今回はメカAGさんのブログからご寄稿いただきました。
■続々・「コードの見た目は後でいい」問題再び
むかしの料理マンガ「庖丁人味平」にこんなエピソードがあったと思う。味平が修行を積んでいるキッチンブルドック。そこのマスターはなかなか腕のいい料理人。
ところが親族に不幸があって急遽休みを取らなければならなくなった。で、その間暫定的にキッチンブルドックを任された流れの料理人が曲者。
いきなり値段を下げたサービスメニューを出すという。安いから客はその料理を注文し、売上はおおいに伸びた。しかも原価を抑えているから利益率も抜群。料理のことがよくわからないオーナーは大喜び。ぜひこの調子でやってほしい、と。
「わかりました、でも同じメニューではなく違うメニューにしましょう」と。このメニューも大当たり。オーナーはもうこの暫定的な料理人に惚れ込んでしまい、もともマスターが帰ってきた後も、この料理人の方に店を任せたいと言い出す。
* * *
大ヒットにはカラクリがあって、サービスメニューは味がひどいのだ。2日目にメニューを変えたのも、初日のメニューの味のひどさに懲りた客は二度と同じメニューを頼まないとわかっていたから。
結局この暫定料理人は、もとのマスターが築いた客との信頼関係(この店は多少高くても味で勝負する店だ)を食いつぶして、一時的に高い利益率を出していただけ。もとのマスターへの信頼が残っているうちは来店するが、そのうち呆れて客は離れていく。
逆に言えばカラクリがバレる前に店の実権を握るために、圧倒的なパフォーマンスを連発したのだ。
* * *
マンガの読者なら、自分の店の首を自分で締めるようなこの店のオーナーを馬鹿だと思うだろうけど、意外と現実では気づきにくいことってあるよね…。このマンガを読んだ子供の頃は「ハハハ、こんなバカなオーナーいるわけないじゃん」と思ったが。
過去に蓄積された技術力や丁寧にコーディングされたプログラムは資産。資産を取り崩してよいプログラムを生み出す一方で、資産を貯金していく。持続できるように出入のバランスをとっているわけだ。
貯金を一気に下ろして使いきってしまえば、一時的にはそれまでよりも高いパフォーマンスで製品を生み出すことは出来る。でもそのあとは一気にパフォーマンスが落ちてしまう。
こう書けば誰でも、そんな自分たちの首を自分で締めるような馬鹿なことはすまい、と思うのだけど、やる人は時々いる。ソフト開発がよくわかっていない人間が、どこかから見つけてきた「優秀な人材」の中には、こういうタイプが紛れ込んでいることがある。
蓄積した資産を一気に使い切ることも、会社の戦略上必要なこともあるだろう。それ自体は否定しない。しかしさほど必要もない状況で、自分の優秀さをアピールするだけのために、そういうことをする人物は許しがたい。
交通事故だと思って耐えていれば、そのうち去っていくけどね。でも会社が被るダメージは相当なもので、使いきった資産はまた蓄積すればいいのだけど、そういう混乱した状況に反発して、もとからいた人材が辞めてしまうのは、なんとも。
ソフト開発がわかってない社長が「すぐに結果を出す優秀な人材」に目がくらむと、こういうこともあるという話。
* * *
書いてて思ったのだが、なんか行政改革と同じかも。よく「現状にこんなに無駄がある」という。でもその無駄を使いきってしまったら、そのあと持続できない。改革するのはいいけど、持続できる形で改革しないと、一過性の改革では単に混乱を招いただけで終わってしまう。
参考サイト:「包丁人味平 1 (ジャンプコミックスデラックス) [単行本]」 牛 次郎(著), ビッグ錠(イラスト) 『amazon』
http://www.amazon.co.jp/dp/4088581016/
執筆: この記事はメカAGさんのブログからご寄稿いただきました。
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