-
前嶋和弘氏:トランプのカムバックはアメリカと世界をどう変えることになるか
マル激!メールマガジン 2024年11月13日号(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――マル激トーク・オン・ディマンド (第1231回)トランプのカムバックはアメリカと世界をどう変えることになるかゲスト:前嶋和弘氏(上智大学総合グローバル学部教授)―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――4年前の大統領選挙でバイデンに敗れたトランプが、見事なカムバックを果たした。大接戦が予想される中で、現職副大統領のハリスに対し予想以上の大差をつけての文句無しの勝利だった。トランプの勝因については様々な分析が行われているが、そもそも2024年に行われた先進国の国政選挙では与党がことごとく敗北しており、イギリスを始め多くの -
小林良彰氏:自民党に歴史的大敗をもたらした民意を読み解く
マル激!メールマガジン 2024年11月6日号(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――マル激トーク・オン・ディマンド (第1230回)自民党に歴史的大敗をもたらした民意を読み解くゲスト:小林良彰氏(慶應義塾大学名誉教授)―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――結局のところ最初から最後まで自民党の自滅だったようだ。今週のマル激は計量政治学が専門で毎回幅広い有権者の投票行動調査を独自に行っている小林良彰氏と、選挙後の恒例となった投票行動分析を行うとともに、自民党の大敗と立憲民主党と国民民主党、そしてれいわ新選組の躍進が目立った先の総選挙は、国民が何を評価し何に怒った結果だったのかを読み解いた。10月27日に行われた衆院選では、自民党は改選前議席を56減らす大敗に終わった。同じく公明党も8議席減らしたため、連立与党は過半数を大きく割り込むことになった。2009年に自民党が181議席を減らして政権を失ったとき以来の、文字通りの歴史的大敗だった。本来であれば与党が衆院で過半数を割れば政権交代が実現するはずだが、野党陣営も1993年の細川連立政権をまとめ上げた小沢一郎氏のように、野党勢力を1つに束ねることができる実力者が不在のため、現時点では11月11日に予定される首班指名に向けて、与野党双方で熾烈な多数派工作が行われている。今のところ4倍増の28議席を獲得した国民民主党が与党に協力することで、かろうじて石破政権を存続させる方向で当面の政局は収束しそうだが、首班指名まではまだ時間があるため、状況は予断を許さない。また、仮に辛うじて首班指名を乗り切っても、石破政権はその後に待ち受ける補正予算の審議や来年度の本予算審議では、野党の一部を取り込まなければ法案の1つも通らない状況にある。政局は当分の間、不安定な状態が続くことが必至だ。それにしても選挙にだけは強かったはずの自民党は、なぜここまで大負けしてしまったのか。小林氏が主宰する投票行動研究会が選挙の直前に全国3,315人に行った調査からは、これが自民党の自滅選挙だったことがはっきりと浮き彫りになっている。結論としては、前回までの選挙で自民党に入れてきた自民支持層の多くが投票を棄権したために自民党の得票自体が大幅に減ったほか、過去に自民党に投票してきた無党派層もその大半が国民民主党とれいわ新選組などに流れた結果、自民党は比例票で前回の選挙の27%にあたる533万票も票を減らしている。その一方で、今回新たに50議席を獲得して躍進が目立った立憲民主党の方も、必ずしも得票を伸ばしていなかった。立憲民主党の今回の比例区での得票を前回2021年の衆院選と比べると、わずか7万票しか増えていない。一方、大きく支持を広げたのが、若者向けの分かりやすいアピールと経済政策に重点を置いて選挙に臨んだ国民民主党とれいわ新選組だった。国民民主は358万票、れいわも159万票をいずれも比例区で増やしている。必ずしも得票を増やしていないにもかかわらず獲得議席で立民の躍進が目立ったのは、全国の選挙区にくまなく候補者を擁立できているのが自民、立民、共産しかいないためだ。自民党が落ちれば自動的に立民が上がる構造になっていた。小林氏の研究会の調査では、そうした投票行動の背景に自民党支持層を含む大半の有権者が、統一教会問題や裏金問題で明らかになった自民党の腐敗体質が、石破政権になった後もほとんど変わっていないと感じていたことがわかっている。調査で自民党が「かなり変わった」、「ある程度変わった」と答えた人は全体の11%に過ぎず、「あまり変わっていない」、「ほとんど変わっていない」と答えた人は67%にのぼっている。しかも、この調査は非公認候補の支部に2,000万円の政党助成金が振り込まれていたことが明らかになる前に行われたものだったため、その後2,000万円問題が明らかになったことで、実際の投票日までの間に腐敗体質を改められない自民党に対する嫌悪感がさらに強まったことは間違いないだろう。今まで自民党の党内野党の立場から、政権中枢をずけずけと容赦なく批判してきた石破氏であれば、自民党を変えてくれるかもしれないとの淡い期待が高かったが、首相就任後の石破氏の行動や言動からは、その期待が見事に裏切られたと感じている人が多く出ていることを、小林氏の調査は明らかにしている。また、小林氏の調査では、今回、自民党支持者の投票率は67%、公明党支持者の投票率も74%にとどまった。これは53.85%だった全体の投票率は上回るが、両党の支持層の投票率が過去の選挙では8割前後を誇っていたことを考えると、大幅な減少だ。一向に腐敗体質を変えられない自民党に業を煮やした自民支持層や公明支持層の多くが、今回は棄権に回ったことが見て取れる。国民民主党の得票が伸びた理由について小林氏は、他の野党が政治とカネの問題を前面に打ち出したのに対し、この党は若い人の「手取りを増やす」など、とりわけ若い世代の不満や不安に訴える具体的な提案が好感視された結果だったという。年齢別の投票行動を見ると、特に国民民主党は10~30代では自民党に次ぐ高い支持が集まっている。逆にかつて30~40代から強い支持を得ていた維新の後退が今回は顕著だった。実際、将来の生活不安を抱える人の割合は、3年前の選挙時よりも確実に増えている。小林氏は物価が上がる中で、国民の生活不安は限界まで上がってきているのではないかと言う。政治不信と踏み込んだ政治改革・党改革ができないことに加え、国民、とりわけ若い世代の経済不安、生活不安に対して有効な対策を打ち出せていないことが、今回の自民党の主要な敗因だったとみていいだろう。なぜ自民党は大敗したのか、国民民主やれいわが支持を伸ばしたのはなぜか、日本の国民はこの選挙で何を選択したのかなどを、小林良彰氏が代表を務める投票行動研究会の大規模調査を基に、小林氏と、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。また、番組の冒頭では、全体として不信任率が高かった今回の最高裁国民審査の結果を振り返った。+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++今週の論点・自民党の歴史的大敗と首班指名に向けた多数派工作・有権者の投票行動から見えてくること・支持者からも見放された自民党・国民民主党の「手取りを増やす」が若者に一番届いた+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++■ 自民党の歴史的大敗と首班指名に向けた多数派工作神保: 10月27日に総選挙があり、自民党にとっては歴史的大敗となりました。2009年の選挙では119人しか当選していないので今回の方がまだましなのですが、その後、安倍さんの下ではずっと勝ち続けてきました。11月11日には首班指名があり、多数派工作で乗り切るとしているのですが、少し先の10日後ということで、何が起きるのか分かりません。今日はいつも選挙後に楽しみにしている、小林良彰さんによる投票分析をお送りしたいと思います。今回の選挙結果は自民が56議席を減らして191、公明も6議席を減らして24でした。維新と共産も議席を減らし、立民と国民とれいわが顕著に増やしました。立民は小選挙区で44も増えていますし比例でも増えているので議席の増加は大きいのですが、全国の選挙区にくまなく候補を立てているのは自民と立民と共産しかないので、自民が落ちれば立民が通ります。立民の比例獲得票は1,156万票で7万票しか増えていないということからそれがよく分かります。要するに立民の得票自体はほぼ横ばいだったのですが、比例では自民が530万票も減らしているので、自民が落ちた分、立民は自動的に上がったということです。顕著に増やしたのは国民民主で、比例票がほぼ倍増した結果議席も7から28まで増えました。れいわは3から9に増やしていて比例票も大きく増やしています。れいわと国民は票も増やしていて、立民は票は変わらなかったのですが議席を増やしました。その一方で自民、公明、共産、維新は比例票も議席も減らしています。また、参政党と保守党が比例区で187万票と115万票をとっています。日本は全国比例ではないので得票数はブロックごとの比例票を足した数字ですが、ここまでの得票があります。参政党と保守党で合わせて約300万票取っていますが、自民党が533万票減らしたことを考えると決して少ない数字ではありません。結果的に獲得議席では自公で215ということで、233の過半数には18足りておらず、12人いる無所属を全員入れても足りません。そんなことで大丈夫かなと思いますが、首班指名選挙では、決選投票で玉木雄一郎と書くと無効票になり、国民の28議席が無効になることで過半数が219になります。宮台: 得票や支持については、下がる要因があり下がった政党、上がる要因があり上がった政党、その結果として漁夫の利で上がったり下がったりした政党の3種類あり、大まかにはそれを見なければなりません。 -
伊藤真氏:司法問題を総選挙の争点にしなくてどうする
マル激!メールマガジン 2024年10月30日号(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――マル激トーク・オン・ディマンド (第1229回)司法問題を総選挙の争点にしなくてどうするゲスト:伊藤真氏(弁護士)―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――衆議院選挙が明日に迫った。マル激では総選挙と同時に行われる最高裁判所の国民審査に際して、有権者に必要な判断材料が提供されていないとの考えの下で、毎回、審査対象となる最高裁裁判官がこれまでどのような事件に関わり、どのような判断を示してきたのかを提供してきた。最高裁判所の国民審査が、一般国民が裁判所に対して何らかの意思表示を行うことができる事実上唯一の手段になっているからだ。しかし、最高裁国民審査には本質的な問題がある。それは審査対象となる裁判官が前回の国民審査、つまり総選挙以降に任命された新任の裁判官に限るということだ。審査対象となる裁判官はいずれも任官後3年以下であり、中には数カ月しか裁判官を務めていない人もいる。それを審査しろというのはもともと無理な話なのだ。しかも、最高裁の裁判官は一度審査を受けると次は10年後まで審査を受けない。裁判官の任官時の年齢がほぼ全員60代であり、最高裁裁判官の定年が70歳であることから、2度審査を受けることになる裁判官は事実上存在しない。つまり、国民審査というのは名ばかりで、最高裁の裁判官として重要な決定を下した経験のない、つまりこれまでの経歴以外にほとんど判断する材料が何もない、任官したての裁判官を信任するか不信任とするかを決めるしかない制度なのだ。これは形骸化以前の、制度の根本的な欠陥と言わなければならない。改善すべき点は簡単で、10年に1回などというルールを撤廃し、毎年15人全員を審査対象にすればいいだけのことだ。日本の司法が国民の信任を得るためにも、制度の改善が待たれる。そして、それは法律を作る国会の仕事ということになる。今回のマル激では国民審査の対象となる最高裁裁判官の限られた数の判決記録を掘り起こすとともに、弁護士の伊藤真氏をゲストに招き、司法問題全般についても議論した。なぜならば、昨今、国際的にも国内的にも現在の日本が抱える最も深刻な問題と考えるべき司法の問題が、明日迎える総選挙ではほとんど各党の公約に取り上げられてさえいないからだ。58年ぶりに再審無罪となった袴田事件の判決では警察と検察による証拠の捏造が厳しく断罪されている。また、大川原化工機の冤罪事件や高裁で再審決定が出された福井女子生徒殺人事件では、いずれも警察や検察による事実上の事件のでっち上げや被疑者に有利な重要な証拠の隠蔽などが指摘されている。今回の総選挙は日本の刑事司法の病理がいやというほど噴き出すさなかに行われている国政選挙なのだ。言うまでもなく長期の勾留と弁護士の立ち合いが認められない過酷な取り調べに加え、メディアにあることないこと情報を非公式に漏らして報じさせるリーク報道によって被疑者を自白に追い詰めていく日本の人質司法は、国連の人権委員会や拷問禁止小委員会などでも繰り返し問題視されてきている。にもかかわらず、今回の総選挙では司法問題、とりわけ目に余る警察の権力の濫用や冤罪連発の原因となっている検察による自分たちには不都合な証拠隠し、そしていたずらにハードルが高い再審法の改正が、議論の遡上にさえあがっていない。伊藤弁護士は、司法の問題が政治的争点にならないのは、票にならないからだろうと指摘する。これは日本人の正義観や民度にも直結する問題になってしまうが、まだ日本人の多くが「100人の罪びとを放免しようとも1人の無辜の民を刑することなかれ」の意味、つまりなぜ推定無罪が民主政の要諦なのかを十分に理解できていないということなのかもしれない。しかし、それを認めてしまっては、日本という国では正義が貫徹されていないことを認めることになってしまう。国民の側から警察や検察の暴走を制御しろという強い要請があるわけでもなく、かといって司法の問題に真剣に取り組んでも票や金になるわけでもない。しかも、既存のメディアもその司法体制の一翼を担っているため、それを批判することはメディアを敵に回すことにもなってしまう。政治と金とか景気のようなわかりやすいテーマがいくらでもあるときに、そんな面倒くさいテーマをわざわざ取り上げようという奇特な政治家や政党はほとんどいないというのが、現在の日本の現状なのだ。袴田事件の無罪判決を受けて畝本直美検事総長は10月8日、控訴を断念する談話を発表したが、その談話の大半は無罪判決に対する批判や不満の表明に費やされているという驚くべき内容になっていた。伊藤氏は、間違いを犯さないことが国民への信頼につながると検察が勘違いしていることが問題だという。捜査機関による証拠の捏造などあってはならないことだが、実際に起こってきた以上は、証拠がないのに有罪とされる人が出てきてしまう。そうなった時に、人権を守るための再審が速やかに開始されるように整備されなくてはならない。法の番人としての最高の権力の地位にあり、人権の最後の砦でもある最高裁の裁判官の審査は、そうした状況の下で行われることになる。国民審査では辞めさせたい裁判官がいれば投票用紙に「×」を書くが、そもそも空欄で提出すれば「信任した」とみなされてしまう。情報がないため誰に×をつければいいかわかないから全部を空欄で出せば、信任、つまり今の最高裁は本当によくやってくれているという意思表示をしたことになってしまうのだ。今回審査の対象となる6人の中には最高裁判事としての実績がほとんどない人もいるので、今回のマル激では少し対象を広げて、前回の総選挙以降に最高裁が判決や決定を下した重要な事件を取り上げ、その中で今回の審査対象となった裁判官の判断内容を同時にチェックした。判決としては今回は以下のものを取り上げた。・名張毒ぶどう酒事件再審請求事件・1票の格差を放置したままの選挙の無効を訴える訴訟2件(伊藤氏が代理人を務める)・経産省のトランスジェンダー女性にトイレの利用制限を科したことの是非を争う裁判・『宮本から君へ』で出演者の1人が薬物事件で逮捕起訴されたことを理由に助成金を取り消したことの是非を争う事件・沖縄県の意思に反して国が辺野古の基地建設のための埋め立て許可を代執行したことの是非を争う訴訟・犯罪の犠牲になった同性パートナーに犯罪被害者給付金を給付するかどうかをめぐる裁判・旧優生保護法下で不妊手術などを強制された被害者に対する補償に除籍期間を適用することの是非を争う裁判・性同一性障害の人が性別を変更するための手術要件が違憲かどうかをめぐる裁判日本が抱えている司法の問題とは何か、なぜこれだけ問題を抱えていながら、政治は一向に動こうとしないのか、冤罪をなくすために何が必要なのか、最高裁国民審査のポイントなどについて、弁護士の伊藤真氏と、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++今週の論点・袴田事件、大川原化工機事件―これほど大きな問題が起きても争点にならない司法改革・審査対象の最高裁判事はどんな人たちなのか・審査対象の判事がこれまで関わった裁判・「疑わしきは被告人の利益に」が社会に浸透していない+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++■ 袴田事件、大川原化工機事件―これほど大きな問題が起きても争点にならない司法改革神保: 10月27日に衆議院選挙があり、総選挙の場合は同時に最高裁の国民審査があります。国民審査は制度自体に問題があり、裁判官は任官した最初の総選挙で国民審査の対象になります。したがって対象になっているほとんどの人が最高裁の裁判官としては判決にあまり関与していない状態で審査されなければなりません。下級審の場合、裁判長などをしていれば名前が挙がることはありますが、実際にどういう判決を下してきたのかということをフォローすることは容易ではありません。判事の最高裁判決に不満があるのかどうか、本当はそれを審査をしたいのですが、そういう機会がありません。また最高裁は定年が70歳で、基本的には60代の人が裁判官になります。10年後にもう一度審査があるのですが、10年後には皆定年になっているので、実際は最初の選挙時に審査をするだけです。宮台: 僕たちはこれを何度も取り扱ってきましたが、初めて聞く人には分からないかもしれません。簡単に言うと、制度的ガス抜きがあり、国民が参加しているように見えて何も動かないんです。
1 / 214