airCloset(エアークローゼット)は、スタイリストの選んだ洋服が届く、月額制の女性向けレンタルサービスだ。2月3日のサービス開始時はアクセスが集中し、いったんサービスを停止するほど。2月14日の再稼働後も入会希望者は増え続けているという。月額の洋服レンタルという日本にはまだない新しいビジネスに対して、女性たちはなぜ殺到したのか。ノイエジークの天沼聰代表取締役が描く新しいファッションビジネスを訊いた。
週刊アスキー5/5号 No1026(4月21日発売)掲載のベンチャー、スタートアップ企業に話を聞く対談連載“インサイド・スタートアップ”、第24回は女性向けファッションレンタルサービス“airCloset(エアークローゼット)”を運営するノイエジークの天沼聰代表取締役/CEOに、週刊アスキー伊藤有編集長代理が直撃。
↑コーディネートされた洋服が3着ずつ専用ボックスで届く。月額7344円には送料とクリーニング料込み。
■多忙な働く女性と若いママをターゲット、ブランド服が自宅に届く!
伊藤:洋服のレンタルサービスっておもしろい発想ですよね。
天沼:DVDレンタルが成功していますから、ファッションも値段を上げれば成り立つのではないかと考えたんです。事前にビジネスとして採算が合うかどうかを試算し、お客様のニーズを調査するため、200名以上の女性にヒアリングしました。
伊藤:女性からはどのようなニーズが聞けたのでしょうか。
天沼:どのくらいの価格帯なら楽しめるかを訊き、先に試算した金額とマッチした結果で、ビジネスになると踏み切りました。
伊藤:利用側のコスパとしては、月に何回届くのかが気になります。返品から次の発送までのスパンはどのくらいでしょう?
天沼:配送が各1日、検品が1日かかるので、通常は中3日、地域によっては5日です。
伊藤:最短で週に1セットほど。
天沼:そうですね。返送のタイミングは、ご自分でペースを調整していただけます。
伊藤:単に洋服のレンタル事業として成り立たせるのか、それとも、いずれ商品を購入してくれることを期待しているのかによって、ビジネスの方向性はずいぶん変わってきますよね。
天沼:我々の考えているのは後者です。これまでにない洋服との出会い。その手段として、レンタルサービスが一番フィットするのでは、と考えました。
伊藤:自分が着たことがない傾向の洋服だけど実は似合うっていうのが見つかると。
天沼:似たような洋服ばかりを選んでしまう人や、忙しくて街へ出かけられない人でも新しい出会いにワクワクできる。そして、すごく気に入った洋服に巡り合えたら、自分のクローゼットに置きたくなるのではないでしょうか。
伊藤:逆に言うと、欲しくなるようなブランドの服が届く、と。
天沼:実は着想の段階では、最終的にはクローゼットはすべてクラウドで手元に洋服を置かなくてもいい、とも考えました。でも、多くの女性はクローゼットを開いたときに、自分の大切な服で埋め尽くされているとハッピーになるというんですね。
伊藤:でも、全部が全部こだわった服の人って少ないのではないですか。
天沼:クローゼット中の8割が、普段はなかなか出番のない服だとすると、よくよく聞けば今までは残りの2割を見てハッピーになっていた。エアークローゼットを利用することで、全部を見てハッピーになってもらいたいんです。「欲しい」と思っていただきたいので、ややお高めの、数千円~3万円までの価格帯の洋服を選んでいます。
伊藤:上下のコーディネートがワンセットで届くんですか?
天沼:パターンとしては、トップスとスカート、ワンピースの場合もあれば、トップス2枚とパンツの組み合わせもあります。
伊藤:必ず上下の形がつくれる3点なのですね。
↑ユーザーの好みに合わせて、スタイリストがセレクト。毎回、トップス2点とボトムまたはワンピースの計3点が届く。箱には返送用の着払い伝票が付いており、そのまま返送できる。
天沼:そうです。1点1点に対して、スタイリストからコーディネートのアドバイスが付きます。テストユーザーさんから「たまに、どう着ていいのかわからない服がある」との意見があり、着こなしのアドバイスを取り入れました。とても好評ですよ。
伊藤:確かに。いつもより短めのスカートや着慣れない色あいだと、合わせる靴や服がわからない、みたいな話ってありそうですね。
天沼:新しいスタイリングとの出会いもあるわけです。もちろん、「丈の短いスカートは苦手」とコメント欄に書いていただければ、次回からは丈が少し長めのスカートをコーディネートしてお送りしますよ。
■オペレーションを担う寺田倉庫と資本提携で連携を強化
伊藤:寺田倉庫さんのminikuraサービスを利用されてるとか。どういう取り組みですか?
天沼:minikuraは、段ボール箱が自宅に届き、荷物を詰めて送り返すと、中身を写真撮影して、個品名とともにウェブにアップしてくれるサービスです。これをベースに個品管理とクリーニングをお願いしています。
↑返却期限はなく、ライフスタイルに合わせたペースで楽しめる。洋服の感想をスタイリストにフィードバックすれば、次回からは、より自分好みの服が届く。
伊藤:オペレーションのほとんどを寺田倉庫さんが担当してるということですか。なるほど。
天沼:お客様へお送りする商品を寺田倉庫さんに伝えると、商品がエアークローゼット専用の箱に詰められて発送されます。お客様から寺田倉庫へ箱が返送されると、クリーニングして、再び個品管理されます。従来の業務提携だけではなく、先日、資本提携も発表させていただきました。弊社サービスの価値は、オペレーションの占める部分が大きい。この資本提携がプラスになると考えています。
伊藤:なるほど。服に話を戻しますが、どういうブランドが届くのでしょう。あえて非公表?
天沼:ブランド名や件数は公表していませんが、百貨店やファッションビルなどに入っている有名なブランドを中心に提携させていただいております。
伊藤:既存にないビジネスなので公表は慎重にということですね。交渉は難しいですか?
天沼:最初はみなさん心配されます。しかし、シェアリングエコノミーの理想形とは、モノがシェアされることで、いいモノとの出会いが生まれ、つくり手へ経済的に貢献されること。そして、新たないいモノが生まれる。このサイクルが回らなければ、シェアリングエコノミーの価値は下がってしまう。
伊藤:サイクルというのは、ほかのモノづくりをされている方とお話させていただいていても本当に大事と実感します。
天沼:我々が実現したい世界をご説明すると、ブランドの方も共感してくださいます。エアークローゼットがファッションブランドとお客様との新しい出会いの場になるとうれしいです。
伊藤:しかし、ブランド名を公表できないのは、事業者側としては、痛しかゆしですね(笑)。ユーザーとしても、利用してみないと、どんなブランドが入っているかわからない。
天沼:箱を開けたときに「こんなブランドも入っているんだ!」というサプライズになると、とられていただければ。
伊藤:ユーザーの好みなどのパーソナライズは、システムをつくられているんでしょうか?
天沼:いずれシステム化する予定ですが、現状はスタイリストが属人的にやっています。社内に加え、プロとして活躍されている外部のスタイリストさんにもサポートしてもらっています。
伊藤:その役割分担は?
天沼:内部のメンバーがスタイリングのコンセプトを社外のスタイリストへお伝えすると、オンライン上でスタイリングできるようになっています。
↑スタイリストからコーディネートのポイントや着回しのアドバイスが付く。気に入った服は購入可能。
伊藤:外部のスタイリストは、クラウドソーシングなどで集めているんでしょうか?
天沼:今は友人からの紹介です。スタイリストにとっては、多くの方をスタイリングする経験ができますし、一般のお客様の声を聴きたいというニーズがあるので、広げていきたいですね。
伊藤:スタイリストの仕事をされている方に限らず、洋服が好きで、センスのいいお洒落さんってたくさんいます。オンラインのコーディネートなら、地方に住んでいても仕事ができる。
天沼:無名のスタイリストには、経験を積み、知名度を上げる場として使ってほしいです。スタイリスト、ファッションブランド、我々事業者、お客様の四者がうまく連携して、いいサイクルが生まれるとうれしい。
伊藤:有料会員ってどんな属性の方なんでしょう? ターゲットとして、年収や職業の有無など分類されていますか。
天沼:収入や職業よりも、ファッション感度に注目しています。5段階でいうと3~4レベル。オシャレは楽しみたいけど、仕事や子育てで忙しく、ファッションの優先順位を下げざるを得ない。そんな中で、新しいお洋服との出会いも求めている。その方たちにフィットするようなサービスを目指して、ペルソナをつくっています。あとは都会へ買い物に行けないという地方のニーズも。
伊藤:知人の広報の女性で登録してるという人がいます。年齢的には30代前半で、経済的にも比較的余裕がある世代でした。
天沼:広報のように、人と会う機会の多いお仕事の方は、同じ洋服を着づらかったりしますよね。着回しとして、手持ちの服と組み合わせてうまく利用していらっしゃるようです。
伊藤:キャリアの女性は忙しいから、クリーニングがいらないのもいいんでしょうね。
天沼:実は最初にヒアリングした女性たちの意見からクリーニングサービスを取り入れました。
伊藤:現在の登録ユーザー数は何人くらいですか。
天沼:無料会員が4万5000人強いらっしゃいます。そのうち数千人の方は、月額会員への登録をお待ちいただいています。
伊藤:行列に並ぶ感じですね。
天沼:ありがたいことに、登録を希望される方がどんどん増えている状況なのです。
伊藤:ボトルネックになっているのは、物量? それともスタイリストの人数ですか?
天沼:物量はカバーできるようになってきましたが、今はオペレーションを強化しています。物量、オペレーション、スタイリストがどれも過不足ないように、バランスよく回していかなくてはなりません。
伊藤:洋服は、提携先のブランドも増やしているんですか。
天沼:そうですね。とはいっても、まだまだ募集中です。1日も早く解消し、夏~秋口には、お待ちいただいているすべての方にサービスを楽しんでいただけるよう、注力していきます。
■アクセサリーなどの周辺アイテム、メンズ、シニア、キッズ向けへと拡大したい
伊藤:今後の事業展開は?
天沼:冬以降、スマホアプリの開発のほか3つ考えています。ひとつは、アクセサリーなど周辺アイテムの拡大。2つ目は、メンズ、シニア、キッズ、マタニティーへのラインの拡大。3つ目は、海外展開も視野に入れています。
伊藤:男性版サービスができたら、ぜひ使ってみたいです。
天沼:男性向けは、サイズ感が難しいところですね。シャツひとつとっても、首回りなどの採寸が必要になる。始めるとすれば、カジュアル路線でしょうか。
伊藤:靴はどうでしょう。
天沼:靴こそサイズが合わないと難しい。3Dサイジングの技術と連携できれば、おもしろいビジネスになりそうですね。
伊藤:いろいろなニーズはあるけれど、マーケットとしては、女性が大きいでしょうね。
天沼:まず女性をターゲットに、これまでとは違う洋服との出会いで革命を起こしたい。ユーザーのライフスタイルがどう変わるのかを見ていきたいです。
株式会社ノイエジーク
代表取締役/CEO
天沼 聰
英国の大学で経営情報を学ぶ。コンサルティング企業を経て、2011年楽天に入社。グローバルマネージャーとして、海外拠点のUI/UX強化事業を手がける。2014年7月15日、ノイエジークを設立。
■関連サイト
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