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では、『レディ・プレイヤー1』について話してみます。
この映画は、まだ見ていない人が多いと思いますし、あとは、みんな見ると思うので、ネタバレなしで語ってみようと思います。
これについては、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』とは、ちょっと視点を変えて語りますね。
さっきは “お話の中” から話したんですけど、『レディ・プレイヤー1』については “お話の外側” から話していきます。
おそらく、この映画を通じて、スピルバーグが戦って勝とうとした相手は “映画” じゃないんですよね。
“ポケモンGO” なんですよ。
これは、ポケモンGOを超えるために、スピルバーグが作った映画。
「ポケモンGOに、映画というジャンル自体が負けてしまうかもしれない!」という恐怖心が作った映画だというふうに思ってください。
スティーブン・スピルバーグという監督は、実は「自分自身には個性というのが特にないから、映画の歴史を変えるような表現を作り出し続けないと、消えてしまうんじゃないか」という恐怖心を持っている監督なんですね。
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スティーブン・スピルバーグという人は、最初は低予算映画で才能を認められた監督です。
初のヒットは1975年の『ジョーズ』。
これは「動物パニックモノの元祖」といわれた作品なんですね。
その2年後の1977年に『未知との遭遇』でメガヒットを飛ばして、1981年の『インディアナ・ジョーンズ』シリーズの第1作『レイダース 失われたアーク』、82年の『E.T.』とメッチャ調子良かったんですよ。
もう これで、若くして映画の天才と言われたんですけども。
でも、実は、82年に公開された『E.T.』の後、10年間は大ヒットがなかったんですよ。
なので、かなりパニック状態になっていたと思います。
その間に、『インディアナ・ジョーンズ』の続編を2本、作りましたけども、とにかく評論家からはボロクソです。
さらに、『カラー・パープル』でアカデミー賞を狙ったんですけども、評価は低いまま。
他にも、『フック』という映画で、再びファンタジー路線の作品を作ったんですけど……この映画を褒めてるのは俺くらいなんですよね(笑)。
なので、もう本当に、1990年代前半におけるスピルバーグは “もはや過去の人” という状態でした。
しかし、1993年の『ジュラシック・パーク』で、まさかの大復活です。
「世界で初めてCGによって描かれた生物を主役級に扱った映画」として、これがメガヒットですよ。
この成功がなければ、おそらく『スター・ウォーズ』のプリクエルシリーズも、『アバター』もなかったはずです。
さらには、そこから5年後の1998年に『プライベート・ライアン』。
この作品では、完全にCGを使いこなして、もう「あの日のあの事件、歴史上の特定の場所に行ける」というくらいの精度で、過去に本当にあった世界を再現することに成功しました。
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けれども、過去の世界は再現できても “未来の世界” は そうもいかなかったんですね。
2002年に『マイノリティ・リポート』という、完全CGで未来社会を見せるという映画を作ったんですけども、大ハズレだったんですよ。
まあ、2005年に作った『宇宙戦争』では、“現実の世界” の中に火星人の円盤兵器が来て、それと戦うというのをやったら、これはまだヒットしたんですけど。
ところが、その後の2008年に、『インディアナ・ジョーンズ』シリーズの新作として、『クリスタル・スカルの王国』を作りましたが、これはダメ映画ですね。
2011年には、『タンタンの冒険』で、初の3Dアニメを作ったんですけど、これもやっぱり大失敗。
そして、つい2年前、というか1年ちょっと前。2016年には『ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』という、久しぶりのファンタジーモノをやったんですけど、これまた大外しなんですよ。
スピルバーグって、「常に大ヒットしている監督」っていう印象があるんですけど、作品数が多いから大ヒット作品もあるだけで、実は、かなりハズレも多い人なんですよね。
そして、さっきも言ったように、「新しい表現をしないと自分は生き残れない」と思っているので、『クリスタル・スカル』にしても、『タンタンの冒険』にしても『ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』にしても、すごく新しい試みをいっぱいやっているんですよ。
だけど全部、空振りだったんです。
『インディアナ・ジョーンズ』は、4作目でもうダメだったし、『タンタン』はシリーズ化できなかったんです。
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スティーブン・スピルバーグの代表作品を時系列順にまとめてみたんですけど。
ちょっと細かい字がメチャクチャ多くなっちゃうんですけども。代表作というのが、まあ、これくらいあるんですよ。
これを見るとわかる通り、ビジネスマンとしてのスピルバーグは、“シリーズ化出来るエンターテイメント作品” と “評価を上げるための文芸社会路線” の2つを交互にやってる人なんですね。
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1971 『激突!』
1974 『続・激突! カージャック』
1975 『ジョーズ』
1977 『未知との遭遇』
1979 『1941』
1981 【『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』】
1982 『E.T.』
1984 【『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』】
1985 『世にも不思議なアメージング・ストーリー カラー・パープル』
1987 『太陽の帝国』
1989 【『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦、オールウェイズ』】
1991 『フック』
1993 【『ジュラシック・パーク』】
『シンドラーのリスト』
1997 【『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』】
『アミスタッド』
1998 『プライベート・ライアン』
2001 『A.I.』
2002 『マイノリティ・リポート』
『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』
2004 『ターミナル』
2005 『宇宙戦争』
『ミュンヘン』
2008 【『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』】
2011 『タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密』
『戦火の馬』
2012 『リンカーン』
2015 『ブリッジ・オブ・スパイ』
2016 『BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』
2017 『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』
2018 『レディ・プレイヤー1』
2019 【『インディ・ジョーンズ5』】
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これ、今、黒く囲ったところが、シリーズ化している作品なんですけど。
実は、これ以外にも、『ジュラシック・パーク』シリーズの3とか、そういう作品では、自分がプロデューサーに回ることでシリーズ化してるんですね。
すごく頭が良くて、映画を撮るのも早い人です。
それ以外にも、シリーズ化できるエンタメ作品で人気を取って、たとえば『ブリッジ・オブ・スパイ』のような、文芸的なものとか社会的なものを作るという、そういう気配りも忘れない人なんですね。
特徴的なのは、「あくまでシリーズモノで稼いで、好きな作品を作れる下地を固めてから文芸に挑戦する」というところです。
ここら辺は、押井守さんにも共通しています。
押井さんというのは、スピルバーグをすごく薄めた形を取っています。
「時々 ヒットを出して、みんなが押井守だってヒットを作れるんだと思ったところで、好きな映画を作る」と本人も言ってますから(笑)。
押井さんは自分で自分のことを、「このやり方は、スピルバーグほど安全ではないけど、俺の方がスピルバーグよりも作家性が強いから、ついてくるファンも多いので、こういう作戦が出来る」って分析してます。
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つまり、1980年代、スピルバーグというのは『インディアナ・ジョーンズ』シリーズの3本で食ってたんですよ。
そして、90年代は『ジュラシック・パーク』で食いつないでます。
2000年代では、実はプロデュースをやっていた『メン・イン・ブラック』で食いつないでいて、2007年から今までは、これまたプロデューサーをやってる『トランスフォーマー』で食べてるんですね。
『トランスフォーマー』に関しては、実は出演者から監督のマイケル・ベイまで、スピルバーグが指名してますから、あれはスピルバーグ作品みたいなもんなんですよ。
そうやって、確実に稼げるシリーズ作品を、1,2,3,4……と作ることで、ちゃんとビジネス的な評価も上げるというのが、スピルバーグの基本戦略だったんです。
ところが、この数年は迷走が続いていました。
というのも、「新たなシリーズものを立ち上げたい」と思うんだけど、同時に「映画の表現として革命を起すようなものを作りたい」という思いがあるからなんですね。
もっとぶっちゃけて、具体的に言っちゃえば「ジェームズ・キャメロンに負け通しだから、勝ちたい!」という思いがあるんだと思います。
やっぱり、キャメロンの方が、打数に比してホームラン数が多いですから。
スピルバーグって、なんか、やたらと自分から「はい! 代打、スピルバーグ出ます!」って出てくるんだけど、空振りも多いというような監督なんですよ。
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そういう目線で見るに、この『レディ・プレイヤー1』という作品は、実は、スピルバーグにとって、ここから先の2020年代全てを食いつなぐシリーズモノとして作ったんだと思うんです。
そのために、すごい準備をした上で臨んだ作品なんですね。
『ジュラシック・パーク』というのは、「コンピュータグラフィックの力で、もういない生物とか、地球ではもう見られない光景を見せる」ということが目的だったんですけども。
『レディ・プレイヤー1』では、スピルバーグに言わせれば「恐竜よりもすごい世界を見つけた!」と。
かつて子供たちは学校の先生が言うことよりも恐竜図鑑に夢中になった。
しかし、今や子供たちは、俺の映画よりも、ゲームやアニメに夢中になっている。このままでは、俺の映画というのは、本とかラジオと同じように、 “廃れたメディア” になってしまう!
きっと、スピルバーグにはそういった恐怖心があったんですよ。
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これはネタバレにはならないと思うんですけど、この映画のクライマックスとして、最後の大戦闘のシーンがあるんですけども。
世界中のみんなが、悪役のゲーム会社 “IOI” と戦うために、路上にいる人達がみんなヴァーチャルグラスをつけて「オーッ!」て戦っているシーンがあるんですよ。
あれって、まんま『ポケモンGO』なんですよ。
わずか1年か2年くらい前に、僕らがすごいビックリして感動した風景。
世界中の人らが、みんな路上に出てゲームをやってる。
それも、空中に向かってやってる。「これ、なんかスゴい! 何かが起こるんじゃないか? 変わるんじゃないか!?」というふうに、僕らは新しい世界が来たと思ってたんですけども。
でも、言われてみれば、この光景は、スピルバーグにとっては恐怖そのものなんですよね。
だって、そんなことをされてしまったら、もう誰も自分の映画を見てくれなくなるんだから(笑)。
スピルバーグにしてみれば、『ポケモンGO』というのは敵なんだけども、同時に、「あれを味方につけないと、俺達には未来がない」って思っちゃうんですよ。
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じゃあ、なぜ岡田斗司夫にとって、『レディ・プレイヤー1』の点が低いのか?
この辺の文句は、後半の有料放送で、ネタバレ帽子を被ってから言うことにします。
ちょっと、そこら辺にはね、かなり言いたいことが溜まってるんで(笑)。
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