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マル激!メールマガジン 2026年7月15日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1318回)
この再審法改正で冤罪被害者は救えるのか
ゲスト:稲田朋美氏(衆院議員)
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 日本の刑事司法には、長年「開かずの扉」と呼ばれてきた制度がある。再審制度だ。
 再審とは、確定判決に重大な誤りがあり、新たな証拠などによって有罪認定に合理的な疑いが生じた場合に、あらためて裁判をやり直す制度のこと。日本では再審開始までのハードルが極めて高く、手続きに関する規定も十分に整備されていないため、冤罪被害者やその支援者、弁護士らが長年にわたり法改正を求めてきたが、再審制度を所管する法務省は抜本的な改正に慎重な姿勢を取り続けてきた。結果的に開かずの扉の向こう側で、無実の人間が何十年も塀の中に閉じ込められてきた。
 しかし、袴田事件や福井事件など再審によって一旦は確定した有罪判決が覆る事例が相次いだことで、再審制度を70年ぶりに見直す機運が高まり、現在、再審法(刑事訴訟法の再審条項)の改正案が今国会で審議されている。ところが、提出された法案の中身と、そこに至る審議の過程を仔細に見ていくと、この改正が本当に冤罪被害者を救うためのものなのか、大きな疑問を抱かざるを得ない。
 まず、今回の法改正議論の背景にある冤罪事件のすさまじさを確認しておきたい。
 袴田事件では、1966年の逮捕から2024年の再審無罪確定まで、何と58年もの歳月が費やされた。逮捕から釈放まで実際に袴田巌氏が拘禁された期間は47年7ヵ月に及ぶ。しかもその大半を、袴田氏はいつ刑が執行されるかわからない死刑囚として、恐怖の中で過ごすことを強いられた。
 福井事件はさらに露骨だ。1986年に起きた女子中学生殺害事件で逮捕された男性に対し、検察は客観的な裏付けとなるテレビ番組の放映日を偽った捜査報告書を隠蔽し、事実上有罪判決を騙し取っていた。男性が逮捕から38年を経て2025年に無罪を勝ち取るまでの道のりは、筆舌に尽くしがたいものだった。
 なぜ冤罪被害者の救済にこれほどの時間がかかるのか。要因は2つある。検察による不服申し立て(抗告)が認められていることと、証拠開示規定の欠如だ。裁判所が再審開始を決定しても、検察が抗告を繰り返せば手続きは際限なく長期化する。実際、袴田氏は最初に再審の決定が下ってからも、検察が抗告を繰り返したために、無罪の確定までに9年もの不要な年月を費やすことになった。
しかも検察には弁護側に証拠を開示する義務がないため、被疑者や被告人の無実を証明する証拠が検察の倉庫に眠ったまま、そもそも再審の扉を開くこともできない事態が常態化してきた。
 今回の法改正はこうした状況を正すことが目的、のはずだった。ところが、今回法務省が提出した法案は、被害者救済の観点からは到底満足できる内容になっていない。
 法案では検察の不服申し立ては原則禁止とされているが、「十分な根拠がある場合」には例外的に認めるという大きな抜け穴を残した。もう一つの焦点である証拠開示についても、裁判所が請求理由に関連があると判断したものに限って開示させる「提出命令制度」の新設にとどまっている。さらに問題なのは、証拠の目的外使用を罰則付きで禁止する条項が盛り込まれたことだ。
この規定により、冤罪の第三者検証や、メディアによる報道までもが処罰の対象となる危険性が指摘されている。冤罪被害者を救うための法改正が、冤罪の検証を妨げる道具になりかねないのだ。
 なぜこのような骨抜き法案が提出されることになったのか。実は当初、国会内では超党派の「えん罪被害者のための再審法改正を早期に実現する議員連盟」が発足し、議員立法による法改正が目指されていた。議連は自民党の柴山昌彦氏が代表を務め、昨年4月時点で与野党の国会議員の過半数を上回る384名が参加するなど、議員立法による法案の提出と可決成立は十分に可能な体制が確立していた。
 議連がまとめた法案は、検察による不服申し立ての全面禁止、請求人への直接的な証拠開示と証拠一覧表の開示を定め、目的外使用の禁止規定も存在しない。冤罪被害者や弁護士らが長年求めてきた「満額回答」と言っていい内容だった。
 ところが、与党自民党は途中でこの議員立法の枠組みから離脱し、法務大臣から法制審議会に諮問する方針へと転換してしまった。法制審議会の事務局を担うのは法務省であり、法務省の中枢を占めるのは検察官だ。要するに、当事者である検察の「組織防衛」が露骨に優先された形となったのだ。結果的に議連案は、野党3党の共同提出という形で国会に上程されたが、自民党を含む反対多数で否決されている。
 議連で幹事長代理を務め、4月6日の自民党会合で法務省に猛抗議して注目を集めた稲田朋美衆議院議員は、権威ある法制審議会ならまともな法律を作ってくれると信じていたが、実態はまったく違ったと憤りを隠さない。法務省に騙されたとの思いを禁じ得ないと稲田議員は言う。
 ここで問われるべきは、より根源的な問題だ。なぜ国民から選ばれた政治家が、一行政機関に過ぎない法務省や検察を適正に統制できないのか。その根底には、政治家の側に深く根付いた、検察の捜査権に対する「恐怖感」がある。日本では公職選挙法や政治資金規正法の解釈にグレーゾーンが広く残されており、検察の裁量や匙加減ひとつで、多くの議員がいつでも捜査の対象にされ得る。検察を統制すべき立場の政治家が、検察に生殺与奪の権を握られているという転倒した権力構造が、そこには存在している。
 日本の刑事司法の現状は、国際的な常識からも大きく逸脱している。欧米の先進国では、検察による意図的な証拠隠匿は、司法妨害や職権乱用として明確な刑事罰の対象となる。翻って日本では、検察が自らに不利な証拠を長期間隠し続け、無実の人の人生を破壊した事実が発覚しても、誰一人として刑事罰に問われることはない。形式的な反省の弁が述べられることはあっても、組織としての真摯な謝罪すら拒み続けているのが実情だ。
 議連案の作成に携わった稲田氏は、与党の国会議員として最終的に法務省案を飲まざるを得なかったことに悔しさをにじませる。自らが作成に参加した満点の議連案に、反対票を投じることになってしまったのだ。しかし、同時に稲田氏は、今回の政府案が成立すれば、70年以上まったく手がつけられてこなかった再審制度における小さな「一歩前進」にはなるかもしれないとも語る。
 今回の改正案だけで冤罪を防ぐことはできないかもしれない。しかし、不十分な法制を今後さらにアップデートしていくと同時に、強すぎる検察権力を政治と社会がいかに民主的に統制していくかという、国家の根幹に関わる課題に、これからも私たちは向き合い続けなければならない。
 今国会で可決が見込まれる再審法改正案に対する評価と、真に正義が機能する司法を実現するために何が求められるのかなどについて、ゲストの稲田朋美氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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今週の論点
・再審法改正のゆくえ
・政治家はなぜ検察に恐怖を抱くのか
・超党派議連による議員立法が実現しなかった理由
・間違いを犯しても謝らない検察組織は変わらなければならない
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■ 再審法改正のゆくえ
神保: 今日は議員会館に来ています。いま参議院で山場を迎えている、再審法の改正案について議論したいと思います。一連の冤罪事件を受けての再審法改正が、いよいよ実現するかという瀬戸際ですね。現在の法案が本当に十分なのか、色々と思うところもありますが、理想とはほど遠いかもしれないが一歩前進だという評価もあります。それらも含めて再審法の改正案について議論していきたいと思います。

宮台: 今日は皇室典範改正をめぐる採決も行われました。再審法も皇室典範も、日本で憲法的な体制の本質を貫徹することができるのかという問題です。女系か男系かといった議論は明治維新以降に出てきただけで、元々あったものではありません。「女系天皇ダメ」のような建付けはいったい何のために誰が言っているのか。天皇の政治利用の問題ですが、これも日本が立憲体制である以上、見逃せない問題です。
そういう重大な問題が国会で問題になっているということを頭に留めていただきたいと思います。

神保: さて、本日のゲストは衆院議員の稲田朋美さんです。今回、再審法をめぐり、稲田さんや井出庸生さんなどが積極的に発言をされていました。稲田さんは政府案に対して異議申立てをしていますが、特に再審法改正案に対してそこまで強くこだわっている理由や動機はどこにあるのでしょうか。

稲田: 私が再審法を改正しなければいけないと思ったのは袴田さんの再審開始決定が出た3年ほど前です。それまで刑事訴訟法はほとんど触ったことがなかったので、本当に白地から始めました。やはりこれだけ長く冤罪の被害を救済できないということは、憲法の迅速な裁判を受ける権利や、ずっと密室でやられていたということで公開の原則にも反します。再審法の世界では憲法の精神が生きていないことに驚愕し、改正しなければいけないと思い、取り組み始めました。

 最初の勉強会で鴨志田祐美弁護士と法務省審議官のやり取りを聞き、何十年も冤罪が晴れない事実の重みと、机上の理論をおっしゃっている法務省を比べ、弁護士会が言っていることが正しいと確信しました。その後、私の地元で福井事件というひどい冤罪事件が無罪になったこともあり、これは取り組まなければいけないという思いでやってきました。

神保: 再審法の改正については、長い間動かなかったものがようやく動き始めました。日本ではなぜか再審のハードルがとても高いのですが、改正によって少しは西側先進国として恥ずかしくないレベルになるかなという段階です。
特にそのきっかけとなったのは袴田事件でした。これは事件の捜査自体がめちゃくちゃで、判決では証拠のねつ造まであったということが言われています。袴田さんは無罪が確定するまで58年間、死刑囚の身分でした。再審請求が最初に認められてからも、再審無罪が確定するまでには9年間もかかりましたね。 
マル激!メールマガジン 2026年7月8日号
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1317回)
日本が金利のある時代に戻るということの意味
ゲスト:中空麻奈氏(かんぽ経済研究所主席研究員)
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 日本銀行は6月16日、政策金利にあたる無担保コール翌日物金利の誘導目標を、それまでの0.75%程度から1.0%程度へと引き上げた。政策金利が1%台に戻るのは1995年以来、実に31年ぶりのことになる。日銀は同時に、今後も経済・物価・金融情勢に応じて政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していく考えを示している。
 いよいよ日本にも「金利のある世界」が戻ってきたようだ。
 しかし、そうであるならば、われわれはまず、この30年近く続いた「金利のない世界」とは一体何だったのかを総括しなければならない。そして同時に、金利が復活するとは何を意味し、それが企業、家計、財政、そして日本という国の将来にどのような影響を及ぼすのかを考えておく必要がある。
 金利とは、単に住宅ローンや預金の利息の問題ではない。金利はお金を借りる際のコストであると同時に、時間の値段であり、リスクの値段であり、通貨に対する信認を示す指標でもある。景気が過熱し、物価が上がりすぎれば、中央銀行は金利を上げて消費や投資を抑える。逆に景気が悪く、物価が下がるデフレ局面では、金利を下げて経済活動を刺激する。これが金融政策の基本的な考え方だ。
 ところが日本は、バブル崩壊後の不良債権処理の遅れやデフレの長期化の中で、1990年代後半以降、政策金利をほとんどゼロ近辺に張り付かせる時代に入った。1999年にはゼロ金利政策が導入され、2016年にはマイナス金利付き量的・質的金融緩和に踏み込んだ。そのマイナス金利が解除されたのは2024年3月であり、そこから2年余りを経て、今回ようやく1%という水準に戻ってきたことになる。
 今の30歳前後以下の世代は、物心がついてから「金利のある社会」をほとんど経験していない。企業経営者も、政治家も、われわれ生活者も、いつの間にか金利がないことを所与の条件として行動するようになっていた。国はいくら借金をしても当面は利払い負担が大きくならず、企業は低いコストで資金を調達でき、家計は預金に利息がつかないことを当然のものとして受け入れてきた。
 しかし、金利がなかったことには、当然ながら副作用もあった。
 本来、超低金利は、痛みを一時的に和らげている間に、次の成長に向けて産業構造を転換するための猶予期間だったはずである。ところが現実には、その猶予は十分には活かされなかった。低金利は、資金繰りに苦しむ企業を救う一方で、本来なら退出を迫られるはずの低生産性企業を延命させる効果も持った。借り換えさえできれば何とかなるという環境が続いた結果、企業の新陳代謝は進まず、労働市場の流動化も遅れ、成長産業への人材と資本の移動も十分には起きなかった。
 つまり、金利の復活とは、単に銀行預金に少し利息がつくようになるという話ではない。長く日本経済を覆ってきたモルヒネが切れ始めるということでもある。
 今回の利上げが、日本経済の力強い成長を背景にしたものであれば、それは通常の金融政策の正常化として歓迎できる。しかし、今回の日銀の説明を見る限り、背景にあるのはむしろ、中東情勢による原油価格上昇、円安、食料品価格の上昇、そしてインフレ期待の上振れである。日銀自身も、物価上昇が幅広い品目に波及し、基調的な物価上昇率が2%目標を上回るリスクに言及している。
 つまり今回の利上げは、「景気が強すぎるから冷やす」というよりも、「物価と為替と信認の圧力に押されて、利上げせざるを得なくなった」という側面が強い。ここに、今回の局面の難しさがある。
 しかも、通常であれば日本の金利が上がれば、円を買う動きが強まり、円高に向かってもおかしくない。ところが実際には、円安が止まっていない。6月末から7月初めにかけて円相場は1ドル162円台後半まで下落し、39年半ぶりの円安水準を記録した。
 これは何を意味しているのか。
 もちろん、日米の金利差はなお大きい。しかし、ゲストで経済アナリストの中空麻奈氏が指摘するように、より深刻なのは、円という通貨そのもの、ひいては日本の長期的な国力に対する市場の信認が揺らぎ始めていることではないか。金利が上がっても円が買われないということは、金利差だけでは説明しきれない日本売りの要素が入り始めている可能性がある。
 奇しくも、日本の政策金利が最後に1%台にあった1995年は、日本の生産年齢人口がピークを迎えた年でもある。内閣府などの資料によれば、日本の15歳から64歳までの生産年齢人口は1995年をピークに減少に転じた。金利が低下していく過程と、働き手の数が減っていく過程は、ほぼ同じ時間軸で進んできたことになる。
 人口が減り、働き手が減り、需要も供給力も細っていく。その中で、金利だけが復活する。これは、きわめて厳しい組み合わせである。
 さらに、財政の問題もある。低金利は、日本の巨額の政府債務を支える最大の前提でもあった。財務省資料によれば、普通国債残高は2026年度末に1,145兆円に上る見込みとされている。金利が上がれば、当然、国債費、すなわち利払いと償還の負担は重くなる。巨大災害や有事に備えるためにも、財政に余力を持っておくことは国家の基本的な安全保障である。
 にもかかわらず、政治の側では消費税減税や給付、あるいは大型投資の話ばかりが前面に出がちである。もちろん、成長投資そのものが悪いわけではない。高市政権は17の戦略分野に対し、2040年度までに官民合わせて累計370兆円超の投資を想定する成長戦略を打ち出しているが、問題は、その投資が本当に日本の稼ぐ力につながるのかということだ。
 対象分野を広げれば広げるほど、政策は総花的になりやすい。AIも半導体も宇宙も量子もバイオも防衛も、すべて重要だというのはその通りだ。しかし、すべてが重要だという政策は、往々にして、どこにも十分な資源を集中できない政策になってしまう。
 ここで問われているのは、単なる金融政策ではない。日本はこれからも右肩上がりの成長を目指すのか。それとも、人口減少を所与のものとして、より小さく、しかし持続可能な国の形を選ぶのか。強い日本を取り戻すために痛みを伴う構造改革を行うのか。それとも、石橋湛山的な小国主義の発想に立ち、限られた資源をどう分かち合うかを考えるのか。
 どちらの道を選ぶにしても、金利のある世界では、ごまかしが利きにくくなる。
 金利は、政治の先送りにも、企業の延命にも、家計の錯覚にも、いずれ価格をつける。借金にはコストがかかる。リスクには値段がつく。通貨への信認は無限ではない。その当たり前の現実が、約30年ぶりに日本社会の前に戻ってきたのである。
 われわれは金利の復活を、日本経済を作り直す最後の警告として受け止めることができるのか。金利のある時代に戻るとは、単に金融政策が正常化することではない。それは、日本という国が、これ以上現実から目をそらすことを許されなくなるということである。金利の復活が意味すること、そして日本がこれからどのような国として生き残るべきなのかについて、かんぽ経済研究所主席研究員の中空麻奈氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。

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今週の論点
・利上げしても円安が止まらないのはなぜか
・「金利のある世界」に戻ることの意味
・高市政権の経済政策をどう見るか
・利子の起源
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■ 利上げしても円安が止まらないのはなぜか
神保: 今日のテーマは金利です。金利そのものをテーマにするのは初めてかもしれません。「ゼロ金利」「マイナス金利」のように、われわれは「失われた30年」と言われている1995年以降、ほとんど金利のない世界で生きてきました。

宮台: 金利の低さについては論じましたよね。

神保: 金利が低い間、何かしなければいけないはずなのに何もしなくて良いのかということは論じてきましたが、ついに金利のある時代に入ってしまいました。

 金利の話はどうしてもテクニカルになりがちなので、社会学的にどう考えたら良いのかということも含めて話していきたいと思います。本日のゲストはかんぽ経済研究所主席研究員の中空麻奈さんです。中空さんは経済アナリストですが、多くの政府委員もされています。今日はそもそも金利とは何かという入門的な話もできればと思います。 
マル激!メールマガジン 2026年7月1日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1316回)
意味不明な戦争の帰趨のカギを握るのはやっぱりイスラエル
ゲスト:鶴見太郎氏(東京大学教養学部准教授)
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 当初、3日で決着が付くはずだったアメリカとイスラエルによるイラン攻撃は、当初の目的だったイランの体制転覆も実現しないまま、イランによるホルムズ海峡の封鎖によって世界経済を巻き込んだ大迷惑な戦争に発展した挙げ句、どうやらイランの全面勝利で終わることになりそうだ。
 もともと攻撃の意図や目的がはっきりしないまま始まった戦争だったが、石油の世界への出入り口となるホルムズ海峡をめぐる情勢に、世界中の株式市場は乱高下を繰り返した。そして開戦から約4カ月が経過した6月17日、アメリカとイランは戦闘終結に向けた14項目の覚書(MOU)に署名した。今回、停戦合意の覚書がアメリカとイランの大統領によって電子署名されたことで、とりあえず戦闘状態が終わり、一時的にはホルムズ海峡が開放されることが期待されている。
 しかし、停戦の覚書が発効した今も、予断を許さない状況が続いている。なぜならば、この戦争の真の主役であるイスラエルが、停戦の覚書に署名していないからだ。それどころか、イスラエル国内では主戦論が圧倒的多数を占め、イスラエルの意向を無視したまま中途半端な停戦に合意したアメリカやトランプ大統領に対しては、容赦のない批判や誹謗中傷がイスラエル国内のメディアから浴びせられている。もともと自身も主戦論者で強硬派のネタニヤフ首相率いる現政権が、このまま黙って引き下がるとはとても思えないのが実情だ。
 現にイスラエルはレバノン南部への駐留を継続する意思を明確にしている。ここでイランが支援する民兵組織のヒズボラとの戦闘が再び激化すれば、イランはアメリカとの停戦違反を理由に再びホルムズ海峡の閉鎖に踏み切る可能性がある。そうなると話はまったく元の木阿弥だ。
 そもそもアメリカがイランとの間で署名した14項目の覚書も、その内容はひどいものだ。アメリカはイスラエルによって必ずしも望んでいなかったイランとの戦争に引きずり込まれ、何とかそこから抜け出そうと今回の覚書を捻り出したわけだが、外交の専門家に言わせれば、これは戦争終結の文書として史上最悪の部類に入るもので、アメリカの完全なスコンク負けだという。
 この覚書でアメリカが得たものは、60日間の核交渉期限とその間の停戦、そして60日間はホルムズ海峡を無料で船を通すという約束だけだ。これに対してイランは、石油輸出の再開や凍結資産の解除、そして3000億ドルの復興資金まで獲得している。満額回答に近い。アメリカのトランプ政権としてはホルムズ海峡の封鎖によってガソリン価格が未曾有の1ガロン4ドル超にまで跳ね上がったまま11月の中間選挙に突入すれば、共和党の敗北は必至な情勢だ。
そうなるとトランプ政権は残る2年の任期を、ほとんどやりたいことが何もできないままレイムダック化してしまう可能性が大きい。トランプとしてはガソリン価格を下げて物価を落ち着かせるためには、どんな譲歩をしてでもホルムズ海峡を開けてもらう必要があったのだ。
 しかし、全面的にイランに有利なこの覚書を、イスラエルがのめるはずがない。これがそのまま実現してしまえば、イランの力が戦争前よりも強大化してしまい、イスラエルにとっては単に脅威が増すことになる。6月のヘブライ大学などの調査では、今回の覚書の内容について、92%が「イランの利益のほうが大きい」、83%が「イスラエルの安全保障が低下した」と答えるなど、イスラエルの市民はまったくこれに納得していない。
実はイスラエルも10月に総選挙を控え、このままでは連立与党は過半数割れに追い込まれネタニヤフ氏は首相の座を追われてしまう可能性が高い。もともと収賄の嫌疑がかかるネタニヤフ氏としては、首相の座を追われれば逮捕される可能性すらある以上、この選挙には負けられない。そんな国内的な事情からも、ネタニヤフ政権としても何があっても弱腰を見せられないのだ。
 今回のイラン攻撃は、世界経済を巻き込んだ割には、誰にとっても得るものがない不毛な戦争だった。唯一得るものがあった国があるとすれば、それはイランだ。今回の合意の結果、イランはより強大化し、ホルムズ海峡の封鎖の旨味も知ってしまった。そこに残るのは、戦争前よりも不安定な中東情勢だ。
 外交の素人が交渉に当たってきたトランプ政権がイスラエルによって無謀な戦争に引きずり込まれ、世界経済を大混乱に陥れた挙げ句、イラン側に全面的に譲歩することによってしかそこから抜け出すことができなくなってしまった。しかも、もはやイスラエルはアメリカの言うことを聞かない。と言うよりも、イスラエル国内の政治情勢がそれを許してくれない。
 この閉塞をどう打ち破ることができるのか。アメリカが調整役としての機能を完全に喪失した今、中東で手を汚していない日本や東アジアの国々にこそ、その役割を果たす余地があると、ユダヤの歴史が専門の鶴見太郎・東京大学教養学部准教授は語る。そして、エネルギー源を中東からの石油に9割以上依存している日本にとっては、中東情勢が安定することは、国家安全保障上の必須条件でもある。
 日本は長期的には中東産石油への依存度を下げ、化石燃料への依存度そのものを下げる努力を急ピッチで行う必要があるが、それが実現するまでの間も、中東の安定化のために自分たちにできることは何があるかを真剣に考えるべきではないか。この3月にイスラエルでの研究生活から帰国した東京大学の鶴見氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。

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今週の論点
・事実上アメリカ全面降伏の停戦合意
・与野党ともに主戦的なイスラエル国会
・米イスラエル関係は悪化しているのか
・日本は中東における紛争の調停役になれるのか
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■ 事実上アメリカ全面降伏の停戦合意
神保: 今日のテーマはイスラエルです。イラン戦争をめぐっては、ホルムズ海峡しだいで株が上がったり下がったりといったことが現在進行形で起こっていますが、その中で不確定要素というには大きすぎる要素として「イスラエル」という変数があります。さらに言えば、あの戦争の本当の主役はイスラエルだったのではないのか。アメリカは外交下手であるがゆえに引っ張り込まれただけで、何とか抜け出すために例の14条の覚書に署名しました。
ただ外交の専門家から見るとこれは歴史上一番出来の悪い戦争終結の覚書ではないかと言われるほどで、アメリカのスコンク負けだという評価もあります。

宮台: 戦争のスタイルも占領統治による支配ではなく意思決定の支配を目指し、ピンポイント暗殺をAIによって行いました。ヨルダン川西岸地区やレバノンではずっとそれをやってきました。

神保: もちろんアメリカには地上軍を送って犠牲を出すような理由もありません。アメリカは11月に選挙があり、それまでに戦争を終結させなければアメリカの経済が戻らないので、タイムリミットだと判断してほぼ無条件降伏という形をとりました。交渉している人物はアメリカ側はウィトコフやクシュナー、イラン側はガリバフやアラグチです。外交のプロが見れば、世界中から叩かれながら何とか生き抜いてきたイラン側の手だれに対し、アメリカ側の不動産屋2人では、話にならないそうです。

 おそらくアメリカ国務省の中にはイランの歴史も分かっている専門家がまだいるはずですが、その人たちが政権の意向に反することを言えば、その瞬間に飛ばされたりクビになったりします。その結果、不動産屋が外交の専門家と交渉して出てきたものが、恥ずべき内容だったということです。

 14項目の覚書で停戦が決まりましたが、不思議なのはイスラエルが交渉当事者ではないということです。アメリカとイランの間だけで決めたので、イスラエルは相変わらずヒズボラへの攻撃を続けている。そのあたりのダイナミズムをもう少ししっかりと見なければなりません。今日はイスラエルの話をメインでしますが、さらにイスラエルとイランの話、イスラエルとアメリカの関係も扱いたいと思います。

 本日のゲストは東京大学教養学部准教授の鶴見太郎さんです。鶴見さんは今年3月までサバティカルで、イスラエルのハイファ大学で研究をされていました。2月28日はイスラエルにいたんですよね。

鶴見: はい。大学の寮にいました。特に最初の3日くらいは、数時間おきに空襲警報が鳴っていました。

神保: イスラエルを中心に中東を見ている鶴見さんからすると、総論として現状をどう理解していますか。一応アメリカとイランの間で覚書が署名されました。電子署名だったということですね。それ自体は有効ですが、隠れた主役であるはずのイスラエルはそこには入っていません。ただ今回の合意内容の中には「レバノンを含む全戦線で戦闘終結」というのも含まれています。レバノンで戦っているのはイスラエルなので、サインをしていないイスラエルも縛るような内容になっています。それも含めて、イスラエル国内は穏やかではないという話も聞きます。

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<フリップ>
アメリカとイランの戦闘終結に向けた覚書
 
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著者イメージ

神保哲生/宮台真司

神保 哲生(じんぼう・てつお) ビデオジャーナリスト/ビデオニュース・ドットコム代表。1961年東京生まれ。コロンビア大学ジャーナリズム大学院修士課程修了。AP通信記者を経て 93年に独立。99年11月、日本初のニュース専門インターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』を設立。 宮台 真司(みやだい・しんじ) 首都大学東京教授/社会学者。1959年仙台生まれ。東京大学大学院博士課程修了。東京都立大学助教授、首都大学東京准教授を経て現職。専門は社会システム論。

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