久瀬視点
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 2本の電話をかけた。
 まずは父親に。佐倉家に何人の子供がいたのか確認しておいて欲しい、とソルに言われていた。
 父もやはり、佐倉家の子供はみさきとちえりしか知らないようだった。ついでに聖夜協会についても尋ねてみたけれど、父の時代のそれは平和的で、ただ楽しげで、なにも影のない集まりにきこえた。
 次にオレは、ちえりに電話をかけた。
「毎年、ホテルでクリスマスパーティをやっていただろ?」
 とオレは尋ねる。
「12年前のクリスマスパーティ、覚えてるか?」
 ちえりは答えた。
「最後のクリスマスパーティですね」
 そうなるのか。
「その年、なにか特別なことがあったか?」
 ちえりはしばらく沈黙していた。おそらく、古い記憶を思い返しているのだろう。
「いえ。特には」
 とちえりは答えた。
「オレはその年、パーティに出ていないよな?」
「はい」
 オレの記憶と一致する。
「どうして翌年から、パーティはなくなったんだろう?」
「どうしてでしょうね。すみません。私はまだ幼かったものですから、あんまり事情に詳しくなくて」
「いや」
 オレだって知らないし、親父も把握していないようだ。ちえりを責める理由はない。
「ありがとう」
 と言って、それから少しだけ雑談して、オレは電話を切った。
 みさきのことは、話題に出さなかった。少なくとも数日前までは無事だと、伝えてあげたかったけれど、それを上手く説明できる気がしなかった。

       ※

 夜の遅い時間、オレは八千代の部屋を尋ねた。
 八千代は爪を切っていた。ホテルから借りたものを使っているのだろう。無愛想で実用的な爪切りだった。
 手元でぱちん、ぱちんと音を立てながら、八千代は言った。
「どうした?」
「いや。作戦会議でもしようと思って」
「作戦があるのかい?」
「少なくとも、共有できる情報はある」
「へぇ。どんな」
 八千代がデスクの前のチェアから立ち上がり、ベッドに移動する。彼が空けてくれたチェアにオレは腰をおろす。
「おそらくファーブルは、あんたを狙っている」
 あのバスの窓からみえた未来は、そういうことだろう。
 結局、オレはおまけでしかなくて、ファーブルの標的は八千代だ。オレよりも八千代の方を警戒するのは当然だと思った。
 だが八千代は首を振る。
「オレもそう思っていた。でも、ちょっと状況が変わったみたいだ」
「状況?」
「ちょうどその辺りを、今日調べていた。ファーブルの興味は少しずつ、こっちからも離れつつある。オレが邪魔だってことには変わりないだろうけどね」
「どういうことだ?」
「どういうことだと思う?」
 そう尋ね返されることにも、慣れつつあった。
 いわれる前から予想は立っていた。
 ――ソルか。
 ファーブルはおそらく、オレが八千代の指示で動いていると、当初は考えていた。でも今は、ソルの存在に気づきつつある。スマートフォンの向こうにいる、なぜだかこちらの事情を知っていてオレに手を貸してくれる大勢の人々、なんてもののことを正確に理解できるはずはない。オレだってまだよくわかっていない。とはいえ、オレのバックにより優秀な何者かがいることには感づいた。
 ファーブルの中では、オレよりも八千代が優先され、八千代よりもソルが優先されている。そういうことだろう。
 八千代はぱちんと親指の爪を切りながら、言った。
「君の友人について、できたら教えて欲しいね。ずっと不思議なんだ。アカテさえ君の友人に、食事会の招待状をさしだしている」
「アカテって奴は何者なんだ?」
「オレもよくは知らない。でも、少なくとも勘違いで君の友人に招待状を渡したわけではないはずだ。オレによっぽど人を見る目がないわけでなけりゃ、優秀な人物だ」
 わからないことだらけだ。
「ともかくファーブルは、君の友達をどうにかしたいんだろう」
 あいつらを、と言おうとして、なんとか呑み込む。
「あいつを拷問にかけて、情報を引き出すってのか?」
「なくはない。でもそこまで回りくどい方法はとらないように思う」
「回りくどい?」
「ファーブルはあくまで純粋な穏健派だからね。嘘はつかないし、悪事も働かない。もちろん拷問なんてしない。もしやるとしたら、それは強硬派だ」
「どう繋がる? ファーブルは強硬派と手を組んでいるのか?」
「手を組む、という言い回しは、あいつは好まないだろうね」
「ファーブルの好みなんてどうでもいい」
「まったくだ。きっとファーブルと強硬派は繋がっている。互いに利用しようとしていて、絡み合っている。君の部屋から白い星を盗んだのは強硬派みたいだよ。ところで、星の他になくなっていたものは?」
 ある。もちろん。
 ソルのスマートフォンだ。
「どうして?」
「もうひとつなければ、話がまとまらないんだ。ファーブルは君を部屋から連れ出して、その情報を強硬派に流した。もちろん、部屋を荒せとは言っていない。ただ事実を話しただけだろう。それでも強硬派がどう動くかは予想していた」
「そんなことをして、ファーブルになんの得があるんだ?」
「問題はそこだ。強硬派は白い星を求めていた。元々、あれは強硬派が持っていたものだ。自分たちの失態だから、なんとかして取り戻したかったんだろう。でもファーブルが、ただただ強硬派に手を貸すはずがない」
 ようやく話がわかった。
「オレの部屋からもうひとつなくなっているものがあれば、そちらをファーブルが受け取ったってのか?」
「ファーブルはおそらく、強硬派とは取り引きしない。でもあいつは平然と、自分で作ったルールの穴をつく。言い回し次第で、自己満足できればそれでいいんだろう」
「ずいぶんファーブルについてよく知ってるみたいじゃないか」
「ああ。今日、調べた」
「どうやって」
「いろいろ。可能性を想像して、ひとつずつ消していく。ホームズもそうやった」
「さすがにドイルだな」
「オレはあいにく、ホームズほどの知能はない。おかけで今日は、ずっと電話だ」
 電話をかければわかるものなのか。
「その辺りの構造が、よくわからないな」
「ネット検索に慣れた世代はこれだからよくない」
 ずいぶん年寄りくさい発言だ。
 オレは覚悟を決めて、少しだけ情報を開示することにした。
「星の他に、部屋からなくなったものがひとつある」
「君の友人との連絡手段」
「どうして知っている?」
「今のは、ただのはったりだ。でもスマートフォンだってところまではわかっている」
「誰から聞いた?」
「強硬派には、少し友達がいる」
 やはり八千代は信用できない。
「それでもオレは、ファーブルがあんたを狙っていると思っているよ」
 バスの窓からみえたあの景色は、そういうことではないだろうか。
「なら、都合がいい」
 八千代は笑う。
「そろそろホテルで電話番をしているのにも飽きてきたころだ。向こうから動いてくれた方が、都合がいい」
「どうするつもりだ?」
「ファーブルは、直接は手をくださない。おそらく強硬派を利用する。強硬派は単純だ。罠を張っておけば、向こうからひっかかりにくる」
 八千代は肩をすくめてみせた。
 ――罠、か。
 その結果が、あの血を流す八千代ではないだろうか。
 わからない。でも、未来は変わりつつあるはずだ。
 八千代とファーブルの問題に、オレも加われる隙が生まれるはずだ。
 ――きっとファーブルは、オレにコンタクトをとってくる。
 どんな形だかはわからないが、きっと。
 ソルがそう仕向けてくれるはずだ。

――To be continued
読者の反応

aranagi@静岡ソル @arng_sol 2014-08-12 00:05:14
更新が来るとTLが止まる感じ好きだよ  


雑食人間@3D小説大阪現地愛媛遠征組 @zassyokuman 2014-08-12 00:02:30
24時更新、ソルの責任重大やなこれは。  


あみー @ryosangata_aisu 2014-08-12 00:07:13
ファーブルの謎解きはリュミエールの光景で生放送してくれないのかなー って運営さんにチラッチラッしてみる


やんわり@町会議8/30山口! @yanwalee 2014-08-12 00:11:50
久瀬くんはソルを神か何かと勘違いしている  


aranagi@静岡ソル @arng_sol 2014-08-12 00:14:47
ファーブルの用意しているであろう抜け穴を探そうとしてメール文章ずっと読んでる うおお今だけ卑怯な人間の思考を身につけるのだ自分  


秋沙(あいさ) @Isa_Laurant 2014-08-12 00:15:38
今のところゲーム以外の方法で久瀬君とファーブルを会わせられそうなものはなさそうだし、久瀬君をゲームに立ち会わせる方向でいいっぽいかな  





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お気に召さない場合は「転載元のアカウント」から「3D小説『bell』運営アカウント(  @superoresama )」にコメントをくださいましたら幸いです。早急に対処いたします。
なお、ツイート文からは、読みやすさを考慮してハッシュタグ「#3D小説」と「ツイートしてからどれくらいの時間がたったか」の表記を削除させていただいております。
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