otypeさん のコメント
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岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2017/10/13
─────────────────────────────────── 今回の記事はニコ生ゼミ10/01(#198)よりハイライトでお送りします。
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───────────────────────────── 「2017夏アニメの中で10年後まで残る作品は『メイドインアビス』だけだよ」
この夏に公開された『メイドインアビス』というアニメを見てる人があんまりいなくて悲しいんですよ。
いや、なんで「見てる人がいない」と言うのかというと、何日か前のネットニュースで、「この夏、面白かったアニメベスト10」みたいなのが発表されてたんですね。 そのベスト10を見たら、1位が『ようこそ。実力主義者の教室へ』だったんです。
「えー!? あれ、1位か?」って思ってたんですよ。 俺。 1位は間違いなくメイドインアビスだと思っていたから。
だけど、2位、3位、4位と、その後の順位を見ていっても、一向にメイドインアビスの名前はなくて。 10位まで見ても出てこないもんだから、もう、やりたくもない「続きはこちら」というやつをクリックしたらですね、20位のところにメイドインアビスって書いてあって(笑)。
でも、「まあ、普通の人にとってはそうなのかもしれないな」と思ったんですよ。
いや、僕の見たネットニュースがたまたま悪かっただけかもわかんないけど。
・・・
まずね、『メイドインアビス』の何がすごいのかって、原作漫画がすごいんですよね。 やっぱり、原作漫画がメチャクチャ面白いんですけども。
だけど、アニメはこの原作を追い越しているんですよ。
漫画では簡単に出来るけど、アニメーションで表現するのは難しい事というのがあります。
たとえば、キャラクターの内面描写とか心理描写みたいなもの。 漫画の場合はごく自然な独り言みたいな形で、いろいろな字体を使って書けるんですけども、アニメの場合は、もう声優さんがセリフのニュアンスで伝えるしかない。 なので、こういった内面的な描写はアニメーションよりも漫画の方が得意なわけですよね。
それに対して、アニメーションは、カラーが使えるし、動きを見せることができる。 なので、「美しいものを見せる」ということに関しては、やっぱり、僕はアニメの方が、ちょっと有利だなと思っているんですよ。
・・・
『メイドインアビス』という物語の舞台は“アビス”という直径1㎞くらいの穴なんですね。 もう深さ何万メートルあるかわからないというくらいの穴が、地球の中心まで繋がっているわけです。
たぶん、現代の文明が崩壊した後なのかもしれない時代に、地球に開いた、とても深い穴から、不思議なものがいろいろ発掘されるようになって、それを穴から発掘することで生活している人がいるんですね。
主人公たちのいる幼稚園と小学校が一体化されているような施設では、アビスの近くで拾われた子供達が育てられています。 「彼らは、穴の中に潜って、中から売れる物を取ってきて、その売上を学校に寄付することで、そこにいる全員が食っている」という、なかなかちょっと、現実的な、シビアな世界なんですね。
ただ、そのアビスの中っていうのは、深く潜れば潜るほど、“上昇負荷”というのが掛かる。 つまり、「上がってくる時に身体に悪いことが起こる」んですね。
潜る深度が1000メートルくらいだったら、「シンドい」とか、「咳が出る」くらいのことで済むんですけども。そこから深くなればなるほど、上がってくる時に「目から血が出る」とか、「全身の穴という穴から出血する」とか、「人間の形を保てなくなる」とか、いろんな恐ろしいことが起こる。 これを“アビスの呪い”っていうふうに言ってるんですね。
そんな恐ろしい場所であるにも関わらず、その周りでは、やっぱり、いろいろ価値がある物が取れるので、人間たちがいっぱい暮らしているんですね。
・・・
(パネルを見せる。朝日に照らされるアビス周辺の街の景色)
これは、『メイドインアビス』のエンディングの一部の絵なんですけども。 やっぱりね、優れた映像っていうのは、横から入った光を見るだけで、それが朝か夕方かわかるんですよ。
朝日と夕日っていうのは、見た目ではそっくりなんですけども、演出の描き方によって、それが“希望的なもの”(=朝日)なのか、“感傷的なもの”(=夕日)なのかがわかるんです。
メイドインアビスのこのシーンでは、街の右側から光が入っていて、左半分はまだ真っ暗な闇に閉ざされているから、街の中に灯りがポツポツと残っているんだけども、右側では、光がどんどん当たってきて、希望に溢れた朝が来る。
「これが、お話 全体のテーマである」ということが、わかりやすく示されているんですよね。
かつて、宮﨑駿も、『天空の城ラピュタ』で、主人公の少年パズーが、住んでいるスラッグ渓谷というところで、朝日とともに「パッパパパー」というラッパを吹くというシーンを入れています。
宮崎さんは、なんのためにあのシーンを描いたのかというと、「産業革命という、言っちゃえば“子供が働かなきゃいけないような過酷な時代”の中の、こんな谷の奥にも、朝が来て、太陽の光が周りを輝かしているんだ」と。 つまり、「この世界は綺麗なんだ!」っていうことを見せるためなんですね。
だからといって、「その世界が本当に綺麗だから、綺麗に描く」ということではないんですよ。 アニメーションの場合は、何かを綺麗に見せることで、その世界 全体の美しさを描くものなんですけど、これがきちんと出来ているアニメっていうのは、やっぱり優れているんですね。
アニメに限らず、『マッドマックス』とか『メッセージ』とか『ダークナイト』とか、あの辺の映画っていうのも、ちゃんと世界の美しさを描いています。
『君の名は。』もそうですね。 君の名は。で描かれる新宿に至っては、現実の新宿より綺麗なんですよ。 他にも、『スラム・ダンク』のオープニングなんかを見ても、実際の湘南の電車の踏切よりもずっと綺麗に描いています。
なぜそんなことが出来るのかというと、“絵の力”なんですね。 絵っていうのは、写真じゃないので、現実よりも綺麗に描いても嘘にならないし、むしろ「作り手側にはこういうふうに見えているんだ」というメッセージになるんですよ。
・・・
『メイドインアビス』の世界は、本当にすごいです。 “美しいもの”と“恐ろしいもの”を、同じ絵で表しています。
この作品について「見れない」とか、「あんまり見たくない」って言ってる人は、「あの“幼児的な絵柄”が嫌だ」っていう人が多いんですよね。
さっき、主人公たちの年齢について、僕は「幼稚園児みたい」って言っちゃいましたが、正しくは幼稚園じゃないんです。 ……だけど、見た目からは園児としか思えないようなキャラクターばっかりが出てくるんですよ!(笑)
「ああいう絵柄が嫌だ」って言う人も多いんですけども。
だけど、あの幼児絵でないと、無理なんですよ。
『まどマギ』の話を、オッサンやオバサンでやっちゃダメでしょ? それはもう、「萌える・萌えない」の話じゃなくて、「あんな深刻な話を大人にやられたら、見ていてシンドくてしょうがないから」なんですよね。
まどマギというのは、あの話をあの絵柄でやっているからこそ、なんとか視聴に耐えられる“商品”になってるんです。 メイドインアビスもそれと同じで、幼児的な絵柄でやらないと、かなりヤバい内容なんですよね(笑)。
「特に最終回がヤバい」(コメント)
本当にその通りです。
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この『メイドインアビス』が、他のアニメと何が違うかっていうと、“徹底的にソリッドな構造”っていうのかな? 削り落とした構造なんですね。
「登場人物がたったの2人」という、かなりコアな描き方をしているんですよ。
登場人物が少ないっていうのは、もう、本当にキツいんですよ。
昔、『おかあさんといっしょ』に“にこにこぷん”っていうのがあったでしょ? 「じゃじゃまる、ぴっころ、ぽーろりー♪」って。あれは4年か5年くらい続いたんですけど。
その頃、番組を担当していたNHKのプロデューサーの人が「3人はキツい。3人しか登場人物がいなかったら、役柄が完全に固定してしまって、お話を転がしにくい」とボヤいてたんですね。
その結果、次の「ドレミファ・どーなっつ!」では、みど、ふぁど、れっしー、そらおという、4人にしたんですね。 そしたら、いきなり、すごい楽になったっていう話があるんですけど(笑)。
それくらい、登場人物の数が3人から4人に変わるだけで、話を作る時のキツさというのは、メチャクチャ変わってくるんですよ。
そんな中、『メイドインアビス』は、事実上、登場人物が2人なんですね。
もちろん、他にもキャラクターは出てくるんですけども、基本はあくまでも、ロボット少年レグっていう主役と、リコという女の子の2人。 おまけに、ほとんどがレグのモノローグで出来ているような番組だから、ストーリーを作るのがメチャクチャシンドいはずなんですよね。
だから、必ずどっちかが活動的になって、もう片一方は“謎”的な部分を受け持たないといけなくなってくる。
だって、もう、ゴンとキルアだけで『ハンター×ハンター』をやってるようなもんですからね。 そりゃ、無茶でしょ? でも、その無茶をメイドインアビスはやっているんですよ。
僕は、メイドインアビスのことを“裏・ハンター×ハンター”って呼んでるんですけども。 ハンター×ハンターが「広い世界に旅に出よう! 僕達2人はいろんな人と出会って、友達になるよ!」って言ってる。 それに対して、メイドインアビスは「狭い狭い世界へ潜って行こう。もう二度と会えないし、友達はみんないなくなっていくよ……」っていうような話なので(笑)。
・・・
そんな中、とにかく、描くのがすごく難しいことをやっています。
たとえば、さっき話した“深層の呪い”というのにかかって、リコっていう、もう本当に幼女にしかみえないロリな女の子が、左手に毒をもらっちゃうシーンがあるんですね。
獣に襲われて、針が刺さって、毒をもらって、腕がガーッと腫れ出す。
この時に、リコは、一緒に旅をしてるレグという少年に… …この子も、もう本当に、ちっちゃい男の子にしか見えないんですけども、「私の左腕を切り取って」って言うんですよ。「このまま毒が上ってきたら、命が止まってしまうから、左腕を切り取って!」って訴えるんですね。
そう言われたレグは、肘の関節の位置から切っちゃうと、この手が二度と動かなくなるので、もう少し先の位置で切ろうとする。 だけど、関節と違って、腕の部分をそのまま切るのは難しいから、まず、切り取りやすいように、骨をボキッと折ってから。 そのために、一緒に冒険している女の子の腕を折ろうとするんですよね。
リコからは「構わずにやって!」っていうふうに言われて、もう泣き叫びながら折るんですけども。
腕のシーンはそこで終わったんです。
でも、普通の作品では、こういうのって、だいたい最後には何事もなかったかのように治るものじゃないですか。『ジョジョ』とか、どんな漫画でも治るじゃないですか。
だけど、メイドインアビスが、最終回で見せたリコの腕というのが、もうこの状態なんですよね。
(パネルを見せる。痛々しい傷跡の残った少女の腕)
結局、この傷は一生消えないんです。 多少は治ったんだけど、親指しか動かなくて、手の外の部分は麻痺したまま。
なぜ僕が、ネタバレになるのも覚悟しつつ、このシーンのことを話したかというと。
この傷跡の残った腕を、メイドインアビスは“苦しみや悲しみ”として描いてないからなんですね。 むしろ、“生命の素晴らしさ”として、描いているんですよ。 「私には、まだ、動く親指がある。良かった。これでまた冒険が出来る。これからも冒険が続けられる」という、生命賛歌として描くんですよ。
これがもう、そこらのジャンプ漫画とのレベルが違うところ! ……って言ったら、ジャンプ漫画に失礼なんですけども(笑)。
普通、こういうダメージって、どうやっても“なかったこと”にしたくなるところなんですよ。 それを、「まだ左手が動く!」、「まだ小指が動く!」っていうふうに見せるっていうのが、現実の障害者の人達に、どんなに力を与えているのかっていう話ですよね。
こういう話の描き方が「すごい正直で、格好いいな!」って思うんですよ。
・・・
まとめになりますけども、僕は、この『メイドインアビス』を、「この夏のアニメでは、唯一、10年後も残るアニメだ」と思っています。
今はまだ、Amazonプライムで見放題なんですよ。今日から見はじめても間に合いますので、メイドインアビス、一気に12話も見れるというのは、なかなかいいと思いますので、みなさんも見てみてください。
「もはやアマゾンの手先だなw」(コメント)
いやいやいや、これは“みなさんに対する思いやり”ですよ(笑)。
たぶん、みんな既にAmazonのプライム会員だろうと思ってですね、無料で見られるように。
「最終話、泣いた」(コメント)
もうね、泣く人の気持ちもわかる。
俺は年齢が年齢だけに泣かないんだけど、まあ、「40代だったら泣いたんじゃねえかな?」っていうくらいすごいよね。
「ベタ誉めやないですか」(コメント)
まあ、ベタ誉めですね。
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