ホームセンターに行ってみても、もちろん記憶をくすぐられる出来事なんてなかった。この現地めぐりは意味があるのだろうか、と疑問に感じる。
ニールは本日の蒸し暑さに、だんだんといらだってきたようだ。
「だいたいよ、どうして真夏に歩き回るんだよ。物理法則に反してるだろうが」
意味のわからないことをぐちぐちとこぼしながら、彼が率先して喫茶店に入る。彼自身がネットから探してきて、行きたいとごねた店だった。
ニールの趣味嗜好は知らないし興味もないけれど、この店に訪れたいという気持ちは理解できた。
特徴的な、素敵な喫茶店だ。長居したくなる店内で、お店の方もそれを許容しているのだろう、メニューには「おかわりコーヒー」というものがあった。2杯目は格安になるようだ。
ニールとノイマンがアイスコーヒー、私がオレンジジュースを頼む。
さすがに蒸し暑さで疲労していたのだろう、ノイマンがあのイラストの束とスマートフォンを取り出したのは、注文したメニューが運ばれてきてからだった。
「今日の1コマ目は、これ」
と、彼女はイラストを差し出す。
21番。黒くて頑丈そうなランドセルに、リボンが結びつけられている。その脇には「ピカピカ」の文字。
「新品のランドセルね」
とノイマンが言った。
リボンが巻かれたランドセル――リボンは、プレゼントを連想させる。
私は思い出す。
久瀬くんが昔、「クリスマスプレゼントにランドセルを貰ったんだ」と嬉しそうに話していた。
そして翌年、「あのランドセルをもっと格好良くした」とも。
その間に、ランドセルに関するなんらかのエピソードがあったのではないだろうか?
そう考えた途端だった。
頭がくらりとした。
※
酩酊のような感覚に身を委ねてまぶたを落とすと、私はまた、あのまっ白なスクリーンの前にいた。
そこに文字が浮かび上がる。
――リュミエールの光景、準備中。
2度目だから、さすがにもうルールはわかる。
スマートフォンの向こうの人たちが久瀬くんのエピソードをみつけてくれたとき、ここに彼の過去が浮かび上がるのだ。
※
目をを開くと、ノイマンがこちらにスマートフォンを差し出していた。
「使う?」
私はそれを受け取って、ツイッターのアプリを開く。
まず書くことは決まっている。
――おとといは、ありがとうございました。本当に助かりました。
お礼を書く前に取り上げられたことが、ずっと気になっていたのだ。
それから続けて、書き込んだ。
――実は他にも、あの男の子のことで、思い出せないエピソードがあるんです。