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MIAUメールマガジン
「ネットの羅針盤」
創刊準備号
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<<目次>>
0.MIAUメルマガ発刊にあたって
1.MIAU's Opinion
――参院選直前! インターネットユーザーの権利を守ってくれる候補者は誰?
2.MIAU新会員制度のご案内
3.Point of View
4.MIAU's REBOOT
――MIAU設立の経緯と、MIAUが目指すこと(白田秀彰)
5.あなたの疑問に答えます!
6.MIAUからのお知らせ
7.事務局長のチラ裏
※「Point of View」と「あなたの疑問に答えます!」は次号(創刊号)からの掲載です。
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■MIAUメルマガ発刊にあたって
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MIAUメルマガ創刊にあたって、代表理事の小寺信良と津田大介、そして理事の庄司昌彦よりご挨拶申し上げます。
■MIAU代表理事 小寺信良
2007年10月に活動を開始した我々MIAUは、今年で6年目を迎えます。任意団体からスタートし、中間法人を経て現在のような一般社団法人になるまで、数多くの方にご助力を頂きました。
この6年の間に、インターネットを取り巻く環境、そしてインターネットというものを見る世間の目は、ゆっくりですが大きく変わってきています。例えば著作権団体がインターネットを見る目は厳しく、著作物のインターネット利用に関しては、多くのグレーゾーンを完全に白にするべきという論調が主流でした。しかしながら、インターネットと社会、あるいは人の行動に関する調査・研究が進むにつれ、グレーゾーンがあるから創作が進み、また商業コンテンツの利用も進むのだといったことがわかってきました。これまで我々インターネットユーザーが体感的に掴んでいた事が、徐々にデータによって裏付けられています。
子どものネット利用に関しても、当初は子どもから携帯電話を取り上げ、ネットの利用を制限すれば問題は解決するといった乱暴な論調が主流でした。ですが、我々が掲げる「まず規制の前に教育があるべき」というポリシーが徐々に多くの賛同を集め、まずはPTAが、次いで学校が次々と教育側に舵を切り始めました。
今年、公職選挙法が改正されたことにより、インターネットと政治が直接結びつく機会が激増するものと思われます。政治が変わるということは、世の中のルールが変わる事を意味します。2007年当時、インターネットは社会の外側にあるものと見なされていました。そのインターネットが、社会の基本インフラとして世の中に認められただけでなく、その中の議論が現実社会のあり方を変えていく、そんな世の中が到来しようとしています。
我々の活動も、今後はより具体性が求められてくるものでありましょう。そう思うと、今さらながら身の引き締まる思いです。そんな私どもの活動を支えているのは、会員の皆様からの会費、善意の寄付、そして我々が行なうネットの生放送といった事業です。
ところが実際にお金の話となると、世の中の仕組みはまだまだ、インターネットで活動する我々のような団体には厳しいのが現実です。例えば会員の皆様からいただいてきた会費も、クレジットカードや電子マネーといった決済の審査が通りません。したがってこれまでは、皆様から直接銀行振り込みしていただくという手段しかありませんでした。毎年毎年、銀行に足を運んでいただいた方も多い事でしょう。
こういった会員の手間をなんとかクリアできないか。この問題は設立当初からの大きな問題で、長い間皆様にも納得していただけるうまい方法を探す事ができずにいました。しかし昨年あたりから、有料メルマガという古くて新しいメディアが、ネットの情報をマネタイズする仕組みとして、現実的に機能するようになりました。
我々の会員制度も、この時代に合わせた新しい仕組みに変えようと思います。これまで会費としてご支援いただいたところを、メルマガの購読料という形で簡単に決済していただけるよう、変えていきたいと思います。
もちろん本メルマガは、単に会費をいただくための手段ではありません。MIAUの会報として、インターネットおよびデジタル技術、そして法制度についてのニュースやオピニオン、そしてMIAUの活動報告をお届けします。
「MIAU's Opinion」では最近のニュースの中からMIAUのメンバーが注目するものを選び出し、そのニュースの背景などを独自の視点から解説します。「Point of View」では「MIAU's Opinion」には入らなかったその他のニュースを、クリッピング形式でお届けします。「MIAU's REBOOT」ではMIAUのメンバーが過去に書いた文章の再録や、独自の取材の内容を掲載する自由なコーナーです。「あなたの疑問に答えます」では本メルマガに読者の方から寄せられた質問にお答えします。「MIAUからのお知らせ」ではMIAUの活動報告や告知事項をお知らせします。「編集後記」ではMIAU事務局長 香月啓佑のコラムをお届けします。MIAUの活動に直接関係ない内容も含まれます。
また本メルマガのコンテンツには代表理事の津田大介のメールマガジン『津田大介の「メディアの現場」』(http://tsuda.ru/tsudamag/ )や小寺信良のメールマガジン『金曜ランチボックス』(http://yakan-hiko.com/kodera.html)とも連動しており、MIAUの活動に関係する話題は、これらのメールマガジンの記事を転載することがあります。すでに両メルマガをご購読の皆様には、あらかじめご了承ください。
MIAUの活動が実社会の中で成果を出すためには、ネット内で意見を表明するだけに留まらず、リアルの人間があちこちに足を運ばなければなりません。それには世知辛い話ですが、どうしても資金が必要です。
私どもの活動を応援してもよい、あるいは活動の成果に興味があると思われる方は、ぜひ定期購読をお願いします。一緒に、社会とインターネットの関係を良いものとするべく、動いていきましょう。
一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU) 代表理事 小寺信良
■MIAU代表理事 津田大介
ついにMIAUメルマガ、スタートですね。始める始めるといって、全然始められなくて申し訳ありませんでした。
団体としてのいろいろ大事なご挨拶はほかの人がやってくれると思うので、僕はこれからのMIAUとしてやっていきたいことを具体的に述べます。
1) 情報通信政策関連の審議会に必ずメンバーを一人、定期的に送り込むこと
2) 金子さんやLibrahack事件のような不当な事件が起こったとき、裁判の支援を弁護士の手配も含め、行っていける団体になること
3) 政治家へのアクセス窓口になり、ネットを利用して政治家を動かすための「ハブ」的な存在になること
4) EFFや海賊党など、海外の団体との連携を強め、ネット規制周りの最新情報を独自調査し、定期的に日本語で発信していくシンクタンク的機能を持つこと
このあたりがうまくスムーズに回るようになったら、僕の仕事は終わりかなと思っています。
自分がいろいろなメディアを運営してきた経験から言うと、MIAUが上記をうまく実現するには年間2000万円(常勤スタッフ3人の人件費+調査費用+弁護士費用)くらいあればそこそこ機能するんじゃないかと思っています。
今回、MIAUはメルマガを始めることで会員を増やすことを目的としています。今まで正会員はいたものの、最盛期でも100名を超えることはありませんでした。ひとえに我々の情報発信不足、リソース不足が原因です。今回メルマガという形で皆様が支援しやすくなり、また我々が今何をやっているのか定期的にお伝えすることで、会員が増えることを期待しております。
MIAUメルマガの月額料金は月525円。大体のところ30%くらいがプラットフォーマーが抜くので、1人が会員になってくださると350円が我々の活動資金として入ってきます。会員が100人で3万5000円。1000人で35万円ですから、会員収入で年間2000万円稼ぐには、4800人くらいの正会員が必要になるということですね。
まぁ現実的にそんな人数をすぐさま集めるのは難しいのでまずは1000人を目標にやっていきます。1000人会員を獲得できたら35万円で一人専従の職員を雇うことができるので。今の事務局長の香月は僕の会社・ネオローグと兼務という形なので、香月をMIAUの専任にするでも、誰か新しく雇うにしても、1000人を獲得することが短期的な僕のミッションになるでしょう。そのためには、羅針盤だけでなく、どんどんMIAUで魅力的なニコ生の番組を作っていきたいとも考えています。
2007年に産声を上げたMIAUは、何とか潰さずにここまで来ることができました。そして、MIAUのできることがかなり大きくなってきていることも事実です。まずは常勤の職員を雇い、定期的に世の中にMIAUの声を大きくしていく、その道筋を付けていきたいと考えています。ぜひ、「月525円くらいならMIAUのことをサポートしてやってもいいよ」という方がおられましたら、会員登録をお願いします。ネットのことなんてちっとも理解せずに、わけのわからないことばっかり言ってる力のある大人たちに、一矢報いたいと思っている人は、ぜひMIAUに参加してくださいね。ようやく僕らも爪痕くらいは残せるようになりましたから。そして、現実的に今は爪痕だけでなく、彼らと「ゲリラ戦」なら行えるくらいの体制が整いつつあります。
かつて僕はMIAUの先行母体となる団体ともいえる「著作権保護期間延長問題を考えるフォーラム(think C)」を立ち上げるとき、一緒に世話人を務める福井健策弁護士から「津田さん、一緒に負け戦やってくれる?」と言われて「OKです。やりましょう!」と二つ返事で引き受け、think Cを立ち上げました。結果は短期的には「勝ち戦」になりました。その成功体験が「MIAUも何とかなるだろう」という僕の希望になっているんです。
なので、この文章を読んでいる皆さんにも同じ問いをしたいとしたいと思います。
「みんな、一緒に負け戦やってくれる? でも、割と勝てる算段もあるんだけどね……」
ネットを愛するたくさんの方々のMIAUへのご参加、そしてご協力をお待ちしております。
一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU) 代表理事 津田大介
■MIAU理事 庄司昌彦
MIAU三人目の理事、庄司昌彦です。二人の代表理事ほどキャラ立ちしておらず、小寺さんからは「とりあえず脱げ」などと言われておりますが、よろしくお願いします。本業は国際大学GLOCOMという研究所の研究員でして、地域社会での情報技術の活用(地域情報化)や、ネットと政治の関係、電子政府・オープンガバメント、情報通信政策などについて研究したり、政策提言したりしています。電子行政やオープンデータ関連ではIT戦略本部や経済産業省など政府の委員会で委員を務めたりすることもあります。
ここ数年、政権交代や東日本大震災、ネット選挙運動解禁など、さまざまな出来事を経て、日本でも政治行政とインターネットの関係が深まり、MIAUの主張を聞いてくれる人が増えてきたとは思います。また、政策に対するニーズや代替案を自分たちでまとめて政治や行政に働きかけたり、有志で協力してハッカソンを開催し自発的に地域で社会課題を解決したりするなど、インターネットユーザーが社会に貢献したといえる事例も出てきています。
インターネットは日々の生活にもビジネスにも、文化の発展にも貢献するものですから、今後はさらにMIAUの活動の幅を広げ、ポジティブに未来を切り拓いていくような新しい制度の提案にも力を入れていきたいと思っています。よろしくお願いします。
一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU) 理事 庄司昌彦
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■MIAU's Opinion
2週間の間にあったニュースの中からMIAUのメンバーが注目するものを選び出し、そのニュースの背景などを独自の視点から解説します。
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■参院選直前! インターネットユーザーの権利を守ってくれる候補者は誰? / 香月啓佑(MIAU事務局長)
ネット選挙(正確にはインターネットを用いた選挙運動)が解禁となった記念すべき今回の参院選。各党や候補者は工夫をこらしてネット選挙運動を展開している。毎晩ニコ生で自らの訴えを放送する候補者やツイッターを頻繁に更新する候補、またメールで活動レポートを送ってくる候補者もいる。筆者はほぼ毎週国会議員会館を訪れ政策提言活動を行なっているので、議員や秘書、議員事務所関係者と名刺交換をすることが多い。なので今回の参院選の候補者から数件メールを受け取っている。ほとんどの候補者は選挙活動メールを送る前に「選挙運動用メールの送信について」といった感じで、選挙活動メールを送ってもよいかという事前問い合わせを送ってきた。受け取らない理由がないのですべての候補者からの事前問い合わせメールに返信をしなかった。つまりオプトアウトしなかった。どれくらいのメールが届くか楽しみにしていたのだが、この原稿を書いている7/9の時点ではかなり落ち着いた感じを受けている。選挙戦開始当初はかなりのメールが届いて「これが2週間続くのかよ……」と正直思ったが、メールを送るのに飽きたのか、あるいはただでさえ忙しい選挙戦の中でメールにまで気が回らなくなったのか、今では一日数通となった。ただ、投票日前日は恐ろしい数の「最後のお願い」メールが届きそうではあるが……。
しかしネット選挙が開始されたとはいえ、この参院選が盛り上がっているかといえば、お世辞にもそうは言えない。ちょっとしたシラケすら感じている。前回の衆議院選挙では投票を呼びかけるウェブサイトが数多く作られたが、この参院選は衆院選ほどの勢いはない。確かにネット選挙解禁の影響で、選挙期間中のウェブサイトの更新が出来ることになったことは、一般市民や企業が作成する選挙活動ウェブサイトの納期に影響を与えているのは間違いない。この原稿を書いている横では、津田大介の政治メディア立ち上げに向けたサーバセットアップが必死で行われている。しかし前回の衆議院選挙並みのネットでの盛り上がりを今回の選挙で見られるだろうか。筆者は少し懐疑的に感じている。
なぜ今回の選挙にはこんなにもシラケムードが漂っているのか。それにはメディア各社が伝える選挙情勢報道が伝える内容にもあると思うが、それ以上に争点に対する意見の違いの見えなさが大きな影響を与えているだろう。原発再稼働にしたって、TPPにしたって、政権に関係しそうな政党は玉虫色の公約ばかりだし、政党の公約と候補者の公約が全く異なるケースも散見されて、誰に入れたらいいのか全く判断のつかない読者もいるのではないだろうか。
そんな読者には是非「インターネットユーザーの権利」という争点から投票先を考えてほしい、というのがこの記事の主眼だ。「インターネットユーザーの権利って言ったって、そんなのどこにも書いていないから分からないよ」という読者も多いと思うので、いくつかの視点から候補者、特に現職の候補者についての分析をしていきたい。
【違法ダウンロード刑事罰化】
昨年の6月24日に違法ダウンロード刑事罰化を含む著作権法の改正案が参議院本会議で可決し、昨年10月1日から違法ダウンロード刑事罰化は施行された。この記事では「違法ダウンロード刑事罰化とは何か」「何か問題だったのか」という説明は割愛させていただく。なぜ違法ダウンロード刑事罰化にMIAUが反対したのかは、MIAUの声明を読んでほしい。違法ダウンロード刑事罰化に関する論点は参議院調査室がまとめた資料に明快にまとまっているので、そちらを参照いただきたい。また本法案の審議においてMIAU代表理事の津田大介が参議院の文教科学委員会に参考人として呼ばれ、意見を述べた。意見聴取の模様はニコニコ動画でアーカイヴを見ることができる。また文字起こしもあるので、ぜひ時間があるときにでも読んでほしい。
『違法ダウンロード刑事罰化』について、議員向けの反対声明を発表しました。(MIAU公式サイト)
違法ダウンロード刑事罰化をめぐる国会論議(参議院調査室『立法と調査』)
違法コンテンツダウンロードの厳罰化へ 【参議院 国会生中継】 ~平成24年6月19日 文教科学委員会~(ニコニコ生放送)
違法ダウンロード刑罰化への津田大介氏の国会参考人発言を書き起こしました(akiyan.com)
さてこの違法ダウンロード刑事罰化を含む参議院本会議での採決の結果は参議院ウェブサイトで見ることができる。ちなみのこのような結果が公表されているのは実は参議院だけなのだ。押しボタン式の採決が取られているから、というのが理由だ。衆議院では起立あるいは投票による採決が行われるため、起立による採決の場合は誰が法案に賛成したのかを完全に把握することはほぼ不可能だ。把握するためには衆議院議員全員に電話で問い合わせるしかない。
第180回国会 2012年6月20日 著作権法の一部を改正する法律案 参議院本会議投票結果(参議院ホームページ)
さて上記の結果を見てほしい。ほとんどの議員が違法ダウンロード刑事罰化に賛成している。自民党や民主党の中にも個別に話を聞けば違法ダウンロード刑事罰化に反対の立場を表明してくれていた議員もいるが、実際の採決では党議拘束で賛成に回ってしまった議員もいる。というのもこの違法ダウンロード刑事罰化を含む著作権法の改正案は、当時民主党が必死で進めていた消費増税法案を通すためのバーターとして、自公両党から賛成することを求められていたという背景がある。採決のあとに議員会館で筆者との話では反対を表明してくれていたが、実際の採決で賛成してしまった議員の秘書に話を聞きにいった時に「悪いけど、それが政党政治なんだよ」と言われた時の気持ちを筆者は一生忘れないだろう。どの議員の秘書かは忘れてしまったが。
各々政党内政治があり、事情があったとはいえ、投票結果は投票結果である。ここでこの違法ダウンロード刑事罰化に反対票を投じた議員のうち、今回の参議院選挙に立候補している議員の名前を以下に記しておく。
森ゆうこ(生活の党・新潟県選挙区)※採決当時は「民主党」所属
参考:違法ダウンロード刑事罰化審議(生活の党 参議院議員森ゆうこ)
糸数慶子(無所属(生活の党推薦)・沖縄選挙区)
井上哲士(日本共産党・比例区)
紙智子(日本共産党・比例区)
山下芳生(日本共産党・比例区)
又市征治(社会民主党・比例区)
違法ダウンロード刑事罰化に賛成した自民党の中でも世耕弘成議員や山本一太議員、そして小坂憲次議員が党内協議の中で違法ダウンロード刑事罰化に反対の論陣を張ったことは付記したい。世耕議員と山本議員は今回の参議院選挙の立候補者だ。
4月17日(火)【著作権法改正案:違法ダウンロード刑事罰導入に慎重な理由】(世耕日記)
自民党文部科学部会、違法ダウンロード刑事罰化を了承!(ガクッ)(山本一太の「気分はいつも直滑降」)
http://ichita.blog.so-net.ne.jp/2012-04-13-1
この違法ダウンロード刑事罰化については民主党の鈴木寛議員よりMIAUの意見を一部活かした附帯決議案が提出されたことも付記しておく。鈴木議員も今回の参議院選挙の立候補者だ。
違法コンテンツダウンロード罰則化法案可決か【参議院 国会生中継】~平成24年6月20日 文教科学委員会~(ニコニコ生放送)
違法ダウンロード刑事罰導入(著作権法一部改正)を可決@参議院文教科学委員会(2012/06/20)(Togetter)
この違法ダウンロード刑事罰化に関しては質問主意書が提出された。質問主意書とは議員が内閣に対して国政を調査するために書面で提出する質問書のことで、政権与党は提出しないのが慣例とのこと。しかし違法ダウンロード刑事罰化に関する質問趣意書は当時政権与党だった民主党所属の森ゆうこ議員とはたともこ議員から提出された。この質問主意書の作成にはMIAUも協力させていただいた。森ゆうこ議員およびはたともこ議員は共に今回の参議院選挙に立候補している。
今国会成立の著作権法の一部を改正する法律における違法ダウンロード刑事罰化に関する質問主意書(参議院)
参議院議員森ゆうこ君外一名提出今国会成立の著作権法の一部を改正する法律における違法ダウンロード刑事罰化に関する質問に対する答弁書(参議院)
【ACTA(偽造品の取引の防止に関する協定、模倣品・海賊版拡散防止条約)】
「偽ブランド品とか模造品を取り締まる条約なんだろ? いいことじゃん!」と名前だけ聞くと思ってしまいそうだが、スリーストライクルールやプロバイダ責任などインターネット利用に関する重要な条項も入っていた国際条約がACTA。日本やアメリカの著作権ルールを諸外国に押し付けるやり方に欧州を中心とした世界中で巨大な反対運動が起こり、欧州議会では「HELLO DEMOCRACY, GOODBYE ACTA」(民主主義よ こんにちは、ACTAよ さようなら)のスローガンのもとに批准が否決された条約でもある。この写真はいつ見ても気持ちいいので今回も貼らせていただきます。なんてったってこれ、欧州議会公式アカウントのflickrに上がってる写真ですよ。
MEPs from the Greens/EFA group hold up a sign saying "Hello Democracy, Goodbye ACTA" by European Parliament
This photo is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-NoDerivs 2.0 Generic License.
ACTAとは(ニコニコ大百科)
【公式生放送】『模倣品・海賊版拡散防止条約 (ACTA) がヤバい』(ニコニコ生放送)
ACTAがデジタル社会に与える影響 (講師:津田大介、八田真行)(ニコニコ生放送)
このACTAも昨年の8月に参議院で承認され、その後衆議院でも承認。日本はACTAに批准した。しかしACTAは6カ国以上の国が批准しないと発効しない仕組みになっており、現在のところ批准を決めた国は日本だけで、未だ発効の見込みは立っていない。なんでそんな条約に批准しちゃったんだろうなぁ……という気持ちは無きにしもあらずだが、この条約を先導したのは誰でもない日本なので仕方ない。
以下にこのACTA批准の採決で反対票を投じた議員のうち、今回の参議院選挙に立候補している議員の名前を以下に記す。
森ゆうこ(生活の党・新潟県選挙区)※採決当時は「国民の生活が第一」所属
三宅雪子(生活の党・比例区)※採決当時は衆議院議員で「国民の生活が第一」所属
亀井亜紀子(みどりの風・島根県選挙区)
谷岡郁子(みどりの風・比例区)
平山誠(みどりの風・愛知県選挙区)※採決当時は「新党大地・新民主」所属
行田邦子(みんなの党・埼玉県選挙区)※採決当時は「みどりの風」所属
米長晴信(みんなの党・山梨県選挙区)※採決当時は各派に所属しない議員
【児童買春・児童ポルノ禁止法改正問題】
表現の自由を脅かし、警察の恣意的な捜査を可能とする児童買春・児童ポルノ禁止法改正案、通称児ポ法改正案。この問題については筆者がいろいろ語るよりも、以下の記事にあたっていただいたほうが問題点が分かりやすいだろう。
【金曜討論】「児童ポルノ禁止法改正案」 「漫画切り離して」山田太郎氏、「単純所持規制も」平沢勝栄氏(MSN産経ニュース)
児童ポルノ禁止法改正案に8党首の賛否くっきり ネット党首討論会(ハフィントン・ポスト日本版)
児童ポルノ禁止法改正案がクールジャパンを殺す? 漫画家、赤松健さんにその問題点を聞く(ハフィントン・ポスト日本版)
ただひとつ筆者から付け加えるとすれば、児ポ法改正案はインターネット規制の問題もはらんでいるということだ。インターネットにはブロッキングと呼ばれる技術がある。その名の通り、ある条件にあてはまるサーバやネットワークへの接続を遮断する技術だ。今回の児ポ法改正案「児童ポルノ」があるとされるサーバやネットワークへのブロッキングをISP(インターネット・サービス・プロバイダ)に対して努力義務として科し、また政府がそのブロッキング技術についての技術開発を促進するという内容が入っている。実は今も児童ポルノのブロッキングは現在はあくまでもISPの自主規制として行われているが、これが警察の強制になってくるということだ。ただこれは非常に恐ろしいことだ。
そもそも児童ポルノは定義が難しい。ちょっと古い例になるが宮沢りえの写真集『サンタフェ』が児童ポルノにあたるかどうか、未だによくわからないのだ。あとはジャニーズJrが出演するジャニーズのライブビデオなどを見ると、よくジャニーズJrのイケメン達が上半身はだかで踊っているシーンが出てくるが、彼らの中には18歳未満の少年も多い。法律による児童ポルノの定義の中には「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの」とあり、ここで児童は18歳未満の者を指す。ということは、ジャニーズのDVDも立派な児童ポルノになる可能性が十分にある。この児童ポルノであるかどうかの判断は警察が行うことになっている。
つまり児ポ法改正案によってブロッキングが努力義務となれば、そのようなデータがあるだけでサーバへのアクセスが遮断されてしまうのだ。英国での例を紹介しよう。英国のThe Scorpionsというバンドが「Virgin Killer」というアルバムをリリースした際、そのジャケット写真に思春期の女の子の写真を使ったことがある。このジャケット写真がWikipediaに掲載されたのだが、なんとこれだけで英国で児童ポルノの判定を行なっている団体がウィキペディアを児童ポルノ掲載ウェブサイトして認定してしまったのだ。この結果、英国の大手プロバイダ数社はユーザーのウィキペディアへのアクセスをブロックしてしまった。
このようなことが日本でも起こることは容易に想像できるし、特に日本の曖昧な児童ポルノの定義をそのまま運用すれば、警察の児童ポルノの拡大解釈によって諸外国に例を見ない広範なインターネット遮断を行うことができるようになってしまう。MIAUは児ポ法改正案の表現規制はもちろん、インターネットに多大な影響を与える安易なブロッキングにも危機感を持っている。
この児ポ法改正案の問題、最近急に騒がれたように思っている読者も多いかもしれないが、実はこの児ポ法改正案は実はもう何度も提出されては大きな議論を巻き起こしていた。今回はこの問題を慎重に議論するように請願を提出する手助けをした議員のうち、今回の参議院選挙に立候補している議員の名前を以下に記す。
松浦大悟(民主党・秋田県選挙区)
佐藤正久(自民党・比例区)
またみどりの風の谷岡郁子議員や民主党の樽井良和議員も、児ポ法改正案について慎重な立場を表明している。
谷岡郁子議員 児童ポルノ法や条例での漫画やアニメ規制の危険性を問う(YouTube)
児童ポルノ法改正案に対しまして。『単純所持禁止』にもの申す。(たるい良和 オフィシャルブログ)
いかがだっただろうか? 違法ダウンロード刑事罰化、ACTA、そして児ポ法改正案という具体的な事例から、これまでにインターネットユーザーの権利を守った(あるいは守ろうとした)候補者たちを紹介してきた。残念ながら数は非常に少ないが、しかしこのような議員たちの努力はきちんと評価することが大切だろう。読者の投票の参考となれば幸いだ。MIAUは引き続きこのようにインターネットユーザーの権利を守ってくれる議員をひとりでも増やすように活動を続けていく所存だ。ぜひ読者の方の今後の支援をお願いしたい。
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■MIAU新会員制度のご案内
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MIAU事務局長の香月です。この度MIAUはこれまでの正会員制度を刷新するため、新たな正会員制度へと移行する検討を行いました。今回はその検討案のご説明をさせていただきます。これまでの正会員制度の概要とその問題点につきましては、小寺の巻頭言、そして本コーナー末尾で参考としてご説明しておりますので合わせてお読みください。
■新会員制度について
新会員制度ではMIAUの組織に以下の図のように刷新します。
理事会や代表理事や理事、および事務局には変更はありません。今回の制度では新たにサポーター制度とフェロー制度の新設、及び正会員の中にメンバー、シニアメンバーというクラスを設け、正会員の中にアドバイザリーコミッティーを設けます。
・サポーター制度
MIAUをサポートしたい、あるいはMIAUから情報を欲しいと考える方にはMIAUの有料メルマガ(つまりこのメルマガ)をご購読いただきたいと思います。有料メルマガを購読した時点で自動的にサポーターとなります。しかしサポーターになったからといって特にMIAUの活動に対する義務はありません。ただしMIAUに対するコミットをすることもできません。サポーター=有料メルマガ読者とお考えください。
・サポーターが正会員になるには
MIAUに具体的な支援をしたいと考えていただける方には正会員としての加入を別途お申込みいただくことになります。別途正会員費は必要ありません。ただし正会員になるには以下の条件があります。
1) MIAUの有料メルマガを購読していること(有料メルマガを解約すると正会員の資格を失います)
2) 代表理事及び理事の承認を受けること(現行の会員制度における審査と同様の審査を受け、承認されること)
3) MIAUに対してメルマガ購読以外の何か具体的な協力が可能なこと(現行制度と同様に何ができそうかをお申込み時にお伺いします)
・正会員の特典
MIAUの正会員になると正会員専用のメーリングリストにご招待します。メーリングリストには会議のレポートや活動報告、プロジェクトの最新情報などの最新情報が流れ、活動に対して正会員として意見を述べることができます。また活動に関するボランティア募集なども流れますので、協力できるときにはぜひ活動に参加してください。また将来的には正会員限定のグッズも準備する予定です。
・メンバーとシルバーメンバー
正会員の中で特にMIAUへの貢献があった方を感謝を込めてシルバーメンバーとします。シルバーメンバーは理事会が選定します。シルバーメンバー以外の正会員をメンバーとします。シルバーメンバーとメンバーの間には基本的に差はありません。ただしシルバーメンバーだけの特典も今後は考えていきます。新会員制度立ち上げ時には、2011年度にMIAU会員としてサポートをしてくださっていた方は自動的にシルバーメンバーとなり、MIAUより記念のステッカーをお届けします。
・アドバイザリーコミッティー
シルバーメンバーの中からMIAUの方針決定に具体的に関わっていただきたい方には、理事会からの委嘱でアドバイザリーコミッティーに加わっていただきます。アドバイザリーコミッティーのメンバーは月に一度行われる幹事会に参加する必要があります。幹事会には代表理事、理事、事務局、そしてアドバイザリーコミッティーのメンバーが出席します。
・フェロー制度
MIAU組織およびMIAUの活動範囲において特に顕著な貢献があった方には、理事会よりお願いし、本人との合意のもとでフェローへの就任をお願いします。フェローはMIAUのすべての組織から独立し、MIAUへのアドバイスをお願いします。フェローにはメルマガ購読を含めMIAUに対する義務はありません。ただしフェローは理事会の決定によって解任されることがあります。
■新会員制度の利点
・会費納入の負担が減る
メールマガジンを購読するという形にすることで、会員加入時のイニシャルコストが少なくなります。またクレジットカード決裁や携帯キャリア決済に対応するため、これまでの銀行振込みの手間がなくなります。
・会員がMIAUの活動をよりキャッチアップできるようになる
これまではあまりMIAUの活動についてご報告する機会を設けられていませんでしたが、今後はメルマガという形でニュースが配信されるようになるため、よりMIAUの活動を知っていただけるようになります。
・活動計画が立てやすくなり、会員増加施策が多様になる。
MIAU事務局としては、メルマガを発行することによって金銭的な活動の計画が立てやすくなります。またニコニコ生放送での番組配信を活かして、会員増加に向けた告知やキャンペーンを、これまで以上に進めることができるようになります。
メルマガを通した新しい形でのご支援をご検討いただければと思います。今後ともMIAUのサポートをどうぞよろしくお願いいたします!
<<参考>>
■これまでの正会員制度のあらましと問題点
これまでの正会員制度の概要とその問題点につきましては、香月が代表理事の小寺信良のメールマガジン「金曜ランチボックス」のQ&Aコーナー向けに書いた文章がありますので、そちらを転載いたします。
(以下、小寺信良の「金曜ランチボックス」 2013年1月18日 Vol.057 Q&A:なんでもアリアリ質問箱より一部転載)
現在Webサイトで告知しておりますようにMIAUには会員制度があり、個人の方向けには「正会員」として加入をいただくことになっておりました。正会員になるには、MIAUの規約に基づき、理事(小寺、津田、庄司)の承認と、年会費として5000円を納入していただく必要があります。
承認が必要というご説明を入会希望の方にお伝えすると「え? 承認? じゃあ審査の上で落とされることもあるの?」という反応が返ってくることが多いのですが、そんなに恐れるような審査をしているわけではありません。入会フォームを記載いただく際に入会動機をお聞きしているのですが、その内容を見て審査を行います。MIAUにお金を払って入会しようという方々ですから、ほとんどの場合は入会OKとなります。
ではMIAUの正会員になると何かいいことがあるか、と聞かれると、実はそれがあまりなかったというのが現状でした。あるとすれば会員専用のメーリングリストで議論をしてMIAUの活動にコミットできることと、MIAU会員忘年会で小寺×津田漫談が聞けることくらいでした。過去に勉強会を開催していた頃はMIAU会員は参加費が無料になるというインセンティブがありましたが、現在は勉強会を発展させた形で、インターネットに関する諸問題を解説する番組『MIAU Presents ネットの羅針盤』をニコニコ生放送で放送するようになりましたので、そのインセンティブは実質ないようなものになっています。関東圏外にお住まいの方にとっては、忘年会の参加も難しいので、実質はメーリングリストへの参加ぐらいしかありませんでした。
個人的な話なのですが、僕は2009年に東京に出てきました。それまでは九州の片隅で地味な大学生活をしていました。MIAUの存在や活動内容は津田さんの「音楽配信メモ」(http://xtc.bz/)や小寺さんの「コデラノブログ」(http://blogmag.ascii.jp/kodera/)を通じて知ってはいたのですが、では学生時代にMIAU会員だったかというと、実はそうではありません。入会は検討したのですが、2つの理由で入会をとどまっていたのです。
まずは「首都圏外の住民にはインセンティブがあまりにも少ないこと」。MIAUの活動には非常に共感していたのですが、話に出てくるのはいつも東京の話ばかりでした。勉強会といっても会場は東京なので参加できません。これは非常に残念なことだと思いました。
そして「会費が5000円と学生には高かったこと」。家賃が月4700円の学生寮に住み、いくつかのバイトを掛け持ちしてヒーヒー言いながら食いつないでいた大学生の僕から見ると、やはり5000円がまとまって出て行くというのはかなり大きいという印象をもちました。たしかに無駄に日々飲んだくれていたのは事実なので、その飲み代を回せばよかったのですが、そこまで立派な学生ではありませんでした。
年会費は高いし、払ったところで大したインセンティブがない。これまで僕の話をしてきましたが、実はけっこう僕と同じことを感じてMIAU会員にならない人っているのではないかなーと思っています。
(転載ここまで)
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■Point of View
「MIAU's Opinion」には入らなかったその他のニュースを、クリッピング形式でお届けします。
※連載開始は創刊号からの掲載を予定しております。
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■MIAU's REBOOT
MIAUのメンバーが過去に書いた文章の再録や、独自の取材の内容を掲載する自由なコーナーです。今週は「MIAUの眼光紙背」より「MIAU設立の経緯と、MIAUが目指すこと」を再録します。筆者はMIAUの創設時のメンバーで、ロージナ茶会総統の白田秀彰先生です。
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■MIAU設立の経緯と、MIAUが目指すこと - 白田秀彰
初出:BLOGOS MiAUの眼光紙背 第1回(2007年11月05日)
政治に参加することは、古代ローマ時代以前からの「自由人」の特権の一つだ。もちろん、民主主義国家では、憲法によって国民の政治参加は重要な基本権とされている。集団において「自由であること」とは、自分を拘束する法律や制度を自分で支配できること、少なくとも自らの承認した法律や制度によって自らが拘束されることを意味する。
ところが昔から、政治には時間と金がかかる。政治が「他人を支配し制御するゲーム」だと考えれば、人を支配するのに手間と費用がかかることは、誰だってわかる。だから、封建社会において、支配層である貴族やら大商人は、自分自身では労働せずに莫大な金を獲得し、そうして得た時間と金で政治に参加していた。政治において勝利すれば、ますます自分達に有利なように法律や制度を支配し、ますます時間と金を獲得できるようにした。... ということは、くどくど書かなてくも皆さんご存知のとおり。
逆に、農民やら従僕たちは、朝から晩まで働かされ、貧しい食事でじっくりと考えることもできず、余裕のある貴族たちにいいようにあしらわれていた。自分達の置かれた立場やら不幸の理由やらを考える余裕すらなかった。(貧しい食事で十分な糖類が獲得できないと、脳が働かない。ウソだと思うのなら断食をしてみるといい。)
「議会制民主主義のお手本」と言われていたイギリスですら、実際に政治参加していたのは、「ジェントルマン」と呼ばれた、今の私たちの感覚では「上流階級」としか思えない「中産階級」であった。この人たちは、金と時間と教養のバランスをとることこそが、自分がジェントルマンであることの証であると考えていた。実現できていたかどうかは別として。そして、おそらくジェントルマンたちは、政治を一種の「スポーツ」としてみていたように思う。それゆえ、現在の私たちと違って、中産階級が形成する政治的なクラブや社会活動のクラブが多数存在していた。政治は、階級的な娯楽... と言って語弊があれば話題であり関心事であった。
ある国の政治的な均衡には、いくつかの型がある。先の封建制においては、強い者がますます強くなり、弱いものがますます抵抗力を失っていくことによる均衡であることがわかるだろう。それでも、政治は安定する。一方、次の議会制民主主義においては、時間と金が社会の多くの人々に分散的に配分されることによる均衡であることがわかるだろう。もちろん、中産階級と労働者階級には大きな断絶があることを無視しての話だが。
そこで、現在について考えてみる。もちろん、貴族やらジェントルマンやら貧民やらといった、あからさまな階級の分断は存在していない。でも、私が見る限り、政治に参加する能力や意欲のあるような人は、たいていの場合、高給だが果てしなく忙しい職業に就いているように見える。一方、時間のある人たちは、とても政治参加するための費用を賄えそうな職業には就いていないことが多いように思う。いわゆる社会の二極分化というものだ。この見解に「偏見がある」という批判は甘受する。
さて、こうした「金はあるが時間はない人(富裕人)」と「時間はあるが金はない人(有閑人)」は、政治に参加できない。両方が揃わないと政治参加が困難だからだ。したがって、富裕人は、その金を嗜好品や遊興に用い、有閑人は、その時間を嗜好品や遊興に用いる。ここでちょっと、私たちがお金や時間を費やしている、商品や娯楽について反省してみよう。そうした商品や娯楽への欲望は、ほんとうに自分自身から生じたものだろうか?誰かから制御されていないか?
そして、また現在において「時間と金」をバランスよく保持している人たちがどんな人たちかを考えてみてほしい。その人たちに現実的な政治参加能力が集中し、政治力となり、政策がその人たちの意向にそって動き、その人たちにますます時間と金が配分されているような状況が生じていないだろうか?政治に熱心に関与している人たちは、なぜそうするのか? それによって利益を得ているからに他ならないのではないか?このように考えれば、現在の政治的な均衡は、封建時代の極端な二極分化による均衡へと近づいていると言える。それは、見かけ上「その人が裕福である」ということには関係がない。裕福であっても自由でないのなら、その人は封建時代においては「奴隷」と呼ばれた。
インターネットができて、時間がない人、お金がない人にも、政治的発言、政治参加の可能性がでてきた。政治が「言論を通じて行われる」という建前の議会制民主主義であれば、言論の能力を平等化したインターネットは、議会制民主主義を強化するはずだからだ。もちろん、政治が実際には暴力や金で行われているのであれば、インターネットの登場は、政治にまるで影響を与えない。でも、現在の日本のインターネットの状況を見ていると、インターネットを用いた政治参加の可能性は、さまざまな水準で封じられているようにみえる。なぜだろう?
さて、突然 話が変わる。私の悪い癖だ。
男の子の夢は、昔から「世界征服」と「世界の救済」と「女の子」だ。そうでなければ、そうした内容をもつゲーム、アニメ、マンガが、相変わらず広く男の子および精神的男の子に強く支持されている理由が説明できない。ところが、この一文にすら、多くの批判が集中するだろうような状況からわかるように、そうした*原始的な*政治的衝動は、現実世界では、想像すら許されないほど厳しく抑制され、それらはゲーム、アニメ、マンガにおいて解消されなければならないとされている。私の見方では、現実世界での抑圧の強さに比例して、そうした作品が人々に必要とされるのだと思う。いまの大学生の男の子たちをみていると、私にはそのように思えてならない。
私たちの現実世界での政治的衝動が、仮想または妄想によって浪費されている間に、時間も金も持つ人々は、現実世界の政治を動かしながら、自らの利益を増大させている。その結果、必ずしもゲーム、アニメ、マンガに関心を持たない人々もまた、政治的過程から排除され、もとより政治的な関心や能力が乏しい人たちは、誰かが作った夢をずっと見せられつづけている。これが、私たちの現実のとても大雑把な見取り図ではないか。
MIAUが結成された理由は、主要構成員に共通する知的財産権に関する問題意識だ。しかし、そこに「あれ?あれ?」と思っているうちに引き込まれてしまった私自身の問題意識は、むしろ上記の状況にある。現実世界からインターネット上へと排除されてしまった人々の意欲や思いを、現実の政治へと反映させるための媒介・霊媒(メディウム)として、私はMIAUを位置付けている。だから、MIAUの設立をきっかけとして、類似した団体が次々とできることが健全だと考えるし、MIAUは、そうした団体の設立をむしろ助けていくべきだと考える。MIAUが「オタク」と呼ばれる層を狙って活動している、というような批判にもならない批判があるのを承知しているが、それは、私や一部のメンバーがオタクであるため隠しようもなく醸し出されてる雰囲気に過ぎない。
さて、知的財産権に関する問題意識がMIAU設立の主たる動機だとしたが、それについて補足しておきたい。知的財産権は20年ほど前までは、私たちの意識にも上らないほど特殊な領域の話だった。しかし、コンピュータやネットワークが取り扱う情報の大半が、著作権や特許といった知的財産権の保護対象となったときに、知的財産権法は、ネットワークを包括的に支配するための「鍵」となった。というのは、仮想空間を構成するすべての「もの (オブジェクト)」が、何らかの意味での知的財産権の保護対象だからだ。それに加えて、インターネットが社会基盤や産業基盤となると、現実世界においてもそれら知的財産権の影響力が増大していく。いまや知的財産権に関連した法は、憲法にも匹敵するほどの重要性を持つに至っている。ほとんどの人が気がつかないが。
知的財産権の中でも、とりわけ著作権法は、その射程の広さ、曖昧さ、保護の強力さから、インターネット上で支配権を行使する、もっとも一般的かつ強力な道具となりうる。このあたりについては、いずれ説明させていただきたい。
今、現実世界の政治を支配している人たちが、著作権に関する強い支配権を握ったら、現実世界のみならずインターネットもまた、それらの人々によって支配されることになるだろう。私たちの社会が情報に依存していながら、情報の流通を誰かに支配される危険性について、私たちの認識はあまりにも甘い。もし、情報の流通が支配されるとき、支配権を持たない私たちは、経済的にも精神的にも支配から脱して政治的自由を行使する可能性がなくなってしまう。それは、冒頭に紹介した、封建時代の農民や従僕のように「食べるものが乏しく気力が得られないゆえの服従」ではなく、「そもそも何も知らないが故の服従」へと作り変えられてしまうだろう。
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■MIAUからのお知らせ
MIAUの活動報告や告知事項をお知らせします。
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■『MIAU Presents ネットの羅針盤 Winny事件をめぐって〜ソフトウェア開発者の責任とは』のアーカイヴを無料公開しました
去る7月6日夕刻、Winny開発者の金子勇さんが急性心筋梗塞のためお亡くなりになりました。MIAUが昨年2月22日に配信した『MIAU Presents ネットの羅針盤 Winny事件をめぐって〜ソフトウェア開発者の責任とは』には金子さんにゲストとしてご出演いただきました。MIAUでは、今回の訃報に接し、故人への哀悼の意を表しますとともに、改めてこの回を無料でニコニコ動画で再配信いたしました。天才プログラマーとしての金子勇さんの片鱗を垣間見ることができます。ぜひご覧ください。
■thinkTPPIPシンポジウム『日本はTPPをどう交渉すべきか ~「死後70年」「非親告罪化」は文化を豊かに、経済を強靭にするのか?』を開催しました
MIAUは6月29日に掲題のシンポジウムを開催しました。会場には150人を超えるお客様が詰めかけ、会場は満員となりました。また模様をライブ配信したニコニコ生放送はタイムシフト再生を含め4687人の視聴者を集めました。ニコニコ生放送の仕様上タイムシフト再生は放送から1週間までとなっており、現在は生のコメントを含めた形での視聴はできませんが、同時録画をニコニコ動画およびYouTubeにアップロードしました。
シンポジウムで使用したスライドは以下のthinkTPPIPのサイトからダウンロードできます。
またこのシンポジウムの内容をINTERNET Watchさんが記事として掲載してくださいました。INTERNET Watchさん、記事を書いてくださった鷹野凌(@ryou_takano)さん、ありがとうございました。
TPP交渉、著作権保護期間延長や非親告罪化を阻止するのは国民の関心(INTERNET Watch)
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■あなたの疑問に答えます!
読者の方からの質問に、MIAUのメンバーが答えていきます。できうる限り寄せられた質問にはお答えしていきたいと思いますが、編集体制の都合上、質問は1号あたり1問までとさせていただきます。質問は下記のフォームよりお寄せください。質問の締め切りは第1、3水曜日の正午とさせていただきます。また質問の内容によってはお答えできない場合があります。予めご了承ください。
質問受付フォーム(Googleフォーム)
※連載開始は創刊号からの掲載を予定しております。
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■編集後記
編集後記の名を借りたMIAU事務局長 香月啓佑のコラムです。
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MIAUメルマガ、ようやく立ち上がりました。お待たせしました! そして長くお待たせしてしまって申し訳ありません。
立ち上げ自体はもう1年以上前から計画されていました。しかし僕がMIAUの普段の活動、そして僕の所属する津田大介の会社(有限会社ネオローグ)の仕事にかまけて延ばし延ばしになってしまっていました。それを見かねた小寺と津田が「いいかげんにしろよ!」とばかりに強力なテコ入れをしてくださったおかげで、今こうやって形になりました。形になって正直ホッとしています。ただ、有料メルマガを発行するということ、そしてそれを続けていくということの大変さは津田のメルマガを手伝っているなかで身に染みて理解しており、今後のことを考えるとちょっと怖い気持ちがするのも本当のところです。
普通のメルマガはコンテンツを配信して読んでもらうことが目的です。読者の方が支払った対価によって著者や編集者やスタッフがご飯を食べ、さらに新しいコンテンツを生み出します。しかしこのメルマガはコンテンツを生み出すこと自体が目的なのではありません。メルマガのその先にMIAUの活動があります。MIAUの活動の目的は「インターネットやデジタル機器等の利用者がより創造的に活動でき、そして技術自身が発展できるような環境」そして「既存のシステムを守るための制度が技術の発展を制限しない環境」を主張し、保つことにあります。大げさに聞こえるかもしれませんが、デジタル社会におけるインターネットユーザーの権利を守ることがこのメルマガの目的といえます。
規模の大小はありますが、インターネットユーザーの権利を守るための団体は米国のElectronic Frontier Foundation(EFF)や英国のOpen Rights Group(ORG)を筆頭に世界中にたくさんあります。彼らの多くは支援者の寄付によって組織を成り立たせています。MIAUもそうなればよかったのですが、なかなかうまくいきませんでした。ただMIAUがこのメルマガによって組織を成り立たせることができるようになれば、それは本当にMIAUらしいあり方なんじゃないかと思っています。なぜならMIAUは2名のテックジャーナリストと法学者、つまり情報発信のプロフェッショナルによって立ち上げられたからです。情報を発信し、それによってMIAUの活動が活性化できれば本当に素晴らしいことですよね。
なのでこのメルマガの発刊を機に、僕も「伝える」ということにひとつ軸足を置いて今後のMIAUの活動を進めていこうと思います。
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最終更新日:2024-11-01 00:00
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