こんにちは、マガジンハウスです。この記事を読まれている方は、だいたいおいくつぐらいでしょうか…20代? 30代? 40代、50代ともなると、自身の加齢を意識し始める一方で、親御さんの老後についても考えることが増えるかと思います。この年末年始も、帰省した実家で親の老いを目の当たりにした方も多いのではないでしょうか。
今回、おすすめしたいのは、その‟老い”が大きく関係する、認知症について、まるごと一冊でアプローチしたムックです。認知症と聞いて、「怖い」、「防ぎたい」、「他人事だし」、などと思っている方にこそ読んでいただきたい、その内容…の詳しくは、担当されたHさんに伺いましょう!
―――Hさん、これまた大変な本を作りましたね。開いていきなり、「この本を読んでも、認知症は治せないし、予防もできません」って。
H 「そうですね、厳しいようですが、それが現実です。認知症は治るとか予防できるという本や報道が山のようにありますが、心ある医師たちは頭を抱えています。進行を遅らせることはできるけれど、治すことはできないし、確実に予防できる方法なんて何ひとつないというのが現状です。それなのに、いま現在、65歳以上の4人に1人が認知症か、その予備軍なんですね。だからこそ、なったら怖いと思い込む前に、まずは認知症のことを正しく知ることが大事だというのが、監修していただいた先生の強い思いなんです」
―――その先生というのは、『クロワッサン特別編集 親を看取る』で強烈な印象を残した、<のぞみメモリークリニック>の木之下徹先生ですね。この本も、Hさんが手がけられました。
H 「そう、あとがきにも書きましたが、『親を看取る』の仕事を終えたあと、木之下先生から、認知症の本を作ろうとおっしゃっていただいたのが、きっかけです。『親を看取る』でも認知症のページはあったんですが、まだまだやりたい、やらないといけない、と思っていました」
―――その思いが最も反映されたページは、やはりここですか、「認知症の人のインタビュー」。
H 「そうですね。去年は医師へのインタビューのみだったので」
認知症の方へのインタビュー。ご家族にも話を伺ったり、継続している仕事や趣味のお話を御本人に直接聞いたり。とにかく必読です。
―――実際に認知症になられた方が、顔出しでインタビューを受けるというのは、かなり驚きました。そして思いのほかみなさんが生き生きとしているので、それもまた驚きでした。
H 「今まで認知症を取り扱ったメディアって、認知症とはいかに大変かをアピールしてばかりだったように思うんです。認知症になってしまったら、本人も家族も絶望的、みたいな。でも、たとえ家族の名前が言えなくなったとしても、肉親である、大事な存在であるということはわかっているんです。記憶することが苦手になったとしても、説明したり、感じたり、理解したりする能力まで衰えるとは限らない。‟どうせわからないだろう”と自分が思われていることも、わかっている。今回のインタビューを通して、認知症の方がこんなにお話しになれるということを、みなさんに知っていただけたら嬉しいです」
―――はい、認識はだいぶ変わりました。私も正直、もしなってしまったら怖い、終わりだ、と思っていた部分もあったので。
H 「このインタビュー、楽しいでしょう? みなさん、本当にやりたいことをやって生きていらっしゃる。認知症になっても、やりたいことを続けることはできるということがわかれば、自分が認知症になったときの恐怖も薄れますよね。どうしたら防げるのか、治るのか、ということではない。木之下先生がよく仰る『認知症になっていい世の中に』という言葉があるのですが、本当にこれに尽きると思います」
―――本書では、木之下先生の他にも、全国の名医と呼ばれている方々に取材していますね。
H 「はい、認知症の世界ではオピニオンリーダー的な先生ばかりです。ある医療関係者の方は、この本は襟を正して背筋を伸ばして読まないとバチが当たる、と仰っていたほどです(笑)。そんな先生方が惜しみなく長時間お話をしてくださったおかげで、この本をつくることができました」
―――その中のお一人、山崎英樹先生が代表をつとめている仙台の施設<いずみの杜>のルポには、‟認知症になってもいい世の中”の未来が見えた気がしました。
H 「雰囲気いいでしょう。<いずみの杜>は、診療所の他にデイケアと老健、グループホーム、さらにこども園もあって、すごく進んでいると思いました。こんな施設がもっと増えればいいな~と思いました」
―――私も、ここはちょっと入所してみたくなりました(笑)。あと面白かった企画といえば、実録「診察室の現場から」ですね! なんとクリニックの待合室で、認知症の患者さんや付き添いのご家族10組に直撃インタビューしたという。
H 「これは、おそらく認知症を取り上げる媒体にとって夢の企画だと思うんですよ。でも、クリニックの協力がないとできない。<のぞみメモリークリニック>のみなさんには本当に感謝しています」
―――これを読むと、認知症といえども、取材にもこたえられるし、ご自身の境遇を理解して説明もできるんだということがわかりますね。と同時に、そういったことをまだご家族のほうがわかっていないケースが多いんだと思いました。
H 「そうなんですよ。誕生日を言わせようと躍起になってみたり、脳トレで認知症が治ると思い込んでいたりする家族も多い。子どもは親のためにと思ってやっている。親もその気持ちはわかっている。けれど、それはなんの効果もない。あまりにも切なくて、思わず涙が出てきてしまったこともありました」
患者の数だけドラマがある。クリニックでの来院者へのインタビューは、まるで人生劇場。
―――木之下先生は、「ドリルやぬり絵で認知症は予防も治療もできない」ってバッサリ仰ってますよね。
H 「記憶力の検査結果がよかったのは薬の効果であって、ぬり絵をいっぱいやったからではない。でも、家族がそこに気づいていないという悲劇ですね」
―――この本は、ご本人やご家族のコメントに、きちんと専門医の解説がついているのがよかったです。
H 「それが本書のいいところでもあるんです(笑)。いま現在、認知症で困っている方々のなかにも、間違った情報をうのみにしてらっしゃる方は少なくない。主治医の先生方のコメントは、そういう意味でも参考にしていただけたらという思いでつくりました。基本的なことを知り、正しい知識を持つ。それだけで、症状が改善されたり、精神的に楽になる方もたくさんいらっしゃると思います」
―――正しい知識…。認知症は誰もがなりうる病気なだけに、必須ですね。
H 「ええ。そして、この本を読んで、なっていいとまでは思わなくても(笑)、そこまで大変ではないかも、と思っていただければうれしいです」
―――他にも本書には、ヨシタケシンスケさんが認知症について考えるページがあったり、Hさんが認知症検査を受けるという体験取材があったり、耳よりのコラム集があったり。本当に役立つ一冊なので、本当に多くの人に読んでもらいたいですね。って、ベタなPRで〆てごめんなさい! でも本当に良書です! Hさん今日もありがとうございました~。
今週の推し本
『クロワッサン特別編集 認知症を生きる』
木之下徹 監修
ページ数:116頁
ISBN:9784838751600
定価:900円 (税込)
発売:2016.11.30
ジャンル:実用
[http://magazineworld.jp/books/paper/5160/]
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