ところが、ディズニーランドというのは「映画のセットとして出来てるから面白いよね、上手く出来てるよね」というだけで済まずに、なんか意味不明な本物志向というのがあるんですよ(笑)。
僕は、そこも好きなんですけども。
たとえば、ディズニーランドの周りを走っている機関車がありますよね。
この機関車を見て、ついつい僕らは「ああ、このピカピカの機関車も、所詮は遊園地にあるものだから、出ている蒸気も “なんちゃって蒸気” で、実は電気で動いてるんだろ?」って思っちゃうんですけども。
それは大違いで、こいつ、本当に灯油を焚いて蒸気を沸かして、それで走っているんですよ。
なので、運転してるキャストのオッサンの腕前次第で、1周に何分掛かるのか変わるし、停車位置も変わってきちゃうんですよね。
本当に窯を焚いて蒸気で動かしてるから、速度が一定しないんですよ。
おまけに、開園初期は、この機関車、本当に石炭で動かしてたんですよ。
しばらくは石炭を焚いてたんですけども、2年目か3年目くらいに「これ以上、石炭でやるのは無理だ」ということで、オリエンタルランドっていう運営会社がディズニー側に「日本では石炭は無理です!」と泣きついて、「しょうがない。灯油でもよろしい」と許してもらったんですよ。
それでも、本物を走らせてることには違いないんですよね。
・・・
ちなみに、この東京ディズニーランドの周りを走ってる機関車は “ウェスタンリバー鉄道” っていうんですけど、ウェスタンリバー鉄道は、園内を一周してないんですよ。
こういう機関車が園内を一周してないのは、実は、世界中のディズニーランドで東京だけなんですよね。
パリであろうと香港であろうとフロリダであろうと、必ず機関車が園内をぐるっと周って、いろんなところで降りることが出来る交通機関になっているんですけど、東京ディズニーランドだけはそうではない。
なぜかというと、これを作った時、運輸省の法律として「2ヶ所 以上で降りることができる鉄道ならば、それは “公共交通機関” ということになる。なので、それに乗るためには料金が発生しなければならないし、切符を売らなければならない」というキツいお達しがあったんですね。
ディズニー側は、それに激怒して「何言ってるんだ! これは園内の、私有地の中を走るだけの電車だ! なんでそこで切符を売ったり、金取ったりしなければいけないんだ!」と言ったんですけど、「それが日本の法律である」と全く引いてくれなかったそうです。
そんななこんなで散々もめて、「もうわかったよ! 東京ディズニーランドは1箇所で乗って、1箇所で降りることしかできなくていい!」と言って、こういうふうな形になっちゃったんですね。
ところが、その法律も20世紀の末くらいに撤廃されちゃって、今、ディズニーシーにある市街電車は、ちゃんと「降りる場所と乗る場所が別々」という形になってるんですね。
ここら辺の日本での規制に関しても、ディズニーランドはメチャクチャ苦労してますね。
・・・
あとは、ディズニーのわけのわからない本物志向として、“ビッグサンダー・マウンテン” というジェットコースターが、ディズニーランド内の“クリッターカントリー”の近くにあるんですけども。
これは “スチームトラクター” といって、石炭を焚いて蒸気で動く、大昔のトラクターなんですね。
これがクリッターカントリーに置いてあるんですけども。
近くを通る人は「ああ、いい感じの偽物が作ってあるな」と思うだけで通り過ぎちゃうんですけども、これ、実は年代物の本物なんですよ。
どれくらい本物かというと。もともと、オリジナルのディズニーランドが、カリフォルニアのアナハイムというところで作られた時、“オレンジカウンティー” というだけあって、その一帯はオレンジ畑ばっかりだったんですね。
そんなオレンジ畑を持っているオッサンが、ディズニーランドに土地を売却したんですよ。
「俺のところのオレンジ畑を売ってやるよ」って。
そして、土地売買をする時に、ウォルト・ディズニーがこのトラクターを見つけたんですね。
ウォルトは、もう、乗り物大好きだから、ものすごい喜んじゃって、「うわー! 蒸気スチームのトラクターがある! 売って、売って!」って言ったんです。
だけど、「いや、これだけは売らない」と言われたんです。
ウォルトはすごく悔しかったけど、売って貰えなかったんですね。
時は流れて、ウォルトが死んで、1971年に今度はフロリダにディズニー・ワールド作ることになった時にも、もちろん、この蒸気トラクターを買い取ろうと、ディズニー社は交渉しに行ったんです。
「あれ、まだある? 売って」と、そのオレンジカウンティーのオッサンのところに行ったんですけど、やっぱり「しつこいぞ! 売らない!」というふうに言われました。
さらに、その次に、1990年か91年くらいに『バック・トゥ・ザ・フューチャー3』を作ることになった時、ロバート・ゼメキスが、ルーカスフィルムを通して、このスチームトラクターの話を聞いたんですね。
「これは、ドクの工場の背景として、ぜひ欲しい! 頼む! 貸してくれ!」って言ったんですけど。
またそのオッサンは「貸さない!」というふうに言ったんです。
つまり、3回も断られてたんですよね。
さて、東京ディズニーランドが出来るという時に、スタッフが念のために聞きに行ったんですよ。まあ「どうせダメだろう」って思いながら(笑)。
すると、やっぱりオッサンは「絶対に売らない!」って言ったんですけど、この時、隣で聞いていた嫁さんがメチャクチャ激怒したんです。
「いい加減にして! このポンコツ、30年間、うちで1回も使ってないじゃない! もうこんなボロボロのやつは売り飛ばして、私をどこか旅行に連れてってよ!」というふうに(笑)。
旦那は、それでシュンとなっちゃって、その場で売ってくれたという、いわくつきの車両なんですけども。
・・・
ディズニーランドでは、こういったものを、わざわざ持ってきて配置しているんです。
こんなの、言っちゃえば宣伝効果なんか全くないんですよ。
だって、ビッグサンダー・マウンテンなんて、放っといても人が来るわけですから。
さらに「ビッグサンダー・マウンテンの山の麓には、本物の蒸気トラクターを置いてありますよ!」なんて言っても、誰も喜ばないし、俺が見ている限り、一般のパリピ向けなディズニー本で、これに触れている書籍は1つもないんですよ(笑)。
それを手に入れるために、わざわざ4回も交渉して、やっと買って、東京に持ってくるという、この意味のない本物志向。
さっきの蒸気エンジンで動く機関車もそうなんですけど、この意味のない本物志向が、僕はすごい好きなんです。