先日池袋で、公開中のホラースリラー映画『ドント・ブリーズ』を観た。一人で映画館に行くことの多いバイキングの孫だが、今回は友達のアメリカ人を半ば強引に連れての鑑賞だった。
別に一人で観るのが怖かったからではない。前からアメリカ人と日本人の“ホラー映画に対する価値観の違い”に個人的な興味を持っていたので、「実際のところはどうなのか、この機会に検証してみよう!」と思いついたのだ。
映画のあらすじを簡単に説明すると、治安の悪い町としても知られるミシガン州デトロイトに住む女性ロッキーが、幼い妹と共に町から脱出するため、恋人のマニーと友人のアレックスと手を組んで空き巣をしようというもの。大金を隠し持っている盲目の老人がターゲットなのだが、実はこの老人がとんでもない超人で、金を盗みに忍び込んだ彼らを全力で殺しにかかってくる。はたして無事に老人の家から脱出することができるのか……? まさにハラハラドキドキのホラースリラー作品だ。
そして今回、筆者と同行したのはアメリカ人のアリッサさん!
都内シェアハウス在住の英会話講師で、今年来日したばかり。彼女の出身地はまさしく映画の舞台と同じデトロイトで、主人公が町から抜け出そうとしている境遇を知ると「私もあの町を脱出してきたよ」と日本語で冗談を飛ばしてくれた。ちなみに人生で一番怖かった映画は『SAW(ソウ)』シリーズらしい。
一方で地方から東京に脱出してきた筆者のベストホラームービーは『リング1』である。特に鏡の前で髪を梳く“貞子の母親”がものすごく怖い。鏡の前に立っているだけで怖い。『SAW』のように血みどろなわけじゃないのに怖い。早速この時点で両者の好みが明確に分かれている!
いざ映画館に着くと、正月前だというのに多くの人でにぎわっていた。我々は前の方に座ったのだが、後ろを見回すとほとんどの席が埋め尽くされており、映画の期待値が高いことをうかがわせる。そして館内が暗くなり、スクリーンに映像が映し出された!
・・・・・・
(ここからは軽くネタバレになります)
まずは感想から言おう!
「最近の米産ホラーの中ではかなり出来が良かった!」
事前に観た予告動画のイメージよりも全編に渡ってじめじめとした気持ち悪さが描かれていて、良質なホラー・エンターテイメントに仕上がっていた。いわゆる最近の“観客をビックリさせることに余念がないだけのホラー映画”とは明らかに一線を画しているものであるのは間違いない。
ただ、怖いか怖くないかでいえば……正直あまり怖くはなかった。しかし! ホラー映画というのは最終的に好みの問題に行き着いてしまうものだから、決して作品を貶しているわけではない。どれほど技術的に優れていても、肝心の“恐怖”の部分が響くかどうかは、受け取り側の価値観だとか過去のトラウマなどの経験に縛られてしまう可能性があることを改めて実感した。そういった意味でも筆者が非常に怖いと感じるのは、やはり子供の頃に見た『リング1』の“貞子の母親”や、昔の“怪談話に出てくる白装束の幽霊”のような、目にするだけで生理的にいや~な気持ちにさせる映像なのだろう。
さあ、つづいて気になるアメリカ人のアリッサさんの反応はというと……?
めちゃくちゃ怖がっていた!
100点満点中で何点だった? と筆者が振ると、なんと90点という高得点が返ってきた。生まれた国で作られた映画だけあって、彼女の恐怖のツボを鋭く突いたのだろうか?
映画館を出たあと、近くのファストフード店で休憩がてら質問を投げかけてみた。
-筆者「どこのシーンが一番怖かった?」
-アリッサさん「思いつくのは色々あるけど、やっぱりあの犬がだめだったわ。とても怖かった」
そう、『ドント・ブリーズ』では元気なワンちゃんが登場するのだ。しかも映画の恐怖を煽る重要な役どころを担っており、劇中に仕掛けられたとある演出には筆者もついビクッとなってしまった……。だが彼女が怖いと感じた理由は、もっと根幹的な、自身の“トラウマ”にもとづいているようだった。
-アリッサさん「子供の頃、犬に襲われそうになったことがあって、今でも大きな犬は苦手なの……」
と身震いしながら言った。
筆者が調べたところ、アメリカでは大型犬のペットの割合が日本に比べて多く、犬に噛まれる被害が多数発生しているらしい。その分トラウマを抱える人たちも大量にいるのかも。そういえば昔上映されたスティーヴン・キング原作の『クジョー』という映画も犬に襲われる話を描いたものだ。日本では可愛らしいマスコットのような犬を目にする機会が多いのでイメージしづらいかもしれないが、彼女たちアメリカ人にとっては、大型犬に襲われるシーンが我々の思う以上にフィクションとしての怖さを超えるリアリティがあるのかもしれない。
さて、『ドント・ブリーズ』の感想をざっと聞いたところで、今度はJホラーについてどう思うのか質問してみた。
-筆者「日本のホラー映画で好きなものある?」
-アリッサさん「うーん、『呪怨』は観たことあるけど、リメイク版の方だったわ」
-筆者「他には? 『リング』とかはどう?」
-アリッサさん「正直、日本の90年代のホラー映画で怖いと思ったものはあまりないの。ごめんなさい……」
なんと!
リメイク版が作られているから、てっきり輸入元のJホラー自体受け入れられるのかと思いきや、現実はそう甘くはなかったようだ。
考えてみればあちらで放映されたのはアメリカ人向けに作り直された作品なので、オリジナルの日本版が肌に合うかどうかは別問題である。
アリッサさん曰く、Jホラーにありがちな“ゆっくりな展開”や“間”がアメリカ人の好みではないらしい。たしかにあの手の絵面は彼らには地味過ぎるのかもしれない。嵐のように化け物やゴーストが襲い掛かってくるスピード感あふれるホラー映画の方が琴線に触れるのだろうか。「とにかく早く怖がらせてほしい」のだとポテトをつまみながらアリッサさんは言った。うーむ勉強になるぜ……。
結論!
・アリッサさん的最高のホラー映画はテンポが良くビックリさせてくれるもの!
・筆者バイキングの孫的最高のホラー映画は『リング1』!
ただ最後にアリッサさんは、「日本文化が好きだから、日本のホラー映画をもっと観てみたい! 『リング』ももう一回観てみます!」と元気に語ってくれた。
というわけで、アメリカ人と日本人の“ホラー映画に対する価値観の違い”の検証が終わった。
尚、あくまで個人の感想に過ぎないので、ここに書かれた感想が両国民を代表したものではないことを声を大にして言う。しかし文化や育った環境が違えば、”何に恐怖を覚えるか”の傾向が異なるものなのかもしれないなあ……とかなんとか思ったわけで本日は締めくくることにする。
映画『ドント・ブリーズ』。この正月休みに足を運んでみることをお勧め!
※トップ画像 『楽天地シネマズ錦糸町』前より
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(執筆者: バイキングの孫) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか
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