野田稔・伊藤真の「社会人材学舎」VOL.8 NO.2
コンテンツ
対談VOL.8
祐川京子氏 vs. 野田稔
夢は宣言すると叶う
そのために必要なのは
総合病院のような人脈
第2回 夢を決めたら宣言し、そのための道しか歩かない
Change the Life“挑戦の軌跡”
自分がありたい姿になるために起業した
――株式会社Chrysmela 菊永英里
第2回 中小企業の技術の結集が、市場に認められた!
NPOは社会を変えるか?
第26回 バーチャルな政策シンクタンクづくりという挑戦
――日本政策学校 金野索一代表理事
粋に生きる
8月の主任:「松原智仁」
第2回 このまま就職したら、きっと後悔する!
誌上講座
テーマ8 タスク型OJTを中心とした人材育成の方法論
野田稔
第2回 まずは型を教えて、次にはそれを後進に教えさせる
連載コラム
より良く生きる術
釈 正輪
第30回 ガンとの共存が、私の人生を急かし始めた
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対談VOL.8
祐川京子氏 vs. 野田稔
夢は宣言すると叶う
そのために必要なのは
総合病院のような人脈
本誌の特集は、(社)社会人材学舎の代表理事である野田稔、伊藤真をホストとし、毎回多彩なゲストをお招きしてお送りしています。
今月のゲストは、祐川京子さん。ベストセラーとなった処女デビュー作『ほめ言葉ハンドブック』(本間正人との共著)のほか、『キラリと輝く気くばり』『夢は宣言すると叶う』などを著書に持つコミュニケーションスキルのプロフェッショナル。現在は経営層に特化した大手人財紹介会社にてエグゼクティブコンサルタントに従事し、八戸学院大学・八戸学院短期大学地域連携研究センター客員研究員なども務めます。
そんな祐川さんは短大卒業後、新卒で第一生命保険会社の一般職として入社、 その後、短期間で頭角を現し、法人営業を経て、営業スキルの研修講師として生保レディや異業種の ビジネスパーソン約5000人に講演・研修を実施してきました。この対談では、そうした彼女のこれまでのキャリアにスポットを当てます。それはまさに、「夢は宣言すれば叶う」を実践してきた半生でした。
第2回:夢を決めたら宣言し、そのための道しか歩かない
社内基準で考えずに、
自分で頑張って、自らの市場価値を高める
野田:自分を磨き、人脈を作るために、すごく努力をされてきたわけですが、何か、祐川さんを駆り立てた原点のようなものはなかったのですか?
祐川:RM(リレーションシップ・マネージメント)になるまでの3年間は、いや、それ以前も、セミナーどころか、本もあまり読んでいませんでした。それで営業職になって、自分なりに頑張っていたときに、当時、プライスウォーターハウスクーパーズに勤めていた高校の同級生の男性から、「うちの会社にこないか」と誘ってもらったことがあったのです。
まだ20代半ばの頃ですし、私は第一生命保険に定年まで勤めるつもりで転職する気はなかったのですが、「せっかくの機会だから、僕のボスを紹介するよ」と言われて三人で会食をしたことがありました。
その際に、そのボスから「もしあなたがうちの会社に来るのであれば、こういうスペックが必要です」という話を延々とされて、その時に言われたスペックに、私は1つも当てはまってなかったのです。第一生命保険のOLとして同期では一番頑張っているという自負があっただけに、井の中の蛙であることを思い知らされて、ものすごい衝撃でした。
野田:たとえばどんなスペックだったのですか。
祐川:当時、会社ではパソコンがそれほど普及していなく、チームに1台くらいしかない時代でしたが、「うちの会社の求人はホームページでしかやらない。紙媒体なんか出さない。なぜならばこれだけインターネットといわれ始めているのに、いまだに“会社がパソコンを買い与えてくれないからインターネットは見られない”とか、そういう保守的なマインドの人はいらない」という話から始まって、次が英語力の話で、……後は何を言われたのか、私、頭が真っ白になり覚えていないのです。社内の一般職としては一所懸命に努力してきて、それなりだと思っていたのに、外に出てみたら、「私って、市場価値がないんだ」みたいな感じですよね。ショックでした。
野田:同じですね。僕もショックだったじゃないですか。会社に入ってみたら通用しなかった。僕の場合はもっと癖が悪くて、自分の会社で通用しないことがばれてしまったのだけど……、ただ、そういう気づきは早いほうがいいですね。
祐川:そうですね。このおかげで、その後は社内基準でモノを考えるのは止めようと思いました。そして、市場価値の高い人材を目指そうと思ったのです。
実は、伏線があって、同期では一番と思っていたのですが、2つ下の後輩に先に出世されたという事実もそのときにあったのです。それもすごいショックでした。それでちょっとふてくされていました。ところがその後に、プライスウォーターハウスクーパーズのショックがあったのです。「私、社内の出世云々でふてくされている場合じゃないわ」とわかったのです。「市場価値がなかった!」という気づきがあって、それから勉強しまくりました。
今でこそビジネス書作家と名乗っていますが、読書なんて、それまでは年間1冊読むか読まないかという程度でした。そこでとにかく勉強しようと思って、何をしていいかわからなかったので、ある上司に相談したら、「経済小説を読め」というアドバイスをもらいました。「経営者と対峙するのに、経営者の気持ちがわかったほうがいい」というので、それで最初は城山三郎、山崎豊子の泣ける物語から入って、『官僚たちの夏』とかでめちゃめちゃ反省しました。「国のために命を落とす人がいるんだ。私はなんてへなちょこなんだろう……」と、そういう反省から始まり、だんだん高杉良のリアルな経済小説に行って、はまりまくりました。
それからですね。本当に勉強するようになったのは。まずは経済小説にはまって、1週間に3冊くらいのペースで読んでいました。それこそ歩きスマホならぬ、歩き小説でしたね。
野田:おもしろい! やっぱりそういうふうにはまるときが必要なのですよね。僕も20歳から30歳までの10年間は、1日1冊読了しようと決めて続けていました。勉強の本は別です。最初は暇だったからなのですが、はまってしまって、そのうちにいつまで続けられるか、チャレンジし始めたのですね。結婚するまで続けました。
老後はエンジェルになると決めた
だから、ベストセラー作家になる!
祐川:RMとしての担当先はすでに取引のある大企業のマーケットからスタートして、4年目から中小企業の新規開拓部門へ異動しました。新規開拓部門は女性として初めての配属でした。そうなると、大企業向けと違って、株も買えないですし、融資先としても微妙ですから、営業協力とかビジネスマッチングによって親密化を図ることが重要になります。
第一生命保険には昔からそういう文化があります。大手の生保というのは、商品力でそれほど差別化できるわけではないので、法人営業の強さは総合力が決め手になります。たとえば経営者同士でお酒を飲む会を主宰して、意図的にビジネスマッチングをしたり、その会社の商品やサービスを購入するなどの営業協力とか、付加価値営業の文化がもともとありました。そうした努力をしたうえで、保険営業にもつなげていくわけです。
私は、社長に対していろいろな人を紹介するなど、一人でひたすらマッチメイキングをしていました。その流れで今度はドットコムバブル、さらにビットバレーの時代になって、ベンチャー企業が台頭してきたので、ベンチャー企業の開拓をばんばんやるようになったのです。
野田:今度はどんな戦略を立てたのですか?
祐川:自分で飛び込み営業をするのにも限界があるので、どうしたらいいベンチャー企業に当たれるかと考えて、ベンチャーキャピタリストと仲良くすることにしました。ベンチャーキャピタリストは有望なベンチャー企業をどんどん開拓しているので、彼らが「いいよ」という企業を紹介してもらおうと考えました。紹介してもらったら、その会社のサービスを第一生命保険や知り合いの会社で買えないかというアレンジをしたり、事業の成長性が見込みれば第一生命キャピタルで出資をしたり、ベンチャー企業同士もつなげたりして、ベンチャー企業の経営者としっかりと仲良くなって、アライアンスコーディネートによって保険ももらうという営業スタイルでした。
その結果、経営者保険の契約獲得実績でも一番になったのですが、その時に、生涯の目標を見つけるのです。
野田:いよいよ核心ですね。それは何ですか?
祐川:ベンチャー企業の経営者の話を聞いていると、彼らがやたら株主自慢をすることに気がつきました。たとえば「うちの株主には成毛眞さんがいるんだよ」とか、「うちの会社を助けてくれているのが、どこどこの誰々社長なんだ」と、とにかく皆、株主自慢をするなと思いました。自分はまだ20代ということもあり、職業が「社長」というだけでも偉いと思っていた頃でした。なので、その人たちが自慢するほどの経営者は格好がいいなと思ったわけです。そこで、不遜にも、私もそういうおばあちゃんになりたいと思ったのですね。自分の老後は若い社長に自慢されたい。「いやぁ、うちの株主は祐川京子さんなんですよ」というふうに自慢してもらいたい。それを私の夢として掲げたのです。
野田:数十年先を見るタイプなのですね。
祐川:そうですね(笑)。そこで老後にはエンジェルになりたいと思ったのです。やりたいことは言いまくるので、「私はエンジェルになりたい」「エンジェルになるためにはどうしたらいいのですか」と言っていたら、永山隆昭さん(当時、サンブリッジ副社長)から「何を寝ぼけたことを言っているんだ。保険会社のキャリアでエンジェルになれるわけがないだろう。皆が名前を出している、成毛眞さんなどは、実業で成功しているから株主になってくださいと皆にいわれるのだよ。君は保険会社にいて転職する気もないのでしょう? 実業もやる気がないなら無理だね。機嫌よく第一生命保険にいるし、もしそのままでいるというのであれば、そうね、本でも書いてベストセラーの一つでも出せばエンジェルになれるかもしれないけど……」と言われました。最後は適当に付け加えたのかもしれませんが、でも私は「そうか」と膝を叩いて、「ベストセラーを出そう!」と決意したわけです。
だから、エンジェルになるための最初の取っ掛かりが、ベストセラー作家だったのです。
野田:なるほど、めちゃめちゃおもしろいですね。本を書く人には二通りあると思っているのです。一通り目は本道で、自分の中に書きたいものがある。だから書く。書いた以上はできるだけ多くの人に読んでもらいたいというタイプです。祐川さんはそうじゃないのですね。まずベストセラーを出すという目的があって、何を書いたらそうなるかを考えたわけですよね。目的志向性がものすごく強いですね。
祐川:そうですね。全部手段で、逆算して、そのためにはどうしようと考えますね。
野田:ただ、多分、半ばジョークだった「ベストセラー作家になれば」というところだけ間に受けるというのは若干危険な性格ですよね。
祐川:そうですよね。「実業に飛び込め」という真っ当なアドバイスのほうは無視したわけですから。
野田:そっちかよ、と。実業に行くというのは無理だと感じたのですか?
祐川:そういう欲求がないというか、楽しそうじゃない。だから、想像もつかなかったですね。
野田:確かに、楽しそうじゃないことはやるべきじゃないですよね。
祐川:難しいことは苦手ですし、マニュアルも読みたくないほうで。コミュニケーションスキルの勉強だから続いられているだけだったので。だから実業には全然興味がありませんでした。
野田:王道だといわれても、得意でなければ、ばさっと切ることも確かに大切ですね。10代ならばやってみて間に合うかもしれないけど、30歳超えたら難しい。僕の感覚では40歳を超えたら、自分が合ってないものを勉強しても、ほとんど身につかないですね。
祐川:好きでやっている人には敵わないじゃないですか。
野田:そうなんです。どうせ勝てないことはしないほうがいいですね。
祐川:かえってゴールが遠くなっちゃうなというふうに思いました。