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ゲストさん のコメント


「帰れ糞アフィカス野郎」

それは、自分が教室に入った瞬間、突然彼女の口から発せられた言葉だった。

昨日までは、「おはようえのげくん」などと、明るい挨拶をしてくれていたはずだ。

そんな彼女が、一体どうしてこんな言葉を。

彼女が言った言葉を理解することを、脳が拒んだ。

*

亜不意(あふい) えのげは、地元の高校に通う高校3年生。

彼の顔はまあまあだったのだが、性格ははっきり言ってヲタクそのものであった。

しかし、世の中というものは広く、ヲタク女子であった美霊と仲良くなったのだ。

しかも、その美霊は外見からはとてもヲタクとは考えられないほどの美少女であった。

えのげは、毎日が夢のようであった。

*

えのげの趣味に、「アフィブログで収入を上げる」というものがあった。

えのげはこれのおかげで、金に困ったことがなかった。

当然それ目当てで擦り寄ってくる女もいたが、えのげはそんな女が嫌いだった。

アフィで手にした金に擦り寄ってくるものは、皆意地汚い屑と考えていたからだ。

それとは反対に、自分のことを金関係なしに好きになってくれた美霊には好意を寄せていた。

そして、他人のために金を使いたいと、生まれて初めて思ったのだった。

*

えのげには友人というものが少なかった。

その指を折り曲げて数えることができる数しかいない友人たちと、毎日のようにつるんでいた。

傍からみれば理解できないような話ではあるが、えのげたちにとってはそのような話をすることが最高だったのだ。

しかし、美霊と付き合ってからはその友人たちとも話す機会がなくなってしまった。

えのげはまたこの友人たちと話して過ごしたいと思ってはいる。

だが、えのげにとっては、この世に二人といない美少女である美霊との付き合いのほうが大事なのであった。

*

えのげとその数少ない友人たちにはある共通点があった。

それは、クラスの番長格であるベネットをはじめとするグループにいじめられていたことである。

彼らはベネット達からのいじめの耐えがたきを耐え、忍びがたきを忍んできた。

それでも、中には耐え切れずにこの世を無念にも去ってしまった者がいる。その名は、でんきマニア。

えのげ達は、今は亡き彼のことを思い起こすたび、彼のためにベネット達への復讐を誓っていた。

*

いじめられるグループの中でも、特にえのげはベネット達からの強いいじめを受けていたが、すぐに立ち直ることができた。

なぜなら、美霊の存在があったからだった。

美霊は、えのげが校門へ向かうと、自分の傷や痣を見て「大丈夫?」などと声をかけてくれていた。

えのげは、美霊に自分がいじめられていることを隠すため、「階段から落ちた」とか「植え込みに突っ込んだ」とか、嘘をついていた。

それでも、えのげは自分がいじめられていることがばれていないか心配だった。

*

今は、もう付き合って3ヶ月ぐらいになるだろうか。

そんな心優しいと思っていた彼女は、豹変してしまった。

今の彼女に、あのときの彼女の面影はもう見られない。

*

ふと、我に返った。

えのげは随分と長い時間突っ立っていたようにも思えるが、まだ10秒ほどしか経っていなかった。

声を震わせながらもなんとか言葉を返す。

「な…何の……話なのげ……?」

彼女は強い口調で返した。

「ジョンくんが教えてくれたのよ。アンタがアフィカスだとね」

ジョン?あいつが?でもなぜ?

*

ジョンは、ベネットの集団の中でも割と強い権力を持っている。

その上イケメンで、頭の回転も速く、運動もできて、おまけに性格もいい。

周りの女子からすれば、理想の彼氏そのものであった。

また男子受けもよく、クラスのムードメーカーであり、彼の提案することに従って失敗したことはない。

なので、彼の意見なら誰しも素直に聞く、という風潮がこのクラスにはあった。

*

でんきマニアの死にも、ジョンが深く関係をしていた。

彼の一声で、学年全体がでんきマニアに陰湿な嫌がらせをするようになったのである。

元々メンタルの弱かった彼は、いじめに加え学年規模の嫌がらせを受け、とうとうギブアップした。

彼は最期にえのげに向かって、

「僕は死ぬことを選んだけど、どんなことがあっても僕のように死を選ぶのはやめて。せめて、えのげくんだけでも生きて卒業して」

と言っていた。

*

にしても、ジョンはなぜ自分がアフィカスだと分かっているのか。深い疑問であった。

その日の授業では、彼女にあんなことを言われたショックと、ジョンがどのように知ったのかと言う疑問で、内容がまったく頭に入らなかった。

いつもならベネット達に連行されて体育館裏へ連れて行かれるのだが、今日はなぜだか連行されなかった。

しかし、彼女も声をかけてはこなかった。

*

次の日になった。

相変わらず、授業の内容は頭に入ってこない。

放課後になったが、今日も何故だか連行されない。

その代わりに、ひろにい兄さん。に呼び出されたので、行ってみることにした。

*

ひろにい兄さん。とは、えのげの数少ない友達の一人であった。

彼は元々ベネットの集団の一人だったが、あるとき、「少々やりすぎてしまった」という後悔からか、ベネット達に厳しめな言葉を放ってしまったのだ。

それがベネットたちの逆鱗に触れ、いじめを受け始めたのだと言う。

だがえのげは、そんなひろにい兄さん。のことを勇ましい人物だと思っていた。

*

呼び出された場所に行ってみると、すでにひろにい兄さん。の姿があった。

「待ってたよ、えのげくん」

ひろにい兄さん。はいつも通りの様子で話したが、えのげは、ひろにい兄さん。の様子が何か変だということに気づいた。

そして、恐ろしくなりながらも聞き出した。

「まさか、ひろにい兄さん。も、でんきマニアの後を追うのげ…?」

「そんなわけないじゃん!」

速攻で否定された。ひとまず安堵したが、では何故呼び出したのだろうか。

えのげは、聞いてみた。

「それで、何で呼び出したのげ?」

「あっそうだった、ゴメンゴメン。実はね…」

えのげは息を呑む。

「僕に彼女ができたんだ!」

…彼女が、できた。ひろにい兄さん。に。

本来なら盛大に祝ってやるところなのだが、つい昨日彼女を失ったえのげは、素直に喜ぶことができなかった。

「えのげくんにも紹介してあげよう。きて、美霊さん!」

「は……?今、なんつったのげ?」

思わず声に出てしまった。

美霊?あの?昨日自分をふった?なんでこんな奴なんかに?

さまざまな疑問が出たが、どうせ聞き間違いか何かだろうと思っていた。

しかし、聞き間違えでは無かったことがすぐに分かった。出てきたのは、確かに白髪で蒼眼の美霊だった。

「どういう…ことなのげ?」

思わず、えのげは聞き出した。

「…教えてほしいか?糞野郎」

乱暴な口調で美霊が返した。そして、こう続けた。

「今まで私がアンタに付き合ってやったのも、ひろにい兄さん。くんがアンタのお友達になったのも、すべてトリックだったのよ」

その言葉に、えのげは凍りついた。

すべてがトリック?ひろにい兄さん。もグル?

突然すぎて、えのげは理解できなかった。

その顔を見たひろにい兄さん。は、説明を始めた。

「確かに僕がいじめられたのは、ベネット兄貴に対して厳しい言葉をぶつけたからだった。

でも、いじめが始まってから1週間後に、ベネット兄貴にひたすら謝り続けたら、何とか条件付で許してもらえたんだ。

その条件は、お前の前ではいじめられ続けるフリをしろ、というものだったと言うわけだ」

その後、美霊も説明をした。

「私は『えのげと3ヶ月ほど付き合うフリをして偵察しろ』と言われていた。

それで、アンタの家にこっそり隠しカメラをつけたり、いろいろと探ったりしていたのだけれど、まさかアフィカスだったとはね。

無断転載したネタで金を巻き上げていたとは、アンタは本当に人間の屑ね。」

その言葉は核心を突いていた。えのげは…。

「の、ののっ、のげええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!」

そう叫んで逃げ出した。騙されたという現実を受け入れられなかった。

*

「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!絶対嘘なのげ!!!嘘なのげえええええええええええええええええええ!!!!!」

えのげは半狂乱になりながらも走り続ける。

現実を受け入れられなかった。

もはや自分を制御できなくなっていた。

えのげは半狂乱のまま駅のホームへ突っ込み、そして―――――。

*

次の朝、ベネット達は新聞を眺めていた。

そこには、「人身事故」「線路に飛び降り」「飛び降り前に狂ったような言動」などの文字が並んでいる。

一緒になって見ていた美霊が呟く。

「もう消えちゃったの、つまらないなあ」

~END~
No.21
117ヶ月前
このコメントは以下の記事についています
1850年代、ジャック・ブノワという男性が カタツムリを使った電報 を作ろうとしました。まるで漫画『ワンピース』の電伝虫のような発想! 当然のことながら、この漫画の世界としか思えないアイディアは失敗に終わりましたが、驚いた事に、 一部の人々は彼のアイディアを信じ、資金を提供した のです。 そこで今回は『ワンピース』の電伝虫を作ろうとした男の話をご紹介します。 ブノワ氏は、所謂 オカルト信者 でした。1800年代は社会的に信頼されている人ですら、降霊術を開いては地の精や妖精を呼び出しているような時代だったため、科学と魔法を合体させた突拍子も無いアイディアでも、受け入れられたのです。 ブノワ氏は研究だけでなく、発明にも手を広げました。何らかの理由で、彼はカタツムリが忠実な生き物で、2匹のカタツムリが交尾するとその2匹は 常にテレパシーでリンク され、1匹が体を動かすと、たとえどんなに離れていても、瞬時にもう1匹も同じように体を動かすだろうと考えたのです。 そして、カタツムリのペアを24作り、交尾させた後に引き離し、そのカタツムリを突っつく事で人間が別の場所にいるカタツムリに信号を送れるようにしようとしました。ブノワ氏は、このシステムを「 カタツムリ電報 」と呼びました。 驚く事に、このアイディアはブノワ氏の オリジナルでは無かった のです。1500年代には、既に「 肉電報 」という考えがあり、動物や人間には共鳴する力があると書き残されています。肉電報は、ある患者が 彼の腕から取り除かれた肉を触られると鼻が痒くなる と主張したことから思いついたそうです。ブノワ氏は単にこのアイディアを洗練させ、移動可能な動物で実現させようとしただけなのです。 ブノワ氏は「カタツムリ電報」を開発する上での投資家は見つけましたが、結果は人々が望むほどの正確さは得られず失敗に終わりました。そして、懐疑論者たちが厳密な試験を行うことを要請した時に、ブノワ氏は 失踪 。残念なことに、カタツムリ電報は実現する事無く、終わってしまったということです。 トップ画像: Leon Brooks 『ワンピース』の「電伝虫」を実際に作ろうとした男が1850年代にいたらしい [Kotaku Japan] [via A History of the Electric Telegraph and Wired via io9 ] (中川真知子)
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