橋下徹の「民間だったら当たり前」は「民間のブラック企業だったら当たり前」

今回は電脳くらげさんのブログ『脱社畜ブログ』からご寄稿いただきました。

■橋下徹の「民間だったら当たり前」は「民間のブラック企業だったら当たり前」
新年早々、ブラック感溢れるニュースがちょっと話題になっていた。

「ランチタイムも今年から橋下流? 庁内放送は音楽中止、意識改革スローガンに」2013年01月01日『msn 産経ニュースwest』

http://sankei.jp.msn.com/west/west_affairs/news/130101/waf13010111520001-n1.htm

橋下市長の言うところの、「変な音楽」がどんなふうに変なのかは、僕は聞いたことがないのでよくわからないのだが、仮にそれが本当に変な音楽だとするならば、流すのを止めたり他の音楽に変えるというのは理解できる。しかし、止めたかわりに意識改革スローガン、もとい洗脳スローガンを流すというのは感心しない。こんなものを流すくらいだったら、どんなに変でも音楽のほうが絶対マシだ。

橋下氏は、前々から事あるごとに「民間だったら当たり前」というフレーズを使って市民の支持を得てきたような気がするが、橋下氏の言う「民間だったら当たり前」というのは、多くの場合「民間のブラック企業だったら当たり前」という意味である。今回の話で言うと、社訓や社是を唱和させたり暗記させたりするような企業は、たいていはブラック企業である。「公務員は異常、民間だったら考えられない」と言うものの、実際には賃金の発生しない時間外労働や賃金に釣り合わない過剰で献身的なサービス提供を求められる民間のほうが「異常」なわけで、異常なものをお手本にしてそれに合わせるというやり方は、どう考えても正しいとは思えない。

このように、橋下氏の主張は「日本の、いまの民間企業の在り方が正しい」という前提を置いている時点でおかしいのだけど、これを喜んで支持している人たちがいるのもいただけない。民間の、それこそブラック企業で働いている人たちは日頃から色んな鬱憤が溜まっているとは思うが、公務員を自分たちと同じブラック企業の水準に下げて喜んでいても、実際には何の解決にもならないことに気づくべきである。他人を、自分と同じ奴隷の水準に陥れても、自分が奴隷でなくなるわけではない。本当の敵は、公務員ではない。

そもそも、昼休憩の時間に意識改革スローガンを流して、本当に意識が変わるとでも思っているのだろうか。しつこく流し続ければ嫌でも耳には残ってしまうと思うが、普通は聞くたびに、逆に反骨精神をすくすくと育んでいくことになると思う。実質的な効果は全く期待できないわけで、今回これをやろうとする理由があるとすれば、市民の人気取りのため以外には考えられない。組織のトップが、自分の組織で働いている人たちを先頭に立って攻撃して人気を得るというのは、なんとも嫌な感じがする。そんなトップの下で、働きたいと思う人はいないんじゃないだろうか。

さらに言うと、昼休憩は「休憩」なのであって、意識改革スローガンを聞かせるというのであれば、それはもう休憩ではなく「仕事」である。橋下氏は、朝礼についても「公務員の世界では超過勤務手当が発生するからできないというバカな議論がある」と批判しているが、朝礼も「仕事」なんだから超過勤務になるのは当然だ。民間の、サービス残業を安々と許してしまう悪い習慣を取り入れて、「うちもようやくまともになりました」という態度をとるほうが、よっぽどバカげていると僕は思う。

橋下氏は、「『前例がない』というフレーズは脳を腐らせる」とtwitterで発言したそうだが、それなら僕も「『民間だったら当たり前』というフレーズは、日本を腐らせる」と言ってやりたい。「民間で働いている人は、こういう理不尽にも耐えてるんですよ、だからあなたも耐えましょう」では、不幸な人がどんどん増えていくだけである。

執筆: この記事は電脳くらげさんのブログ『脱社畜ブログ』からご寄稿いただきました。

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