週刊アスキー本誌では、角川アスキー総合研究所・遠藤諭による『神は雲の中にあられる』が好評連載中です。この連載の中で、とくに週アスPLUSの読者の皆様にご覧いただきたい記事を不定期に転載いたします。 宮澤賢治の『注文の多い料理店』では、山猫軒に入った2人が、道具を置け、体にクリームを塗れ、香水をかけろ、体に塩を揉み込めと言われたところで事情に気づくのだが……。
ネットの中は商品たちでいっぱい!
ソーシャルマンダラ ver.0.1
ソーシャルメディアとクラウドコンピューティングをとりまく事情を、直行軸と斜め軸でマッピングしてみた。図中のキーワードやサイト名は参考の範囲で、ワープが必要な無理のある部分があるが、この世界がいかに広がっているかがわかると思う。
高級ホテル・旅館予約サイト“一休”の取締役CMO汲田貴司さんに業績好調の理由を聞いていたら、サイトのデータ解析やワンツーワン的なウェブ画面もあるが、ひとつだけ、“リピーターっぽい満足を届ける工夫”というのが気になった。宿に到着すると小さなプレゼントが用意されていたりする。営業もそれができる宿を探してきて、一休限定プランとして販売する。なんと、それでリピーターが増えたのだそうな。
順序はどうでもいいわけで、このあたりがうまいのはフェイスブックだ。コメントの入力窓に自分のアイコンが出ているので、すでに自分は何かを言いかけている気分になる。
ウェブもメディアである以上、“イリュージョン”(錯覚)のビジネスなのである。映画におけるモンタージュ手法では、お店に入るカットがあって、お店からニコニコ顔で出てくるカットがあったら、そのお店で何か買ったことになる。
私が、いちばんやられたと感じたのは、「フェイスブックでは、あなたは客ではない。商品なのだ」という言葉がそれを言い当てている。私や友達がソーシャルメディア上で繋がっていて、画像でも“いいね!”でもやりとりしていること自体が、広告を売るソーシャルメディアの“在庫”なのである(ネット広告の世界ではバナーの入るような枠のことを“在庫”と呼ぶわけなんですけどね)。
米国のQ&Aサイト“Quora”と、日本の“Yahoo!知恵袋”の違いは、前者にはフォローする仕組みがあることだ。ポイントは貯まるだけだが、フォローによって回答者が商品になる。およそ、ソーシャルとかクラウドと付くものは“みんなを商品にする会社”なのかもしれない。“Quirky”ではみんなのアイデア、“Lending Club”では融資者のお金、“oDesk”や“Zaarly”では、みんなの仕事が商品になる。もちろん、このあたりのサービスではちゃんとお客でもあったりするわけなのだが。
2013年、ネットではどんなことが来ますかね? という話をされたりするけど、ネットの王道と言える“心地よくだましてくれてお互いハッピー”(だましてというのはメディア=イリュージョンのお話ですね)という基本もさることながら、そろそろ日本も“みんなが商品になる”という宮澤賢治の『注文の多い料理店』(または山猫軒型)ビジネスなのだろう。つまり、クラウドとかソーシャルとか頭に付くやつである。
【筆者近況】
遠藤諭(えんどう さとし)
角川アスキー総合研究所ゼネラルマネジャー。元『月刊アスキー』編集長。元“東京おとなクラブ”主宰。コミケから出版社取締役まで経験。現在は、1万人調査“メディア&コンテンツサーベイ”のほか、デジタルやメディアに関するトレンド解説や執筆・講演などで活動。東京カレーニュース主宰。TOKYO MX TV 毎週月曜日18:00からのTOKYO MX NEWS内“よくわかるIT”でコメンテーターを務め、『週刊アスキー』で“神は雲の中にあられる”を巻末で連載中。
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