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【vol.124】「結婚映画」特集号

2015-06-03 18:00
    2015年06月03日発行
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    ┃入江悠presents┃らのモテるための映画聖典     【vol.124】「結婚映画」特集号
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    映画監督・入江悠と仲間たちがすべての映画を愛する人へ贈る
    「映画を観ればモテる!」を追求するメルマガです。

    〓【 I N D E X 】=〓=〓=〓=〓=〓=〓=〓=〓=〓=〓=〓=

     【 01 】 … 入江悠の身辺雑記「映画でモテると思ってた」

     【 02 】 … 執筆陣がこの一週間で観た映画を採点「みんなの☆映画レビュー」

     【 03 】 … ボールペン画伯・佐藤圭一朗の1コマ劇場「映画・狂人画報」

     【 04 】 … 入江悠がちょっとマジメに考えた。「モテる大人になるための映画術」

     【 05 】 … 放送作家・林賢一のストイック映画評「終わった恋と、映画を数える・改」

     【 06 】 … 俳優・駒木根隆介の役者論「俳優麺論」

     【 07 】 … 女優・森下くるみの完全女子目線映画評「乙女は映画に恋をした」

     【 08 】 … ラッパー・上鈴木伯周の「すべての映画はヒップ・ホップである」

     【 09 】 … メルマガ読者限定ハミダシPodcast「シアター野郎 劇場一番星ガチ話」!

     【 10 】 … これ観りゃモテる!「デートのための映画データベース」

     【 11 】 … メルマガ編集担当の書評コーナー「これは映画になりますか?」

     【 12 】 … 編集部より

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    ■【 01 】 入江悠の身辺雑記「映画でモテると思ってた」

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     映画監督・入江悠が、映画のこと、日常のことをひねもすのたりと綴ります。
     知られざる映画監督の喜び、悲しみ、苦労話をぜんぶ公開!

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     こんにちは、入江悠です。
     梅雨入り前のこの季節、気持いいですね。
     撮影はこんな快適な時期にやりたいです。
     ……と思ったら、あれれ、雨が降ってきました。
     皆様、いかがお過ごしでしょうか?

     さて、6月です。
     早いもので2015年も半分終わってしまいました。
     大人になると時間が経つのが早く感じる、
     というのはどうやら本当のようです。
     最近では時間がヒュンヒュンと去っていくように感じます。

     そんなこんなでもう6月なわけですが、
     今月からモテメルマガでは新しいことが始まります。
     題して「月あたまの特集号」。
     今月は、ジューン・ブライドということで『結婚映画特集』です。

     本メルマガではこれまで月に5週目がある時だけ、
     特集号を配信してきましたが、
     これからはドドーンと月あたまに毎月配信。
     過ぎ去る時に抗い、過去の良い映画をもっと観よう。
     あるテーマに沿って縦軸で映画を観てみよう。
     テーマを掘り下げてみよう、という試みです。

     ちなみに、私は独身。
     メルマガ執筆陣で既婚者なのは、
     上鈴木伯周、林賢一、佐藤圭一朗、情報担当ふじっこ、
     そして、最近子供が生まれたばかりの大川編集長です。

     独身者と既婚者では、
     映画における「結婚」描写に対してどう見方が変わってくるのか。
     制作者としても、
     未婚者と既婚者ではどのように「結婚」の描き方が変わってくるのか。
     そんなこともおぼろげながら見えてきたら面白いなあと思っています。

     今年の春、京都で時代劇ドラマ『ふたがしら』を撮っている時に、
     橋本じゅんさんという俳優さんがこんなことを言ってました。
     (橋本じゅんさんは、劇団新感線を代表する俳優さんです)。
     「結婚してから、夫という役柄について演じ方が変わった」と。
     未婚の時は分からないまま演じていた既婚者の芝居が、
     結婚したことによって全然違うように思えてきた、とのことでした。
     やはり、そういうことはあるだろうなあ、とも思いました。

     一方で、生涯未婚のまま「結婚」を描き続けた映画人もいます。
     日本が誇る巨匠、小津安二郎監督です。
     映画における「結婚」を語る時、この人の名前は絶対に外せません。
     日本、のみならず、世界の映画を見渡しても、
     これほど「結婚」を描き続けた監督はいないのではないでしょうか。
     松竹映画の伝統である「家族」を一貫して描いてきた小津監督ですが、
     彼は生涯「結婚」と向き合い続けた監督でもありました。

     「家族」におけるひとつの通過儀礼、あるいは大事なイベント、
     さらには「家族」からの離脱、そういうものとしての「結婚」。
     小津監督は生涯誰とも結婚せず、老母と暮らしていたらしいのですが、
     なぜ、それほどまでに「結婚」にこだわり続けてきたのか。

     その答えがの中でまだ見つかっていないので、
     今回は小津安二郎を連載で取り上げることは控えたのですが、
     やはり『晩春』『麦秋』『秋刀魚の味』などはいつ観ても素晴らしい。
     これらの映画の中で執拗なほど繰り返して描かれるのが、
     <娘に結婚をしつこく薦める父>です。
     自分で結婚を薦めたくせに、結婚して家から娘がいなくなると、
     父はひどく疲れ、落ち込み、哀しみさえ漂わせます。
     代表格は言わずと知れた俳優、笠智衆さんですね。
     いったいなぜ小津監督はそれほど「結婚」に執着したのか。
     自分は一生結婚をしなかったのに……。

     しかも、なんと小津映画では結婚式が一切描かれません。
     ウエディングドレスを着た花嫁が晴れ晴れしく登場し、
     教会で相手と指輪を交換し……というような、
     最近の映画であればクライマックスにしがちなシーンを、
     小津映画は完全に排しています。
     なぜそれほど結婚式というものを描くのを拒否したのか。
     アンチ・クライマックスでしょうか。
     いつかはその答えも知りたいと思っています。

     さて、そんな映画における「結婚」ですが、
     今回、モテ執筆陣はいったいどんな映画を取り上げるのでしょう。
     何を書くか、ではなく、どんな映画を取り上げるか。
     そこにもまたそれぞれの結婚観が見えてきそうで楽しみでもあります。
     それじゃあ、今週もはじまり、はじまり~。

    ・・・・・・・・告知です・・・・・・・・・・・・
    映画『日々ロック』のDVD&Blu-rayが発売になりました。
    特典映像ではの友人・釣りラッパーTECこと配島徹也が作った、
    メイキング映像も収録されています。ぜひご覧下さい!


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    ■【 02 】 執筆陣がこの一週間で観た映画を採点「みんなの☆映画レビュー」

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     公開中の映画をしがらみ抜きの本音でレビュー!

     ☆☆☆…観ずに死ねるかっ
     ☆☆……ヒマつぶしに、是非
     ☆………観なくていいかも
     の3段階ガチ評価です。

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    【入江悠】

     『メイズ・ランナー』☆☆☆
     「壁の中に閉じ込められた少年たちが……って、この設定、大丈夫~?」
     とほぼ期待ゼロで観てきたら、あら! 意外としっかりしてるし面白い。
     カフカの「城」感も漂って、展開と人物描写はまさに脚本の教科書!

     『ゼロの世界』☆☆
     テリー・ギリアムのSF最新作となれば、なにがなんでも観なければ、です。
     相変わらず目に楽しいごちゃごちゃしたカラフルな世界観とガジェット。
     ヒロインが可愛いのと、ポロリと出してくれたおっぱいに拍手。

     『ラン・オール・ナイト』☆☆
     子供も楽しめる『96時間』シリーズとはひと味ちがう渋くて苦い追想劇。
     同じリーアム・ニーソン主演作でも、演出でこうまで変わるかという良い見本。
     追ってくる男(Commonが好演!)の無表情なクールさにうっとりしました。

     『チャッピー』☆☆
     おい、どうした! の大好きなニール・ブロンカンプ監督!
     描かれる世界が狭く、物語が跳ねず、登場人物にものっかれない。
     でも、ロボット描写は相変わらず愛情たっぷりなので☆二つ。

     入江悠……いりえ・ゆう。1979年、横浜生まれ、埼玉育ち。
          監督を務めたドラマ『ふたがしら』が6月13日スタート

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    【林賢一】

     『ホーンズ 容疑者と告白の角』☆☆
     モテ界隈で話題沸騰中の、メルマガやってなかったら絶対観なかった映画ナンバー1作品。
     途中で何度も笑ってしまいました。わたくしに言わせれば珍作の部類ですが、
     角の前では「本音が出てしまう」という設定は恐ろしいし、面白いし、とにかく最高。

     『サンドラの週末』(※詳しくは連載で)
     結婚映画特集ということで、いくつかの結婚王道ラブコメや、プレストン・スタージェスの
     結婚映画などを再見したのですが、最終的にはこの作品を取り上げることに落ち着きました。
     結婚って何だろう? そんな問いに、1つの答えを出してみました。それでは後ほど連載にて。

     林賢一……はやし・けんいち。1979年、五反田生まれ、男子校経由、宇都宮育ち。構成・脚本。
          発売中の月刊誌『サイゾー』から、古今東西のトークを分析する連載をはじめました。

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    【駒木根隆介】

     『イニシエーション・ラブ』☆☆
     ラスト5分の衝撃の前フリである80年代青春描写が、
     ちょうどよくベタで緩くてちょうどよかった。ラストの衝撃いらなかったくらい!
     前田敦子さんはとてもハマり役だと思います!

     駒木根隆介……こまきね・りゅうすけ。1981年・東京生まれ。映画・舞台等で活躍する、通称「名優」

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    【佐藤圭一朗】

     『メイズランナー』☆
     使い古された設定。それは構わない。夜の暗さが問題だ。
     夜の見せ場が圧倒的に弱い。昼の疾走感は十分。
     説明過多により☆ひとつを逸した。不条理なままでこそアクションは活きるのに。

     『チャッピー』☆☆☆
     物語が動いている。予定調和ではなく常に何かが起きている。変化がある。哲学もある。
     ガジェットの興奮までに周到な段取りがある。興奮し、感動した。

     佐藤圭一朗……ラインプロデューサーとして映画界を支える縁の下の力持ち。
            趣味・映画。特技・映画。人生・映画の映画狂人画伯とはこの男のこと

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    【編集担当】

     『イニシエーション・ラブ』☆☆☆
     ○○までをも物語に詰め込んだ、「鑑賞する文春文庫」(詳しくはガチ話をぜひ)。
     前半をコメディに仕立てるアイデア、そして叙述トリックを解決するアイデアが素晴らしい。
     みなさんおっしゃるように蛇足は酷いと感じます。でもいいじゃない。老若男女楽しめれば。

     編集担当……編集者。ご意見、ご感想は eigamote@gmail.com まで!

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    ■【 03 】ボールペン画伯・佐藤圭一朗の1コマ劇場「映画・狂人画報」

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     映画作りの縁の下の力持ち、それが制作部。
     そんな制作畑を長く歩み、映画の現場を知り尽くした男・佐藤圭一朗が、
     特技の超細密ボールペンイラストで新作映画をヒトコマレビュー!

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     <二本立て>    映画史上もっとも印象深い結婚式『アンダーグラウンド』
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    http://norainu-film.heteml.jp/mote/img/kei_20150603b.jpg

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     <二本立て>  ありがとう そしてさようならシネマート六本木!!『ドラゴン危機一髪'97』
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    http://norainu-film.heteml.jp/mote/img/kei_20150603a.jpg

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    ■【 04 】入江悠が、ちょっとマジメに考えた。「モテる大人になるための映画術」

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     「モテる大人」「恰好いいオトナ」っていったいどんな人? どうやったらなれるの?
     三十路独身映画監督が、古今東西の映画の中からヒントを探し、モテる大人を目指します。

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     【今週のテーマ】 『ザ・エージェント』に見る<結婚への悩み>の真摯さ
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     同時代に、この人がいてくれて、本当に良かった。
     会ったことはないけど、この人のおかげで今を生きるのが楽しみだ。
     そんなことを思わせてくれるスター俳優や映画監督が、
     には少なくても10人ほどいます。
     その筆頭スターが、トム・クルーズです。

     今回取り上げるのは、そのトムさんの出演作『ザ・エージェント』
     トムさんは、プロスポーツ選手のエージェント役です。
     しかも業界超大手のエージェント会社に勤務。
     まさに、エリート。
     設定では35才ということになっているので、まさに今のと同い年。
     ところがある日、そんなエリートのトムさんが、
     生き馬の目を抜くドライなエージェントシステムに疑問を抱いて……。

     本作は『ザ・エージェント』というタイトル通り、
     どうやってスポーツ選手をより高く雇ってくれるチームに移籍させるか、
     タイアップのCMなどの広告に出演させて稼ぐか、
     そんなエージェント業務に奔走するトムさんが描かれます。

     ですが、10年ぶりくらいに再見して驚いたのは、
     それよりも「結婚」描写の秀逸さです。
     いや、真摯さと言っても良いかもしれません。
     「恋」と「愛」と「結婚」の違いに悩むトムさんの真剣な悶々!

     トムさんのお相手は、同じ大手エージェント会社で働く事務の女性、
     演じるのは、まだブレイクする直前のレニー・ゼルヴィガー。
     この人、は昔から大好きなんですが、本作のレニーは最高です。
     なんでこんな表情ができるの!?
     どうやってこんな可愛らしい仕草ができる!?
     というくらい(おそらく本人が元来持っている)魅力が爆発しています。

     できるだけ多くのスター選手を抱えて、同時進行でたくさん稼ぐ。
     そんなドライでビジネスライクな仕事に疑問を持った若いトムは、
     ある事件をきっかけに所属していた大手会社を去って起業するのですが、
     その場の勢いでこのレニーも巻き添えで一緒についていくことになります。

     このレニーさんだけが、トムのかろうじて残っていた真摯さ、
     「金を稼ぐためとはいえ、こんなドライに選手たちと接していいのだろうか」
     という疑問につきあい、さりげなく寄り添っていくのです。
     そして、もちろん二人は恋に落ちることになります。

     ところで、恋ってなんでしょうか。
     本作でトムはレニーさんの優しさ、可愛らしさに惹かれていきます。
     その当然の結果として、二人はキスをして、一夜を共にします。
     そして、「結婚」というひとつ上のステージが視野に入ってきます。
     ここでトムは(らも)悩むことになります。

     果たして、トムがレニーさんに惹かれたのは、
     会社を辞めた不安な気持ちを彼女が慰め、埋めてくれたからではないのか。
     ただ、自分について来てくれたのが、たまたま彼女だけだったからでは。
     もっというと、寂しさを埋めるために、一夜を共にしたのでは、と。

     大人になると、子供の時のように一瞬でズキューーン! 一目惚れ、
     みたいなことはなくなってきます。(少なくともはそうです)。
     少しずつその人の人となりや仕草、考え方に惹かれていくことが多くなる。
     でも、それが純粋に「恋」だとどうやって分かるのか。

     大人になると、仕事や人間関係が複雑になり、社会に組み込まれていきます。
     そこではトラブルやすれ違い、不満、鬱屈などが渦巻いています。
     自分のちっぽけさを痛感することも多くなります。
     そのちっぽけさを埋めてくれる魅力的な人に好意を持つことと、
     ある相手をただ純粋に好きになること、
     そこに横たわっている違いに、どういった線引きができるのか。
     には「ここが違う」とはっきり言える言葉が見つかりません。
     本作のトムもそれは同じようです。
     なので悩みます。

     本作の脚本が秀逸で、「結婚」を見つめる目線が真摯だなあ、と思うのは、
     さらにレニーさんがシングルマザーの設定で、
     小さい男の子を育てていることです。
     男の子がトムになついた瞬間、レニーさんはうるるっと感動するんです。
     「この子がなついた男性がいた!」と。
     同じように、トムもこの男の子が可愛くて、一緒にいるのが楽しくなります。
     でも、これって、相手に対する「恋」をより見つめづらくしています。
     「私のひとり息子がなついた」からトムのことが好き、
     「こんな可愛い子供をひとりで必死に育てている」からレニーのことが好き、
     それって、間に子供という要素がひとつ挟まっての「好き」になっています。

     さらに、すでに結婚を経て、離婚までを経験しているレニーと、
     まだ35才でモテるといえばモテるトムの「結婚観」は微妙に異なります。
     レニーには「もう一度結婚によって傷つくのは怖い」という恐れがあり、
     トムには「この人を生涯の伴侶にしていいのだろうか」というためらいがある。
     二人の置かれた立場と抱えている感情は、その質と量において同等ではなく、
     互いに相談し合って共有できる種類ではないのです。
     だから、一人で悩みます。

     さて、そのすれ違いを二人はどう乗り越えるのでしょうか。
     それはぜひ映画を見て下さい。
     ただ言えることは、この映画がさらに真摯だと思える要素のひとつに、
     制作者は彼らの結婚式シーンをクライマックスにしていないことです。
     なんと二人は式を挙げた後にまだ自分の気持ちが欺瞞かもしれないと悩み、
     関係を破棄しようと真剣に相談するのです。
     ああ、大人の恋愛って大変ですね。

     とはいえ、本作の監督、キャメロン・クロウはアメリカ映画の名手。
     必要以上にじとっとしたり、鬱々としたりすることなく、
     スポーツ選手との交流や、軽快な音楽を交えて、カラッと描き切ります。
     色々大変なことあるし、映画の企画もすぐ流れるけど(のことです)、
     人生って捨てたもんじゃねえなあ、そんな気持ちになります。
     久しぶりに観直して、は最後にちょっとうるっときました。
     多分この映画は10年後、20年後、繰り返してみる映画になると思います。
     外は雨が降っていますが、最後に今回の教訓です。
     トムさんがエージェントとして抱えるスポール選手のフィールドに即して……。

     【今回の教訓】
     人生にタッチダウンなんてものはない。
     悩みながらボールを抱えて、走り続けろ。

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    ■【 05 】 放送作家・林賢一のストイック映画評「終わった恋と、映画を数える・改」

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     話題の映画はいくつの「カット」で構成されているのか──?
     2年間、劇場の暗闇でカットを数えてみたら、驚くほど映画の「真相」が見えてきた!

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     【Vol.123】  『サンドラの週末』を数えてみた。
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     こんにちは、カット職人の林です。
     結婚とは何でしょうか。
     こんな大それたテーマは、アフォリズムをとっかかりにするのが良いかもしれません。
     本来は詩がいいのですが、ニーチェからいきましょう。

      自分たちより以上の一者を創造しようとするふたりの意志ーー
      それをわたしは結婚と呼ぶ。そのような意志としてのお互いの畏敬ーー
      それをわたしは結婚と名づける。
      (フリードリヒ・ニーチェ『ツァラトゥストラ』)

     反してネガティブなものだって、もちろんたくさんあります。

      恋愛のあとに結婚が続くのは、燃えさかる炎のあとに煙が続くようなものである。
      (セバスティヤン・ジャンフォール『省察・箴言・逸話』)

     映画とは得てして、こういったアフォリズムを飲み込む感覚を
     鑑賞後に味わせてくれます。
     具体的なカットやエピソードなりを通じて、
     各映画が鑑賞者それぞれに独自のアフォリズムを与えるのです。

     そのモデルケースとしての「結婚映画」。
     今回、取り上げるのはベルギーのダルデンヌ兄弟の新作
     『サンドラの週末』です。
     主演はマリオン・コティヤール。現在、劇場公開中の作品です。
     この作品は、広義の「結婚映画」ではないかもしれません。
     結婚に重点が置かれた作品ではないのですが、
     わたくしカット職人は結果として、結婚についてのアフォリズムを手に入れました。
     これについては後述しますが、まずは映画のご紹介から。

     【『サンドラの週末』スジ】
     鬱病のために休職していたサンドラ(マリオン・コティヤール)が
     職場に復帰しようとした矢先、会社側から解雇を告げられます。
     同僚が掛けあってくれたおかげで、解雇を免れる方法が生まれます。
     それは、週明けの月曜日に従業員16人の投票を行い、過半数がボーナスを諦めること。
     同僚たちを訪ね説得して回る、サンドラの長い週末が始まったーー

     物語はとてもシンプルで、サンドラが週末に同僚に会いに行き、
     「仕事を続けたい。だからボーナスを諦めて、わたしに投票して」
     と、ひたすらにお願いする姿が繰り返されてゆきます。
     だったら労働に関する映画で、結婚映画ではないじゃないか、そう思われるかもしれません。
     たしかに、メインテーマは「賃金」であったり「職場」であったり「格差」かもしれません。
     ですが、この映画にはそれらのボトムに「結婚」が忍んでいるのです。

     サンドラには家族があり、夫と2人の子どもがいます。
     夫は飲食店で働いており、その稼ぎだけで一家が生活をすることができません。
     そんな中、夫は解雇のピンチにあるサンドラに
     「みんなを説得してみようよ」とサンドラをそっと励まします。
     決して、強く言ったり、強制するようなことはしません。
     そのサンドラへの眼差しが、とても柔和なのです。
     カット的にいえば、1カットの持続時間がとても長く、
     長回しでじっとサンドラを見つめることにより、その寄り添いを表現しています。
     ここでこの作品のカット数をご報告しておきましょう。

     +++++++++++++++++++++++++++++
      『サンドラの週末』のカット数は【97カット】でした。
      上映時間は95分なので、1カット平均は約58.7秒になります。
     +++++++++++++++++++++++++++++

     注目したいのは、100を下回る短いカット数もさることながら、
     1カット平均が約1分という、カット持続時間の長さです。
     この映画は「ほぼ1カット1分」であることにより、
     前述したサンドラへの優しい眼差しを観客も同時に持つことになります。
     そして、このサンドラへの寄り添いの目線は、
     同時に16人の従業員がサンドラを見つめる眼差しでもあります。
     サンドラは携帯電話をかけて説得をするのではなく、
     自分の足で従業員の家まで言って、目を見つめて
     「ボーナスを諦めて、わたしを復職させて」と頼みます。
     ですが、サンドラはそこで強制をしません。
     各家庭にも事情があります。ボーナスがなければ生活できない、
     お金が必要なのはどの家庭だって事情は似たり寄ったり。
     ですが、サンドラが各家庭を訪問するカットを通じて、
     ほのかな連帯が現場に生まれ始めるのです。
     「俺はボーナスがほしい。ごめんな」
     そう同僚に言われるサンドラは「分かった。ありがとう」と立ち去ります。
     サンドラは踵を返して従業員に背を向けます。
     すると、ほとんどの人が「待って、サンドラ」と呼び止めるのです。
     この間、カットはずっと持続しています。
     サンドラを呼び止めた後、同僚は一言サンドラに声をかけます。
     つながっているのです、人と人も。そしてカットも。
     そう、この映画の「1カット1分」という長さは、連帯なのです。
     通常の映画ではカットをつなぎ合わせることによって「運動」を生みますが、
     『サンドラの週末』では、カットを持続させることで「連帯」が生まれるのです。

     重要なのは、この「連帯」は結婚そのものではないか、ということ。
     サンドラの夫は、ただサンドラのそばにいて、メッセージを送り続けます。
     「いつでも君の味方だ。われわれは一緒だ」と。
     それは究極の連帯意識です。そもそもが他者であった2人は結婚を通じて連帯しました。
     もともとが完全なる他者同士(結婚相手)が連帯することができるなら、
     それ以上に距離の離れた他者(例えば、同僚)とだって、連帯が可能なはずです。
     この映画でいえば、16人全員の連帯は無理かもしれません。
     全員がボーナスを諦めることは現実的ではないでしょう。
     実際に過半数の投票を得られればサンドラは復職できるのですが、
     それ以外の人は「そんなことよりボーナスが欲しい」と、
     連帯を拒否し、目の前の利益を求めます。
     家族を愛する、隣人を愛する、という強い意識は、
     すぐさま「そのためだったら他者を傷つけても良い」という排他的な思想に切り替わります。
     戦争とはそういった愛国心が生んだものでしょう。
     ですが、もしそれが「連帯」だったらどうでしょう。
     結婚を「他者との初めての連帯」と考えることができたなら、
     例えば、愛する家族以外の人々とも連帯できる可能性が広がります。
     だからわたくしは『サンドラの週末』を見てこんなアフォリズムを得たのです。

      結婚とはただ寄り添うことである。
      その連帯が、他者にも繋がれる可能性の第一歩とならんことを。
      (林賢一『終わった恋と、映画を数える』)

     解雇されそうな女性が週末、同僚を訪ね歩く。
     ただそれだけの映画(月曜日の投票結果は是非、劇場で目撃して下さい)が、
     なぜこうも豊かで、労働や結婚についてだけでなく、
     人と人とのコミュニケーションの根源にまで触れることができたのか。
     それはカットという眼差しが、らに連帯を求めているからです。
     こう書いているわたくしだって、これを読んでいる皆さんと連帯したい。
     ですが、それは非常に難しい。でも、連帯したい。矛盾しています。
     どうすれば結婚という極私的な事柄を、普遍性を持って他者にも応用できるのか。
     考え続けなくてはならないのです、少なくとも結婚しているわたくしは。
     是非、『サンドラの週末』を劇場で。

     レビュー的には星3つ(☆☆☆)!!!

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    ■【 06 】 俳優・駒木根隆介の役者論「俳優麺論」

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     通称「名優」駒木根隆介。映画、演劇と舞台を問わぬ活躍を見せる彼が、
     映画の中で見せる俳優たちの演技を大好物の麺にたとえて一刀両断

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    【第百十七麺論】 『指輪をはめたい』塩、醤油、味噌。味を決めたい!
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     こんにちは!
     34歳独身貴族!駒木根です!

     今週は月あたま、つまりは特集号!
     テーマは「結婚映画」ですよ!
     6月はジューンブライドだし、結婚映画なんていいんじゃないですか、
     と軽い気持ちで切り出したのは、そう、です!
     そして、このメルマガメンバーの中で最も結婚と距離がある男が、そう、です!
     結婚?
     ぜんっぜんイメージ湧かない!
     今まで何度か結婚している役もやりましたし、
     結婚式も何度かやりました。
     子持ちの役だってやりましたよ!
     しかし正直!
     ぜんっぜんピンと来てません!
     誰か!
     結婚して!

     という訳で今回取り上げますのは、そんな私と同じく、決められない男の結婚映画、
     『指輪をはめたい』です!

     2011年公開の日本映画で、主演は山田孝之さんです!

     置き薬会社の営業マンの男がスケートリンクで頭を打って記憶を失い、
     3人のガールフレンドの誰に結婚指輪を渡そうとしていたのか思い出せず悪戦苦闘する今作!

     まず主演の山田孝之の、優しいけど優柔不断で、周りに振り回される主人公のモラトリアム感がとても良かったです
     剛から柔まで、自身のイメージをいかようにも変えられる山田孝之さんの、
     柔の魅力溢れる演技がまず見どころ!
     ウシジマくんと同じ人だとはとても思えない!

     そしてなんといっても奥さん候補の3人が、各人それぞれ魅力的で素晴らしい!
     これは選べない!

     例えば明日から、醤油、塩、味噌の中から選んだラーメンしかもう一生食べられないとなったら皆さんどうしますか!
     これは選べない!

     まず小西真奈美さん演じる会社の先輩!
     薬品研究室のリーダー!
     キャリアウーマン!
     白衣似合いすぎ!
     落ち着いてるけどたまにデレ!
     距離感も心得てるし、地に足ついた家庭が築けそう!
     安定感抜群の醤油!
     なんたって綺麗!

     続いて売れない人形劇作家の池脇千鶴さん!
     一途で古風!
     尽くすタイプ!
     そしてドジっ子!
     笑顔の絶えない家庭が築けそう!
     安心感抜群の塩!
     なんたって可愛い!

     そして「メルヘン風俗モンデルセン」の人気No.5風俗嬢、真木よう子さん!
     巨乳!
     セクシー!
     性格はサバサバしてるし、
     素晴らしい巨乳!
     飽きのこない刺激的な家庭が築けそう!
     満足度抜群の味噌!
     なんたって巨乳!

     これは決められないでしょう!

     更に今作はここに!
     主人公が記憶を失ったスケートリンクにいつもいるスケート少女、
     二階堂ふみさんが絡んでくるのでもう大変!
     3種類でも選べないのに、いきなり豚骨スープまで乱入してきちゃった感じ!
     もうどうすりゃいいんだよ!

     さてここまで読んでもらって、
     いかに私が結婚から距離があるか分かってもらえたかと思います。

     今作の主人公も、幻想としての女性、結婚感に囚われ、結果まあホニャララな感じにはなるのですが、
     ラスト少しだけ成長して前に進めた主人公に、
     34歳独身、まあなるようになるさ、と背中を押してもらった私でしたよ!

     という訳で!
     とにかく女優陣の全くベクトルの違う魅力にやられて星は☆☆☆!
     機会があったら是非観てみてください!
     オススメです!
     また次回!

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    ■【 07 】 女優・森下くるみの完全女子目線映画評「乙女は映画に恋をした」

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     本メルマガの女子力担当・森下くるみが古今東西の映画の中の女子に着目。
     完全乙女目線で、映画の中にときめきキラメキその他もろもろを探してまいります。

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     【今週の乙女】  おら、結婚さするだ! 『ミュリエルの結婚』
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     今月から毎月第1週目は特集号になりますよ!
     記念すべき初回は「結婚映画特集」です。

     6月といえばジューンブライド。

     「結婚や出産を司る女神が守護する月が6月であることから、
     この月に結婚をすると生涯幸せに暮らせる」という言い伝えが
     ヨーロッパにはあって、それが日本にも通用するのかはわかりませんが、
     とにかく6月は結婚に縁の深い月なのです。

     今回わたしが取り上げる作品は『ミュリエルの結婚』(1994)です。
     監督は『ベスト・フレンズ・ウェディング』のP・J・ホーガン、
     主人公のミュリエルを演じるのは『シックス・センス』で
     アカデミー助演女優賞にノミネートされたトニ・コレット。
     今作では体重を20キロ増やして役に挑んでいます。

     ミュリエルの父親は権力者であり、母は亭主関白な夫に従う一般的な女性。
     弟妹たちは揃って親のスネかじりで、自分と同じく太っちょでニート、
     そういう家庭環境です。

     ある日、友人の結婚式でブーケを獲得してご機嫌のミュリエルでしたが、
     友人たちにまさかの大ブーイングを食らいます。

     「あんたに結婚の予定なんてないでしょ? 何なら彼氏すらいないじゃん?
     今すぐそのブーケをよこしなッ」

     ああ、結婚適齢期にある女性たちの残酷さよ……。
     ミュリエルは「くぅ~! 」と悔しさで顔をくしゃくしゃにしながら、
     泣く泣くブーケを手放します。

     わたしだって結婚したいのにいいいいいいい!
     くっそーーー! そのために、まず生活環境を変えてやるからあああ!

     そうひらめいたミュリエルは、「おら、シドニーさ行くだ!」と一念発起、
     野暮ったくて無職で、性格的にもたいした取り柄のないミュリエルは、
     心から「変わりたい」と願い、人生のテーマソングであるABBAの
     「Dancing Queen」を胸の奥に響かせ、なぜかタクシーで家を離れるのです
     (資金などは母が工面)。

     You can dance you can jive♪
     Having the time of your life♪

     花嫁になれば、デブでブスで愚図な自分は魔法のように消え去るし、
     結婚すれば今までのドブ色の人生はすべて虹色バラ色になるのだと
     ミュリエルは固く信じています。

     えっ?
     怖い、重い、面倒くさい?

     いやいやいや。
     ミュリエルはひとりの女性として素直に幸せになりたいだけです。

     けれど、想いは強くても幸せのヴィジョンが漠然としているので
     「自分にとっての幸せ」がまったく定まらずに映画後半まで迷いっぱなし。
     幸せを自らの感性で実感することがなかなかできないんですね。

     「結婚」や「花嫁」という言葉が放つ幸福のイメージをひたむきに追い求める、
     妙齢ミュリエル。

     さあ、ラストはどんな判断で、どんな行動をしたのでしょう。

     結婚をテーマにした映画には、「幸せってなに?」「愛ってなんぞや?」問題が
     500%付きまといます。

     幸せは、人それぞれ。
     一家言ある! って方はぜひこの機会にメールでお便りください。
     2015年においての、男性側が主張する「幸福論」を聞いてみたいです。

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    ■【 08 】ラッパー・上鈴木伯周の「すべての映画はヒップ・ホップである」

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     いまやポップミュージックの代名詞的存在となっているヒップ・ホップ。
     そんなヒップ・ホップを愛してやまないひとりのラッパーがこう言った。
     「すべての映画は、ヒップ・ホップなんですよ」。ならば語っていただこう!
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     【Vol.72】  『ブルーバレンタイン』(2010)とラップ・ジーニアス
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     どうもこんにちわ。ラッパー・上鈴木伯周、35歳です。

     今週は結婚映画特集! ということで、
     一応わたくし、今年で結婚生活10年目に突入ですので、
     そんな既婚者目線で切り込んでいきたいと思います。

     取り上げるのは、
     ライアン・ゴズリングとミシェル・ウィリアムズが主演の
     『ブルーバレンタイン』です。
     「夫婦・カップルで見ない方がいい!」なんて意見が
     メディアからもの周囲からも漏れ聞こえてくる作品ですが、
     も公開時に観た感想は同意見。「あー、一人で見てよかった」と。
     その理由は多分、本作が愛のビフォアー・アフターを、
     つまり男女に起こりうる残酷な愛の変化(崩壊)を
     描いて言るから、だと思います。もはや結婚ホラー映画なのです。

     マジであーはなりたくない。
     けど、あーなっちゃってるカップル・夫婦はすでに数組知っている。
     ということは……明日は我が身、ひえーー!ということですね。

     ただ、今回の「結婚映画」特集に合わせて見返したところ、
     の感想は全く別のものになったのですホント自分でもびっくり!
     映画初見から約5年が経ち、結婚生活も10年目を迎え、
     久々に観た『ブルーバレンタイン』という結婚ホラー映画で
     に起こった心境変化とは? まさに結婚映画特集にふさわしい流れっ!

     というわけでどんな作品なのか、
     まずはあらすじをラップで説明しましょう。

    ▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼
    どこにでもいるような男女の出会いと恋愛
    しかし結婚を機に愛は終わり 訪れる倦怠
    現在と過去 見ていた未来が違うって残酷
    ただこのテーマは見逃せない 共通of万国
    ▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲

     はい、『ブルーバレンタイン』をヒップ・ホップ的に言うならば……!

     ついてる男'94春

     ということになりますね。

     ついてる男'94春 スチャダラパー
     https://youtu.be/wTukqdwu6qc
     (ぜひ、これを聴きながら原稿を読んでみてください)

     ではどいうことか、説明していきましょう。

     ■同じテーマに対する ネガ・ポジ視点
      ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
     「ついてる男'94春」は1994年に発表された曲ですが、
     この歌は「災難続きだった彼女とのデート」という内容を、
     前半のBOSEがネガティブに、後半のANIがポジティブにラップする、
     という構造になっています。

     起こる事象は全く同じ。
     ウンチを踏んづける、から始まり最終的には家が火事になるんですけど、
     ついてる! も、ついてねぇ! も結局は気の持ち様! モノは考え様!
     って歌なんですが、こういう対比構造を作れることがラップの妙ですね。
     (歌詞を多く詰め込めて、さらに2MCで掛け合いができる)
     リリックは軽く笑える内容なのに、造りには緻密な計算がある……
     さすがスチャダラパー!

     というわけで、『ブルーバレンタイン』にも、
     反転する構造の妙と、ネガ・ポジの視点の変化がありました。
     どういうことか説明しますー。

     ■「結婚」で変化する 残酷な男女の物語
      ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
     映画は、結婚して5歳位の娘がいる「現在」と、
     出会い、結婚するまでの「過去」とがカットバックで対比され描かれます。
     少しハゲた夫、少し太った妻、そして倦怠期で喧嘩の絶えない現在。
     一方、貧乏ながらも日常を常に楽しくしようとする男と、
     医学を学び自分の将来にまい進する女とが一目惚れで出会い、
     愛を育んで行く過去。

     こんなもん、対比させたらつらいだけなんですけど、
     本作はさらに、映像的に似たシチュエーションを対比させることで、
     「残酷な現実」を強調させます。

     眉間にシワを寄せてキスを拒む妻(現在)。
     ↓カットが変わると
     首に手を回し唇を求める妻(過去)。

     など。その他にも残酷な対比カットは続きます。
     そして映画が進むと、
     「現在」は決定的な決別、つまり離婚に至る事件に到達し、
     同時に「過去」は幸せしかない「結婚式」に到達します。
     同じキスなのに、同じ抱擁なのに、その行為の意味することが
     対極的すぎて、もーやめて! ってくらい見てらんない。
     2人だけで、2人がいる世界だけですべてがハッピーだった過去が、
     「結婚」をきっかけに社会に組み込まれ、現実をサバイブする必要が出ると、
     あの頃は思いもしなかった「愛の優先度の低下」が起きる、という残酷。

     もしこれを嫁と観てたなら、
     嫁「しゅー君もこう思ってるの? 結婚って失敗だった?」とか、
     嫁「あー、私たちもこうなっちゃうのか……」とか、
     もっと最悪なのは
     嫁「……(無言 で感想戦をしない)」とか、
     そんなことが怖くて「嫁と見なくてよかった」と、
     そう、5年前のは思いました。

     ただ、むしろいまのは「これ、嫁と見たい」と思っています。
     何故か、説明が難しいんですが、いってみましょー。

     ■まとめ
      ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
     確かにら夫婦も、
     出会ったあの時のような愛だけに輝いた関係ではないけれど、
     愛のためだけに生きられなくなったことに失望するんじゃなく、
     また、別の形で作ればいいんだよ、的な、反面教師的な、
     そんなポジティブな感情に落ち着いたのです。わーお。

     出来立てホカホカの料理は美味しいに決まってるけど、
     冷めてからも美味しく食べれる工夫が大切なんだ、と。
     昔はキャッチボール。2人で投げ合うだけで楽しかった。
     今はプロ野球。チーム運営も戦術も大切で、その上で、
     たまにはフルスイングでホームランを打てれば、
     それが楽しいんじゃないか、と。(この例えはわかりにくいか。)

     すみません。自分語りが過ぎましたが、
     とにかく「結婚」をテーマにした作品でいて、
     さらに「結婚」について様々なことを考えさせてくれる傑作でした。
     最後に少し映画の話に戻れば、
     本当に素晴らしい(幸せ/辛さ両方で)シーンの数々、
     現在と過去を演じきった主演の2人、本当に最高っす!
     (あー、エンドロールもすっさまじく最高です!!)

     というわけで『ブルーバレンタイン』の星は☆☆☆。
     付き合いたてのカップル、ベテラン夫婦、全男女にオススメ。
     これを観て「結婚したくねー」って思うに留まるか、
     さらに深く自分と結婚に対して考えが及ぶか、
     その差が「モテ」につながるんではないでしょうか。

    ==============
    ■P.O.Pワンマンライブ ちょっと巨大な双子、上鈴木兄弟のお誕生日会
    https://www.facebook.com/events/751655141620758/
    場所:渋谷LOOP annex
    時間:18:30OPEN ~ 22:30 CLOSE
    価格:前売2500円 / 当日3000円 (ドリンク別)
    ゲスト:
    杢太郎 (Pablo)
    BIKKE (TOKYO No.1 SOUL SET)
    Cello a.k.a Massan (Massan×Bashiry)
    ==============

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    ■【 09 】メルマガ読者限定ハミダシPodcast「シアター野郎 劇場一番星」ガチ話!

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     毎週配信の本メルマガのPodcast。
     収録終了後のガチ本音話をメルマガ読者だけにお聞かせします!
     不特定多数にはちょっと聞かせられないナイショの話!

    +‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥+

     <今週のガチ話は──!?>
     ・『イニシエーション・ラブ』ネタバレトーク!
     ・らのベスト「どんでん返し映画ベスト」。読者さんのレベルが高ぇ!
     ・入江悠が同い年のニール・ブロムカンプ監督『チャッピー』に物申す!
     ・ダラ話。小冊子の話。新作映画の話、など。

    http://norainu-film.heteml.jp/mote/gekijoradio_20150530ga.mp3

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    ■【 10 】「デートのための映画データベース」(情報コーナー)

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     えっ、あの映画ってもう終わっちゃうの?
     おっ、あの映画、もうすぐ始まるんだ!
     観たい映画を見逃さないための、デートに使える映画情報コーナーです。

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    │【 後の祭りにもうしない、もうすぐおわる映画 】
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     『Mommy/マミー』グザヴィエ・ドラン監督(カナダ)

     <上映期間・劇場> 上映中~終了日未定・YEBISU GARDEN CINEMA、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館(金曜まで)

     すでに常連のカンヌで、83歳の巨匠ゴダールと並び審査員特別賞をW受賞、審査員長ジェーン・カンピオンも絶賛の話題作!
     2015年、架空の国、カナダ。夫を亡くした母と多動性障害を抱える息子のユニークな日常、愛情と葛藤をえぐるように描く。
     インスタグラムのような1:1の画面に鮮やかな色彩、音楽。ドラン独特のオシャレ感を毛嫌いしてたらもったいないっ。
     ※ドランが熱望して出演した心理サスペンス作『エレファント・ソング』(シャルル・ビナメ監督)は、今週末公開!

    http://mommy-xdolan.jp/

    ┌─────────────────────────┐
    │【 誰より先に観ておきたい、週末はじまる映画 】
    └─────────────────────────┘

     【1】
     『トゥモローランド』ブラッド・バード監督(アメリカ)

     <公開日・劇場> 6月6日(土)・TOHOシネマズ日劇、新宿バルト9ほか全国公開

     ウォルト・ディズニーの遺した謎の資料に着想を得て、『Mr.インクレディブル』の監督が製作・脚本も務め映画化。
     ディズニーランドのテーマエリア“トゥモローランド”が、ウォルトの本当の夢を隠す壮大なカモフラージ!?
     宇宙飛行士を夢見る17歳の少女と、未知の世界トゥモローランドの謎を知る男が、人類の未来を賭けた冒険に挑む!

    http://www.disney.co.jp/movie/tomorrowland.html

     【2】
     『靴職人と魔法のミシン』トム・マッカーシー監督(アメリカ)

     <公開日・劇場> 6月5日(金)・TOHOシネマズ シャンテほか全国公開

     N.Y.の下町で小さな靴修理店を営むマックス(アダム・サンドラー)は単調な毎日を生きていたが、ある日、
     先祖伝来の旧式ミシンで靴を直してみると、なんと靴の持ち主に変身! 他人の人生を疑似体験し、刺激的で痛快な日々を満喫!
     やがて人生を一変させる出来事が!? 『扉をたたく人』の監督が描いたヒューマン・コメディ作。

    http://kutsushokunin.jp/

    ┌─────────────────────────┐
    │【 今週の名画座PICK UP! 】
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     「春日太一セレクション」

     <上映期間・劇場> 6月6日(土)~ 7月3日(金)・神保町シアター

     ベテラン俳優に名作秘話や役作りの真髄を聞いたインタビュー本、春日太一・著「役者は一日にしてならず」の刊行記念。
     昨年死去した夏八木勲、蟹江敬三をはじめ、収録された16名の代表作を一挙上映!
     深作欣二『復活の日』、増村保造『動脈列島』、中島貞夫『真田幸村の謀略』、加藤泰『骨までしゃぶる』など16作品。

     ※初日には『戦国自衛隊』主演、千葉真一とのトークショーもあります

    http://www.shogakukan.co.jp/jinbocho-theater/program/kasuga.html

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    │【試写会・イベントPICK UP!】
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     映画館で観るだけが映画じゃない!
     いつもと違う環境で楽しめる試写会や上映会情報。
     自力で当てて、あの子を誘おう!

     【試写会】
     『踊るアイラブユー♪』スポニチ特選映画観賞会 200組400名当選

     <開催日時・場所> 6月29日(月) 18:30開映・一ツ橋ホール
     <締切・応募先> 6月18日(木)14:00まで・@RANDAM http://spodom.jp/cinema/524/201506/odoru.php

     『レ・ミゼラブル』スタッフが贈る、シンディ・ローパー、マドンナ、デュラン・デュランなどの80年代ヒット曲が
     散りばめられたラブ・ミュージカル! 南イタリアの美しい海辺の街プーリアを舞台に、姉妹の恋愛模様を描く。
     恋に慎重な妹が、奔放な姉から突然、結婚すると告げられるが、その相手は3年前に別れた元彼。なんと結婚式は明後日!?

     ※ 7月1日開催の試写会もあります→ http://www.ozmall.co.jp/cinema/1122/

    http://odoru-iloveyou.com/

     【特集上映】
     「最後の韓流祭」&「Last Present」

     <上映期間・劇場> 6月6日(土)~ 12日(金)まで・シネマート六本木

     ここでしか観られない貴重なアジア映画を流してくれた4スクリーン合計440席が、6月14日、ついに閉館。本当に最後の特集上映は、
     6作品『ダンサーの純情』『シークレット・サンシャイン』『チェイサー』『殺人の告白』『高地戦』『トンマッコルへようこそ』。
     同日から開催の「Last Present」では劇場初公開の『あなたなしでは生きていけない』など、台湾や香港作品を含む4本の上映も。

    http://www.cinemart.co.jp/theater/roppongi/lineup/20150529_12661.html

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    │【最果て通信】 ※八戸在住・情報担当ふじっこの、青森映画情報です。
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     むつ市出身、川島雄三の命日には毎年上映会開催。11日『洲崎パラダイス赤信号』、12日『箱根山』。むつ市図書館。無料!

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    ■【 11 】 メルマガ編集担当の書評コーナー「これは映画になりますか?」

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     編集担当が、映画にまつわる注目書籍を毎週一冊ピックアップ!

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     【今週の一冊】  12時過ぎて、魔法が解けて。それでも続くよ、人生は。『CINDERELLA シンデレラ』
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     結婚をテーマにした物語には、どのようなものがあるだろうか。

     日本で「物語の祖」といえば、竹取物語。
     これは、いってしまえばSFファンタジー結婚物語だ。
     日本で「小説の祖」といえば、源氏物語。
     これまた、いってしまえば結婚をめぐるドタバタ恋愛群像劇。
     そして世界地図を西へと目を向ければ──
     そう、ただいま映画版が公開中、昔話の定番中のド定番『シンデレラ』もまた、
     そのものズバリの「結婚物語」であろう。
     「シンデレラ」は、フランス語の「サンドリヨン」の英語読み。
     サンドリヨンを直訳するならば「灰のやつ」。
     日本の「竹のやつ」「光るやつ」しかり、
     洋の東西を問わず物語の原型近くには「結婚」の存在があるのが面白い。

     というわけで、今回のテーマは「『シンデレラ』をじっくり読んでみよう」というものだ。
     白馬に乗った王子様が、いつかわたしを迎えに来るの。
     すべての少女(だった人)たちの結婚観に多大な影響を及ぼしたと思われる本作は、
     いったいいかなる話なのだろうか。

     ちなみに今回読んだのは、竹書房文庫から2015年4月に発行された『CINDERLLA シンデレラ』。
     映画公開のタイミングにぴったり合わせた、
     「公式本」ならぬ、いわゆるひとつの「便乗本」なのだが、これが実に面白い。

     日本でおなじみの『シンデレラ』は、
     フランスのシャルル・ペローという人が説話をもとに構成したもので、
     これがディズニーアニメのベースにもなっている。
     ではもとになった説話とはなにかということだが、
     「シンデレラ」物語の最も古い記録は紀元前にまでさかのぼるといい、
     アラブ世界からヨーロッパ、中国、韓国、東南アジアに我らが日本まで、
     広く類型・亜種・似た話が語り継がれているのだという。
     本書は、それら様々な「シンデレラ・ストーリー」をかたっぱしから収集した体裁となっている。
     いわばシンデレラ版の柳田國男『遠野物語』的内容である。

     さて、古今東西の「シンデレラ・ストーリー」のなかで、
     やはり白眉といえるのがペロー版シンデレラ。
     なにしろ、「ガラスの靴」も「かぼちゃの馬車」も「12時を過ぎると解ける魔法」も、
     すべてペロー版にしかない要素なのだ。

     ガラスの靴は「靴による本人確認」というクライマックスシーンをより盛り上げる。
     かぼちゃの馬車は物語にマジカル感を付与するし、ガジェットとしても最高だ。
     そしてなにより「12時を過ぎると魔法が解ける」という設定はサスペンス感をいや増す。

     もうひとつ、ペロー版の特徴として挙げられるのが
     さんざんシンデレラに意地悪をした義理の姉妹はシンデレラに許され、
     王宮に住まうことを許された上、貴族との結婚まで斡旋してもらえるところ。

     正直これは、物語としては物足りない。
     悪には鉄槌を。
     それにより得られるカタルシスは決して見逃せない要素だろう。

     現に、グリム版シンデレラ『灰かぶり姫』において、
     義理の姉妹は靴に足を合わせるためにつま先やかかとを切り落とす
     (靴下に血がにじんで偽物だとバレる。なんだそりゃ!)けれど、それは報われない。
     韓国のシンデレラ・ストーリー『コンジとパッジ』においては、
     シンデレラに相当するコンジは義理の姉妹であるパッジによって自殺に追い込まれ(のち復活)、
     それが露見したパッジは死刑を宣告された上、ソースにされてしまう。
     挙句の果てにはそれを知らずに食べた継母が愛娘を食したことを知らされ、死ぬ、
     という因果応報ここに極まれりといった構成となっている。
     なんとも、グロい。エグい。
     しかし、グロいからこそのカタルシスもたしかにある。

     勧善懲悪。盛者必滅。罪も憎むし人も憎むぜと言わんばかりの筆致。
     ペロー版には、それがない。
     どうでもいいのだ。結婚しちゃったんだから。

     いじめがあり、魔法があり、パーティがあり、脱ぎ捨てられた靴と靴の持ち主を探す旅がある。
     波乱万丈の恋の時間は、やがて結婚というクライマックスを迎える。
     そこまで何十ページを費やしたとしても、その後の人生はわずか一行、
     「そしてシンデレラは王子様といつまでも幸せに暮らしましたとさ」で足りる。
     人生を安定させる魔法のことば。
     それが、結婚。
     王子様というステータスは、安定への担保だ。
     シンデレラの物語は、だから安定へと至る遍歴の物語だ。

     ブランドもののガラスの靴を毎年新調することに無常の喜びを感じる人生もあるだろう。
     「あの人合コン行くたびにガラスの靴忘れてくよね」と女子トイレで嫌味を言われるのも人生。
     足むくんじゃってアタシもう入んないわよ~、ガラスの靴~、といって笑う。
     どっこいそれでも、人生だ。

     かぼちゃの馬車もいいけれど、やっぱり税金の安い軽よね。アルトミニとかどうかしら。

     物語になりえない、リアルすぎるほどリアルに魔法が解けきる午前8時、そろそろゴミ収集車が来る時間。
     「安定」がもたらす時間を知るほどに、『シンデレラ』の物語はまぶしさを増す。
     それでも「安定」を求め、王子様を求める。それが『シンデレラ』の普遍性なのかもしれない。

     <今週読んだ本:『CINDERELLAシンデレラ』シャルル・ペローほか(竹書房文庫)>

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    ■【 12 】 編集部より

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     Pick up!
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    入江悠の新作映画『太陽』のニュース↓(映画.com
    http://eiga.com/news/20150211/1/

    入江悠監督作『ふたがしら』情報↓ (WOWOW公式HP)
    http://www.wowow.co.jp/dramaw/futagashira/

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     編集後記
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     いかがでしたでしょうか! 新企画「月あたま特集号」。
     一発目の今回は、6月にちなみに結婚映画特集でした。
     今後も月初は特集号になります。
     今回のようなテーマ特集もあれば、
     ひとりの映画監督、ひとりの俳優にフォーカスする特集号もあり、
     なかには一本の映画を全員で語る、なんてこともあるかもしれません。

     「こんな特集やってくれ!」というご要望やご意見、ぜひお待ちしています!

     さて。
     結婚映画特集号ということで、最後に一言。
     私淑する作家の島地勝彦さんの箴言を。

     「男女は誤解して愛し合い、理解して別れる」

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     それではみなさん、また来週!

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