とても寒い。
私はコートのポケットに両手をつっこんで歩く。
あの公園の芝生の上で、ほんの1分くらい立ち止まって、空をみあげる。
空は曇っていて、星はよくみえない。
やっぱり、あのときとは違うのだ。
私は今、ピンチだろうか?
――なかなか難しい命題だな。
と私は思う。
悲しいは悲しいし、苦しいは苦しい。
でも、ほっとした、という風な思いもある。
――昨日、センセイが完全に消えて、プレゼントが生まれた。
物語に関わるすべての人たちが納得する結末?
確かそんな効果だったように思う。
そのプレゼントはおそらく昨夜使われたのだけど、効果はなかなか複雑そうだ。
少なくとも。
――そのプレゼントが使われた直後、おそらく、私は久瀬くんの魔法を忘れた。
あのキーホルダーにこもった、ひとつの約束。
私には絶対に悲しいことが起こらない、という、スペシャルな魔法。
その魔法が消えてしまうことが、きっとハッピーエンドへの道筋だったのだろう、と予想できる。
幸福になるのがすべての人であれば、もちろん久瀬くんも含まれるから。
とりあえずあの魔法自体がなかったことにならなければ、いろいろと面倒だったのだろう。
すべてを忘れて、久瀬くんは平穏な生活を取り戻したはずだった。
彼が平穏なら、とりあえず私も平穏だということは簡単だ。
――なのに。
今日のお昼に、私はあのキーホルダーのことを思い出してしまった。
どうして?
私自身に理由がないとすれば、おそらく。
キーホルダーの魔法が消えてしまった結末が許せない人が、ぽんとこの世界に現れてしまったのだろう。
だから「物語に関わるすべての人たちが納得する結末」を作るプレゼントは、あのキーホルダーを消したままではいられなくなったのだ。
きっと。
私が悲しむたびに、私のところに駆けつけたいと思ってくれた人がいるんだ。
※
目の前にはバス停がある。
私はこれから、バスに乗る予定だけれど、このバス停は関係ない。
なんとなくちらりとベンチをみた。
――そこに。
なぜこんな場所にあるのだろう?
見知ったキーホルダーがあるのをみつけた。