佐倉視点
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 夕食の時間になっても、私はまだ秋田にいるのだった。
 ノイマンの、聖夜協会から頼まれている仕事が佳境とのことで、このホテルでもう一泊することになった。ニールはごねそうだなと思っていたけれど、意外にもあっさり引き下がった。
「あいつは私が苦手だから」
 とノイマンはいう。
 ホテルに入っている雰囲気のよいダイニングだ。私と彼女は並んで窓辺のカウンター席に座っていた。
「苦手、ですか」
「そ。プレゼントの相性でね」
「プレゼントって、あの瞬間移動のことですよね?」
「ニールのはね」
「ノイマンさんも持ってるんですか? プレゼント」
「ええ」
「どんな?」
「人を夢の世界に連れていくのよ。素敵でしょ?」
 よくわからない。
「相性が悪いって、どういうことですか?」
「以前、あいつが私のところに跳んでこようとして、ひどいことになったのよ」
「ひどいことって?」
「簡単にいえば、バグったの」
 やっぱりよくわからない。
 でもそういえば、以前ニールがノイマンの部屋に現れたとき、あいつはわざわざ私の近くにやってきた。ニールは「ノイマンのそば」に移動することを嫌がっていたのかもしれない。
 夕食は秋田の食材をふんだんに使った懐石料理で、美味しい。よい食事ばかり食べさせてくれるノイマンに、申し訳ないような気持ちになった。
 私はだしに沈んだ比内鶏のつくねを箸で切り分けて口に運び、「おいしいですね」とつぶやく。
 ノイマンは笑って、
「そろそろ貴女のチャーハンも食べたいけれど」
 と応えた。
「美味しいでしょう、私のチャーハン」
「そうね。独特」
「それって、料理に使うとだいたい否定的な意見だと思います」
「本当に美味しいわよ。なにかよくわからない美味しさ」
 コツがあるの? とノイマンに尋ねられて、「一心不乱であることです」と私は答えた。
 それからしばらく、大きな窓からみえる夜景を眺めながら食事を続けていた。
 と、ふいに、私の背後でとんと足音が聞こえる。
 みるとそこにニールが立っていた。さすがにそろそろ、驚かなくなってきた。
「貴方のぶんの料理はないわよ」
 とノイマンがいう。
「いらねぇよ。オレはこういう、一皿が出てくるのにやたら時間がかかるタイプの店は嫌いだ」
「そう。で、状況は?」
「ずいぶん静かだ。気持ち悪いくらいに」
「不思議ね」
「ああ。穏健派も強硬派も、こっちにはまるで注意を払っていない」
「メリーが誘導してるんじゃないの?」
「そうかもな。ならそうと教えてくれてもよさそうなもんだが」
「秘密主義だから。彼女」
 話にまったくついていけない。
 私にだかノイマンにだかは知らないけれど、「部屋にこもったまま食いすぎると太るぞ」と言い残して、ニールはまた姿をけした。
「なんの話ですか?」
 と私は尋ねてみる。
 ノイマンはちらりとこちらをみる。
「貴女、いま誰に誘拐されてるか、わかる?」
「ノイマンさんとニールです」
「そ。で、それはメリーの指示なわけだけど、その指示は協会には伝わってないはずなの」
「どうしてですか?」
「リュミエールからの依頼が極秘だから。一般的なスイマからみれば、急に悪魔が消えたわけだから、協会内がごたごたすると予想していたのよ。だけど意外なほど平和だって話」
「危険な可能性があったんですか? この旅行」
「もちろんよ。聖夜協会の連中には、無茶苦茶な奴がいるから」
 貴女も聖夜協会の人でしょう、と言いたかったが言わないでおく。
「強硬派の人たちが、危険なんですよね?」
 ノイマンは首を振る。
「そうとも限らないわよ。穏健派、強硬派は目的意識の違いでしかないから。どちらにも友人になりたくない人はいるわ」
 そう単純な話でもないのか。
 知れば知るほどよくわからない集団だな、と思った。
読者の反応

ほうな@bellアカ @houna_bell 2014-08-07 19:37:30
ははーファーブルも敵になりうるという警告かしらん  


VIOLA@ソルコミュ!オーナー @viola_vfreaqs 2014-08-07 19:37:58
ノイマンの能力についてはある程度予想できてはいたが、
別の点で謎が増えたな…


クー@3D小説wiki管理人 @coo01 2014-08-07 19:48:21
ニールの足跡は移動先として場所か人物を指定する能力だとわかった。で、ノイマンが現実世界だか電脳世界だかにいる時に移動先に指定してバグった、かな。  


fNaNaf @ffNaNaff 2014-08-07 20:04:48
とりあえず久瀬君がゲームの世界に行くのはノイマンの仕業になるってことだ  


QED @qed223 2014-08-07 19:38:58
この面子で普通に竿燈祭りを楽しんだのだろうか…  





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