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岡田斗司夫の毎日ブロマガ「【 ZOZOTOWN前澤氏の月旅行について 1 】 あれは “月旅行” とは呼べない」
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岡田斗司夫の毎日ブロマガ「【 ZOZOTOWN前澤氏の月旅行について 1 】 あれは “月旅行” とは呼べない」

2018-10-02 06:00
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    岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2018/10/02
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    今回は、ニコ生ゼミ9月23日(#249)から、ハイライトをお届けいたします。

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     【 ZOZOTOWN前澤氏の月旅行について 1 】 あれは “月旅行” とは呼べない


     では、最初は「月旅行には行けない」という部分について、ちゃんと説明してみようと思います。

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     まず、月と地球の距離感というのを、みなさんにもちょっと知ってもらいたいんですけど。

     
     地球の直径というのは1万3千kmです。

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     ここに地球の模型が置いてあります。

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     この模型は直径13センチ。

     つまり、この模型は1億分の1の縮尺だと思ってください。

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     で、それに対して、月がこれです。

     地球と比べて、遥かに小さいです。


     地球と月がどれくらい離れているかというと、これらを結んだ紐の長さが、1億分の1での距離になっています。

     月と地球の距離は37万キロですから、3.7m離れてます。

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     1億分の1の縮尺で表現すると、月があるのはこの辺なんですね。

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     地球と月というのは、これくらい離れているんです。

    ・・・

     では、国際宇宙ステーションというのは、どれくらいの位置にあるのか?

     この紐の真中くらいの位置にあるのかというと、そんなことないんです。


     国際宇宙ステーションというのは、地球の表面から400kmしか離れていません。

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     つまり、この1億分の1の縮尺で言うと、4mmちょっとくらいです。

     だいたい “ミカンの皮の薄いところ” くらいですかね。

     そこら辺にちょこっと浮いているのが国際宇宙ステーションです。



     と、聞いて「えっ!? 人工衛星って、そんなに低いところを飛んでるの!?」って思ったかもしれませんが、それは違います。

     人工衛星、特に静止軌道の人工衛星というのは、赤道上の3万6千kmくらいのところを飛んでいるので、一応、この縮尺だと36cmくらいのところにあるんです。

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     ところが、宇宙ステーションというのは、大気圏の少し上辺りを飛んでいるようなものなんです。

     つまり、月というのは、すごく遠い。

     ……ような気がする、なんですよ。


     これも錯覚なんです。

     こういう模型を見せられて、3.7mも離れて見せて「ほら、こんなに遠い!」って説明されたら、地球と月ってメチャクチャ離れているように見えるでしょ?

     でも、案外そんなことないんです。
     
    ・・・ 

     スペースXの月旅行は、宇宙ステーションに行くよりも、ずっとずっと大変な気がする。

     だって、さっきの模型の縮尺でいうと、地球からミカンの皮の厚みくらいしか離れていない国際宇宙ステーションに行くにしても、100億円とか、200億円くらい掛かると言われているんですよ。

     「だったら、月まで行くには、いったいいくらくらい掛かるんだ!?」って考えちゃいますよね。

     だけど、実はそうでもないんですよ。


     これが今回 発表されたスペースX社のロケットの軌道です。

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     スペースX社のロケットは、まず、地球から発射されて、地球の衛星軌道に乗って、そこからもう一度加速して月に近づき、“the perilune”(近月点)という最も月に近づいた部分に達して、そのまま地球に帰ってきます。

     さて、この軌道はアポロ計画のロケットとどう違うのか?

     これが、アポロ計画でのロケットの軌道図です。

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     アポロ計画では、月の周りを回ってるんですね。


     地球から発射されて、衛星軌道に乗って、加速して月に向かうところまでは一緒なんですけど。

     月の周りを回って、そこからもう一度加速して地球に帰ってくるというコースなんです。


     これ、宇宙に興味のない人とか素人から見たら大した差に見えないんですよ。

     だから、科学部の記者も「これは普通の人に言ってもわからないだろう」ということで、「おめでとうございます」とだけ書いているんですけど。

     専門の人から見たら、この差はエラい違いなんです。

    ・・・

     スペースX社のロケットの軌道というのは “弾道コース” といって、言ってしまえば「トランポリンで飛んでいるのと同じ」なんですよね。

     「月に行っている」ように見えるんですけど、違うんですよ。

     「月まで思いっきり跳ねて、落ちてきている」のと同じなんです。

     こういうのを、大雑把に言って弾道コースと呼びます。


     要するに、月の軌道に降りていないんです。

     「いや、降りてないっていっても、月まで行ったんだから大したもんじゃないか」って考えるかもしれないんですけども。

     宇宙空間の軌道というのは、一度 乗ってしまえば、放っといても乗りっぱなしなんですよ。


     つまり “高速道路” のようなものだと思ってください。

     スペースX社のロケットを使った前澤さんの旅行というのは、高速バスみたいなものに乗って、月というインターチェンジで降りずに、そのまま高速道路を通過して自宅に戻ってきているだけなんです。

     たとえば、東京の高井戸料金所の辺りから上がっていって、熱海の辺りに行こうとも、そのまま高速から降りずにグルっと東京まで帰ってきたとしたら、「俺、今日、熱海に行ってきたわ」とは言えないですよね。

     正しくは「熱海の辺りを通った」なんですよ(笑)。


     一旦、料金所で降りて、最悪、自動車から降りなくてもいいから、その土地で一息つけば、それは「熱海に行った」だと思うんですけど。

     高速から降りずにそのまま帰ってきたんだったら、「熱海の辺りを通った」だと思うんですよね。

    ・・・

     アポロ計画では、「逆噴射できるロケットエンジンを搭載した宇宙船で月の軌道を回って、実際に降りるかどうかはその場で判断するとしても、もう一度、月の軌道上からロケットエンジンを吹かして地球に戻って来て、さらに地球の近くで減速する」という、ものすごい難しいことをやっているんです。

     でも、スペースX社のロケットがやろうとしているのは、「巨大なトランポリンみたいなロケットでポーンと飛んで、月の周りを通過して、ヒューッと落ちてくるだけ」です。


     一応、発表されたスペースX社のロケットにはロケットエンジンとかも付いているんですけども、弾道コースを取る限り、基本的には必要ないんですよね。

     「最後の着陸の時に逆噴射する」って言ってるんですけど、今から5年後に完成するというスペースX社のロケットが、燃料を載せたまま月に行くのは無理だと、僕は正直、思ってます。


     ……いや、まあ、ここからイーロン・マスクの会社がメチャクチャ持ち直したら別ですよ?

     今、彼の会社は本当にガタガタになってるんですけども(笑)。


     イーロン・マスク自身が「僕はもう、二度と麻薬はやりません!」って宣言して、テスラ社の自動車生産ラインを整備して、あんな仮設住宅のテントみたいなところで自動車を作るんじゃなく、ちゃんとした工場で作ることにして、バックオーダーもきちんとこなして儲かったら、話は違ってくるかもしれませんけど。

     それでも、ロケットエンジンの研究って、こないだホリエモンが失敗したみたいに、メチャクチャ難しいんですよね。


     そういう意味で、僕はスペースX社のロケットは「月まで行って落ちてくるだけ」が限界だと思うんですよね。

    ・・・

     さっきも言った通り、僕は「高速で静岡のあたりを通って、サービスエリアにすら停まらずに帰ってきた」という場合、「静岡に行った」とは言えないと思っているんですよ。

     そして、スペースX社のロケットというのは、“逆バンジー” みたいに、地球を飛び出して、また地球に帰ってくるだけですから「月に行った」とは言えないと思います。


     それに対して、アポロ11号はちゃんと「月に行った」んですよ。

     月面に着陸したから。


     アポロ8号に関しては、今回の前澤さんのプランと同じように、月の周りを回ってきただけなんですけど。

     ちゃんと月の近くで逆噴射エンジンを掛けて、月のパーキング・オービット(周回軌道)に乗って、地球からの電波が届かないところで独自計算をしてロケットエンジンを吹かして、もう一度トランスファー軌道(地球帰還軌道)に乗ったんです。

     そんな、かなり難しいことを、船内に2つ3つ積んであった “ファミコン” 並の処理能力しかない当時のコンピューターを使ってやったので、「そりゃすごいな」って思ったんですけども(笑)。


     でも、スペースX社のロケットというのは「東名高速から降りてないのと同じ」だと、僕は思うんですよね。

     にも関わらず、これを「熱海に行った」というのは、「アメリカに行きたいかー!?」でお馴染みの『アメリカ横断ウルトラクイズ』で、アンカレッジの上空で出されたクイズに不正解したおかげで、そのまま飛行機から降りずに日本に帰るのと同じなんですよ。


     あれを「アメリカに行った」とは言わないですよね?

     福留さんから「アメリカを目の前にして残念だなあ。みんな、来年もまたやろうな!」と言われる、あれと全く同じなんですよ。


     細かいことなんですけど「月面に降りないからダメ」というわけではないんです。

     「月の周回軌道に入っていなければ、月に行ったことにはならない」んです。

    ・・・

     こんなことは普通の人は知らなくて当たり前だし、それでいいんです。

     ただ、大手新聞社の科学部の記者だったら、絶対に知っていることなんです。

     だけど、今、出回っている記事の中でそこにツッコんでいる記事を僕は全く見たことがない。


     これについて「すごいな」って思うんです。

     前澤さんというのは、業界ですごく力を持っているので、「あれ、本当は月旅行じゃないぞ」とは、誰も笑わないんですよね。


     ホリエモンなんか、すごく意地悪なこと言ってますよ。

     取材に対して「いやあ、俺にはそんな金はないから、行かないよ」なんて冗談めかして言いながらも「……まあ、金があっても行かないけどね」なんて言ってるんですよ。

     彼はあれが月旅行とは言えないって知ってるからですね(笑)。


     つまり、「前澤さんは “月旅行” には行けない」ということですね。

     「月旅行に行く」と思っている人は、錯覚ですという話です。

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