第11回:【思潮】ロスジェネ系解雇規制緩和論者が若者バッシングに走るとき

今回は後藤和智さんのブログ『後藤和智の若者論と統計学っぽいチャンネル』からご寄稿いただきました。

※この記事2013年02月15日に書かれたものです。

■第11回:【思潮】ロスジェネ系解雇規制緩和論者が若者バッシングに走るとき
今回は、ロスジェネ論客の一人であり、過激な解雇規制緩和、雇用自由化論者として知られる城繁幸氏を採り上げたいと思います。

城氏については、私は雑誌『POSSE』の連載「検証・格差論」の第1回で採り上げており(『POSSE』第7号及び同人誌『青少年言説Commentaries』(冊子版のみ)に収録)、その中で次のように述べました。2004年に『内側から見た富士通「成果主義」の崩壊』(光文社ペーパーバック)でデビューした城氏は、最初の頃は、富士通の人事部での経験に基づいて、所謂「成果主義」の現実と、改善点を述べておりました。後に城氏は人材コンサルタントとして独立、2006年に上梓した『若者はなぜ3年で辞めるのか?』(光文社新書)はベストセラーになりました。その中で城氏は、若い世代の革新性を礼賛し、ある種の世代間闘争を仕掛けるような論調に傾倒していきました。それが第1回目の天気です。

第2回目の転機は、2008年に出された著書『3年で辞めた若者はどこに行ったのか』(ちくま新書)です。この中で城氏は、赤木智弘氏の言説に触れ、「左翼は労働者や若者の味方ではない」という視点に啓蒙され、それ以降の著書や雑誌の論考では、「左派政党」、そしてその主張に近い論客――森永卓郎や堤未果など――を攻撃するようになりました。彼らは「貧困」をダシにしてのし上がっている「貧困ビジネス」であり、打倒すべき存在であるということを述べていたのです。また2009年の『たった1%の賃下げが99%を幸せにする』などについても、自由市場が自分だけに味方してくれるという幻想に基づいたユートピア思想の発露としか言いようがないものでした。そしてその背景として推測されるものに、財政破綻論に基づく一発逆転幻想があるのではないかとも私は述べました。

さて、最近の城氏の言説ですが、「おや?」と思ったものが3つほどあります。第一に『SPA!』での連載をまとめた『若者を殺すのは誰か?』(扶桑社新書)における教育言説です。城氏はこの中で「ゆとり世代」がなぜ「駄目」(に見える)のかということについて、少子化を原因に採り上げているのですが…。どうもその議論の運びに疑問を持たざるを得ないのです。詳しくはフェイスブックのサークルページで書いているのでそちらを参照していただきたいのですが(http://www.facebook.com/kazugotooffice/posts/382630408481248)、乱暴な単純化の度合いが強く、下の世代を叩きたいだけなのでは?と思ったのです。

「【城繁幸の奇妙な教育論――「ゆとり世代」がダメなのは少子化のせい?】」 2012年11月05日 『後藤和智/後藤和智事務所offline@ライブ山形109「H」8』

http://www.facebook.com/kazugotooffice/posts/382630408481248

そこに追い打ちを書けてきたのが、昨年11月23日にWEBRONZAで配信された記事「40歳定年制は最大の成長戦略だ」(http://astand.asahi.com/magazine/wrbusiness/2012112000015.html)です。その中で城氏は40歳定年制を歓迎すべき理由を次のように述べています。

「40歳定年制は最大の成長戦略だ」 2012年11月23日 『WEBRONZA』

http://astand.asahi.com/magazine/wrbusiness/2012112000015.html

あなたが企業の採用担当になった気分で考えてみよう。一つの求人枠に、22歳の新卒と44歳のオジサンが応募してきたとする。前者は社会経験も就業経験もゼロ、名刺交換やビジネスレターといった初歩的ビジネスマナーすら知らないまっさらな学生だ。しかも、ここで雇ってしまうと20年近く雇い続けねばならない。

一方、オジサンはビジネスマナーはもちろん、(応募してくるくらいだから)その募集職種の酸いも甘いも一定程度は経験している。そして何より、彼は1年か2年の有期雇用で構わないわけだから「こいつに20年雇う価値があるか」なんてことで悩む必要もないわけだ。そう、40歳定年制度とは、“新卒カード”という意味不明な特権をはぎ取って、オヤジ達が大々的に復権する復活の日なのである。

以前より城氏の言説を見てきた方なら、通常城氏が言うところの《“新卒カード”という意味不明な特権》というのは、雇用の流動化を阻むものとして捉えられていたはずではないか?と思うはずです。そして「新卒一括採用」という雇用慣行が、若年層の雇用を奪っているという論陣を張ってきたはずではないでしょうか。

ところがこの記事では、40代の雇用を崩すものとして採り上げられているのです。そして《“新卒カード”という意味不明な特権》によって雇用される、無能でかつ長く雇用しなければならない若年層を不要なものと切り捨てているのです(そしてその後には「学生も努力すればいい」とかフォローされているわけではないので、このような疑念はますます強くなります)。

そして第三に、東洋経済ONLINEでの記事「若者にワークライフバランスなんていらない――城繁幸氏と考える「日本に依存しないキャリア」(中)」(http://toyokeizai.net/articles/-/12808)という、投資家のムーギー・キムとの対談でも、若い頃に泥のように働いた若年層こそが30代になって余裕の生活を送ることができる、ということを述べているのです。そして次のような城氏の軽い物言いは、城氏が本当に近年の若年労働言説を理解しているのかという疑念を持つには十分なものです。

城:それはありますね。以前、某キー局のプロデューサーとブラック企業問題について話していたとき、最後に「でも、考えてみればうちもバリバリのブラック企業なんですよね」と言っていた(笑)。

「若者にワークライフバランスなんていらない 城繁幸氏と考える「日本に依存しないキャリア」(中)」 2012年02月06日 『東洋経済ONLINE』

http://toyokeizai.net/articles/-/12808

しかし、キー局のプロデューサーというのは、地位的にも所得的にもそれなりに恵まれた立場ではないかと思いますし、社会的な責任も大きいため福利厚生もしっかりしているでしょう。もちろんそのような立場の人が激務であるのは必須でしょう。しかし、「ブラック企業」言説というのは、激務すなわちブラック認定、というわけでは必ずしもない。特に激務であっても相応の見返りがあるような職場はブラックとは必ずしも見なされないでしょう(もちろん過労死が出るほどの激務であってはなりませんが)。ブラック企業概念とは、今野晴貴の『ブラック企業――日本を食いつぶす妖怪』(文春新書)を読めば分かるとおり、労働時間はもちろんのこと、職場環境や社会保険などを含めた総合的な概念であることが分かるはずですが、城氏はそれを理解していない可能性が高いのではないかと疑ってしまいます。

さてここまで、城氏がいかに若年層に対して偏った視線を送っているかということについて述べてきました。おそらく一部の方は、「あれ? 城って「若者の味方」的な動きをしてなかった? 急に若者バッシングに転向したの?」と疑問に思ったことかと思います。しかし私としては、むしろ城氏のこのような動きは必然ではないかと思うのです。

そもそも『若者はなぜ3年で辞めるのか?』以降の城氏の議論は、ほとんど働かずに高給をもらっているとされる中高年世代の正社員への、若年層の反発という正確の強いものでした。そして自分たちの世代の「新しさ」を主張し、上の世代を追い出すための議論が展開されていました。そのような城氏の言説が、『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか』のように、よりよい政策の提示ではなく「新しい」若者の提示と誇示に向かうのは必然なのかもしれません。

それがここに来て、濱口桂一郎が皮肉を込めて《日本的経営の麗しき美風》(http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2013/02/post-99a9.html)と呼んだものに傾倒してしまうのはそれなりの理由と必然性があるように思います。第一に城氏の言説は、やはり会社の中の正社員エリート層や、あるいはフリーランスでやっていけるようなクリエイティブ層を中心に採り上げていたものだからです。そのため3つめの記事のような、グローバルエリート向けの議論に傾倒するのも必然ではないでしょうか。

*5:「世に倦む城繁幸氏の憂鬱」 2012年02月07日 『hamachanブログ(EU労働法政策雑記帳)』
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2013/02/post-99a9.html

また、城氏が主なターゲット層としてマーケティングしていたのは、城氏とほぼ同世代のロスジェネ層でした。そのためその層が加齢によって会社においても中堅的な位置を占めるようになったとき、第1,2の記事のように、若年層バッシングによって「守り」を固めるようになるのもある意味必然です。ちょうど城氏が連載を持っている『SPA!』についても、ここ5年ほどに、ロスジェネ層よりさらに若い若年層を叩いたり、あるいは揶揄的に採り上げる特集が目立つようになりました。

そのため、城氏の言説は、ロスジェネ系の論客の行く末を端的に表しているものではないかと思うのです。すなわち、上の世代への攻撃でのし上がり、自分たちは正当に評価されていない、自分たちが正当に評価されれば確実に地位は上がるはずだ、そして自分たちは上の世代にはない可能性を持った新世代なんだということを主張してきたロスジェネ系の論客は、自分が上の地位に入ると、しきりに下の世代を叩いて顧客を守るようになる。言うなれば「守り」に入るのです。

このようなことが起こったのも、城氏が実務家という自らの立脚点を忘れ、単純な世代間闘争論に足をすくわれて、ずぶずぶとはまっていったことの帰結としか言いようがないわけです。そして上の世代に対して、自分の「窮状」をアピールし、実存に訴えかけるような「動員」で支持を集めてきたような論客がロスジェネには多い。そこにはよりよい政策の提示や、あるいは社会の分析という視座は生まれようがなく、なおかつ自意識だけ強い。

かつての若者擁護論者こそが、将来の若者バッシングの最も優秀な候補生である。そのことを城氏の動きは教えてくれます。

この記事は後藤和智さんのブログ『後藤和智の若者論と統計学っぽいチャンネル』からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2013年2月21日時点のものです。

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