◆岡田斗司夫の母vs税務署(15)
暑かった夏、熱狂のSF大会は終わり、膨大な借金に困り果てた僕たちは、オープニングアニメを、わずか5分間のアニメを一万円以上で売ることにした。
数日もしないうちに現金書留が届きだした。
二通、三通と増えてゆき、ついには毎日数十通、届くようになる。
アニメに否定的だった両親の態度は目に見えて変わった。
別に両親が守銭奴だったわけではない。
「自分たちにはわからないけど、価値を感じる人が多数いる」という証拠をはっきり認めたわけだ。
まず、父が動いた。
「斗司夫、このアニメは誰が作ったんや?」
家をスタジオに使わせてもらい、金まで貸してもらった手前、黙ってるわけにもいかない。
仕方なく「庵野、赤井、山賀の3人」と答える。
「その3人は、それぞれ何をしたんや?」
「作画全体は庵野くん、女の子は赤井君、演出は山賀くん」と答えた。
父はしばらく考えて言った。
「その3人は、おまえにとって宝や。絶対に手放すな」
あまりの余計なお世話に、僕は返事もできなかった。
実行委員長の武田さんの母親は「友達は大事にしろ」といつも武田さんに言っている。
しかし僕の父は「才能のある奴は大事にしろ」ときたもんだ!
そう、父は才能のある人に目がなかった。
売れない芸術家の作品をよく買っていた。
奈良の彫刻師が一刀彫りで彫った実物大の鹿を買ったりしていた。
後にその作家は人間国宝に指定されたと喜んでいた。
父は自分が見込んだ才能に興味を持ったようだ。
今度は三人を監視しはじめた。
アニメ制作が終わって二ヶ月経っても、なぜか三人ともうちに住んでいたので、監視は簡単だった。
「庵野くんは酒ばかり飲んでる。あかん。やめといた方がええ」
父の会社が展示会に出品する時に山賀君に巨大な油絵を発注して「時間がかかるばっかりや。山賀君とは手を切れ」と言ってみたりもした。
ついには母も監視に加わった。
「赤井君はイヤなことがあると毛布かぶって寝てしまう。人間的に弱い子はここぞというときに逃げるから、手を切った方がいい」
ええ加減にしてくれ!と僕が怒ると、今度は僕が留守中に庵野くんを酒に誘い、取り調べを開始した。
「君はどれくらい才能があるんや?」という失礼きわまりない質問から、
「アニメを仕事にして、やっていけるんか?」
「斗司夫は、この世界に向いてると思うか?」
「君は斗司夫の右腕になってくれ」等々、すごい質問のオンパレードだ。
いっそ死んでしまった方がマシ、というくらい恥ずかしかった。
なぜそんな誘いについて行ったのか?と詰め寄ると「タダ酒が飲めるからです」と、庵野君は胸を張って答えた。
その後、赤井君が誘われているというのをきいて、全力で止めたのは言うまでもない。
すっかり長くなってしまった。
両親と税務署の戦い、続きはまたの機会に語ろう。次回から新シリーズで!
以上、『岡田斗司夫の ま、金ならあるし』よりお届けしました。