今回は藤沢数希さんのブログ『金融日記』からご寄稿いただきました。
■ジャパニーズ・ドリーム=「一生安定」という話
最近、いろいろなビジネスを見るようになって、アメリカン・ドリーム方式っていうのは、じつによくできてるな、と思った。
小さな会社の経営から大国の統治に至るまで、大小様々な組織を運営するひとつの方法として、とてもよくできているのだ。
僕なりのアメリカン・ドリーム方式の理解っていうのは、こういうことだ。
出自や肌の色に関係なく、努力し続け、リスクを取って上手くいったやつは誰でも成功できる。
どこまでも成功できる。
億万長者だって、大統領にだってなれる。
だからこそ、このチャンスが平等に与えられる国で、みんな腐らずがんばれ、ということだ。
たとえば、スラム街の貧乏な家庭に育った黒人の子供も、奨学金を得て、一流大学に行き、世界的な企業に就職し、CEOにだってなれる。
起業して成功すれば、大金持ちになれる、誰だって大統領になれる。
そして、実際にそれは嘘じゃない。
アメリカ社会では、底辺から這い上がり、社会の頂点にまで上り詰めたサクセス・ストーリーが次々と作られる。
そりゃ2億人も人口がいたら、100人や200人ぐらいは、アメリカン・ドリームをつかめるやつが毎年出てくるってわけだ。
そんな人が年に100人いるだけで、3日に1回はテレビなんかでアメリカン・ドリームを目にすることになる。
そうすると、感覚的には、毎日のように成功者が生まれている感じがするし(実際生まれている)、そんなひとりに自分もなれるような気がする(ものすごく低い確率だけど)。
そして、それと同時に、こういう少数の成功した人たちが、出自や肌の色とか、そういうことを成功できない言い訳にすることを、明らかな反証として否定してくれる。
つまり、誰もががんばらざるをえないわけで、成功していない奴は、単に努力が足らないダメな人ということになる。
これは見方を変えれば、企業経営にもとても役に立つ。
単調な業務で将来のキャリアが描けないような、社員のモチベーションを上げることがむずかしい仕事というのは山ほどある。
というか、世の中の99%の仕事はそんなものだ。
でも、会社の中で、高卒で一番下のアルバイトからはじめて、えらいマネージャーになったやつがひとりでもいれば、同じ会社の数百人、数千人の低賃金でつまらない仕事ばかりしている作業員に希望を持たせられる。
つまり、安い給料で、もっとがんばってもらえる。
AV女優をスカウトするときも、飯島愛さんみたいに、AVからはじめて芸能界で大成功した人もいると言えば、説得できるのと同じ理屈だ。
そんな人が、5年、10年でひとりでも出てこれば、毎年何千人もデビューするAV女優全員に希望を持たせられるのだ。
こうして成功できないやつは、本人の努力が足りない、ということになる。
アメリカン・ドリーム方式のすばらしいところは、確率がどれほど低くても、たったひとりでも成功したやつがいれば、全てを正当化できて、言い訳ばかり考えて努力できないやつらを否定できることだ。
ところが、実際に、アメリカ社会を定量的に分析すると、じつは親の年収とかクラスは、他の先進国よりはるかに子供の将来に影響する、という結果が出ているのだが、これは非常に皮肉だ。
「実は英米より日本の方が機会平等で実力社会 藤沢数希」 2012年04月12日 『アゴラ』
http://agora-web.jp/archives/1447416.html
アメリカの学校の学費が高く、奨学金をもらえるほんの一握り以外は、金持ちの親のほうがはるかにいい環境を与えられるからだ。
それで、このアメリカン・ドリーム方式は、日本でもベンチャー企業や、一部のフリーランスの業界では非常に重宝している。
一握りの成功者を夢見て、多くの若者が、極めて安い給料で必死こいてがんばるし、音楽とか、そういうエンタメ系の分野なら、無給で何年もがんばってくれたりする。
しかし、日本人の多くが、このアメリカ人がとても大切にしているアメリカン・ドリーム方式に、それほど感心していないようにも思える。
やっぱり、日本人はそこまでの大成功は夢見ていないし、もっと現実的な成功を夢見ているようだ。
そして、日本人が大好きで、それゆえに必死に守っているものは何かというと、それは僕は「一生安定」というものだと思う。
いい大学に入って、いい企業に入れば、確かにお金持ちにはなれないかもしれないけど、一生安定する。
実際のところ、そんな企業はごく一部で、多くの日本人は、そんな大企業の正社員になるわけではないけど、とにかく努力してがんばれば、一生安定するポジションに就ける、という道が開かれていることに、日本人は誇りを持っているように思える。
だから、解雇規制を緩和したり、欧米のように、当たり前のように転職で会社を変えるような価値観は、まったく日本では流行らなかった。
小さいころからちゃんと勉強して、いい学校に行って、いい会社に行けば、ちゃんと一生安定できる、ということを、みんなで一生懸命守っている。
そうした人たちが、日本人全体の1割もいないとしてもだ。
そしてその1割の恵まれているはずの人たちは、競争相手が多いから、経済学の教科書が教える通りで、けっこう悲惨な労働環境で、給料も高くなかったりするのだけれど。
それでも、僕はこれが日本人のジャパニーズ・ドリームなんだと思う。
結婚にしたって、ちゃんとまじめに恋愛して、ちゃんとしたサラリーマンと結婚して、専業主婦になって、子供をふたりぐらい生めば、一生安定する、という幻想を多くの女性が抱いている。
だから、そういうサラリーマンが離婚するなら、とてつもないペナルティーを与えて、国としてそういう家族の形を守っていくと同時に、そういう道からはずれたシングルマザーとか婚外子は、ちょっと冷遇しないといけない、というわけである。
大企業サラリーマンと専業主婦で一生安定、という虚構こそが、日本人のジャパニーズ・ドリームなんじゃないか、と思う今日このごろである。
執筆: この記事は藤沢数希さんのブログ『金融日記』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2013年10月12日時点のものです。
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