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■佐倉みさき/8月4日/17時30分
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■佐倉みさき/8月4日/17時30分

2014-08-04 17:30
    佐倉視点
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     17番の少女は8番誕生日も独りで寂しかった。それは14番両親が多忙であったからであり、32番少年は楽しませようとした。のかな。

           ※

     久瀬くんのエピソードが、繋がったと感じた。
     とても幼いころの、でもいかにも彼らしいエピソードだ。

     ――子供のころ、彼のクラスには誰にも相手にされない女の子がいた。彼女は自分を魔女だと言い張っていた。他人に魔法をかけると言い張って、友達を遠ざけていた。
     ――彼はやがて、彼女の家庭の事情を知る。両親が忙しく、愛されていないと感じていた彼女は、自身が作った嘘の世界に逃げ込んでいた。自分は魔法の国からやってきた。本当の両親は魔法の世界にいる、と。
     ――誕生日、彼は彼女を救おうとする。
     ――彼女の無茶な魔法にかかったふりをすることで、少しでも彼女を慰めようとする。

     そう理解したとたん、また。
     私の視界は、ブラックアウトしていた。

           ※

     スクリーンに字幕が走る。

     ――条件を達成しました。
     ――リュミエールの光景、起動します。

     直後。
     光が射した。

           ※

     ――誕生日は、誰がなんと言おうが幸せな日なのよ。
     と少年の母親は語った。
     ――一年に1日くらい、悲しいことなんてなんにも考えないで済む、幸せな日があったっていいでしょう? だから誕生日だけは、どんな時でもお祝いしないといけないのよ。
     そのころ彼はまだ6歳で、悲しいことなんて滅多に考えなかった。毎日は当然のように幸福だった。
     でも彼は、母親の言葉が正しいような気がして、決して忘れないでいようと決めた。

           ※

     そのころ彼は保育園に通っていた。
     ほんの小さな保育園だ。
     そこで彼は、少し変わった女の子に出会った。なんとなく歩く姿がペンギンのようにみえて、少年はその子を、ペンちゃんと呼んでいた。
     でもその度に、彼女は頬を膨らませて言い返した。
    「わたしは最強の魔女、ライトよ!」
     なんだそれ、と少年は思った。
     そういうごっこ遊びは、保育園では日常的なことだったけれど、ペンちゃんは心の底から自分を「最強の魔女だ」と信じ込んでいるようだった。
     いつまでもそのなりきりを止めなくて、周りの子供たちも呆れてしまって、やがて彼女には誰も近づかなくなった。
     それでもペンちゃんは、「最強の魔女」を止めなかった。
     オモチャのステッキで魔法をかけて、
    「さあ、私のいうことをききなさい!」
     と無茶な要望を繰り返していた。
    「そのおもちゃは私のだから」
    「そのお菓子も」
    「何か面白いことをやってみせてよ。逆立ちして、足で拍手して」
     誰にも相手にされないまま、ひとりきり彼女は魔法を使えない魔女であり続けた。
     ホウキにまたがって、「飛べるの!」とがむしゃらにジャンプする彼女に、少年は呆れていた。
     でもじっと空を見上げる彼女の顔は、なんとなく悲しそうにみえて、そのことを覚えていた。

           ※

    「お前、魔女とか辞めろよ」
     と、少年はペンちゃんに声をかけた。
     彼女はいつものように頬を膨らませる。
    「なんで? 魔女は、魔女よ」
    「でも魔法使えないじゃん」
    「使えるもん」
    「じゃあ使ってみせろよ」
     ペンちゃんは少年に向かって、オモチャのステッキを振りかざす。
    「おしりを振りながら歌いなさい!」
     もちろん少年はおしりを振らなかったし、歌いもしなかった。
     ペンちゃんは涙の浮かんだ目で少年をにらむ。
    「今は、ゲートからパワーを供給できてないだけ」
    「ゲートってなんだよ?」
    「魔法の世界につながってるゲート。そんなことも知らないの?」
    「知らないよ」
    「私のお母さんとお父さんは、魔法の世界にいるの。ゲートがひらいたら私は魔法が使えるようになるし、本当のお母さんとお父さんが迎えにきてくれるんだから」
    「ふーん」
     ペンちゃんはずんずんと、どこかに歩いていってしまう。
     その姿をなんとなく見送っていると、すぐ隣に保育園の先生がきて、しゃがみ込んだ。
    「久瀬くんは、あの子と仲良くしてあげて」
     先生は言った。
    「あの子、お父さんもお母さんもお仕事が忙しくて、寂しがってるだけなのよ」
     そういえば、と少年は思い出す。
     ペンちゃんはいつも、遅くまで保育園に残っている。お父さんも、お母さんも、なかなか彼女を迎えにこない。

           ※

     少年はなんとなく、ペンちゃんが気になっていた。閉園時間になっても誰も迎えにこないペンちゃんが、可哀想だと思った。
     でも少年は、カレンダーをみて少し安心してもいた。
     ――もうすぐ、ペンちゃんの誕生日だ。
     なら、大丈夫だ。
     ――誕生日は、誰がなんと言おうが幸せな日なんだから。
     ペンちゃんのお父さんもお母さんも、すぐに迎えにきてくれるはずだ。
     少年はペンちゃんの誕生日を祝うための秘密道具を用意して、その日を待った。

           ※

     でもペンちゃんの誕生日がきても、彼女の両親は現れなかった。
     彼女はブランコに座り込んで、じっとうつむいていた。
     少年は彼女に声をかける。
    「もうすぐ、来るよ」
     ペンちゃんは首を振る。
    「私の、本当のお母さんとお父さんは、魔法の世界にいるの。あのゲートが開かないのがよくないの。本当のお母さんもお父さんもこっちの世界にはいないんだから、平気」
     ひとりで平気、と彼女は呟いた。

     やがて閉園時間がきて、ペンちゃんはブランコから立ち上がる。
     そのままどこかに駆け出して、曲がり角の向こうに消えてしまう。
     ――追いかけなくちゃ。
     と少年は思う。
     魔女ごっこは得意じゃない。そういう遊びはしたことがない。でも、かくれんぼも、追いかけっこも得意だ。
     少年は彼女のあとを追った。
     見失っていても彼女がどこにいるのか、なんとなくわかった。

     ――ほら、やっぱり。
     ペンちゃんは近所の大通りにある、とても立派な鳥居の片隅に座り込んでいた。
     ――ゲートって、やっぱこれだ。
     前からなんとなく予想がついていた。この辺りで「ゲート」と呼べそうなものは、この鳥居だけだったから。
     ペンちゃんは泣いて赤くなった目で、驚いたように少年を見上げる。
    「なによ?」
     少年は笑う。
    「ゲートがひらくぜ」
     彼女は後ろの鳥居をみて、それから少年をにらんだ。
    「うそ」
    「本当だよ」
     じゃじゃーん、と声を上げて、少年は準備していた秘密道具をとりだす。
     ひげのついたオモチャのメガネだ。前の少年の誕生日に父親が買ってきて、大笑いしたのを覚えていた。
     少年はそれをつけた。
    「だってオレ、魔法にかかったもん」
     ゲートがひらけば、彼女は魔法が使えるのだ。だから。
    「ハッピバースデートゥーユー!」
     少年はおしりを振りながら、全力で歌う。
    「ハッピバースデートゥーユー、ハッピバースデートゥーユー! ハッピバースデーディアひかりー!」
     彼女はペンちゃんじゃなくて、魔女ライトでもなくて、ひかりというのが本当の名前だ。
     少年は力の限りにおしりを振って、声を枯らせて全力で歌う。
     とつぜん道端から聞こえる叫び声みたいな歌に、通行人が怪訝そうな目を向ける。
     ペンちゃんが顔を真っ赤にした。
    「ちょっと、やめてよ! 急になに?」
    「仕方ないだろ。魔法にかかったんだから」
     ハッピバースデートゥーユー、と少年はまた歌う。ディアひかり、と叫び声を上げる。
     ペンちゃんも叫んだ。
    「やめてってば!」
     人にみつかるから、というよりも、単純に恥ずかしがっているようだった。彼女はもう泣き止んでいて、まだおしりを振りながら歌い続ける少年につかみかかる。
     少年はニッと笑って、ペンちゃんをかわして、歌い続ける。

           ※

     そうしてふたりで騒いでいると、やがて、保育園の先生が走ってきた。
    「ちょっと。お迎えがくる前に出ていっちゃダメじゃない」
     いつになく怒った顔だ。
     少年とペンちゃんは、並んで「ごめんなさい」と頭を下げる。
     そのまま目を合わせて、ふたりはくすりと笑った。
     怪訝そうな表情で、先生が言った。
    「どうしたの?」
     小さな声で、ペンちゃんが答える。
    「魔法をかけられたの」

           ※

     私はたぶん、微笑んでいた。
     久瀬くんは昔から変わらずに、あまりに久瀬くんだった。
     スタッフロールもなく、ゆっくりとと四角い光景が消え、再び視界が闇に落ちる。でもその闇に、もう恐怖はない。
     私は瞼を持ち上げようとする。直前。
     ――グーテンベルクの描写、起動。
     そう、声が聞こえたような気がした。
    読者の反応

    よこ @yoko_503 2014-08-04 17:31:11
    おお! 更新きた  


    鬼村優作 @captain_akasaka 2014-08-04 17:32:16
    さあさあ、おもしろくなってきたよん  


    MIRO @MobileHackerz 2014-08-04 17:32:36
    @tos ここで久瀬くんのルールに繋がるのかー。  


    VIOLA@ソルコミュ!オーナー @viola_vfreaqs 2014-08-04 17:33:16
    グーテンベルクまで来るか!


    木庭とアルドノア・ヒゲの夏 @kbmkt_ 2014-08-04 17:34:34
    ここでグーテンベルクの描写が起動するってことは、このカフェ特定できるんじゃねーか…?


    セトミ@レンブラント派 @setomi_tb 2014-08-04 17:34:21
    泣きそう・・・ と思ったらまだあるのか!  





    ※Twitter上の、文章中に「3D小説」を含むツイートを転載させていただいております。
    お気に召さない場合は「転載元のアカウント」から「3D小説『bell』運営アカウント( @superoresama )」にコメントをくださいましたら幸いです。早急に対処いたします。
    なお、ツイート文からは、読みやすさを考慮してハッシュタグ「#3D小説」と「ツイートしてからどれくらいの時間がたったか」の表記を削除させていただいております。
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