今回は及川卓也さんのブログ『Nothing ventured, nothing gained.』からご寄稿いただきました。
※すべての画像が表示されない場合は、http://getnews.jp/archives/281467をごらんください。
■縦書き不要論
縦書きの話をするので、先に言っておく。HTMLにおけるVertical Writing(縦書き)実現に向けて努力されている方々は良く存じており、彼らの努力には大変感謝している。私自身も多少は関わっている。なので、私自身、縦書きをWeb技術において実現しようとする努力を否定するものではまったくない。ただ、縦書きについては一歩退いて見てみても良いのではないかとも考えている。
もう2年も前になるが、「スキームを変える - メディア、ジャーナリズム、文化」*1という投稿の中で、私は次のように書いた。
*1:「スキームを変える - メディア、ジャーナリズム、文化」 2010年11月29日 『Nothing ventured, nothing gained.』
http://d.hatena.ne.jp/takoratta/20101129/1291048738
「活字文化を守るため」ということもよく聞く。私が言うことでもないのだが、文化は生き物だ。使われなくなり、愛されなくなったら、それは衰退していく。衰退していくのもまた文化だ。守りたいと思うのは自由だけれど、人の気持ちは変えられない。
縦書きも同じだ。「日本古来からある縦書き文化を守らなければいけない」などと言われるのをたまに聞くが、本当に必要ならば、「守る」などという言い方などする必要はない。
また、同じ投稿の中で、次のようにも書いている。
長く続いていること。今までは成功してきたやり方。疑問も持たずそれらを続ける。それは楽かもしれないが、状況が変化する中において、本当に正しいことなのだろうか。今まで続いていてきたからというだけの理由でそれを続けることが本当に是なのかは考えてみたほうが良い。ゼロベース思考という言葉がある。今までの前提をとりあえず無視して、全くなかったこととして、考えみようという思考法だ。
この「ゼロベース思考」を縦書きについても行なってみよう。つまり、今までのしがらみなどをまったく無視して考えた場合、日本語の文章は縦書きが良いのだろうか、横書きが良いのだろうか。
ここでは極端な仮定をして考えてみよう。縦書きが無くて、すべて横書きだった場合に困ることはあるだろうか?
この質問をした場合、たいてい、(縦書きが|横書きが)「読みやすい」という理由で、横書きでは十分だとかそれでは足りないという意見が出される。「読みやすさ」の違いは多分に個人の趣向に拠るところが多く、現在の日本語の表記方法を見る限り、「読みやすさ」の違いがあったにせよ、絶対的なものとは思えない。
縦書きでないと実現できないようなユースケースはどういうものだろうか?
この質問をあらゆる人にしたが、なるほどと思わせる回答をしてくれたのは2名だけだ。1名は女子中学生(当時)、もう1名は日本語が堪能なアメリカ人だ。
女子中学生の回答は、「通学電車の中で本を読むときに、横書きだと本を大きく開かないと文章を読めないけど、縦書きだと、ページの半分くらいまでは読めるし、その後も本を傾けたりすれば、本を大きく開かなくても読める」というものだった。
写真で示そう。
最初に縦書きの本を片手で開いて読んでいる状態の写真。
(画像が見られない方は下記URLからご覧ください)
http://px1img.getnews.jp/img/archives/t01.jpg
次に横書きの本を同じく片手で開いて読んでいる状態の写真。
(画像が見られない方は下記URLからご覧ください)
http://px1img.getnews.jp/img/archives/t02.jpg
縦書きであれば、本を大きく開かなくても読み進めることはできる。横書きだと、1行の先頭か末尾が綴じ代に影響され、大きく開かないと読むことができない。
これには納得させられた。
もう1つのアメリカ人の回答はデザイン上のレイアウトに拠るものだった。彼はさまざまな写真を私に見せながら言った。「日本語は縦にも横にも配置できる。いろいろな自由度を持った素晴らしい言語なのです」と。
(画像が見られない方は下記URLからご覧ください)
http://px1img.getnews.jp/img/archives/t03.jpg
確かに、横に狭い空間*1で、ある程度の長さの文字列を配置しようとしたとき、日本語が縦書き「も」可能な言語であったことに助けられたことは多い。
このような2つの事例、特に後者のデザインレイアウト上の自由度を高める手法としての縦書きを考えると、縦書きを廃止する理由はない。
ただ、それでも新たに文章を作成する場合に、それがアナログメディアの紙であれ、デジタルメディアのWebや電子書籍であれ、縦書きにする理由はあるだろうか*2。縦書きを排除しないまでも、横書きを主流にしてはいけない理由はあるだろうか。
デザインレイアウト上の利点を考えた場合、コミックにおける吹き出し内に縦書きを使うというのはあるだろう。だが、それ以外には強い理由は思い当たらない。
いくつかの事実を並べてみよう。
● 公的機関においては、市民が提出する書類の多くは昨今、横書きになっている。
● 教育機関、たとえば、小中学校の教科書は国語を除き、ほぼすべて横書きである。
このような事実を考え、さらにはデジタルメディアにおいて縦書きをサポートするコストを考えると、横書きに移行をするほうが望ましいと考えられる。しかし、ここで考えなければいけないのが、先ほど「個人の趣向に拠るところが多い」といった「読みやすさ」の問題だ。
-*-*-*-
日本語は縦書きに向いた文字である。
この主張を良く聞くが、その科学的な根拠は何だろう。
書く場合には、その筆順を考えると、縦書きのほうが効率的だ。漢字も仮名もどちらも上から下への筆運びで、筆順が始まったり、終わったりする文字が多い。同じように、読む場合も、縦方向の構成要素が多い文字である日本語は、読む場合も縦書きのほうが読みやすいとも考えられる。
だが、科学的にその証明はされているのだろうか。
寡聞にして知らないのだが、横書きと縦書きとで、特に読む場合の効率を計測した結果のようなものはあるのだろうか。ユーザービリティ調査と呼んでも良いかもしれないが、不毛な宗教論争を避けるためにも、さらには「文化」という言葉だけでない、縦書きの本来のメリットを理解するためにも、そのような研究や調査は行われるべきだろう。
本当は、電子書籍こそ、そのような調査のためには良いプラットフォームだ。Webで行われるログ分析と同じように、電子書籍においていろいろな調査ができたならば、かなりいろいろなデータを得ることができるだろう。同じ書籍を縦書きと横書きで提供し、A/Bテストのようにそれぞれの読まれるスピードを計測してみてはどうだろう。
縦書きと横書きの比較以外でも、今まで行えなかったいろいろな実験ができるはずだ。
以前から疑問だったのだが、エディトリアルデザイナー*2は自分のデザインが「読みやすさ」という目的に対してどの程度有効だったかをどのようにして確認しているのだろう。縦書きや横書きだけでなく、タイポグラフィやレイアウトなど、さまざまなデザイン要素が「読みやすさ」にどのように影響を与えたかを知るのは今はかなり難しいことなのではないだろうか。
*2:「エディトリアルデザイナー」 『Wikipedia』
http://ja.wikipedia.org/wiki/エディトリアルデザイナー
もし、Webと同じようにデータでその成果を知ることができたり、実験でいろいろと試すことができたなら、ここにも科学的なアプローチを取り入れることができるのだろう。
「「電子書籍」はアクセス解析的観点で読者を可視化するか - ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん」*3はまさしく同じようなことを紹介しているブログ記事だ。
*3:『ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん』サイト
http://d.hatena.ne.jp/spqr/20100610/p1
雑誌などを読んでいて、デザインが凝りすぎていて、可読性を阻害しているケースに遭遇することがある。編集やデザイナーの方の空回りや自己満足といわれても仕方のないようなデザインの場合だ。もし、Webだったら、自分が凝って作ったところがまったく見られていないことがすぐにわかるので、そういうデザインは自然と淘汰されていく。
このように、電子書籍のデジタルメディアとしての特性を活かしての使用状況の把握は大変魅力的だ。
だが、残念ながらプライバシーを考慮すると、電子書籍において使用状況の把握を行うことは受け入れられがたい状況である。詳しくは「【抜粋版】高木浩光氏によるWebアクセスログと電子書籍閲覧履歴の違い - Togetter」*4を見て欲しいが、Webの手法をそのまま電子書籍に持ち込むことはできない。
*4:「【抜粋版】高木浩光氏によるWebアクセスログと電子書籍閲覧履歴の違い」 2012年01月13日 『togetter』
http://togetter.com/li/240657
ここではこれ以上踏み込まないが、プライバシーに配慮した上で、科学的なアプローチで電子書籍のデザインを検証する方法を確立する必要はやはりあるだろう。その結果は、おそらく紙メディアなどにも活かすことができる。
縦書きについても、そのような科学的な検証を行い、活かすべきものは活かし、横書きへ移行すべきものはする。それが、縦横という表現方法のあり方を超えて、文字データの有効活用へと繋がっていく。
ブログ記事のタイトルに偽りありで、ごめんなさい。
執筆: この記事は及川卓也さんのブログ『Nothing ventured, nothing gained.』からご寄稿いただきました。
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