私はいま、恐怖に打ち震えている。

 

この話をすることで何が起きるのか、それはまだわからない。

もしかすると、恐ろしい出来事が私を襲うかもしれないのだ。

 

しかし、私は話そうと思う。

 

そう、あれは少し前の暑い夏の日のことだった――。

 


私は地方での講演の仕事を終え、羽田空港から会社に戻るため、駐車しておいた愛車に乗り込んだ。

 

私はクルマを運転するとき、いつもジャケットを脱いで後部座席に放り込むことにしている。この日は暑かったし、早くエアコンの効いた車内で涼みたくて、普段より無造作にジャケットを押し込んだ。

 

そして急いで運転席に乗り込む。


このとき、ほんの少し、かすかな違和感を覚えたが、頭の中が「涼みたい!」という気持ちでいっぱいだったため、そのまま気にせずハンドルを握りクルマを発進させたのだった。

 

……このとき、もう少し注意深くあたりを見回しておけば、あんなことにはならなかったのに……。

 

道中は快適だった。エアコンの効いた車内で好きな音楽をかけながら、鼻歌交じりにアクセルを踏んだ。もしかすると、このときならまだ間に合ったのかもしれない……。

 

会社に到着し、クルマを降りた。

 

後部座席からジャケットと鞄、そしていつも持ち歩いているiPadを取り出そうとした。

 

そこで私は気づいてしまった。


 

iPadが、ない……。

 


ちょっと待て、もう一度探してみよう。iPadはクルマに乗り込むとき、後部座席に鞄と一緒に放り込んだはず。


……。

 

放り込んだ……よな?

 

えっ、ちょっと待って。iPadを放り込んだ記憶がないぞ。おかしい、おかしいぞ。

 

思考がぐるんぐるん回った。思い出せ、思い出せ、思い出せ。たしかにiPadは革のケースに入れて持っていた。空港を出るところまでは覚えている。じゃあなぜ今ここにないのか? どこだ? どこに忘れた? 空港ならまだ電話して探して……あっ!

 


その瞬間、脳に稲妻が走った。

 


思い出したのだ。


 

私は、クルマに乗り込むとき、いつものようにジャケットを脱いで後部座席に押し込んだ。

 


その際に、手に持っていたiPadを……

 


クルマの屋根に置いたのだ……。

 


つまりこうだ。

 

後部座席のカギを開ける鞄とiPadで両手がふさがっていたため、扉を開くためにiPadをいったん屋根の上に置く扉を開く鞄とジャケットを入れる扉を閉める屋根の上に置いたiPadのことを忘れる→発進!



……。



…………。


 

NOOOOOO!!!!

 

ありえない! ありえないミスだ!

 

急いで屋根を確認する。

 

頼む! あってくれ!




私がこれほど神に祈ったのは、第1回ニコニコ超会議の赤字額を報告されたとき以来である。

 


屋根をのぞくと……。




……。





ない……。

 


汗がダラダラと流れてくるのは、決して暑いせいだけではなかった。

 


むしろ体と脳はおそろしいほど冷えていた。

 


まずい まずい まずい まずい まずい。

 


空港ならいい。電話して探してもらえるからだ。

 

しかし、屋根の上に置き忘れたiPadが今、ないということは、つまり会社への道の途中で落としたということになる。

 

私のiPad、そして革ケースにはいろいろな情報が入っている。重要人物の名刺、クレジットカード、現金……いや、この際、現金はいいとして、名刺やらカードやらはわりとマジでシャレにならない。


 

私はその後、半分魂が抜けた状態で仕事をこなし、再び空港までの道を逆走した。

 


しかし、結局、iPadが見つかることはなかった……。

 



今も東京のどこかには、私のiPadが眠っている(拾ったら教えてください、マジで)。

 





……えっ? 冒頭の「この話をすることで起きるかもしれない恐ろしい出来事」って何かって?

 



そんなの決まってるじゃないか。

 



この話を記事にすることで、iPadをなくしたのがウチの奥さんにバレることだよ!!



絶対にチクるなよ!!>関係各位

 

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iPadは覗けなくても、頭の中は覗けてしまう!
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