『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』がもう楽しくて楽しくて。
NHKで毎週日曜日に放送しているガンダム・ジ・オリジンですね。
僕は今、ちょうど6月23日の日曜日の夜20時にしゃべってますから、6月16日のオリジンの話しか出来ないんですけども。
6月16日は第8話『ジオン公国独立』というエピソードでした。
内容としては、月のスミス海で亡命しようとしているミノフスキー博士をザクが襲うという話なんですけど。
これを僕は見ててフッと思い出したんだけど「ちょっと待って!」と。
「俺、この話を知ってるぞ!」と思ったら、もう今から30年ぐらい前に、俺がその話を考えたよと(笑)。
ミノフスキー博士がジオンから連邦に亡命しようとしてザクの襲われるって、俺が考えて、マンガを描いてもらった事があるというね。
沖一(おき はじめ)さんっていう漫画家がいて、シナリオを書いたのはストリームベースですね。
あのガンプラの高橋昌也さんなんですけども。
『STAMPEDE ミノフスキー博士物語』っていうのが載ってるんですけども、この作品の冒頭がまるまる “それ” なんですね。
それで、自分がアイデアを考えたお話を、いきなり30年後にNHKのアニメで見るこの感動っていう。
いやぁ、人生って何て面白いんだろう(笑)。
この時に、しょうもない仕事も真面目にしてて良かった。
これは同人じゃないです。
これは、ちゃんとバンダイから出版してた商業雑誌です。
これは『サイバーコミックス』といって、まだAmazonとかでは手に入りますから、興味がある人は見ておいてください。
・・・
それで今回、ガンダム・ジ・オリジンで気になったのが、ここなんですよ。
月のアナハイム・エレクトロニクスという、後にガンダムを作る事になる会社の会議室の風景です。
テム・レイ、いわゆるアムロ・レイのお父さんが、ガンダムの大プレゼンをやっているところで。
アナハイム・エレクトロニクスの偉いさん達が、月のフォン・ブラウンシティという所だと思うんですけども、そこの会議室に座っています。
それで、これの何が気になるのかっていうと、このイスにクッションがある事なんですよ。
あのねぇ、月の重力は地球の6分の1なんですよ。
イスにクッションは、いらんのですよ。
というか、下手にクッションがあると、お尻の座りが邪魔される。
地球でいうと、いわゆるフワフワのコートとかに使っているダウンみたいな材質があるじゃないですか。
あれの物凄くフワフワなモノで作ったイスに座らされるみたいな感じ。
お尻がフワフワな感触になっちゃう。
月は6分の1の重力なので、イスにクッションは、いらないんですよ。
お尻が座面にフィットしなくて、座りにくくなっちゃうんですね。
それで、このコップに水っていうのも、ありえない。
なんでかっていうと、月の重力が地球の6分の1っていう事は、コップの中の水がコップに対して1/6Gしかかかってないんですね。
その中で普通に水を飲んだら、水だけが慣性の法則でバシャッと上の方へ上がってきてしまうんですね。
だから、こういうコップみたいなものに水を入れるはずがないんですよ。
それで「アニメの方のミスかな?」と思って調べてみたら、マンガの方もやっぱりこう描いてるんですよね。
おまけに汗が下に流れてるんですね。
6分の1の重力ぐらいでは、汗っていうのは表面張力の方が大きくなっちゃって、下に流れないんですよ。
それで何でこんな事を言うのかっていうと、これって編集の人が仕事をしてない証拠なんですね。
漫画家とか作画っていうのは、そういう事を知らずにやるんですけども、ここで高畑勲みたいな人間が出てきて「これは違うでしょ」って言わないと、どんどんどんどん “いわゆる” になっちゃうんですよね。
このイスのクッションなんかも、典型的な事です。
イスのクッション、コップ、汗もそうですけども、なんでアナハイムの偉いさんが背広を着ているのかも、全部 “いわゆる” なんですよ。
イスが単純な絵じゃなくて、わざわざ手間をかけてクッションを描いているのは何故かっていうと、画面にリアリティを与えるためなんですね。
ところが、この手間をかけたイスのクッションが、逆にリアリティを減らしてしまう。
さっきも言ったように、アナハイムの重役がスーツ姿なのも気になります。
何で月面の企業でスーツ姿なのかと。
何でかっていうと、シリコンバレーで働いている人たちは、「俺達はシリコンバレーで働いているんだから」という事で、過剰に自由な服を着るじゃないですか。
みんなTシャツとGパンで働いているんですね。
つまり「俺達はシリコンバレーで働いている」というプライドが、彼らのファッションというのを、ある程度、決定しているわけです。
じゃあ、月に本社がある企業っていうのも、同じようにその月なりのプライドがあるはずなんですね。
地球出身のテム・レイが、逆にスーツであるべきなんですよ。
テム・レイは地球生まれだから、彼がアナハイムでプレゼンする時に、地球の流儀でスーツを着ている。
逆にアナハイムの重役達は、ノーマルスーツの下に着るような、つまり宇宙服の下に着るような、温度調整が簡単に出来るジャージのようなハイテクなアンダーウェアを着ている。
本当を言えば、そのほうが、このアナハイムっていうエリート集団の所に、テム・レイっていうちょっと立場が悪いヤツが来ている事を見せれるはずなんですけども。
そこを考えずに、いわゆる「アナハイムの偉い人はスーツ着てて、テム・レイは白衣を着てて」っていう考えの無さが、「ちょっと待てよ!」と。
安彦良和さんがマンガでそれを描いちゃうのは、もう手のクセだからしょうがないとしても、そこでカドカワの編集は何をやってんだと。
お前らがやらなきゃいけないのは、ファン上がりみたいな「このザクは違いますよ」とか、「このガンダムは、こんな性能があって」とか、そういう “しょうもない事” じゃなくてさ。
「ちゃんとした大学を出てるんだから、もっと技術的な事を教えてやれよ!」と思うんですけども。
「カドカワの編集は仕事してねぇなぁ」と思います。
あと、この会議室の天井の高さ。
これも気になってですね。
月面という環境で考えたら、この部屋の天井は低いはずなんですよ。
そうでしょ?
だって、そういう所で天井を高くしても危険度が上がるだけなんですよ。
会議室みたいな所で自分達の権力を誇示したいからといって天井の高さを上げるのかっていうと、そうではないんですね。
たとえば砂漠の民族が金持ちだったら噴水作るのかっていうと、案外そっちのほうには行かないんですよ。
「どのようにして権力を見せるのか?」っていうのも、その土地土地の文化とかフォーマットっていうのがあるのに、それを考える事をサボってるんですね。
高い天井なんかを作っちゃったら、与圧する部屋の体積が増えて、ムダが多い。
せっかくコロニーと月との差を見せるチャンスなのに。
コロニーは逆なんですよ。
コロニーは巨大なシリンダーの中をまるまる与圧してるから、これは高さっていうのを出していいんですけども。
月とコロニーの差を見せるには、天井の低さを思いっきり出す事によって見せれるはずだったのにね。
コロニーっていうのは、全てにおいて大量の規格品で出来ていて、部屋は広くて天井が高いって見せて。
それでエレベーターで中心軸に登れば、0Gになるんですけども。
月っていうのは、コロニーよりもエリートが多くて、天井は低くて、部屋は狭くて。
6分の1の重力で、案外、こういうイスとかそういう物は簡単な出来のものになっている。
そこらへんで “文化の差” っていうのをやって欲しかったんですけども。
そういう “環境の差” っていうのが、そこに住む人間の常識の差になるんで。
砂漠の民と、海の近くに住んでいる民族って、絶対に文化とか世界観が違うじゃないですか。
そういうところを見せるべきだったと思います。
SFっていうのは、科学的な辻褄を合わせる事じゃないんです。
「コロニーが現実化していたり月にハイテク企業があって、そこに本社がある」、「そういう事が本当に現実化している場合、どのようなお互いの常識の塊がその世界を支配しているのか?」っていうのを考える事がSFなんですよね。
それで、このSFアニメの作り方に関しては、もうちょっと言いたい事があるので、ニコ生ゼミ後半の有料版で話してみたいと思います。
というのも、福岡で行われた富野さんの講演で、富野さんが怒りを爆発させて「どんなにアニメのスタッフというのは宇宙を分かっていないのか!」って凄く力説した内容が、ちょうどこの問題と偶然にも合っていたので。
今のは僕の意見なんですけども、「じゃあ富野さんは、どう語っていたのか?」というのを、ニコ生ゼミ後半の有料版で語ってみたいと思います。