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事件報道についての一つの見方(弁護士 矢部善朗)
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事件報道についての一つの見方(弁護士 矢部善朗)

2013-03-11 20:03
    事件報道についての一つの見方(弁護士 矢部善朗)

    今回は矢部善朗さんのブログ『ヤベラボ(モトケンブログ3rd)』からご寄稿頂きました。

    ■事件報道についての一つの見方(弁護士 矢部善朗)
    かなり前から、新聞の事件報道において、「捜査関係者への取材で分かった。」というような文章を入れて、情報源が警察等の捜査機関であることを明示することが多くなりました。
    捜査情報は本来秘密であり、捜査関係者が捜査情報をマスコミに漏らすということは公務員の守秘義務違反ではないのか、という議論がよく起こります。
    ちなみに、守秘義務の対象となる秘密は、「公に知られていない事実で、かつ実質的に秘密としての保護に値するもの」とされています。

    では、どんな情報が「捜査関係者への取材で分かった」のかというと、最近の例で言えば、「被疑者がこういうことを言っている。とか「犯行の凶器のナイフが発見された。」とか「被疑者が逮捕されてからある特定のメールアドレスへのチェックがされなくなった。」というような情報が報道されています。「捜査関係者への取材で分かった。」という注意書きがなくても、その内容からして捜査関係者が取材源としか見られないものも含めて考えています。

    これらの情報は、弁護士的に言えば、事件についての証拠の存在または存在するはずの証拠の内容と見ることができます。

    このような情報は、被疑者を弁護する弁護人の立場からしますと、とてもありがたいものです。捜査側の手の内の一端を垣間みることができるからです。

    刑事司法に関して是正すべき問題点は少なくありませんが、その一つに証拠の全面開示という問題があります。事件に関する証拠は、ほぼ検察と警察が独占していますから、弁護人には検察官が開示した証拠以外はわからないのです。つまり、検察官は検察に有利な証拠しか出して来ないので、弁護人としては、検察官にいかに検察に不利な証拠を出させるかが重要課題になるわけですが、現状では改善されたとはいえまだまだ不十分です。

    そういう観点で見ると、警察によるマスコミに対する捜査情報の提供は、一般にはリークと呼ばれてますが、弁護人の証拠収集の観点でいろいろ有益なわけです。

    これに対しては、警察のリークも警察に有利な情報しか出していないのではないか、という指摘があると思いますが、これまで見てきたところによれば、警察で情報リークしているのは、捜査現場の実情を知らないある程度上層部の人間である場合が多そうなのです。そういう人間は、警察にとって「格好いい」情報をリークするのですが、弁護人にとって有益かどうかは分からずににリークしているように思われます。つまりバカです。

    また、証拠の解釈は多様で、一面から見れば捜査側に有利でも、別の面からみれば被疑者に有利な証拠もたくさんあります。

    ですから、弁護人にとってみれば捜査情報のリークを多ければ多いほど助かると一般的には言えます。

    但し、問題がいくつかあります。

    まず、リーク情報が正しいかどうかが問題になります。

    リークされる情報が証拠それも捜査側に有利な証拠であれば、起訴後の公判で法廷に取調べ請求がされるはずです。この段階で、捜査段階における情報リークの正確性を検証することが可能なのですが、そういうことをしているマスコミはあまりないようです。

    マスコミは、自分の報道に責任をもって追跡取材をするべきです。

    以上の観点では、警察の手持ち証拠に関するリークは、それが正確である限り、本来弁護人に開示されるべき情報であるとも言えるわけで、「実質的に秘密としての保護に値するもの」とは言えないという見方もあり得ます。もちろん異論はたくさん想像できますが。

    次に問題になるのが世間の見方です。

    専門家である弁護士から見れば、証拠の意味を相当程度分析することが可能ですが、一般の方は、警察からの情報を表面的に鵜呑みにしてしまう場合が多いと思われますので、被疑者やその家族らに無用かつ不当な不利益を及ぼす恐れがあります。

    私から見ると、世間はすごく場当たり的な反応をするなあ、という印象があります。

    警察によるリークに関して、秘密であるべき捜査情報をリークするのはけしからん、と言うときがあれば、被疑者の身柄を拘束する以上はその理由(これはまさしく捜査情報)を明らかにするべきだ、と言うときもあります。

    たぶん、警察がリークを一切やめてしまえば、事件の内容が何も分からない、という不満が述べられるのでしょう。

    私が、最近のツイッターで情報の受け手つまり報道を読む一般人の意識を問題にした所以です。

    事件報道に関する視点の一つとして述べてみました。

    なお、事件報道を証拠開示と見るのが私一人ではないことは、ツイッターでの弁護士の@nan5oさんのつぶやき*1からもわかります。

    *1:「キュアまんごー@nan5o」 2013年03月04日 『twitter』
    https://twitter.com/nan5o/status/308761068379963392

    ●追記(2013/3/5 19:10)
    警察によるリークが弁護人にとって有益な情報になり得るということは、逆に、弁護人による接見情報の開示や事件の見通しに関する発言は、捜査側にとって有益な情報になり得ることを意味します。
    接見は、本来、捜査側にその内容が知られないことが最も重要であり、それゆえに弁護人の被疑者と接見する権利を「秘密接見交通権」と呼ばれているのですから、その内容をマスコミ等に語る場合には慎重な配慮が必要です。
    この点については、前田恒彦元検事の弁護人の意見書や記者会見*2がとても参考になります。

    *2:「弁護人の意見書や記者会見」 2013年02月19日 『BLOGOS』
    http://blogos.com/article/56464/

    執筆:この記事は矢部善朗さんのブログ『ヤベラボ(モトケンブログ3rd)』からご寄稿いただきました。

    寄稿いただいた記事は2013年03月11日時点のものです。

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