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MIAUメールマガジン
「ネットの羅針盤」
2015.7.24(Vol.41)
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■MIAU's Opinion
ニュースの中からMIAUのメンバーが注目するものを選び出し、そのニュースの背景などを独自の視点から解説します。
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◆ロボット革命の中のドローン(小寺信良 / MIAU代表理事)
初出:小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」 Vol.044 <次世代の姿を考える号>(2015年7月24日)
http://yakan-hiko.com/kode-nishi.html
先週の土曜日、武蔵大学江古田キャンパスにて行なわれたICPC(情報通信政策研究会議)にて、「業法規制と製造物責任法からドローン、ITSを考える:日本のとるべき政策は何か」というパネルディスカッションに登壇してきた。
司会およびコメンテーターは、「ロボット法学会」を立ち上げている慶応大大学院博士課程の赤坂亮太氏、SFC研究所上席研究員の工藤郁子氏の両名が務め、経産省産業機械課長の佐脇紀代志氏、弁護士の小林正啓氏、コデラの3名がパネリストであった。
佐脇氏は今回のドローンの法規制をはじめ、ロボットに関連する法的整備の最前線にいらっしゃるということで、国がどういう方向で法をまとめようとしているのかがよくわかった。今回はここでの議論を踏まえ、ドローンを射程に含めながら、日本のロボット戦略とはどういうものかをご紹介したい。
2014年夏、安倍総理のイニシアチブにより、「ロボット革命実現会議」が設置された。第1回の9月11日には、安倍総理の前でドローンの実演も行なわれたほか、サービス分野、インフラ・災害対策分野、モノづくり、環境整備(法制度)などの議論を経て、今年1月23日に取りまとめが行なわれている。
この取りまとめの中で、「ロボット新戦略」が決定し、日本再興戦略2015の中に盛り込まれた。
・ロボット新戦略
http://www.meti.go.jp/press/2014/01/20150123004/20150123004b.pdf
・日本再興戦略2015
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/skkkaigi/dai22/siryou1-1.pdf
日本再興戦略2015には大したことは書いてないが、「ロボット新戦略」のほうは、技術者にとっては必読であろう。ここで上げるロボットの定義は、これまでのイメージよりもやや広く取られている。
これまでロボットとは、センサー、知能・制御系、駆動系の3要素備えた機械と捉えてきた。ドローンもすでにこの中に入っている。だが固有の駆動系を持たなくても、モノや人にアクセスして駆動させるタイプも生まれてきている。たとえば自動ブレーキアシストや、車線をはみ出すと警告を鳴らしてドライバーに知らせるような装置も、ロボットという射程に入ってくる。
またIoTの進化により、ウエアラブルなデバイスが人をアシストするようなこと、例えば足腰に装着して重いものを持ち上げるときにサポートしてくれる人工筋肉的な機器といったものも、広義にはロボットと言える。操縦桿のないロボット、古くは勇者ライディーンに始まるこの系列は、今の視点で見ればウエアラブルロボットである。
実はロボット産業は、日本が世界最先端を走っているという。私たちには全然そんな気はしないが、産業用ロボットの年間出荷額および国内稼働台数では、共に世界一だそうである。その一方、社会的には少子高齢化問題を抱え、さらには交通や通信、電力といったインフラの老朽化が問題となっており、ロボットによる解決が期待される課題先進国でもある。
この点、米国はすでにデジタル化・ネットワーク化による新たな産業を成長の鍵として発展を続けているが、日本は技術を持ちながらそこには乗り遅れた。これからはロボット技術をキーに、産業だけでなく、日常生活に至るまで、様々な場面でロボットを活用していく社会を実現していくというのが、日本のロボット新戦略の骨子である。
そのために、今後5年間を「ロボット革命集中実行期間」と位置づけ、官民で総額1000億円をロボット関連プロジェクトへ投資、市場規模を年間2.4兆円に拡大することを狙っている。ちなみに現状の市場規模は6000億円。市場規模を4倍に拡大すると狙う割には、投資金額が少なすぎだろうとは思う。
一方ドローンの出番としては、福島に新たなロボット実証フィールドを設置するという案も出ている。空中監視や物流、災害ロボット等の実証区域を創設するという。福島復興も抱き合わせるということなのだろうが、ドローンの研究者は今後、福島に集結することになるかもしれない。
■ロボットに関連する法整備
ロボットを一般社会に取り入れるとなると、実に多くの法律が絡んでくる。論点はいったん置いておいて、関連法だけ列挙すると、以下のようになる。
・電波法
・医薬品医療機器等法
・労働安全衛生法
・道路交通法/道路運送車両法
・航空法
・不正アクセス禁止法
・維持・保守関係法令(インフラ点検等)
・生活支援ロボットの国際安全規格ISO13482/工業標準化法(JIS)
一方消費者保護の観点から必要となる法律は、以下のようになる。
・電気用品安全法
・家庭用品品質表示法
・消費者安全法/消費生活用製品安全法
実に膨大な量の法改正が必要になる。またドローンが空中を飛行する際に、他人の敷地の上空を飛行することになれば、民法の規定にも手を入れなければならない。民法の概念的には、所有者は所有する土地の地下から上空に至るまで所有権を持っているからである。
その一方で、これまで伝書鳩が他人の家の敷地を飛んだとしても問題になることはなかった。伝書鳩とドローンは民法の解釈上何が違うのか、という小林弁護士の指摘は、興味深い。
また小林氏は、川の上を飛ぶなら河川法の改正が、その過程で橋の上を横切るのであれば警視庁の許可が必要になると示唆した。
まだまだある。ロボットやドローンが自動的に収集したデータを保持する場合、現状では個人情報保護法に照らし合わせて、保護法対象者に同意を得る必要がある。ロボットを捕捉してデータを搾取するようなケースにどう対応するかという論点もある。
家庭向け調理ロボットの登場も期待されるところだが、仮に食中毒を起こした場合に責任の所在はどこにあるのか。そうなるとロボットを調理師法に基づいて調理師免許を取らせるのかといった、一見バカバカしい論点も存在する。もちろん、食品衛生法に基づいて、ロボットの材質や設計なども問題になるだろう。
さらに自律型ロボットの設計・製造上の不備により、事故を起こす、人に怪我をさせるといったことが起こった場合は、製造物責任法の適用が必要になる。元々すべての工業製品には適用される法律ではあるのだが、あまりにもこの法のカバー範囲が広いため、ロボットの普及を阻害する可能性が示唆されている。PL法上の免責事項に一文を加えるなどするしかないだろう。
■ドローンを巡る議論
7月8日、ドローンの飛行禁止区域に関する法律案が衆議院本会議を通過した。正式な名称は、「国会議事堂、内閣総理大臣官邸その他の国の重要な施設等及び外国公館等の周辺地域の上空における小型無人機の飛行の禁止に関する法律案」という。
・国会議事堂、内閣総理大臣官邸その他の国の重要な施設等及び外国公館等の周辺地域の上空における小型無人機の飛行の禁止に関する法律案
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g18901024.htm
法案によれば、飛行禁止の対象施設は、
・国会議事堂および議員会館、衆議院議長、参議院議長の公邸、その他国会に置かれる機関
・内閣総理大臣官邸並びに内閣総理大臣及び内閣官房長官の公邸
・最高裁判所の庁舎
・皇居及び赤坂御所
・政党事務所として指定された施設
・外国公館等として指定された施設
となっていたが、その後修正案にて、原子力事業所が追加されている。
・国会議事堂、内閣総理大臣官邸その他の国の重要な施設等及び外国公館等の周辺地域の上空における小型無人機の飛行の禁止に関する法律案に対する修正案
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/syuuseian/11_56AA.htm
飛行禁止区域は、対象施設の建屋そのものではなく、その敷地から300m以内。ただ実質的には、禁止区域を番地で指定することになるため、厳密に300mになるわけではない。一部は300mよりも外側になってしまうし、逆に内側になってしまうこともあるだろう。
処罰については、禁止区域内と対象施設敷地内との2段階になっている。禁止区域で飛行した場合、警察官等の排除命令・排除措置の対象となる。この命令に違反した場合は、1年以下の懲役または50万円以下の罰金。一方対象施設敷地内で飛行した場合は、排除命令・排除措置の対象になるほか、命令違反の有無に関わらず1年以下の懲役または50万円以下の罰金となる。
また7月14日には、航空法の改正案についても閣議決定が出されていた。この後国会に法案提出となる。法文としては要綱を見るのが一番正しいが、図案化された資料の方がわかりやすいだろう。
・航空法の一部を改正する法律案について(要綱)
http://www.mlit.go.jp/common/001096659.pdf
・航空法改正の概要
これによれば、
(A)一定高度以上の空域
(B)空港周辺の空域
(C)人または家屋の密集している地域の上空
を飛行する場合は、国土交通大臣の許可が必要となっている。(A)と(B)はこれまでも飛行禁止だったのだが、新たに(C)が追加されたことになる。概要にはないが、法案には祭礼、縁日、展示会などが具体的に追加されている。また爆発性のあるもの、易燃性を有する物を輸送しない、物を投下しないといった条件が盛り込まれている。
それ以外の領域は飛行可能としているが、公園や河川敷を地方自治体が飛行禁止にしてしまっているため、実質的に飛ばせる場所は、所有者が誰かもわからないような山林や、広大な敷地の所有者や管理者が飛行を許可する場合などに限られるのではないか。
また許可の条件としては、安全確保の体制を取った事業者等となっている。安全確保体制をどう確認するかという点については、やはり免許制度の導入は避けられないだろう。そうなると免許資格の問題も出てくるため、一般人が許可をもらうのは難しいと思われる。
飛行方法については、日中において飛行となっているので、夜間飛行は禁止されることになる。そのほか、周囲の状況を目視により常時監視することとなっていることから、目視範囲内での飛行に限定されることになる。いわゆるカメラ映像を見ながら飛ばすには、いちいち国土交通大臣の承認が必要になる。
ただし事故や災害時の公共機関等による捜索・救助等の場合は、適用除外された。公共機関からの依頼により民間事業者や民間人の協力が可能になるよう、柔軟な運用が望まれる。なにせ防衛省職員が敷地内で飛ばしてドローンを無くしちゃうような状況では、操縦技術では慣れたアマチュアパイロットに敵わない可能性のほうが大きい。
・行方不明のドローン発見、防衛省が敷地内でテスト飛行
http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye2546198.html
実際にどのクラスのドローンがこの規定の中に組み込まれるのか。この法に関係ないクラスのものは、重量などを勘案して国土交通省が省令で定めるというが、実際に有象無象出てくるオモチャドローン全てに対応できるとは思えない。また省令で定めたとしても、一般人はいちいちそんなもの把握していないわけだから、小型機を飛ばしていていちいち通報されたら敵わない。
法律の射程については、民間人の楽しみを奪う格好にならないよう、運用上の弾力性が必要だ。過去のデジタルイノベーションをよく観察すればわかることだが、事業者だけでは革命は起こせない。民間人、特に個人の自由な発想と創造力を取り入れなければ、イノベーションは起こせないだろう。
事業者と一般利用者とのバランスに対して、誰がモノを言っていくのか。いわゆる業界団体はいくつかあるのだが、一般利用者の利害を代表する、ドローン業界におけるMIAUのような団体は存在しないし、MIAUが手がけるにはあまりにも幅が広すぎるのが、今一番頭の痛い問題である。
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□ 発行元:一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU)
〒166-0003
東京都杉並区高円寺南四丁目8番7号
ルミエールマンション701号(有限会社ネオローグ内)
TEL:03-3313-5955(有限会社ネオローグ内)
FAX:03-3313-5965
website:http://miau.jp/
e-mail:info@miau.jp
□ 編集:香月啓佑(MIAU事務局長)、作田知樹(MIAU事務局)
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※このメールマガジンのコンテンツはクリエイティブ・コモンズ・ライセンス 表示 2.1 日本(http://creativecommons.org/licenses/by/2.1/jp/)の下に提供されています。クレジットを表示する限り、このメールマガジンの内容を自由に複製・複写などを行うことができます。ただしこのライセンスは本文中で紹介したURLの内容や引用部分など、MIAUが著作権をもっていないものには適用されません。その部分を利用される場合は引用元の原著作者のポリシーに従ってください。
※このメルマガの発行日は第2、第4木曜日です。ただし年末年始やお盆は休刊します。なお、取材や議会動向の関係などで不定期に合併号とすることがあります。あらかじめご了承ください。
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◆ロボット革命の中のドローン(小寺信良 / MIAU代表理事)
初出:小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」 Vol.044 <次世代の姿を考える号>(2015年7月24日)
http://yakan-hiko.com/kode-nishi.html
先週の土曜日、武蔵大学江古田キャンパスにて行なわれたICPC(情報通信政策研究会議)にて、「業法規制と製造物責任法からドローン、ITSを考える:日本のとるべき政策は何か」というパネルディスカッションに登壇してきた。
司会およびコメンテーターは、「ロボット法学会」を立ち上げている慶応大大学院博士課程の赤坂亮太氏、SFC研究所上席研究員の工藤郁子氏の両名が務め、経産省産業機械課長の佐脇紀代志氏、弁護士の小林正啓氏、コデラの3名がパネリストであった。
佐脇氏は今回のドローンの法規制をはじめ、ロボットに関連する法的整備の最前線にいらっしゃるということで、国がどういう方向で法をまとめようとしているのかがよくわかった。今回はここでの議論を踏まえ、ドローンを射程に含めながら、日本のロボット戦略とはどういうものかをご紹介したい。
2014年夏、安倍総理のイニシアチブにより、「ロボット革命実現会議」が設置された。第1回の9月11日には、安倍総理の前でドローンの実演も行なわれたほか、サービス分野、インフラ・災害対策分野、モノづくり、環境整備(法制度)などの議論を経て、今年1月23日に取りまとめが行なわれている。
この取りまとめの中で、「ロボット新戦略」が決定し、日本再興戦略2015の中に盛り込まれた。
・ロボット新戦略
http://www.meti.go.jp/press/2014/01/20150123004/20150123004b.pdf
・日本再興戦略2015
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/skkkaigi/dai22/siryou1-1.pdf
日本再興戦略2015には大したことは書いてないが、「ロボット新戦略」のほうは、技術者にとっては必読であろう。ここで上げるロボットの定義は、これまでのイメージよりもやや広く取られている。
これまでロボットとは、センサー、知能・制御系、駆動系の3要素備えた機械と捉えてきた。ドローンもすでにこの中に入っている。だが固有の駆動系を持たなくても、モノや人にアクセスして駆動させるタイプも生まれてきている。たとえば自動ブレーキアシストや、車線をはみ出すと警告を鳴らしてドライバーに知らせるような装置も、ロボットという射程に入ってくる。
またIoTの進化により、ウエアラブルなデバイスが人をアシストするようなこと、例えば足腰に装着して重いものを持ち上げるときにサポートしてくれる人工筋肉的な機器といったものも、広義にはロボットと言える。操縦桿のないロボット、古くは勇者ライディーンに始まるこの系列は、今の視点で見ればウエアラブルロボットである。
実はロボット産業は、日本が世界最先端を走っているという。私たちには全然そんな気はしないが、産業用ロボットの年間出荷額および国内稼働台数では、共に世界一だそうである。その一方、社会的には少子高齢化問題を抱え、さらには交通や通信、電力といったインフラの老朽化が問題となっており、ロボットによる解決が期待される課題先進国でもある。
この点、米国はすでにデジタル化・ネットワーク化による新たな産業を成長の鍵として発展を続けているが、日本は技術を持ちながらそこには乗り遅れた。これからはロボット技術をキーに、産業だけでなく、日常生活に至るまで、様々な場面でロボットを活用していく社会を実現していくというのが、日本のロボット新戦略の骨子である。
そのために、今後5年間を「ロボット革命集中実行期間」と位置づけ、官民で総額1000億円をロボット関連プロジェクトへ投資、市場規模を年間2.4兆円に拡大することを狙っている。ちなみに現状の市場規模は6000億円。市場規模を4倍に拡大すると狙う割には、投資金額が少なすぎだろうとは思う。
一方ドローンの出番としては、福島に新たなロボット実証フィールドを設置するという案も出ている。空中監視や物流、災害ロボット等の実証区域を創設するという。福島復興も抱き合わせるということなのだろうが、ドローンの研究者は今後、福島に集結することになるかもしれない。
■ロボットに関連する法整備
ロボットを一般社会に取り入れるとなると、実に多くの法律が絡んでくる。論点はいったん置いておいて、関連法だけ列挙すると、以下のようになる。
・電波法
・医薬品医療機器等法
・労働安全衛生法
・道路交通法/道路運送車両法
・航空法
・不正アクセス禁止法
・維持・保守関係法令(インフラ点検等)
・生活支援ロボットの国際安全規格ISO13482/工業標準化法(JIS)
一方消費者保護の観点から必要となる法律は、以下のようになる。
・電気用品安全法
・家庭用品品質表示法
・消費者安全法/消費生活用製品安全法
実に膨大な量の法改正が必要になる。またドローンが空中を飛行する際に、他人の敷地の上空を飛行することになれば、民法の規定にも手を入れなければならない。民法の概念的には、所有者は所有する土地の地下から上空に至るまで所有権を持っているからである。
その一方で、これまで伝書鳩が他人の家の敷地を飛んだとしても問題になることはなかった。伝書鳩とドローンは民法の解釈上何が違うのか、という小林弁護士の指摘は、興味深い。
また小林氏は、川の上を飛ぶなら河川法の改正が、その過程で橋の上を横切るのであれば警視庁の許可が必要になると示唆した。
まだまだある。ロボットやドローンが自動的に収集したデータを保持する場合、現状では個人情報保護法に照らし合わせて、保護法対象者に同意を得る必要がある。ロボットを捕捉してデータを搾取するようなケースにどう対応するかという論点もある。
家庭向け調理ロボットの登場も期待されるところだが、仮に食中毒を起こした場合に責任の所在はどこにあるのか。そうなるとロボットを調理師法に基づいて調理師免許を取らせるのかといった、一見バカバカしい論点も存在する。もちろん、食品衛生法に基づいて、ロボットの材質や設計なども問題になるだろう。
さらに自律型ロボットの設計・製造上の不備により、事故を起こす、人に怪我をさせるといったことが起こった場合は、製造物責任法の適用が必要になる。元々すべての工業製品には適用される法律ではあるのだが、あまりにもこの法のカバー範囲が広いため、ロボットの普及を阻害する可能性が示唆されている。PL法上の免責事項に一文を加えるなどするしかないだろう。
■ドローンを巡る議論
7月8日、ドローンの飛行禁止区域に関する法律案が衆議院本会議を通過した。正式な名称は、「国会議事堂、内閣総理大臣官邸その他の国の重要な施設等及び外国公館等の周辺地域の上空における小型無人機の飛行の禁止に関する法律案」という。
・国会議事堂、内閣総理大臣官邸その他の国の重要な施設等及び外国公館等の周辺地域の上空における小型無人機の飛行の禁止に関する法律案
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g18901024.htm
法案によれば、飛行禁止の対象施設は、
・国会議事堂および議員会館、衆議院議長、参議院議長の公邸、その他国会に置かれる機関
・内閣総理大臣官邸並びに内閣総理大臣及び内閣官房長官の公邸
・最高裁判所の庁舎
・皇居及び赤坂御所
・政党事務所として指定された施設
・外国公館等として指定された施設
となっていたが、その後修正案にて、原子力事業所が追加されている。
・国会議事堂、内閣総理大臣官邸その他の国の重要な施設等及び外国公館等の周辺地域の上空における小型無人機の飛行の禁止に関する法律案に対する修正案
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/syuuseian/11_56AA.htm
飛行禁止区域は、対象施設の建屋そのものではなく、その敷地から300m以内。ただ実質的には、禁止区域を番地で指定することになるため、厳密に300mになるわけではない。一部は300mよりも外側になってしまうし、逆に内側になってしまうこともあるだろう。
処罰については、禁止区域内と対象施設敷地内との2段階になっている。禁止区域で飛行した場合、警察官等の排除命令・排除措置の対象となる。この命令に違反した場合は、1年以下の懲役または50万円以下の罰金。一方対象施設敷地内で飛行した場合は、排除命令・排除措置の対象になるほか、命令違反の有無に関わらず1年以下の懲役または50万円以下の罰金となる。
また7月14日には、航空法の改正案についても閣議決定が出されていた。この後国会に法案提出となる。法文としては要綱を見るのが一番正しいが、図案化された資料の方がわかりやすいだろう。
・航空法の一部を改正する法律案について(要綱)
http://www.mlit.go.jp/common/001096659.pdf
・航空法改正の概要
これによれば、
(A)一定高度以上の空域
(B)空港周辺の空域
(C)人または家屋の密集している地域の上空
を飛行する場合は、国土交通大臣の許可が必要となっている。(A)と(B)はこれまでも飛行禁止だったのだが、新たに(C)が追加されたことになる。概要にはないが、法案には祭礼、縁日、展示会などが具体的に追加されている。また爆発性のあるもの、易燃性を有する物を輸送しない、物を投下しないといった条件が盛り込まれている。
それ以外の領域は飛行可能としているが、公園や河川敷を地方自治体が飛行禁止にしてしまっているため、実質的に飛ばせる場所は、所有者が誰かもわからないような山林や、広大な敷地の所有者や管理者が飛行を許可する場合などに限られるのではないか。
また許可の条件としては、安全確保の体制を取った事業者等となっている。安全確保体制をどう確認するかという点については、やはり免許制度の導入は避けられないだろう。そうなると免許資格の問題も出てくるため、一般人が許可をもらうのは難しいと思われる。
飛行方法については、日中において飛行となっているので、夜間飛行は禁止されることになる。そのほか、周囲の状況を目視により常時監視することとなっていることから、目視範囲内での飛行に限定されることになる。いわゆるカメラ映像を見ながら飛ばすには、いちいち国土交通大臣の承認が必要になる。
ただし事故や災害時の公共機関等による捜索・救助等の場合は、適用除外された。公共機関からの依頼により民間事業者や民間人の協力が可能になるよう、柔軟な運用が望まれる。なにせ防衛省職員が敷地内で飛ばしてドローンを無くしちゃうような状況では、操縦技術では慣れたアマチュアパイロットに敵わない可能性のほうが大きい。
・行方不明のドローン発見、防衛省が敷地内でテスト飛行
http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye2546198.html
実際にどのクラスのドローンがこの規定の中に組み込まれるのか。この法に関係ないクラスのものは、重量などを勘案して国土交通省が省令で定めるというが、実際に有象無象出てくるオモチャドローン全てに対応できるとは思えない。また省令で定めたとしても、一般人はいちいちそんなもの把握していないわけだから、小型機を飛ばしていていちいち通報されたら敵わない。
法律の射程については、民間人の楽しみを奪う格好にならないよう、運用上の弾力性が必要だ。過去のデジタルイノベーションをよく観察すればわかることだが、事業者だけでは革命は起こせない。民間人、特に個人の自由な発想と創造力を取り入れなければ、イノベーションは起こせないだろう。
事業者と一般利用者とのバランスに対して、誰がモノを言っていくのか。いわゆる業界団体はいくつかあるのだが、一般利用者の利害を代表する、ドローン業界におけるMIAUのような団体は存在しないし、MIAUが手がけるにはあまりにも幅が広すぎるのが、今一番頭の痛い問題である。
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□ 発行元:一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU)
〒166-0003
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ルミエールマンション701号(有限会社ネオローグ内)
TEL:03-3313-5955(有限会社ネオローグ内)
FAX:03-3313-5965
website:http://miau.jp/
e-mail:info@miau.jp
□ 編集:香月啓佑(MIAU事務局長)、作田知樹(MIAU事務局)
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