『進撃の巨人』って、若い読者にとっては、もう思想書になってると思う。
昔、『銀河英雄伝説』という小説があった。
その本が、今の40代くらいのSFを読んでるおじさんにとって、それが社会や民主主義を考える時の基本ツールになっているんだ。
20代後半から30代半ばくらいの、週刊『SPA』を読んでた人にとっては、『ゴーマニズム宣言』という漫画がそれ。
漫画を含めた“小林よしのり”さんの活動全般が、思想的な根拠になっている。
どの時代にも、思想が「思想書」によってもたらされる事は、めったにないんだよね。
そうじゃなくて、その時に流行っている「大衆文化」をベースにして、思想を組み立てられる。
ある時は、『沈黙の艦隊』で日本の防衛を考える。
『銀河英雄伝説』で民主主義を考えるおじさんも多い。
『進撃の巨人』は組織論とか人生論。
生きがい。
かなり深いものが、読者の予想の2段くらい先まで提示されているんだ。
“今から107年前、我々 以外の人類は・・・皆、巨人に食い尽くされた”
そんなすごくショッキングな流れから始まっている。
これが『進撃の巨人』の世界観。
21巻に至るまでに裏表紙を見ると、10人のシルエットが並んでるんだよ。
このシルエットが何かというと、主人公が所属している訓練兵の時の仲間達10人なんだよね。
こいつらの悩みとか、青春の物語みたいなものだと思えばいい。
『進撃の巨人』はこの10人の話なんだよ。
『進撃の巨人』は設定がすごく面白くて、大きい話。
なので、ついつい「謎もの」だと考えちゃう。
でも基本は、この10人の心の動きをどれだけ細かく捉えるか。
群像ドラマの要素がすごく大きい。
カバーを外すと、この世界の伝説みたいな、『ナウシカ』のオープニングみたいな絵があるんだよ。
なんか変な文字で書いてあるんだけども、逆さまにするとカタカナになってるんだよね。
ウィキペディアの『進撃の巨人』のページに、全部ちゃんと書いてある。
「巨人の襲撃により、人類は海を越えた新大陸への移住を余儀なくされる。
この際、人類はほとんどが死滅するが、滅亡した直接の要因は巨人によるものではなく、人間同士によるものであった。
また航海の途中で、人口はさらに半数が失われた。
新大陸には、「モトモト キョウダイナ カベガ ヨウイサレタ」(原文ママ)
(元々巨大な壁が用意された)
さらに、新大陸を聖地として崇拝の対象とする。
この壁の中こそが、人類の理想郷であり、ここに永遠平和の世界を築くことを主張する。」
そんな内容が、カタカナで書いてるんだよね。
作者は、謎を提供するというより「面白がってください」という、かなりヒントみたいなものを、ちりばめてくれてるんだよ。