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岡田斗司夫のニコ生では言えない話
 岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2016/08/26
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おはよう! 岡田斗司夫です。
今日は週刊アスキー『岡田斗司夫の ま、金ならあるし』の記事から、セレクトしてお届けします。

最初からの一気読みはこちらです→http://goo.gl/L10s6c

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◆岡田斗司夫の最終ビジネス(6)
 
 大会当日の話は本題ではない。
 思い切って、はしょろう。

 第二十回日本SF大会DAICONIIIは大成功だった。
 オープニングアニメは、空前の熱狂と大歓声に迎えられ、他の企画も大好評だった。

 超過しつつあった予算さえ考えなければ、人生最高の二日間だった。
 
 SF大会の〆めは打ち上げパーティーだ。
 スタッフたちは二日間、企画も見れずあこがれの作家に声もかけられず、ひたすら働いた。
 その労をねぎらい、同時にゲスト作家の先生たちへのお礼の場でもある。

 喫茶店で会議を開いてもお茶代は自分持ち、という態度を貫いてきた僕たちは、始めて大会の経費で飲み食いした。
 赤字がまた増えると考えるとのどが詰まりそうになるので、考えないようにしながら。

 そんな時、次年度東京SF大会の実行委員たちが話しかけてきた。
 彼らこそ、かつて僕たちからSF大会を取り上げた東京の「有名SFファン」だ。

 「一流ファングループでない君たちにしては、よくやったじゃん」
 誉めてるつもりだろうか。
 怒りで首筋まで熱くなるのを押さえた。

 「君たちが盛り上げてくれたから、来年の東京大会、大成功だよ」
 「SF作家のみなさんも、百名以上参加してくださるし」

 僕たちの大会は、ゲスト作家は十数名だった。
 SF作家の大半は東京に住んでいる。

 わざわざ一泊二日で大阪に来てもらうのは大変なのだ。
 東京だと時間もお金もかからない。
 そりゃ大勢、来てくれるだろう。

 別に彼らがすごいからではない。

 それなのに、いかにも自分たちの手柄のような顔。
 でも、参加者にはそんなこと関係ない。
 参加するファンたちの目的は、第一に自分が好きな作家と会って話すことだ。
 自分の好きな作家が来るかどうかが参加の基準になる。

 オープニングアニメまで作ってようやく手が届いた「千二百名参加のSF大会」という記録。
 これをあっさり抜かれてしまうのだろうか。
 僕たちの悔しさに流した涙、それを跳ね返すための踏ん張り、そのすべては、彼らの言うとおり来年の東京SF大会の踏み台にされてしまう。

 呆然とする僕の耳に、彼らの言葉が聞こえてきた。

 「こっちには舞台監督もいるし、照明のプロもいるんだ。もっと『マトモ』な舞台が作れるよ」
 
 そうだろう。
 学生の集まりにしかすぎない僕たちは、最後まで舞台の取り回しに苦労した。
 プロの照明マンはけっして素人の演出プランどおりにやってくれない。
 そんな苦労も、コネや人脈の多い彼らには関係ないのだろう。

 「コスプレも派手だったけど、ちょっとチャチだったね」

 毎年のSF大会のように、参加者の自主性まかせなら良いコスプレが集まるかわからない。
 だからスタッフみんなで手の込んだ衣装を作った。

 一般参加者には、すごいものができるように、何度も手紙でアドバイスをした。
 僕自身、四国や岡山まで行って、励ましたりコツを伝授したりした。

 「こっちのスタッフには、プロの特殊効果マンもいるし、特殊メイクの本職もいるからね。もっと『マトモ』なものができるはずだよ」

 確かに米良くんのロビー・ザ・ロボットは紙と木でできている。
 近くで見ると張りぼてだ。
 『マトモ』じゃないだろう。
 でも、舞台ではホンモノそっくりに見えたじゃないか!
 
 彼は、生まれて初めてあんな大きな着ぐるみを、何度も失敗して何週間も徹夜して作り上げた。
 大会当日の盛り上げのために、重くて暑いロボット衣装を着て、何時間も会場を歩いてくれたんだ。

 しかし、彼らの指摘はすべて事実だった。
 どれほど努力したか、ではない。
 どれだけ素晴らしいモノが提供できたか、がすべてだ。
 
 僕たちの舞台が中途半端だったのも、コスプレがチャチだったのも事実だ。
 そして来年の東京SF大会は、僕たちの成功をあっという間に乗り越えてしまうだろう、ということも事実だった。

 「そうだ、俺たちもアニメ作ろうよ」

 え?
 思わず耳を疑った。

 「こっちのスタッフにプロダクション勤めてる奴、いくらでもいるしね。そこでオープニングアニメ作らせよう」

 そりゃ毎週30分のアニメを作っているプロのスタジオなら、5分のアニメくらい、すぐできちゃうかもしれない。

 僕たちが二年間、すべてを捧げてきたSF大会やオープニングアニメ。
 それも来年には「記録」も「記憶」も塗り替えられ、過去のものになってしまうんだろうか。
 
 言いたいだけ言って、次年度SF大会スタッフは去った。
 大盛況のうちに終了して、ハッピーエンドとなるはずだった僕たちの青春物語。
 エンドタイトルが出るはずだった打ち上げパーティーで、僕はひとり青ざめていた。
 周囲には苦楽を共にした仲間たちが、何も知らずに乾杯を繰り返していた。

 しかし、僕が、僕たちが本当にパニックになったのは、二日後の決算の時、二年前のSFショーとは比べものにならない大赤字が決定したときだった。
 来年の東京SF大会?
 そんなもん、どうでもええ!
 今月末、金がないんだ!!


以上、『岡田斗司夫の ま、金ならあるし』よりお届けしました。


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