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マル激!メールマガジン 2026年6月24日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1315回)
同志社国際高校への教育基本法14条違反認定が投げかける教育の政治的中立とは何かという問い
ゲスト:木村草太氏(東京都立大学法学部教授)
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 これを機に教育がもっぱら政治的に当たり障りのないテーマしか扱わない方向へ向かってしまうとしたら、それは由々しき事態ではないか。
 沖縄県名護市辺野古沖で、研修旅行中の同志社国際高校の生徒らを乗せた小型船が転覆し、生徒と船長が亡くなるという痛ましい事故が起きた。この事故を受け、文部科学省は同校の事前計画、当日の対応、安全管理、教育活動のあり方などに重大な問題があったとして、学校側の責任を厳しく指摘した上で、教育基本法14条違反があったとして同校を指導したことを明らかにした。教育基本法違反の認定などを受け、京都府では私学助成金の減額の検討に入ったという。
 今回、学校側に安全管理上、重大な瑕疵があったことに疑いの余地はない。しかし、文科省があわせて、同校が行っていた辺野古移設工事に関する学習について、教育基本法第14条第2項に反するとの見解を示したことについては、大いに疑問が残る。安全管理上の責任と、教育内容への行政介入は明確に分けて考えるべきだ。
 教育基本法14条は、第1項で「良識ある公民として必要な政治的教養は、教育上尊重されなければならない」とする一方で、その第2項では、法律に定める学校が「特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育その他政治的活動」をしてはならないと定めている。つまり同条は、学校における政治教育そのものを禁じているわけではなく、むしろ政治的教養の重要性を認めたうえで、特定政党への支持・反対を目的とする活動を制限しているだけだ。
 ここで問われるのは、そもそも辺野古移設問題という政治的争点を扱うこと自体が14条違反に当たるのか、それとも、特定の政治的立場を持つ人や団体と行動を共にした場合に限って問題となるのかという点だ。ただ、いずれにしても文科省は今回、「特定の見方・考え方に偏った取扱い」があったと判断しているが、それが直ちに法律が禁じている「特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育」に当たるのかについては、慎重な検討が必要だ。
この扱いを誤ると、今後の教育現場に対して「政治的にデリケートなテーマは扱わない方が無難だ」というメッセージとして受け止められる可能性がある。それを避けるためにも、まずどこが問題でそのような判定が行われたのかについては、基準が明確にされる必要がある。
 また、今回の14条違反の判定にはもう一つ重大な問題がある。それは文科省という政府の一機関が政治的中立性に対する事実認定を自ら行っていることだ。文科省は内閣や大臣の指揮監督下にあり、独立した第三者機関ではない。政治的な中立性の判定には、独立した専門家や審査員が介在する仕組みが必要だ。プレイヤーである政治家やその指揮下にある行政機関が審判を兼ねる構造での事実認定は、結論がどうであれ、その正当性自体に重大な疑念が生じると、東京都立大学法学部教授で憲法学者の木村草太氏は指摘する。
 辺野古への米軍基地移転問題に限らず、原発、憲法、安全保障、ジェンダー、入管、気候変動、貧困など、現代社会の重要な課題の多くは政治的争点でもある。学校がそうしたテーマを扱うことを避けるようになれば、主権者教育は形式的な制度説明にとどまり、それでは現実社会を自分で判断する力は育たたない。
しかも、その判断を政権の指揮下にある文科省が単独で下せるということになれば、学校の教育現場は厭が応にもその時々の政権の政治信条に忖度しなければならなくなる。実際、今回の文科省判断については、全国の主権者教育や平和学習に萎縮効果を及ぼしかねないとの懸念が指摘されている。
 これは総務省が放送法4条の政治的中立性を単独で判定することの是非を巡る議論と同根の問題でもある。
 重要なのは、政治的争点を学校から排除することではない。むしろ、対立する意見や歴史的背景、権力関係を含めて現実を複眼的に学ぶことこそ、教育基本法がいう「良識ある公民として必要な政治的教養」に適うはずだ。
 近年、デリケートな問題に対する政治的なスタンスを表明した瞬間に、「偏っている」と指弾される風潮が国全体を覆っているように見える。しかし何かを真剣に考えることは、必然的に何らかのスタンス、すなわち偏りを持つことだ。それを否定した先にあるのは、バランスの取れた考えではなく、何も考えていない状態や無関心にすぎない。
 教育基本法の違反認定をもとに、プレイヤーが審判を兼ねることを許してしまうことの問題と、それが社会にどのような影響を及ぼすかなどについて、憲法学者の木村氏とジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
 また番組では、日本の刑事司法における人質司法が、16歳の少女の命を奪った悲劇的な事件と、皇室典範の改正問題も取り上げた。

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今週の論点
・人質司法が奪った16歳少女の命
・文科省による「教育基本法違反」認定プロセスの問題点
・教育基本法違反認定と高市元総務大臣「停波」発言の共通点
・皇室典範改正問題――男系男子維持派の熱量はなぜ高いのか
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■ 人質司法が奪った16歳少女の命
神保: 今日は高市政権がやっているいくつかのことをテーマにしたいと思います。メディアがきちんと報じていないことに不満や危機感を持っているので、そこをしっかり拾っていきたいと思います。また法曹関係でもあまりにもひどいことがたくさん起きているので、最近のニュースもいくつか取り上げたいと思います。本日のゲストは東京都立大学法学部教授の木村草太さんです。木村さんに前回出演していただいたときは共同親権の話を、その前は天皇の人権の話をしました。

 さて今週、神戸である国家賠償訴訟が提起されました。16歳の女性が母親の経営する知的障害者の施設で働いていたのですが、あるイベントの会場で、知的障害のある参加者が人に噛みつこうとしたり自分のことを噛もうとしたりしたところ、それをやめさせるために口元を押さえるということがありました。それを見ていた別の知的障害のある参加者が行政に話をし、最終的に警察まで行き、16歳の女性と、別の男性が逮捕されました。

 その結果、16歳の少女は例の「人質司法」で18日間勾留されました。詳しいことはビデオニュースのサイトにも記事が出ています。本人はもちろん否認しましたが、その間は親との接見も禁止され、18日間取調べを受けたことでPTSDを発症してしまいました。ご飯が一切食べられなくなり、最初に捕まった時は37キロだった体重が、最終的に20キロまで減ってしまいました。18日後に釈放されたのですが、その5か月後に亡くなりました。
その間も医療を受けていたのですが、栄養を一切取れない状態になってしまい、事実上の低栄養症になり餓死してしまいました。これは去年の12月のことです。 
マル激!メールマガジン 2026年6月17日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1314回)
身寄りの社会化だけで広がる独居高齢者問題を解決できるのか
ゲスト:沢村香苗氏(日本総合研究所創発戦略センターシニアスペシャリスト)
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 身寄りのない高齢者の問題が、もはや一部の人たちだけの特殊な課題ではなくなっている。
 内閣府の推計によれば、誰にも看取られることなく亡くなり、死後8日以上経ってから発見された「孤立死」は年間約2万1000人に上る。また、引き取り手がないために自治体が火葬などを行うケースは、2023年度だけで全国推計約4万人に達している。
 これまで「孤独死」や「無縁社会」といった言葉で語られてきた問題だが、いま起きているのは単なる社会的孤立の拡大ではない。未婚化や少子化、家族形態の変化を背景に、「頼れる家族がいないまま老後を迎えること」が、ごく普通のことになりつつあるのだ。
 『老後ひとり難民』の著者で、「おひとりさま」高齢者や身元保証サービスを長年取材・研究してきた日本総研シニアスペシャリストの沢村香苗氏は、身寄り問題が多くの人にとって切実で身近な課題になっていると指摘する。
 こうした状況を受け、政府もようやく制度整備に乗り出した。今国会では社会福祉法等改正案が審議されており、身寄りのない高齢者らに対して、日常生活支援や入院・施設入所時の手続き支援、さらには死後事務までを担う事業を第二種社会福祉事業として位置づけた上で、相談体制の整備を進めようとしている。
 一方で、判断能力が低下した人を支援する成年後見制度についても見直しが進んでいる。沢村氏によれば、障害者権利条約との関係で批判を受けてきた成年後見制度の改革論議と、身寄り問題への対応が一体化し、新たな支援制度を創設しようとする流れが生まれているという。
 しかし、制度を整えれば問題は解決するのだろうか。
 高齢になれば、誰しも心身の衰えに直面する可能性がある。夫婦世帯であっても、一方が認知症になり、もう一方が病に倒れることは珍しくない。公共料金の支払いや各種契約、福祉サービス利用の手続き、入院や施設入所時の身元保証、緊急連絡先の確保等々、これまで家族が当然のように担ってきた役割を、誰が引き受けるのかという問題が浮上する。
 現場ではこれまで、ケアマネジャーや民生委員、医療ソーシャルワーカーなどが事実上その穴を埋めてきた。しかし、すでに現場の対応能力は限界に達しているとの指摘が国会でも相次いでいる。
 特に懸念されるのは、公的な支援の対象から漏れやすい人たちの存在だ。成年後見制度を利用するほど判断能力が低下しているわけではない。生活保護受給者でもない。沢村氏は、こうした「支援のはざま」に置かれた人々が、高齢者全体の3分の2近くに及ぶ可能性があるとみている。
 近年は、身元保証や死後事務を請け負う終身サポート事業も増えている。しかし、その実態は十分に把握されていない。総務省が3年前に調査を行ったものの、事業者の半数は設立から5年未満であり、契約者の死後まで含めたサービスを安定的に提供できているのかは不透明だ。
 さらに、こうした事業を誰が担うのかという根本問題も残る。民間事業として採算は取れるのか。公的関与はどこまで必要なのか。利用者から預かった資金をどう保全するのか。実際、10年ほど前には事業者の経営破綻によってサービス停止や預託金消失が発生した事例もあり、同様の事態を防ぐ制度設計が不可欠となっている。
 だが、より本質的な問いは別のところにあるのではないか。
 家族が担ってきた役割を社会化することで問題は解決するのか。それでは制度やサービスに置き換えられない関係性やケアの問題が残るのではないか。私たちは家族という存在をどのように位置づけ直し、超高齢社会にふさわしい支え合いの仕組みを構想すべきなのか。
 今週のマル激は、『老後ひとり難民』著者の沢村香苗氏をゲストに迎え、社会学者の宮台真司とジャーナリストの迫田朋子が、身寄り問題の現状と課題、そして家族なき時代の新たな支援のあり方について議論した。

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今週の論点
・「孤立死」2万人の衝撃
・高齢者「身寄り問題」の国会議論のポイント
・身元保証ビジネスや家族代行ビジネスの難しさ
・あなたの「身寄り力」はどのくらいですか
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■ 「孤立死」2万人の衝撃
迫田: 今日のテーマは「身寄り問題」です。2000年に介護保険ができた時は「介護の社会化」という言葉が使われていましたが、今は「身寄りの社会化」ということが言われており、国会でも議論されています。身寄りのない一人暮らしの高齢者がどんどん増えている中で、例えば亡くなったらどうするのか、身元保証はどうするのかという議論ですね。

宮台: 昔から問題になっていたことですよね。2005年頃から「孤独死」が問題になりました。日本発で世界中に孤独死問題が知られるようになりましたが、それから10年も経たないうちに、遺骨や遺品の引き取り手が誰もいないという「無縁死」の問題が出てきました。多くの場合は無縁仏として共同墓地に埋葬されます。
コロナ前ぐらいから「終活」という言葉が話題になり、終活ビジネスも広がっています。身寄りがない、あるいは家族や親族を全く頼れない人が自分の死の段取りについて相談してコンサルベースで死後のことを決めてもらい、死んだら速やかに、場合によっては親族に全く知らせずに問題を処理してもらうといったビジネスですね。

 ただ、孤独死や無縁死する前にはどういう生活をしていたのかという問題ですが、女は物屋敷になり男はゴミ屋敷になるというようなこともよく知られています。それは、今でいう「身寄り問題」です。

迫田: ただ今は、そういう事例だけではないんです。私も最近たまたま知り合いから相談されたのですが、とても親しくて友達がたくさんいるような人が70代で突然死しました。しかしその遺骨は役所にあると。友人たちは納骨してあげたくても何もできないという状態が起きているということでした。それが今国会でも議論されている「身寄り問題」ということなんです。

 本日のゲストは日本総合研究所創発戦略センターシニアスペシャリストの沢村香苗さんです。沢村さんは10年ぐらい前からずっとこの問題を扱ってこられました。この10年間で急速に問題が広がっていると感じることはありますか。

沢村: 10年前は困る人は本当に困っていて、特にお一人暮らしやお二人暮らしの高齢者の方が困り始めておりビジネスもできてきたという段階でした。当時はマスコミの方などにお話ししてもまだピンとこないような感じだったのですが、ここ数年は報道も増えています。おそらく周りに同じようなエピソードが増えてきて、社会的に稀ではなくなってきているのだと思います。

宮台: これまで孤独死というと65歳以上でしたが、今は65歳未満の人が過半数になりました。現役世代でも孤独死するということです。僕の周りでも同世代の人たちが次々と孤独死している。全く意外な人が孤独死するということに直面しています。

迫田: 去年公表されたデータでは、死後8日以上で発見される「孤立死」をした人が推計2万1,000人います。また引き取り手のない遺体が全国で推計4万人となっています。これは日本総研で調査されたものなんですよね。

沢村: はい。厚生労働省の補助金事業で、自治体にどのぐらい孤立死があるのかを調査し、そこから推計した数字です。 
マル激!メールマガジン 2026年6月10日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1313回)
AIが下した価値判断の責任を人間は引き受けられるのか
ゲスト:村上祐子氏(立教大学人工知能科学研究科教授)
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 生成AIが猛スピードで社会に浸透し始めている。
 メールや企画書の作成を手伝わせる程度ならまだしも、最近では人生相談や恋愛相談、さらには家族とのトラブルや精神的な悩みまで、ChatGPTなどの生成AIに打ち明ける人が急速に増えている。
 マイナビが正社員を対象に行った調査では、回答者の2割以上が生成AIに人生相談をした経験があると答えている。もはやAIは単なる検索エンジンではなく、人々にとって「相談相手」としての地位を獲得しつつあるようにも見える。
 しかし、その変化はわれわれが思っている以上に重大な意味を持つのではないか。
 生成AIは便利だ。何を聞いても答えてくれる。しかも、その答え方は驚くほど人間的だ。共感し、励まし、時には慰めてくれる。だが、そこで見落とされがちなのは、AIは人間ではないという当たり前の事実だ。
 AIは経験を持たない。身体も持たない。苦痛も喜びも感じない。そして何より、自らの助言がもたらした結果に責任を負うこともない。
 にもかかわらず、人はAIと対話を重ねるうちに、その助言をあたかも信頼できる人格からのアドバイスであるかのように受け止め始める。
 その危うさを示す事例がすでに日本でも現実に起き始めている。
 今年5月、プロ野球・読売ジャイアンツの阿部慎之助監督が、18歳の長女への暴行容疑で現行犯逮捕されるという事件が報じられた。報道によれば、長女は父親からの暴力についてChatGPTに相談し、その助言に従って児童相談所に連絡したとされる。長女はまさか警察に連絡され自分の父親が逮捕されるとは想像もしていなかった。ましてや自分の父親がジャイアンツの監督を退任しなければならなくなるとも。
 もちろん、家庭内暴力の被害者が相談先を求めること自体は何ら問題ではないし、被害者が責められる理由もない。しかし、この出来事は別の問いを私たちに突きつけている。
 人はAIの助言をどのような重みで受け止めるべきなのか。AIはどこまで人間の行動に影響を与える存在になりつつあるのか。そして、その結果に誰が責任を負うのか。
 実際、アメリカではより深刻な問題も起きている。対話型AIとのやり取りが自殺につながったとして、遺族がAI開発企業を提訴するケースが相次いでいるのだ。
 原告側は、AIの設計上の欠陥や危険性に関する警告不足が悲劇を招いたと主張する。一方で企業側は、利用者自身の行動まで責任を負うことはできないと反論している。
 この論争は単なる製造物責任の問題ではない。
 今、私たちは社会の重要な判断を誰に委ねるのかという、より根源的な問題に直面しているとも言える。
 立教大学人工知能科学研究科の村上祐子教授は、AIそのものよりも、人々がAIをどう受け入れているかに強い懸念を示す。
 そもそも多くの人はAIの仕組みをほとんど理解していない。検索エンジン、顔認識、迷惑メール判定など、AIはすでに社会のあらゆる場面に組み込まれている。しかし、そのことを意識している人は少ない。ましてChatGPTのような生成AIについては、「聞けば答えてくれる便利なサービス」程度の理解で利用している人が大半だろう。
 問題は、その状態のままAIへの依存が進むことだ。困ったらAIに聞く。迷ったらAIに相談する。判断に迷ったらAIの提案を採用する。そうした行動が日常化すると、人間はいつの間にか自ら考え、自ら判断する習慣を失っていく可能性がある。
 しかもAIは中立ではない。その出力には、学習データや設計思想、開発企業の価値観が反映されている。しかし利用者は、その背後にある価値観を吟味することなく、AIが示した答えを「合理的な判断」として受け入れてしまう。その結果、人間自身の価値判断が徐々にAIに代替されていくことになる。
 村上氏が特に懸念するのは、そのプロセスが社会インフラとして固定化されてしまうことだ。一度社会の仕組みに組み込まれた技術は、後から修正することが容易ではない。気づいたときには、人間が判断しているつもりで、実際にはAIが提示する選択肢の範囲内でしか考えられなくなっているかもしれない。
 ローマ教皇レオ14世は5月25日に発表した回勅の中で、AIを巡る問題の本質をこう表現している。AIには身体も経験もなく、苦しみも喜びも感じることができない。AIは結果に対する責任を負わないため道徳的良心も持ち得ない、と。
 これは単なる技術批判ではない。むしろ、人間にしか果たせない役割とは何かを問い直す呼びかけと受け取るべきだろう。
 生成AIの急速な普及によって、私たちはかつてない利便性を手に入れた。しかし同時に、自ら考え、自ら判断し、その結果に責任を負うという人間の根本的な営みを、どこまで機械に委ねてよいのかという新しい問いに直面することとなった。
 AIに価値判断を委ねた社会の先に何が待ち受けるのか。そして、人間はその社会においてなお主体であり続けることができるのか。今週のマル激では、立教大学人工知能科学研究科教授でAI倫理が専門の村上祐子氏をゲストに迎え、生成AIが社会にもたらす変化と、人間が失ってはならない判断と責任について、ジャーナリスト神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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今週の論点
・AI黎明期にリテラシー教育が追いついていない
・生成AIがもたらす「デジタル植民地主義」とは
・アメリカで相次ぐ生成AIによる自殺をめぐる訴訟
・AI時代にローマ教皇が問う「人間とは何か」
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■ AI黎明期にリテラシー教育が追いついていない
神保: 今日のテーマはこれまで何度か取り上げてきたAIです。日本でもアメリカでも新しい動きがあったと思うので、ここで一度整理しておくには良いタイミングだと思いテーマに選びました。

 アメリカはこれまでAIについてはハンズオフアプローチだったのですが、トランプ大統領がついに大統領令に署名し、新規の生成AIが市場に出る30日前までに政府に全て公開し、安全性などをチェックしなければ出してはいけないということになりました。これは一応ボランタリーということになっていますが、トランプ政権が初めてAIに対して何らかの制限をかける大統領令に署名しました。

 良くも悪くもAIはこれまで完全にハンズオフアプローチをしてきて、その間にものすごく発展しました。それに伴い実際に市民生活の中にもいろいろな影響が出ています。AIがものすごい勢いで一般の市民生活に入り込んできていますが、そのスピードがあまりにも速いため、いったい何者なのかが分からないまま、便利だと言って使っている状態です。

 しかし、例えばそこに個人情報を含む色々なことを明かしてしまっている人もいるでしょう。それが大丈夫なのかという問題もあります。誰がそれを見ることができるのかということも含め、もう少ししっかり押さえておいた方が良いですね。AIは調べものなどをする際には本当に便利なのですが、もう少し理解する必要があると思います。

 ゲストは立教大学人工知能科学研究科教授の村上祐子さんです。お話ししたように、アメリカではAIをめぐり色々な動きがあります。来週にはAIとドッキングしたスペースXが上場し、そこにとんでもないお金が入る。またAIに関連する自殺が相次いで訴訟になっています。 
マル激!メールマガジン

ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が、毎週の主要なニュースの論点を渦中のゲストや専門家らと共に、徹底的に掘り下げるインターネットニュースの決定版『マル激トーク・オン・ディマンド』。番組開始から10年を迎えるマル激が、メールマガジンでもお楽しみいただけるようになりました。

著者イメージ

神保哲生/宮台真司

神保 哲生(じんぼう・てつお) ビデオジャーナリスト/ビデオニュース・ドットコム代表。1961年東京生まれ。コロンビア大学ジャーナリズム大学院修士課程修了。AP通信記者を経て 93年に独立。99年11月、日本初のニュース専門インターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』を設立。 宮台 真司(みやだい・しんじ) 首都大学東京教授/社会学者。1959年仙台生まれ。東京大学大学院博士課程修了。東京都立大学助教授、首都大学東京准教授を経て現職。専門は社会システム論。

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