていけませんから、毎回原稿料を払ってくれる雑誌が重要だったんですよ。僕は最後に連載した雑誌だと、ページ約2万円で24万円。これで月に48万入ってくるわけですよ。年間に原稿料でだいたい500万円、これに単行本の印税が200万円くらいで、合わせて700万円。連載が終わるというのは、この年間収入がポンとなくなってしまうことなんです。  あんまり長いこと連載しないと干からびてしまうから、連載が終了するあたりから次の作品の打ち合わせを始めて、3ヶ月も4ヶ月も空きを作らないようにする。マンガ家と雑誌はそういう風につながっていました。

    小飼:みそさんは、アシスタントは使ってたんですか?

    鈴木:使ってないです。10年ぐらい前に、最後のアシスタントを使いましたね。電子書籍のために、一時的に頼んだことはありましたけど。

    ―――みそさんはデジタル化で省力化できているということなんですか?

    鈴木:そうです。一時期は「1か月アシスタントを頼むならパソコンを1台買える」と思って、デジタルの制作環境を充実させ、マシンパワーで仕事をこなしていたこともあります。省力化するため、できるだけ同じカットは描かないようにしています。

    マンガ雑誌というビジネスモデルが崩壊しつつある

    ―――マンガ業界全体で連載の仕事が消えているんですか?

    鈴木:そうなんですよ。雑誌自体がなくなっています。僕が『ナナのリテラシー』を描いてた頃は300数誌あって、その頃はだいたい2000人くらいのマンガ家が枠を取り合ってたんじゃないかな。「プロで、一年以内に単行本を出したことがある人」の数が5000人くらいと見積もられています。雑誌の中で連載をしているのは1000から2000人くらいだろうと。
     雑誌の枠は1つ空いたらすぐ埋まりますから、簡単に空いてるものじゃないわけですね。人気作家は連載が終わったらすぐに枠をもらえるけど、段々と雑誌がなくなって枠が減っている。雑誌からあぶれた人が別の出版社に行って「俺を使わないか?」と持ちかけるから、新人も入りにくくなる。キャリアがあるマンガ家でも、1回連載のサイクルから抜けると、次に空きができるまでなかなか入れません。
     特に僕は「紙のコミックは出版社で出すけども、電子版は全部僕が出版しますよ」と主張しているものだから、出版社からすれば儲けの半分がなくなっちゃうわけですね。

    ―――使いづらくなってしまう。

    鈴木:もう使いにくいわけですよ。「あぁ、みそは要らない」って。新しい仕事がなかなか来なくなったので、それをどう展開して埋めていくかが、ここ1、2年ずっとやっている取り組みですね。

    小飼:雑誌って、マンガに限らずありとあらゆるメディアの中でも、一番ネットに蚕食(さんしょく)されたメディアですよね。

    鈴木:そうですね。

    ―――今、視聴者から「マンガを買って読んだことがないんだよなぁ」というコメントが来ました。

    小飼:うわぁ。

    鈴木:そんな子がいる!? タダで読めるマンガが多いからなのかな?

    ―――無料のマンガサービスも、今はすごく多いですよね。

    鈴木:紙の雑誌についていえば、出版社はまったく割に合わない商売をやっています。雑誌を1号出すたびに月刊誌で1000万円ぐらいの赤字になるそうです。

    ―――それはメジャーな雑誌も?

    鈴木:黒字はジャンプと数誌しかないという話ですね。あとは全部、赤字。

    ―――単行本で回収するか、広告をいっぱい取るか。

    鈴木:マンガ雑誌は、広告がほぼ入りません。

    小飼:雑誌連載っていうのは、単行本の広告なんですよね。

    鈴木:そうなんですよ。そして雑誌連載時に原稿料を払っているから、単行本を出す時に追加の原稿料がかからない。単行本がとても効率よく見えるのは、ここで原稿料が発生してないからなんです。雑誌は原稿料で真っ赤っ赤にしておいて出し、赤字分を単行本で埋めているんですよ。

    ―――単行本の印税は10%なんですか?

    鈴木:僕らはそうです。すごくいい人でも12、3%じゃないかと言われています。20%というのは、あまり聞いたことがありません。

    小飼:だから出版社の自社ビルが建つんですよ。

    鈴木:単行本が売れると、出版社の利益はとんでもなく大きいんですね。

    ―――もう札を刷っているみたいなものですね。

    鈴木:売れ始めると、途中からそうなります。だいたい8000部から9000部を越えると、そこから先は儲かるゾーンと言われてます。

    小飼:えぇっ、そんなに低いんですか? 1万部を切ってるんですか?

    鈴木:はい。雑誌の原稿料とかその他の経費を含めて考えても、2万部ちょっとでしょうか。

    小飼:じゃあ『ワンピース』とか凄いな。300万部売れたら、そのうちの299万部は本当に札を刷っているんだね。

    ―――講談社の売り上げの数%が『進撃の巨人』だという話を聞いたことがあります。

    鈴木:昔『ワンピース』の売り上げは、全出版物の7%だったっていう都市伝説がありました(笑)。それぐらいマンガは爆発的な力があった。

    ―――それはもう本当に一摘みの話ですよね。

    鈴木:それでいいんですよ。ヒットした単行本で回収して、新人や新しい作品を発掘してきて、赤字でもいいから雑誌に載せる。これがまた次のビッグ・ヒットに繋がっていくっていう。

    小飼:ある意味、ベンチャーキャピタルみたいなもんだよね。

    鈴木:かなりヤバイですよ。

    ―――ハッキリ言って、出版社はカタギのやる仕事じゃないですね。

    鈴木:うん。もう僕らもどのくらい走るかわからない馬ですから。

    編集者とマンガ家、どっちが大変?

    小飼:そういえば、みそさんって編集者の経験があるんですよね。

    鈴木:はい。昔は、編集者をやっていました。

    小飼:じゃあ業界をちゃんと両側からご覧になってるんですよね。

    鈴木:そうですね。でもマンガ家のほうがずっと実入りがいいと思って、マンガ家になったわけです。今、編集者は大変ですからね。

    ―――そうなんですか? 大手出版社の編集者は高給取りと聞きますが。

    鈴木:そうでしょうね。だから今、50代の人は逃げ切ろうとしているんでしょうけど。

    ―――これから入る人はもう美味しくないと。

    鈴木:30代は、みんな青い顔をしてますよね。これから何をしないといけないのか。電子化にも対応していかないといけないし。

    ―――一番心配しているのは、まさに走っているマンガ家だと思うんですけど。

    鈴木:でも僕らは、コンテンツホルダーですから。出版社が潰れたとしても、自分が描いた作品を「自分の作品」として売ることができます。「自分が昔に描いた作品」は、自分の資産として抱えられるんですよ。これが大きい。

     
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