Plutoが2012年12月に発売した『Pluto ステーション』は、家電のリモコンと同じ赤外線信号を発するデバイス。ネット接続して室内に置いておけば、外出先でもスマホから家電の操作が可能になる。2014年5月には、家電の消費電力量を把握できる電源タップとステーションを組み合わせた『Pluto タップリンク』も発売。法人向け事業も開始したPlutoは、ホームオートメーションの未来をどう捉えているのだろうか。
週刊アスキー1/27号 No1012(1月13日発売)掲載のベンチャー、スタートアップ企業に話を聞く対談連載“インサイド・スタートアップ”、第13回は家電を遠隔操作できるシステム“Pluto”を開発する株式会社Plutoの金田賢哉代表取締役に、週刊アスキー伊藤有編集長代理が直撃。
↑スマホやタブレットから家電の操作が可能になる“Pluto ステーション2”と、ステーションの子機で動作する専用電源タップ“Plutoタップ”がセットになった『Pluto タップリンク』。直販価格は2万9800円。
■Pluto ステーションの原型になる試作品はひとり暮らしの寂しさを紛らわすためにつくった
伊藤 Pluto最初の製品である『Pluto ステーション』の発売は2012年12月ですが、そこに至るまでの経緯を教えてください。
金田 元々は、僕が大学生になったときに、Pluto ステーションの原型になるモノを試作したことなんです。
伊藤 大学の研究ですか?
金田 いえ、趣味です。きっかけはひとり暮らしの寂しさを紛らわすためでした。暗くてジメジメした部屋にひとりで帰るのは寂しいなと思って、最初の機能として、家の外からでも照明を点けられるようにしたんです。
伊藤 明かりが点いてる家に帰りたいって理由からですか。それ、いつごろの話ですか?
金田 2006~2007年ごろですね。
伊藤 じゃあ、スマホの登場前夜という時期ですね。そこから機能を増やしていった。
金田 そうですね。オーディオの電源も入れられるようにしてみよう、その次はテレビも、じゃあ洗濯機も動くかも、炊飯器だって操作できるだろう……というふうに、いろんな電化製品を動かせるようにしていったんです。当時は有線でやっていたので、部屋中にケーブルを張り巡らしていました。
伊藤 洗濯機を動かすのはどうやったんですか?
金田 分解して調べたんです。チップの入力と出力のシリアル通信をキャプチャーしたら、どうやって洗濯機を制御しているのかがわかりました。その情報を利用して、洗剤の量も指定できるようにしたりとか。
伊藤 洗濯機を分解して外部制御する大学生。マッドだ(笑)。
金田 某社の洗濯機にJavaのチップが載っていたときはテンションが上がりました( 笑)。
伊藤 外出先からはどうやって操作していたんですか?
金田 まだスマホが登場していないので、iモードで接続するサイトをつくり、そこから動かせるようにしていました。それで、サイトのURLを友達にも教えていたら、だんだん僕の部屋のあれこれを勝手に操作できる人が増えちゃって……。
伊藤 奇妙な状況ですね(笑)。周りの友達はどういう反応だったんですか?
金田 ウケはよかったですね。僕が翌朝早くに起きないといけないときに、徹夜していた友達が照明を点けて起こしてくれたこともありました。
伊藤 おお、便利。そんな感じで、すでに製品としての手応えは感じていたわけですね。
金田 そうですね。そのあとスマホが登場して、3GやLTEの通信環境が見えてきて、自宅のネット接続環境も光ファイバーが普及してきたので、「ああ、これはいけるかも」と。そこで、Plutoをスタートさせた最初の3人が集まったんです。
伊藤 その3人は研究室の仲間なんですか?
金田 いえ、大学の先生が「ほかにも同じことをしている人がいるよ」と言って、紹介してくれたんです。
伊藤 Pluto ステーションの最初の売り方としては、“リモコンの代替え”だったんですよね。
金田 そうですね。ただ、個人的な思いとしては、“機械と自分の距離が縮まる”というイメージが大切だと感じていました。たとえば、ゲーム機の電源を入れるのと連動してテレビの電源もオンになったら、誰かに頼んだのと同じような感じで、距離が近くなったような感覚が生まれるじゃないですか。
伊藤 機械が気を利かせてくれるようなイメージですね。人間と機械とのあいだでコミュニケーションが成立するような。
金田 そうです。そうやって、個人の生活習慣に家電がちょっとずつフィットしていって、人間の意図を汲んでくれるような世界が実現できたらおもしろいなと思っていたんですね。そう考えると、人間がリモコンを探さないといけない状態はバカバカしいし、いつも手元にあるスマホから一括操作できるのが進化なんだろうなと。
■ユーザーの要望に応じて対応家電を増やすためPluto ステーションの中身をアップデート
伊藤 確かに。いろんな家電を統合制御できれば、連動させるのも可能になりますからね。発売後の反応はどうでしたか?
金田 すぐに売れて、品切れになってしまいました。最初に買ってくれたユーザーさんは、今でもガッツリ使ってくれていて、ちゃんと生活に溶け込んでいるという感触があります。
↑スマホから家電の操作が可能になる『Pluto ステーション』。赤外線リモコンを使用する家電に対応。外出先からは専用アプリではなくブラウザーで操作する。直販価格は1万3800円。
伊藤 Pluto ステーションには、どういう需要が多いんでしょうか。僕の印象だと、AV機器マニアの人たちがたくさんある機器をまとめて操作したいというような、学習リモコンとしてのニーズが多いのかなと。
金田 それもありますし、帰宅前にエアコンの電源を入れたいという需要が目立ちます。
伊藤 ああ、なるほど。製品の改良はどんなふうに?
金田 これまで見た目はまったく変わっていませんが、中身は5回ほどアップデートしています。基本的には、対応する家電を増やすためのものですね。ユーザーの要望に応じて、随時、対応機器は増やしています。
伊藤 新しい家電もどんどん増えていますからね。それで、次の製品が家電の消費電力量を把握できる『Pluto タップリンク』ですね。発売は2014年5月ですが、これはどんな背景で開発が始まったんですか?
金田 以前から、消費電力量がわかる電源タップをつくりたいという気持ちはあったんです。というのは、スマートハウスのシステムみたいに壁に埋め込むタイプのものは、導入費用が高額なんですよね。ちょっとハードルが高い。
伊藤 たしかに。電源タップひとつで実現するのは手軽で魅力的ですよね。
金田 そもそもやりたかったことは“見守り”なんです。僕のおばあちゃんはひとりで暮らしているんですが、朝起きたらかならずテレビをつけるんですね。その動きを僕が遠方からでも把握できたら、「ああ、元気で暮らしてるんだな」と安心できます。逆に「あれ、今日はテレビをつけてないな」となったら、そこで電話することもできますよね。そうすると、「あら、なんでわかったの? 体調が悪いのよ」となって、 とても気の利く孫になれます(笑)。
伊藤 評価アップですね(笑)。お話を聞いていると、見守りとはいってもカメラで見るわけではないですよね。センサーからの情報を元に“想像”している。先日、この連載で取材したユカイ工学の青木俊介さんも、近いアイデアをお持ちでした。自宅にウェブカメラを設置すればすべて見られるんだけど、それだと“監視”になってしまう。センサーで曖昧に感じるほうが、心の距離は近づくんでしょうね。
金田 そうだと思います。
↑『Pluto タップリンク』に付属する専用電源タップ。ステーションの子機として動作するため、セット販売のみ。タップに接続された家電の消費電力を外出先のスマホなどから把握。遠方に住む家族の見守りにも利用可能。
伊藤 今後、家庭内のセンサーが増えれば、わかることも多くなりますからね。その世界観は説得力があります。
金田 それと、僕らが大事にしたいと思っているのは、高齢者のようにITになじみが少ない人たちにとって、生活のなかでITが身近になるきっかけとなる製品をつくることなんです。これはPlutoの大切な柱のひとつですね。
伊藤 ああ、すばらしいですね。Pluto タップリンクは、ステーションとタップのセットでの販売なんですよね。Pluto ステーションのユーザーが、タップを周辺機器として追加するために、単体で買うことは?
金田 現状ではできないです。僕らとしては、すでにPlutoステーションをもっているユーザーさんには、Pluto タップリンクを購入してもらって、別の部屋でも利用してほしいという気持ちですね。
■Pluto製品の普及がそれなりの規模になって大手企業とも対等に話をできるようになってきた
伊藤 なるほど。ところで、グーグルが買収したNestという米国企業があって、家屋全体の温度調整を行なうサーモスタットをスマートデバイスに置き換えました。しかも、彼らはそれを家庭内にある家電のハブにしようとしている。日本だと、そういうことは可能なんでしょうか。いろんなメーカーがそれぞれの意図で、別々の規格でやろうとしている現状があるわけじゃないですか。
金田 僕の考えでは、規格を標準化する必要はないのかなと。なんとなく、日本人はそういうゴチャゴチャ感も好きなのかなと感じるんですよ。実際、規格が統一されていないと不便な部分があるけど、それはおもしろさも生んでいる。だから、米国と同じ方向を目指す必要はないのかなと思いますね。
伊藤 たしかに。各メーカーが独自機能で競い合う状況も、それはそれでありですよね。でも、Plutoがハブになろうという気持ちはないんですか?
金田 ないわけではないです。ただ、日本のホームオートメーション業界はまだ規模が小さいんです。「10年後には何兆円の市場だ」というようなことを言う人もいますが、先行きはまだわからないですよね。だから、今はバラエティーを確保して、「Plutoがコケたからこの業界は終わり」なんていう状況を避けるほうがいいと思います。
伊藤 冷静なビジョンですね。では最後に、Plutoの今後の展開についてお聞きします。2014年11月に法人向け事業として、住宅メーカーなど向けの『Pluto ホームオートメーション』を提供開始しましたが、これはどういうものですか?
金田 すでに実績があって、規模の大きなプロジェクトとしては、マンション1棟まるごとPluto導入済みというものがありますね。OEMで提供することもあるので、Plutoの名前が出ないこともあります。
伊藤 新製品の発売予定は?
金田 まだちょっと詳細は明かせないんですが、家全体をコントロールするような方向に行きたいと思っていて、そのためのデバイスを出すつもりです。ひとつはPluto ホームオートメーションの第1弾機能として発表済みで、スマホから遠隔操作や施錠確認ができる鍵です。現状では、貸しオフィスでの利用シーンが想定しやすいので、話が進んでいますね。
伊藤 ああ、なるほど。たとえば、ネットで申し込みや決済をすれば、リモートで借りた部屋の鍵を開けられるといったシーンが浮かびますね。そうすると、Pluto製品の普及が一気に進む可能性が出てきましたね。
金田 そうですね。現時点でも、僕らの製品の普及具合がそれなりの規模になったことで、大手企業とも対等に話をできるようになってきたんです。鍵をつくれるというのも、僕らのシステムの堅牢性などが評価された証かなと思います。
株式会社Pluto 代表取締役
金田賢哉
1987年生まれ。東京大学大学院工学系研究科航空宇宙学専攻修士課程修了。2010年8月から『Pluto ステーション』の開発に着手し、2011年12月にPlutoを設立。
■関連サイト
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