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岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2019/05/09
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今回は、ニコ生ゼミ04月28日(#279)から、ハイライトをお届けいたします。

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 『攻殻機動隊』第2話 徹底解説!(1~2ページまで)


 今日、取り上げるのは、ようやっと『攻殻機動隊』の1ページ目が終わり、その次に、たった6ページの第1話が終わって、今回は第2話ですね。

 「02 SUPER SPARTAN」というタイトルです。

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 2029年4月10日を舞台にしたお話で、執筆されたのは1989年4月。

 1989年というのは、第2回の講義でも言いました通り、日本がバブル経済の真っ最中というのかな?

 ちょうど転換点あたり。

 この夏くらいにバブルの崩壊が始まったから、この89年の12月だったかに「終わり」と言われるようになったので、世間では「まだまだ好景気が続く」と思われていたような時代です。

 そういう時代に描かれました。


 この当時の未来像というのは、今年に再映画化が公開される『ブレードランナー』に代表されるような “サイバーパンク” …

 …まあ、『ブレードランナー』というのは、誤解している人も多いと思うんですけども、実は、サイバーパンクではなく、ただ単に出てくるガジェットが、ちょっと時代掛かってたり、スタイリッシュであったりするだけなんですけど。

 その点、この『攻殻機動隊』というのは、連載された時から、明らかにサイバーパンク、具体的にいうと「人間みたいな生体と機械との融合」というのを描こうとしていた作品ですね。

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なので、この草薙素子という主人公が座っているカバーイラストでも、首の後ろの方にコードが繋がってますね。

 こういうのをSF漫画の中で意識的に描いた…

 …まあ、“初めて” ではたぶんないんですけども。

 表紙とかで、わかるように描いた作品だと思います。


 よく、「士郎正宗の作品というのは、女の子が素っ裸に近い格好をしていたり、お色気キャラが多い」というふうに見られることが多いんですけど、必ずしもそうでないということが、この第2話の表紙を見れば分かると思います。

 なぜ、素子がこんなに薄着なのかというと、“ジャックイン” と言われる機械と接合するための面を広くとるために、仕方なくこういうふうに薄着をしているんですね。

 もちろん、絵として編集部の方から「ちゃんと色気を出してくれ」という注文があったかも分かりませんけれども。

 実は、作者として描きたいのは、この目の強さと、人間が首の後ろからコードが伸びて機械に繋がっているという、この不思議さを出したい、と。

 だから、実はこの絵で注目すべきところは、この草薙素子がこちら側をクッと横目で睨んでいるのと同時に、この “フチコマ” というロボットが、真正面からカメラの方を向いているところ。

 つまり「2つの目が睨んでる」んですね。

 これがこの今回のお話全体のテーマであると。


 機械の上に人間が乗っている。

 しかも、ただ乗っているだけではなくて “繋がっている” 。

 そういう世界を描こうとしているということです。

・・・

 では、1ページ目。これ、4月の話ですから、花見をしているシーンから始まります。

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 花見をしているシーンがあって、「仕事だ、少佐」という吹き出しがフチコマのコックピットから聞こえています。

 この時のフチコマはバイクみたいなもんだと考えてください。

 なので、誰かのバイクに荒巻の映像が映って「仕事だ、少佐」と言う。

 ところが、ここで少佐はフチコマから降りてお酒を飲んでますよね?

 なので「この情報は少佐の元にも何らかの形で伝わっている」というわけですね。

 いわば、「電脳で脳内に転送されている」というふうなことなんですけども。

 まあ、その辺のことはあんまり気にしないで結構です。

 今回、注目すべきキャラクターは、草薙素子という人と、次に “サル” と呼ばれている荒巻部長。

 そして “トグサ” と呼ばれる新入り。

 これは後で出てきます。

 この3人だけを見ていれば、どういうふうなお話かがわかります。


 「仕事だ、少佐。南新居浜4区、水仙と合流、待機しろ」と。

 “水仙” というのは何かというと、たぶん、政府のワゴン車みたいなやつでしょう。

 これも、後で出てきます。

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 「やなこった。へへーん」という少佐に対して、「貴様が要求していた予算は通したぞ。仕事しろ」と言う荒巻。

 ここで少佐は酒を1口飲んで「フチコマ! 確認(インフォメーション)は!?」と言うと、フチコマというロボットが「Y.Yes SIR!」と答えるという流れです。

 ここでわかるのは、まず、この部長という人は、少佐に命令できる立場ではない。なので、「仕事だ」と言われても「やなこった」と。

 それに対して、取り引きとして「お前が要求していた予算は通したぞ」と言われる。

 この予算とは何なのかは、この回のラストで語られます。


 ネタをどんどん明かすというか、みんなも、もう読んだという前提で話すんですけど。

 結局、少佐がやりたかったのは何かというと、もう、この時代の世の中では、普通の法律とかでは裁けない、電脳犯罪、ネット犯罪とかが大きくなり過ぎていて、普通の警察組織とか軍ではどうにもならない。

 なので、そういうことに関して、積極的に介入して、解決するような独立した団体。

 それも、警察組織とか公安の端っこにいて、上司の考えとか許可を常に伺わなけれいけないような首輪付きではない、ほんとうの意味で独立した組織というのが必要だ、と。

 「そういう組織を作るにはこれくらいの予算が必要です」ということで、少佐は予算を上申していたんですね。


 「貴様が要求していた予算は通したぞ、仕事しろ」という荒巻のセリフは、つまり「お前が俺の部下になるならないは関係なく、お前が要求している予算は通したんだから、お前はいよいよ国家・政府の一員となって、国家公務員として仕事をしろ!」ということを言ってるわけですね。

 そう言われた少佐は、まず、それが本当かどうかを確認しようとしています。

 ちょっと面倒くさい言い方をしてますけど、ここらへんをきちんと説明しておかないと、流れが全然わからなくなってくるんです。

・・・

 さて、この「02 SUPER SPARTAN」というのは、雑誌に連載していた時の実質的な第1話だったんですね。

 単行本化された時に、描き下ろしとして、この前のエピソードがいろいろ付いたんですけども、これが第1話だったので、作者としても、まだまだ手探りでサイバーパンク表現というのを模索しています。

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 「フチコマ、確認(インフォメーション)は!?」と少佐が聞くと、それとは別に、“バトー” という、彼女が一番信頼している部下が近づいてきて、合図をします。

 この合図というのは何かというと「今ここで話すことを部長には一切聞かれたくない、知られたくないから、接続していいか?」というのを指で合図しているんですね。

 それに対して、少佐は目線で「OK」と言っているので、バトーは首の後ろからケーブルを出して、彼女はうなじを開く。このうなじに有線ケーブルを差し込むんですね。


 この “有線ケーブル同士の接続” というのは、まあ「無線のWi-Fiは盗聴されやすい」みたいなことをよくいいますけど、それと似たようなものですね。

 この世界においても、こういった有線ケーブルで直に繋ぐことこそが最もセキュリティの高い通信方法だということがわかります。

 ただ、後になって、この『攻殻機動隊』には、こんなシーン、一切出てきません。

 ということは、やっぱり作者自身も「ネットのセキュリティとは何か?」ということについて、この時には、まだそんなに考えてなかったんですね。

 純粋に、ずーっと無線で話しているところに、こういう表現を入れると、「ああ、一旦、他の人間には聞こえない裏のやり取りをするんだな」というのが絵として分かりやすく成立するからやっているわけです。


 では、次の段に行きます。

 はい、これも後の『攻殻機動隊』ではあんまり出てこないシーンなんですけども。

 コードをうなじに差し込まれた少佐が「うン!」と声を上げます。

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――――――

 少佐:うン!

 バトー:いやらしい声だすな、気色悪い。

 少佐:この前埋め込んだ聴覚素子(デバイス)が接触不良なのよ! で?

 バトー:公安部(ポリコ)のサル部長はキレモノのクソ野郎だ。取り引きに賛成は3、反対2、棄権1。

――――――

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 ということで、バトーが皆の意見を素子に知らせます。

 これは何かというと、「要求した予算を通したとしても、公安部の部長というのは、あいつは頭がキレるやり手だ。だから、結局、俺達は彼に利用されることになる。たとえ自分達が望んでいた部隊の創設が出来たとしても、あの部長と取り引きするのはやめた方がいい」ということを、皆の意見として言ってるんですね。

 さっき言った「ちょっと珍しい」というのは何かと言うと、こういう「身体に埋め込まられたデバイスが接触不良を起こしている」という表現は、ここから後の『攻殻機動隊』では、ほとんど出てこないんですね。

 初期の『攻殻機動隊』にのみ……というか、この第2話のみ、接触不良云々の話が出てきちゃうんです。

 「この前埋め込んだ聴覚デバイスが接触不良だ」ということは、つまり「少佐とバトーとが有線で会話するための端子が接触不良を起こしている」と言ってるんですね。

 これを見ると、本当にこのページ、丸々半分を使って「セキュリティとは何か?」というのをやってるんですね。

 この『攻殻機動隊』の後のエピソード、第2話や第3話では「相手に嘘の現実を見せる」ということをする時に、この首の後ろの接触端子を使う場合が多いんです。

 なので、ここで1回、それを見せるということをやってます。

 さて、続くセリフ。

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――――――

 少佐:正式な特殊部隊の設立を内務大臣(ボス)に申請するには、公安部の “協力” も必要だわ。

 バトー:奴は我々に独立より “専属” を望んでいる。

 少佐:だったら、なおさら退けない事ぐらい奴も計算づくよ。

――――――

 というようなことで、荒巻と取り引きをするかしないかで、部下とトップとの間で話をしているんですね。


 あの、別に草薙素子というのは、部下の多数決によって意見を変えたりしない。

 ただ単に、意見として聞いているだけなんですよ。


 草薙素子の考えとしては「正式に特殊部隊を作るんだったら、大臣の許可が降りて、予算が降りるだけは済まない。

 そうではなくて、公安部のキレモノのサル部長、この人の協力も必要だ。

 だから、協力するフリをしよう」と言っているわけです。

 でも、彼女が信頼しているバトーは「いや、あいつは我々を独立部隊として泳がすつもりはない。専属して自分の下に組み込むつもりだ」と言って、反対している。

 そんなやりとりがあります。

 2人がこんなやりとりを交わしている間に、このフチコマというロボットは、ずーっと、さっき命じられた予算が通ったかどうかの確認作業をさせられているわけですね。

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