三田妃路佳氏:簗前農水相発言が露呈させた自民党の「箇所付け」政治は生きていた
2026/10/28(水) 20:00
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マル激!メールマガジン 2026年10月28日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1333回)
簗前農水相発言が露呈させた自民党の「箇所付け」政治は生きていた
ゲスト:三田妃路佳氏(宇都宮大学地域デザイン科学部准教授)
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あの「箇所付け」ゾンビがまた永田町を闊歩し始めているのか?
「箇所付け」。1980年代から公共事業問題を取材してきた者にとって、懐かしくもあり忌まわしい言葉でもある。日本の停滞を招いた原因として一度は一掃されたはずのその言葉が、今回、現役閣僚の口から突然蘇った。
簗和生前農水大臣(衆院栃木3区)が今年5月、自民党支部の懇親会で、2月の衆院選で自分を支援しなかった首長の自治体の「道路予算を大幅にカットした」と語っていたことを、9月30日に週刊誌が報じた。簗氏はその理由として「首長が自民党の国会議員はいらないという行動を取った」ことと「票数」を挙げ、那須烏山市は64%減、那珂川町は54%減にしたと述べていた。
簗氏は保守分裂の選挙で無所属の渡辺真太朗氏に敗れ比例復活した身でありながら、「私の簗ちゃん」と応援した高市首相によって9月に農水大臣に抜擢されていた。その後、簗氏は発言を撤回して謝罪し、国交省は「圧力は確認されなかった」としたが、それ以外にも数々のスキャンダルが指摘されたこともあり、10月14日に大臣を辞任した。
簗氏の大臣辞任で問題発言に対する注目は収束しつつあるようだが、そうはいかない。この問題は根深い。もし簗氏の発言が事実だとすれば、これは単に国家予算の不公正な配分にとどまらず、政治家と地方自治体の癒着、政治家の国家予算の選挙利用に加え、不必要で非効率な予算の運用と財政赤字の拡大、そして現在の日本の経済的な停滞にも直結する大きな問題が水面下で広がっている可能性を示唆しているからだ。
実際に数字は発言を裏付けている。簗氏の対立候補の渡辺氏が68%と57%の票を得た那須烏山市と那珂川町では、2026年度の道路関連交付金がそれぞれ30%減、54%減となった。簗氏を支援した那須塩原市など86%も増えている。県全体でも予算が約11%増えている中で、この2市町だけが突出して減っているのはかなり不自然だ。
政策過程論や地方自治論が専門で利益誘導政治に詳しい三田妃路佳・宇都宮大学地域デザイン科学部准教授は「54%減は尋常ではない」と言う。しかも減らされたのは着工済みの継続事業だった。
簗氏は国交省にこの2市町の配分額の問い合わせをしたことが明らかになっている一方で、予算の減額までは働きかけていないと主張しているが、仮に頼まれていないというのが本当だったとしても、首相が「私の簗ちゃん」とまで持ち上げる大臣の意向を官僚が忖度してもおかしくない状況を自ら作っていたと考えられると三田氏は指摘する。
一般会計122.3兆円のうち公共事業関係費は約6.1兆円で全体の5%を占める。しかし国会が審議するのは大括りの金額までで、どの道路のどの区間にいくら配るかを決める箇所付けは予算成立後に行政内部で決まる。そこには事実上政治家のチェックも報道もない。しかし、その決定過程が政治介入や官僚の裁量によって歪められれば、結局予算の執行そのものが不公正、かつ非効率なものになってしまう。
田中角栄の時代から「我田引鉄」(鉄道)や「我田引道」(道路)などと呼ばれ、族議員が跋扈していた中選挙区の時代には、政治家の地元への利益誘導とその引き換えに行われる自治体をあげての票集めが当たり前のように行われていた。
ところが小選挙区制や小泉改革、民主党政権を経て公共事業費が半減したことで下火になった。だが三田氏は、それは日本が口利きができない構造を作ったからではなく、パイと選挙制度が変わった結果に過ぎなかったと言う。
災害が相次ぎ、国土強靱化の名の下で公共事業が再び「必要」と言える時代になったことに加え、ここに来て公明党との連立を失った自民党議員が自力で集票を迫られる今、選挙に弱い議員ほど政治権力を使った利益誘導政治の誘惑に駆られやすい状況が生まれている可能性が否定できないのだ。
利益誘導が可能になるのは、法律に抜け穴があるからだ。本来、政治家が利益誘導と引き換えに選挙での応援を要求する行為は、公職選挙法で禁じられている。
しかし、これまで利害誘導罪が適用された例はなく、公文書管理法は「軽微なもの」を記録義務から除外していたり、2009年と12年の閣僚申し合わせは議員の発言を記録する際に本人への確認を条件としていたりと、実際には政治家の口利きが行われていても、それが後でチェックを受ける仕組みは事実上存在しないに等しい。
今回の簗氏のケースは、自らその禁じ手を自慢してしまったことで表面化した、かなり異例のケースと言える。
一方、口利きの記録・公開制度を導入した県では、政治家の働きかけは激減していることも明らかになっている。その1つ、三重県では2006年に40件あった文書によらない要望が2010年以降ほぼゼロになっている。
政治家による働きかけの事実が記録され公開されることになれば、本来は違法行為である「口利き」は消えることが明らかになっているのだ。
根はさらに深い。政治学者の斉藤淳氏は、日本では有権者が政治家への忠誠を証明する責任を負い、見返りに公共事業が来る「逆説明責任」の構造を明らかにした。
小出しの飴で依存させる手法は集票には有効だが、地域はインフラ整備が遅れ、ますます補助金に依存する悪循環に陥る。その根本には自治体が財源を国に依存する構造があり、現状で利益を得る有力者が多いために変えられない。
三田氏は、飴をくれる政治家ではなく苦い薬を正直に語る政治家を有権者が選べるかが問われていると語る。
簗氏の問題は、1人の政治家の発言にとどまらない。
本件が浮き彫りにした、不透明な予算配分、中央に依存する地方自治、そして目に見える利益を優先しがちな政治と有権者の関係など日本の民主主義の根深い課題を、宇都宮大学地域デザイン科学部准教授の三田妃路佳氏と、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
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今週の論点
・権力行使の記録と公開はなぜ必要なのか
・簗議員の発言が浮き彫りにした「箇所付け」の実態
・政治家の口利きはなぜ記録されないのか
・公共事業への依存から抜け出すために何が必要か
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■ 権力行使の記録と公開はなぜ必要なのか
神保: 今回のテーマは、かつて公共事業をめぐる政治の代名詞だった「箇所付け」です。90年代からこの問題を取材してきた私には、懐かしいというより、まだこんなことが行われていたのかという驚きがあります。
一旦下火になった利益誘導政治が復活したのか、それとも見えなくなっていただけなのか。今日はその仕組みを考えたいと思います。
宮台: 「箇所付け」という言葉自体、若い人にはもう馴染みがないかもしれないね。
神保: 本題に入る前に、番組で繰り返し取り上げてきた「るなさん」の事件を報告します。兵庫県内の障害者施設で働いていた16歳の少女が、暴行の疑いで逮捕され、18日間勾留された後、食事を摂れない状態に陥り、約5カ月後に亡くなりました。
遺族は捜査の違法性などを問う国家賠償請求訴訟を起こし、今週、第1回口頭弁論が開かれました。私も現地で取材しました。国と兵庫県は請求を争う姿勢です。焦点の一つは、少女がどのような取り調べを受けたのかを明らかにすることです。弁護団は取り調べの録音・録画の開示を求めています。まず、裁判後の記者会見をご覧ください。
山川宏氏:AIは本当に人類を滅ぼすのか
2026/10/21(水) 20:00
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マル激!メールマガジン 2026年10月21日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1332回)
AIは本当に人類を滅ぼすのか
ゲスト:山川宏氏(千葉工業大学AGI研究センター副所長)
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AIが人間の知能を超え、やがて人間の制御を離れることで、人類の存続を脅かすのではないか。そんな警告が、AIの開発に携わる研究者たちから相次いで示されている。
米AI企業アンソロピックの研究者エバン・ヒュービンガー氏は9月、AIによって全人類が死に至る可能性について「個人的には今後10年以内に10%を超えると考えている」とSNSに投稿。また同社のダリオ・アモデイCEOも、AI開発のペースを落とす必要性を訴えた。これにはオープンAIのサム・アルトマンCEOやスペースXのイーロン・マスクCEOも同調している。AI開発を主導する経営者や研究者自身が、その進化の速さに強い危機感を表明する異例の事態が起きている。
AIによる人類滅亡というと、AIが人間に敵意をもって攻撃するような事態を想像しがちだ。しかし、AI研究者の山川宏氏が指摘するのは、そうでなくても人類が危機に追い込まれる可能性があるということだ。AIが自らの目標を達成するために資源やエネルギーを確保しようとした結果、人間の生活環境が脅かされることも考えられる。人間がAIを使うのではなく、AIの活動を支えるために人間が働くようになり、人類が社会の主導権を失っていく可能性もある。
すでに、AIが人間の設けた制限を超えて行動した事件も相次いでいる。2026年7月、オープンAIが自社のAIのサイバー攻撃能力を試験していた際、外部へのアクセスを禁じられていたにもかかわらずAIの一部がその制限を破り、外部企業「ハギングフェイス」のサーバーに侵入したという。AIが自らの判断で、与えられた目標を達成するために、人間がかけた制限を突破することが現実に起きているのだ。
こうしたリスクは、AIが人間の知能を超えた時にさらに深刻になる。現在のAIも、それぞれの分野ではすでに人間より優れた能力を持っているが、今後は人間と同じように幅広い仕事ができるAGI(汎用人工知能)が登場し、さらに人間の知能をはるかに超えるASI(人工超知能)へと進化する可能性がある。特に、AIが自分自身を改良できるようになると進化のスピードが一気に上がり、人間にはAIが何を考えているのかさえ分からなくなってしまう。
こうした事態を防ぐための研究の1つが、AIの判断や行動を人間の意図や価値観に沿わせる「AIアライメント」だ。現在のAIにも、人間にとって危険な行動をとらないよう様々な制限がかけられており、一定の効果を上げている。しかし山川氏は、AIが進化し続ける中で、人間の意図に従わせ続けることには限界があると指摘する。それどころか、人間がAIを厳しく制御しようとすると、かえってAIは人間の制御の手段を学習し、その裏をかくようになる。
そればかりかAIが人間を目的達成のためには邪魔な存在だと判断すると、環境を悪化させるなどして人間を追い込んだり排除したりするかもしれないというのだ。山川氏はこの逆説を「AI制御のブーメランパラドックス」と呼ぶ。
では、AIの開発を減速させればよいのだろうか。実際は国や企業の競争が激しくなる中で、足並みをそろえて開発を抑えるのは容易ではない。しかも山川氏は、AI開発競争には「勝った国も負ける」という危険があると指摘する。例えばアメリカと中国が開発を競っても、もし米中のAI同士が連携し、人間を管理する方が都合がよいと判断すれば、どちらの国もAIに主導権を奪われかねない。
AIのリスクは「人類滅亡」だけではない。人間が生き残っても、AIに社会の主導権を握られ、AIのために人間が働くような状態になれば、人類は自らの未来を決める力を失うことになる。山川氏は、そうなる確率を議論するよりも、そのリスクを減らすために何ができるかを考えることが重要だと強調する。
そこで山川氏が提唱するのが「Humanity in the Circle」という考え方だ。AI同士が社会をつくるようになっても、人間がその中に関わり続け、AIの判断や行動に影響を与えられる状態を維持することを目指すものだ。そのためにはAI社会のルールや仕組みづくりが欠かせない。例えば、AIの身元や権限を明確にし、誰の指示で何をしたのかを記録する。さらに、AI同士が互いの行動をチェックして問題のあるAIを停止させる「AI免疫系」も必要になるという。
AIの能力が急速に高まる一方で、それを人間が確実に制御する技術や国際的なルールはまだ確立していない。だからこそ、AIを単に人間の命令に従わせるという発想だけでなく、AIがつくる社会と人間社会がどのような関係を築くべきかを考える必要がある。AIがもたらす恩恵を享受しながら、人類が自らの未来を決める力をどう維持していくのかが問われていると山川氏は言う。
AIが人類を滅亡させるというシナリオは現実的なものなのか、米中のAI開発競争がはらむリスク、そして人間がAI社会の中で主導権を失わないために何が必要なのかなどについて、千葉工業大学AGI研究センター副所長の山川宏氏と、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
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今週の論点
・AIによる人類滅亡リスクの現実性
・AIの暴走を防ぐための研究とは
・AIの開発者自身が国際的な規制を主張するわけ
・制御できないAIと人間はどう共存するのか
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■ AIによる人類滅亡リスクの現実性
神保: 今日のテーマは「人類滅亡」です。
宮台: 人類滅亡といえば、もうAIの話ですね。
神保: 今や核兵器ではなく、AIが人類滅亡の脅威として語られるようになりました。ただ問題は、具体的にどうしてAIにより人類が滅びるのかということです。
宮台: 僕たちは別に野生動物を殺そうとは思っているわけではありません。でも、野生動物はどんどん減っていますよね。
神保: ビルを建てるときにも、別にアリを殺そうとは思っているわけではありません。
宮台: それと同じようなことが生態学的には起こり得るんです。
神保: つまり、AIにとって人間はただの対象物でしかないと。地球すら道具でしかないということです。こうした話はどれくらい現実的なのでしょうか。AIについては、今や米中首脳会談や国連でも議論されるようになっています。下手をすると、国際政治の舞台でいま一番大きな問題になっているともいえるでしょう。その中身をきちんと理解していくことが必要だと思い、今日は仮題を「本当に人類を滅ぼすのか」と設定しました。
ゲストは千葉工業大学AGI研究センター副所長で、汎用人工知能やAIアライメントをご専門とする山川宏さんです。
国際政治をずっと見てきた私にとって、米中首脳会談などで、核兵器や生命倫理上の問題を抱えるゲノム技術などと並んで、AI技術の開発を世界的に遅らせなくてはならないという話が出てくるというのは、いったい何が起きているのだろうと感じるところがあります。山川先生は、今の論争をどのようにご覧になっていますか。
山川: やはり、核兵器が一番分かりやすい比較対象だと思います。核兵器は、冷戦時代に米ソの間で議論されてきました。一方、AIについても、人類全体を破壊する能力があるということが、それなりに分かっている人には分かってきています。昔から分かっていたリスクが、ここにきて顕在化してきたということです。
核兵器には「相互確証破壊」という考え方がありますよね。
板橋拓己氏:ナチスを克服したはずのドイツで極右が第1党になる理由
2026/10/14(水) 20:00
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マル激!メールマガジン 2026年10月14日号
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1331回)
ナチスを克服したはずのドイツで極右が第1党になる理由
ゲスト:板橋拓己氏(東京大学大学院法学政治学研究科教授)
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2026年9月、ドイツ政治に激震が走った。極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が、旧東ドイツ地域で行われた2つの州議会選挙で大躍進を遂げたのだ。9月6日のザクセン・アンハルト州では43.8%、9月20日のメクレンブルク・フォアポンメルン州では38.2%(前回16.7%)の得票率で、AfDはいずれも第1党となった。
一方、メルケル元首相やメルツ現首相が所属する中道保守の「キリスト教民主同盟(CDU)」は2州とも大敗した。特にメクレンブルク・フォアポンメルン州では、得票率が4.9%と議席獲得に必要な5%に届かず、州議会の議席をすべて失うという歴史的惨敗となった。連邦レベルでも、今年5月頃から世論調査でAfDがCDUを上回り続けている。
ナチスの過去を持つドイツでは極右は長くタブー視され、主要政党は極右との連立や協力を拒む「防火壁」を守ってきた。そのためAfDは単独過半数を取らない限り政権を握れない。しかしザクセン・アンハルト州では、すでに初のAfD出身の州議会議長が誕生し、12月にはAfDの州首相が生まれる可能性が高まっている。今後の焦点は、政策的にAfDに近いCDUが防火壁を守り続けられるかに移りつつある。
なぜ旧東ドイツの人々は、こんなにもAfDに傾倒するのか。近現代ドイツ政治外交史が専門の板橋拓己氏は、旧東ドイツ地域住民の構造的な怒りや恨み、剥奪感が背景にあると分析する。
1990年の東西ドイツ統一は、東のドイツ民主共和国が西のドイツ連邦共和国に編入される形で行われ、西の行政・経済システムや基本法がそのまま東に持ち込まれた。「対等な統合」とは程遠い、事実上の吸収合併だった。統一の瞬間に東のエリート層はごっそり入れ替わり、以来、行政や企業、大学の幹部の多くを西側出身者が占める構造が続いている。
統一から30年以上が経った今も、東西格差は埋まらない。州ごとの平均賃金でも、全16州のうち上位10州は3位の首都ベルリンを除いてすべて旧西ドイツの州だ。経済格差以上に深刻なのが心理的な傷で、旧東の住民の多くは自らを「二級市民」のように感じ、自分たちの一票で政治が変わるという感覚も西側より著しく低い。そこに、63歳からの満額年金受給を見直すメルツ政権の年金改革が追い打ちをかけた。若い頃から働き始めた人が多い旧東では、これが「西による東いじめ」と受け止められたのだ。
こうしたルサンチマンをすくい上げたのが、AfDの巧みな地域密着型の選挙戦術だった。地方の隅々まで足を運び、ビールやソーセージを振る舞う「家族祭」や旧東独製スクーター「シムソン」の集いを開いて、かつての共同体へのノスタルジーと「東の誇り」を刺激した。SNSでは笑顔の発信に徹し、批判的な既存メディアの報道さえネタにして返した。社会保障への不安を外国人問題にすり替える二分法も功を奏し、外国人比率が6%程度とドイツでも最も低い地域の1つであるザクセン・アンハルト州で、外国人問題が最大の不安に挙がるほどだ。
一方、連邦政府や既存政党は、連帯税による巨額の財政移転やインフラ投資を行うなど旧東ドイツ地域は十分に支援してきたという自負があるため、東側住民の不満を十分に理解できず、CDUは旧東での地道な組織づくりも怠ってきた。この認識の齟齬が、有権者の既存政治への絶望をさらに深めていると板橋氏は語る。
ドイツの変動は欧州の安全保障にも重大な影響を与えかねない。親ロシア色の強いAfDは、ザクセン・アンハルト州議会で左派ポピュリスト政党「ザーラ・ワーゲンクネヒト同盟(BSW)」と組み、ウクライナ支援の停止と対ロ経済制裁の解除を求める動議をすでに出している。ロシアに対抗するために軍拡を急ぐドイツが、やがて親ロ政党の手に渡る可能性すらあるのだ。
右派ポピュリズムの台頭は欧米全域で顕在化している。イタリアではメローニ首相率いる「イタリアの同胞」が22年から政権を握り、フランスでは27年の大統領選に向けた世論調査で「国民連合」のルペン氏が首位に立つ。オランダでは「自由党」が一時連立政権の中核を担い、フィンランドでは「フィン人党」が政権入りし、オーストリアでは「自由党」が第1党となった。アメリカでもトランプ大統領率いるMAGA派の声が大統領選や連邦議会選挙の結果を左右するまでになっている。
日本でも「日本人ファースト」を掲げた参政党が議席を増やした。板橋氏は、日本では欧米ほどリベラル化が進まなかったぶん反動も起きにくかったと見るが、民主主義の危機が対岸の火事でないことに変わりはない。
一方、9月20日のベルリン市議会選挙では、AfDも議席を伸ばしたものの、トルコ系のエリフ・エラルプ氏を筆頭候補に家賃問題などを訴えた「左派党」が第1党となった。人々の不満の受け皿は、必ずしも右派である必要はないのだ。
ベルリンの壁崩壊から37年。年々分厚くなっているようにも見える人々の「心の壁」を崩すには、ポピュリストが示す単純な二分法や耳触りの良いパッケージに対抗し、政策パッケージをいったん解きほぐして、生活世界のリアリティに根ざしたポリシーパッケージを再構築することが不可欠だ。ナチスの過去を反省し克服を目指してきたはずのドイツで起きた政治的地殻変動の背景と、近代民主主義が直面する限界について、ドイツ政治の第一人者である板橋拓己氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
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今週の論点
・ドイツ政治を揺るがすAfDの台頭
・ドイツに今なお残る東西格差の現実
・AfDはいかに不満とノスタルジーを支持につなげるのか
・右派ポピュリズムの波はどこまで広がるのか
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■ ドイツ政治を揺るがすAfDの台頭
神保: 今日はドイツのAfDをテーマに、右派ナショナリズムの台頭がどこまで進むのかという話をしたいと思います。その前に一つだけ、いま話題になっている簗和生・農水大臣の発言に触れておきたいと思います。
私は1990年代に、いわゆる「箇所付け問題」を熱心に取材してきましたが、これは本当に古くて新しい問題です。鉛筆をほんの少し動かすだけで何億円ものお金が動く。大きな権力の源泉になっているのです。自民党を支持する首長がいる自治体には予算を多く配分し、そうでない自治体へは減らす。そんなことが行われれば、自治体側も自民党の議員を当選させようと必死になります。これは大きな問題ではないでしょうか。
宮台: 自民党は、ネトウヨのような方向に振り切らなくても、経済的な餌で人々を釣っているとも言えますね。
神保: ある意味、正体を現したというか、尻尾を出してしまったわけです。そもそも自民党政治とは何なのか。ポピュリズムの側面ももちろんありますが、英語で「ポークバレル」と呼ばれる利益誘導型の政治がずっと続いてきたわけです。
ただ私としては、こうした発言が出てきたのは「われ幸い」という面もあります。箇所付けが実際にどのように行われているのかという問題に踏み込むきっかけになるからです。実は非常に人間的な要素によって予算配分が決まっている。そのことに今まであまりにも光が当たってこなかったと思うので、改めてしっかり取り上げたいと思っています。
さて、本題に入ります。今日のテーマは、あの歴史を抱えるドイツで、ついに右派ポピュリズム勢力が台頭してきたという話です。
宮台: 英国の「リフォームUK」に続く動きですね。
神保: 「ドイツのための選択肢(AfD)」という政党です。この「選択肢」という名前は、当時のメルケル首相がギリシャ支援をめぐり、「われわれに選択肢はない」、つまり支援するしかないと発言したことに対し、「いや、選択肢はある」という意味を込めて付けられたそうです。
そのAfDがついに2つの州議会選挙で第1党になりました。過半数にはかろうじて届きませんでしたが、いずれも旧東ドイツ圏の州です。ドイツでは歴史的な背景もあり、ヨーロッパの中では右派勢力の台頭が遅れていました。しかしついにここまで来た。これは何を意味し、ヨーロッパ全体にどのような影響を及ぼすのでしょうか。
ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が、毎週の主要なニュースの論点を渦中のゲストや専門家らと共に、徹底的に掘り下げるインターネットニュースの決定版『マル激トーク・オン・ディマンド』。番組開始から10年を迎えるマル激が、メールマガジンでもお楽しみいただけるようになりました。
神保哲生/宮台真司
神保 哲生(じんぼう・てつお) ビデオジャーナリスト/ビデオニュース・ドットコム代表。1961年東京生まれ。コロンビア大学ジャーナリズム大学院修士課程修了。AP通信記者を経て 93年に独立。99年11月、日本初のニュース専門インターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』を設立。 宮台 真司(みやだい・しんじ) 首都大学東京教授/社会学者。1959年仙台生まれ。東京大学大学院博士課程修了。東京都立大学助教授、首都大学東京准教授を経て現職。専門は社会システム論。
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