今回は高市憲さんからご寄稿頂きました。
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■【いたれりつくせり】会田誠展を見に森美術館へ行った
いまさら説明するのも野暮だが、森美術館は六本木のど真ん中、六本木ヒルズ森タワー53階にある。チケットを購入すると、鑑賞後に東京を一望出来る東京シティビューにも入れるのがミソ。併設されたレストランやカフェで夜景を見ながら過ごすのもよし。窓際には二人がけの椅子も用意されており、東京をパノラマで眺めることができる。
開館時間も夜の10時までと、勤め人やカップルにもうれしい。勿論見終わってから下界に下りて、六本木周辺のレストランなどで食事をすることも可能。天界に一番近い美術館。そういうイメージが似合うロケーションなのは間違いないだろう。
その森美術館で3月末まで開催されているのが「会田誠展
天才でごめんなさい」だ。挑発的なタイトルもさることながら、自身、国内初の大規模な個展。作品は美大の卒業制作から近作まで網羅されており、巨大な絵画からダンボールで製作されたモニュメントにビデオ作品、ほとんど落書きに近いアイロニックな訓示めいたポスターまで様々だ。
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今回の個展が多くの人に注目されているのは、二つの話題があったことが大きい。
◯「わいせつ」と称され新聞でも報道された、足と腕を切断された裸の少女を描いた「犬」シリーズ
◯原発事故後のツイッターの発言をコラージュした「モニュメント・フォー・ナッシングⅣ」
前者は「わいせつかアートか?」という古今東西語られてきた美術における永遠のテーマ。後者はネット上の、しかも拡散される「ツイッターの著作権は成立するのか?」というネットで発言する側の意識と権利の問題をあぶりだしている。
こうした論争については、実際に作品に触れてみるに限る。個人的には、「わいせつ」と指摘された作品から欲情されることは全くといっていいほどなかった。おたく的とイメージされやすい美少女作品をモチーフにした作品も、いわゆる「おたく的な」描かれ方ではないのは明らかだ。これらから喚起されるのは、むしろ美少女を前に欲情してしまう時代の持つ「やましさ」であり「病しさ」とさえ思える。
後者に関して。これは作家が意図することなく議論の対象になったのではないか?ただ無数にコラージュされた多くのツイッター上のつぶやきを見るに、あの混乱の極みだった原発事故直後の日々を再度思い返すだけでなく、どうしたってネット上での著作権問題にも思いをはせてしまうのは私だけではないだろう。ある意味、作品に意図せざるテーマを付随させてしまうあたりは、会田誠はいま最も「もってる」アーティストとも言えるのかもしれない。
全作品を見て印象に残ったのは、会田誠という作家が強烈な批評性を持っていることだ。「芸術はジャーナリストとは違う手法で時代を記録するべき」と本人が公言しているように、時代時代に在った空気を実に「いい加減」に表現している。
多くの美術家が、古来からある日本画や西洋画をスタイルや表現方法として取り込むのに対して、「困った時の手法だより」とあくまでも「はじめに表現したいものありき」をいまさら謳うあたりも確信犯的で好感が持てる。
代表作「ジューサーミキサー」などの巨大作品に息を呑み、「ドーハ」に、ちょいちょい挟みこまれるブラックなユーモアにあふれる作品にニヤリとし、会田誠本人が日本に潜伏するビン・ラディンを演じ、くだを巻くビデオ作品に笑いつつも「電信柱と鴉、その他」で作家としての実力に感服できる。
結論。本展は「いたれりつくせりの個展」になっていると思う。会田作品は、日本独自の時代や文化に密接した批評性があり過ぎるために「国際的な評価をなかなか得にくい作家」という印象は、やはり強く残った。ゆえに「日本人である私たちこそが、この天才会田誠を十二分に楽しめる幸運を満喫しないでどうする?」と言いたい。
美術館を出れば、スカイラウンジで絶景を楽しみ、軽食やコーヒー、もしくはお酒を少々嗜んでも良いだろう。その後は出口の物販コーナーで関連グッズを買ってみたらいかがだろう。個人的には美少女をモチーフにした「大山椒魚」をモチーフにした手帖がグッときた。代表作の一つである「滝の絵」パズルもなかなかの逸品だ。
エレベーターで下界に下りてからミュージアムショップに立ち寄る。会田誠だけでなく、草間弥生や山口晃、横尾忠則など一線のアーティストグッズを手にするのも良いかもしれない。
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しかし森美術館での私のお勧めは、ミュージアムショップではなくスカイラウンジで販売している「アートスウィーツ」だったりする。最近、草間弥生デザインのクランキーチョコが加わったようだが、ここでは美術集団エンライトメントがデザインを手がけた「榮太楼の飴」と蜷川実花の写真がプリントされた「佐久間ドロップ」がお勧め。懐かしいブリキ缶に現代美術のとんがったデザインが施されたギャップが放つクールさは出色。そう、森美術館は案外デートなどにも十分使えるのである。
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執筆:この記事は高市憲さんからご寄稿頂きました。
※寄稿いただいた記事は2013年03月12日時点のものです。
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