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岡田斗司夫の毎日ブロマガ「『進撃の巨人』特集と、本物の宮崎駿と高畑勲は『なつぞら』よりすごかった話」
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岡田斗司夫の毎日ブロマガ「『進撃の巨人』特集と、本物の宮崎駿と高畑勲は『なつぞら』よりすごかった話」

2019-08-03 07:00

    岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2019/08/03

     今日は、2019/07/14配信の岡田斗司夫ゼミ「『進撃の巨人』特集〜実在した巨人・考古学スキャンダルと「ウォール・ローゼから外を見ると何が見えるのか問題」」から無料記事全文をお届けします。


    『なつぞら』は高畑と宮崎を「下げて」描く?

    nico_190714_00007.jpg【画像】スタジオから

     こんばんは、ニコニコ生放送、岡田斗司夫ゼミです。
     今日はすみません。8時15分からになりました。「もうこれはダメだ! 8時半からになるか!?」と思ったんですけども。なんとか15分遅れでいけたので、8時15分という中途半端な時間から始めさせていただきます。
     今日は、たぶん、一番最初の無料の部分がちょっと長くなると思うんですよ。1時間は行かないと思うんですけど、45分は絶対に超えちゃうと思うので、30分ごとにトイレ休憩を入れようと思って、一応キッチンタイマー持って来ました。30分毎に入れながらやってみます。

    「30分遅れると聞いて風呂に行った人に一言」(コメント)

     お風呂に入っている人がいるんですね。もう「お気の毒」としか言いようがありません。
     ただ、これ、「言った時間くらい守れよ!」と言われたら、「それだったら、もう、民放を見てよ」という世界なんですよね(笑)。
     ここら辺の時間の自由さは、ある程度は考えて、というか、勘弁していただきたいなと思います。まあまあそんな感じです。

     じゃあ、まあ、こんなことをゴチャゴチャ言ってたら、どんどん長くなりますから、30分毎のタイマーを入れます。

     では今日最初の話題は『なつぞら』からですね。
     先週の『なつぞら』では、アニメ話がどんどん進みました。もう、お陰様で、しょーもないラブラブ話とか、田舎話とか、そういうのが終わってくれて、アニメ話が進みました。

     これ、ちょっと色が薄くてわかりにくいんですけど、主人公のなつが、今作っているアニメ『ヘンゼルとグレーテル』用のイメージボードですね。
    (パネルを見せる)

    nico_190714_00138.jpg【画像】イメージボード ©NHK

     ここでは「ラストはこんな感じになります!」というふうに言って、なつがこれを描いたことになっているんですけど。まあ、他にも、いろんなキャクター作って出してるんですけども。
     これ、アニメーションの歴史上では、宮崎駿の手柄なんですよね。
     「言われてもいないのに、イメージボードをどんどん描いて、それを次々と提出することでストーリー制作を進めた」というのは、宮崎駿が始めたことなんです。
     今ではこういう手法が割りとメジャーになっているところもあるんですけど、この当時は、みんな「えっ? 単なる作画スタッフの1人なのに、そんなものを出していいの?」というようなやり方だったんですね。

     ただ、ここまで見ててわかったんですけど、この『なつぞら』というドラマの中では、なつという主人公のキャラを立たせるために、高畑勲と宮崎駿の能力を、ものすごく下げて描いているんですね。
     天才としては描いてないんですよ。単なる秀才とか「他のスタッフに比べて、ちょっと気が利いているね」くらいに落としている。
     これは、「そうでないと、なつの持っている個性が際立たないから」なんですよ。

     なつが『ヘンゼルとグレーテル』の中で描いたことになっている、狼とか、悪魔とか、木の巨人のイメージボードは、全て宮崎駿が『太陽の王子ホルス』の時に勝手に描いたボードが元になっているんですね。
     特に、悪魔のデザインなんて、『太陽の王子ホルス』のグルンワルドそっくりです。
     ここまでグルンワルドとか、そっくりな狼のボードを出していながら、「いや、これは『ヘンゼルとグレーテル』です」と言い張るのもすげえなと思ったんですけど。
     まあ、「わかってる人は楽しんでください」ということなんでしょうね。

     宮崎駿は、当時、勝手に、ドラマの中ではなつが描いたようになっているカラーのイメージボードをどんどん描いて、その圧倒的な才能で、周囲に自分のアイデアを認めさせ、採用されていたんです。
     しかし、これを朝ドラの主人公のなつがやっちゃうと、つまり、なつのボードがあまりに素晴らし過ぎると、視聴者、特に主婦層に反感を持たれてしまうわけですね。
     「この子は、なんか周りの人に気を使って、どんどん好かれて、いっぱいお兄ちゃんみたいなのもいて贔屓されて、おまけに才能まであって!」となると、どんどん視聴者が引いちゃう。
     なので、なつの才能については、チラチラっとちょっとだけ見せるというか、「この辺が、ちょっと上手いんですよ」くらいにしておいて、その分、宮崎駿、高畑勲の才能を下げるという、とんでもない方法にでました。過小評価させるわけですね。

     例えば、なつがこのボードを使って説明しているお話。
     『ヘンゼルとグレーテル』のラストシーンでは、巨大な木が怪物になって、悪魔の塔を倒す。すると倒れた塔の瓦礫の中から今まで食べられたと思ってた子どもたちが、わんさか生き返って出てきて、よかったねということになる。
     木の怪物も動かなくなって、その枝には小鳥がとまって、木漏れ日が射し、「森に平和が戻ってきた! めでたしめでたし」みたいな話なんですけど。
     なつがそう言うと、周りのスタッフが「それは面白い! すごい!」と拍手するんですよ。
     「いや、まさか」と。こんなの、現実の宮崎駿が一番嫌うような安直なアニメなんですよ。「なんだよその安直なアニメは!」と。

     宮崎駿というのは、『ロボットカーニバル』というオムニバスアニメが作られることになった時、スタッフに入っていなかったのに、若手スタッフのアイデアを聞いて、「それダメ! これダメ! これもダメ! そんなの全部ダメだ! そんなのはマンガだ!」と、言ったような人なんですよ。
     この「そんなのはマンガだ!」と宮崎駿が言う時は、「そんなのは手塚治虫がやりそうな一番安直なアイデアだ!」という意味なんですけど(笑)。
     この『ヘンゼルとグレーテル』のエンディングというのは、宮崎駿が「そんなのマンガだ!」とボツを出す典型的なパターンなんですよね。

     高畑勲に至っては、そんなに甘くないんですよ。
     高畑勲が、もし、このストーリーを聞いたとしたら、ヘンゼルとグレーテルがそもそも森に捨てられた原因まで遡るはずなんですね。
     「じゃあ、なつさん、ヘンゼルとグレーテルは、なぜ、捨てられたんですか?」と。
     「それは親が貧しいからです」と言ったら、「はあ。じゃあ、なんで親が貧しいんですか?」というふうに、「捨てられた原因が、本当に貧困にあるのか、貧困を理由にして親が子供を元々捨てたかっただけなのか?」と追求していくはず。
     そして、最後には「そもそも、そういった貧困を生んだものは何なのか?」というのを考えさせるのが、高畑アニメなんですね。これを考えるのが、さすが東京大学仏文科の高畑勲なんです。
     しかし、この『なつぞら』というドラマの中に、現実の高畑勲のポジションとして出てくる、東大哲学科の坂場という人は、高畑勲よりずっと馬鹿だから、これを考えられないんですよね。

     本当は子供が好きなのに悪魔に子供達を食べさせざるをえなかった魔女とはなんなのかというと。
     その正体は、高畑理論で行くと、当たり前だけど「子供の親」になるはずなんですよ。誰かの両親なんですね。どこかの親が、自らの子供や他人の子供をどこかに売り飛ばすことまでして、それでも生きなければいけないという状況があった、と。
     つまり、「子供を売り飛ばす貧しい親」のメタファーというのが魔女であって、それを買い取り、食べてしまう悪魔というのは、もちろん国家や政治のシンボルに決まってるわけなんです。
     そういう「親が子供を殺す時代に逆らって、それでも生き抜いていく子供達」というのが、戦災孤児になってしまった子供達に見せるアニメとしてふさわしい。
     「じゃあ、それを表面上どれくらいわからないように隠して、もう1段見せていこうか?」というのが、本来の高畑作劇のやり方なんです。ここまでやったら、初めて高畑アニメになるんです。

     なのに、『なつぞら』の坂場ときたら、「これは〇〇の象徴だ」とか、つぶやくだけ。
     なんか、ものすごく浅いレベルで、哲学もどき、演出もどきの答え合わせをやってるだけなのが、もう、見ていてイライラしてしょうがないんですよ。

     こんなレベルの作品論で、アニメ界の創世記を描かれたら、ちょっと引っかかっちゃうんですよね。
     日本のアニメの創世記というのは、もっとカオスで、本気で、濃くて、奥が深いんですよ。
     それを、なんかね、しょーもない恋愛で誤魔化そうとしているというふうに思います。
     今週の『なつぞら』は、「アニメ界の黒歴史を恋愛で誤魔化す」という逃げ方しやがったなと思いました。

     ……でも、来週は楽しみです。
     なぜかというと、次週予告で、こんなシーンが出てたからです。
    (パネルを見せる)

    nico_190714_00817.jpg【画像】予告シーン ©NHK

     これ、たぶん、みんなでハイキングに行ってるんだと思うんですけど。
     そんな中で、マコさんが、みんなに対して「ありがとう」と言うと、それを聞いたみんなが「えっ?」って驚くシーンなんですけど。
     いや、もう、これはとうとう労働運動と、マコさんの虫プロ移籍問題が始まるということですね。
     ここから、最終作『太陽の王子ホルスの大冒険』に繋がるという流れではないのかと思っています。

    「ハイキング?」(コメント)

     この時代アニメーターは、ハイキングをしたんですよね。優雅な時代でございます(笑)。

     ということで、「こんなにゴチャゴチャ文句を言いながらも、次回の『なつぞら』が楽しみで楽しみでしょうがない」というところでありました。

    『シン・エヴァンゲリオン』予告編が「特撮」だった

    nico_190714_00945.jpg【画像】スタジオから

     じゃあ、次ですね。質問でもわりと多かった、『シン・エヴァンゲリオン』の予告編の話だけ、ちょっとしようと思います。

     来年公開の『エヴァンゲリオン 新劇場版』の、冒頭の10分40秒だったかな? が、フランスで公開されて、日本でもいろいろ見られるようになりました。
     ここで、アンケートを出して欲しいんですけど。みんながこれを、どれくらい見たのかわからないので。
     「『シン・エヴァ』の予告編、見ましたか?」ということで。例のフランスでやったやつですね。アンケートを出してください。


    Q.『シン・エヴァ』の予告編、見ましたか?

    1. 見てない
    2. 見たけど、最高!
    3. 見たけど、あんなもんかな
    4. 見たけど、ガッカリ

     この4択になってます。どんなもんでしょうか? 見てない人が多いのかな?
     じゃあ、結果を出してください。

     「見てない」がもう半分以上ですね。58%。「最高」が8%。「あんなもんかな」が30%で、「見たけどガッカリ」が3.6%。
     はいはい。じゃあ、見てない人が半分以上で、「あんなもんかな」と思っている人が3割くらいですね。わかりました。

     ええとね、僕はもう「あんなもんかな」と「ガッカリ」のちょうど間くらいだったんですけど。
     あんまり面白くなかったんですね、正直いうと。
     なぜかというと、かつてはあんなにドキドキしていた小難しいセリフ、「あと◯秒で何百何十秒!」とか、「間に合いません!」とか、「〇〇が接近してきます!」みたいなのが、全部ね、なんかこう、当たり前になってしまったというか、予定調和に感じられてしまったんですね。

     まあ、映像的に面白かったのは「全部が特撮だった」というところなんですよ。

     これ、まだ見ていない人も、出来るだけ綺麗な映像で見てもらったらわかるんですけど。
     エッフェル塔の周りに、戦艦みたいなものが空中に浮いてるんです。それがカーっと開いて防衛体制になるんですけども。それが全部、戦艦の1隻1隻の前と後ろにワイヤーがついてるんですね。空中から吊ってるんですよ。
     登場する新型のエヴァンゲリオンもそうなんですけど、全部、よく見ると空からワイヤー1本で吊られてるんですよ。
     つまり、全てを特撮として描いてるわけなんですね。
     この特撮として描いてる感じというのは、ちょっと面白くて楽しかったですね。

     あと、作業をするために、ドーンと着陸脚が伸びて着陸するんですけど。
    (パネルを見せる)

    nico_190714_01139.jpg【画像】着陸脚 ©カラー/Project Eva.

     この着陸脚のデザインが、完全に月着陸船の着陸脚なんですよね。
    (月着陸船の模型を見せながら)

    nico_190714_01153.jpg【画像】月着陸船模型

     「ああ、流石に時期を今に合わせて、月着陸船を出してるな」というのが楽しかったですけど。
     なんか、それを指摘している人が、あんまりいなかったのが寂しかったですね。「月着陸船だって、見たら一発でわかるじゃん」って思ったんですけど。そういうわけでもないんでしょうね。

     で、この2つが楽しかった以外は、なんかね「『エヴァ』のファンって、こういうの、好きでしょ?」って言われているような、常連さん向けのサービスを見ている感じがしたんですよね。
     なんとなく、こう「『ONE PIECE』みたいな」というか、ヤンキーの人が喜びそうな。「『エヴァ』が好きなのって、もうすでにヤンキー層とかになってるんじゃないのかな?」って思ったんですけど。そういう感じがしました。

     ただ、いよいよこれはもう、終わるみたいなので、お話の展開にはすごく期待してるんですよ。「どんなふうに終わらせるのか?」っていう部分には。

     なんだかんだ『エヴァ』が始まってから20年くらい経った中で思うのが、テレビ版の『エヴァ』の最後の「おめでとう!」っていう終わり方が、一番面白かったんじゃないか、と。
     「今になって」ですよ? 今になって全部振り返って、これが終わるとなると、テレビ版の「おめでとう!」って、なんかあれ、すごかったんじゃないかと思って。
     今回の『シン劇場版』でも、ラストどう終わらせるのかという時に、あえて「おめでとう!」をやってくれたら、実はかなり令和の時代に衝撃があると思うんですよね。
     というか、そうでなかったら平成を引きずったアニメのラストになっちゃうので。
     ここは、あえてやるんだったら、一番最初の「おめでとう!」で終わらせることを、かすかに期待しています。

     『シン・エヴァンゲリオン』の予告編に関してはこんなもんです。

    『未来のミライ』ネタバレ有り解説

    nico_190714_01412.jpg【画像】スタジオから

     あと、今日は、去年の映像を見せたいんですけど。
     金曜ロードショーで、先週、『未来のミライ』をやったので、その映像を見ていただきたいと思います。
     『未来のミライ』の公開直後、2018年7月22日、岡田斗司夫は『未来のミライ』をどう評価していたか?
     7分くらいの映像ですので、ちょっと見てみてください。

     それではよろしくお願いします。

    (録画映像開始)
     噂通りというか、『未来のミライ』という作品は、僕にとってはあんまり、映画館で見ている時には面白くなかったんですね。
     よく「育児経験をしていない人が見てもわからない。子育てをしたことがある人間が見れば面白い」とか言われているんですけど、そんなことも全然ないんですよね。僕は育児経験者ですから。

     そういう意味では、エピソードとか表現が、あまりにもありきたりというか凡庸なんですよ。
     例えば、「下の子が生まれると上の子供が赤ちゃんぽくなっちゃう」とか、「父親の育児は実は役に立たない」とか。
     「こんなネタでは、育児雑誌でマンガを連載しても持たないよ」みたいな、雑談レベルの話なんです。

     だけど、もう、作画はメチャクチャいいんですよ。
     なんか、「メッチャ良い声の人が普通のことを話している感じ」とでもいうんですかね?
     「メッチャ良い声だから聞いてられるんですけど、聞いても聞いても普通のことしか話してくれない」というのが、劇場で見た時の正直な感想だったんです。

     だから、すごくビックリしたんですよ。
     細田アニメって、もうちょっと何かあるような感じがしてたんですけど、どこにも新しさもカッコよさもなかったんです。
     ただ、見終わってから半日くらい経って「ああこういうことか」って、なにがやりたかったのかが、ちょっとわかったような気がするんです。

     この部分はネタバレになりますので、こいつを出しておきますね。
    (ネタバレ警報のプラモデルを出す)

    nico_190714_01537.jpg【画像】ネタバレ警報

     この『未来のミライ』というのは、細田版の『千と千尋の神隠し』なんですよ。
     『千と千尋の神隠し』というのは、「千尋という女の子が異世界に行って、いろんな人のしがらみとか呪いとかを解除してあげる」という話なんです。主人公が呪いにかかったようなていなんですけども、実は、他人にかけられたいろんな呪いを解除してあげたことで、最後には親の呪いも解除して帰っていくというような話なんですね。
     ポイントがあるとすると、「千尋が異世界に行くことになった理由もルールもない」というところなんですよ。迷ってたらとりあえず着いちゃったという。これ、今回の『未来のミライ』と似てるんです。

     『未来のミライ』というのは、この『千と千尋の神隠し』を逆変換した作品なんですね。
     例えば、「異世界に行く」のではなく、「向こうの世界が来る」。あとは、『千と千尋』の舞台となる湯屋は縦にすごく長い建物なんですけど、『未来のミライ』では、斜めに階段がある高さのある構造の個人住宅として、ちょっと置き換えてます。
     何より、『未来のミライ』というのは、「血縁関係にある人達が過去や未来からやって来て、主人公の男の子と交流したり話し合うことによって呪いとかコンプレックスから解放される」という話なんですね。
     そういうふうに見ると、何が作りたかったのかというのがわかりやすいんです。

     例えば、ひいひいじいちゃんという一番イケメンのヤツがいるんですけど、こいつがオートバイを修理しているところに、くんちゃんという主人公の男の子が実体化するんです。
     ひいひいじいちゃんには「戦争で足を痛めた」というコンプレックスがあったんですけど、この男の子を馬とかバイクに乗せてガーッと走る。すると、くんちゃんが「お父さん」って言うんですね。これは、くんちゃんの勘違いなんですけど、そう言われた時、ひいひいじいちゃんは絶妙な顔をするんです。
     これ、どういうことかというと、くんちゃんから「お父さん」と言ってもらったことによって、ようやっと「自分もやっぱり、こんなふうにお父さんと呼んでほしいんだ」と気がついたということなんです。
     そして、その結果「自分は足が不自由だから、もう一生、結婚は出来ない」というコンプレックスがあったところから、「あ、俺、本当は子供が欲しいんだ。じゃあ、気になっていたあの女の子に、思い切ってプロポーズしよう」ということになる。
     たぶん、くんちゃんが現れなければ、あそこで血筋は途絶えていたわけですね。

     あとは、くんちゃんのお母さんが「本当は弟と仲が良かったよ」と説明するシーンがあるんですけど、劇中には仲が良かったようなシーンが全然ないんですね。
     ということは、「仲が良かったと思いたかった」というふうに解釈することもできる。現にお母さんの家に行った時にも、弟は全然出てこないんですよ。
     たぶん、お母さんには「もっと弟と思い切り遊びたかった」というコンプレックスがあったんですよね。
     このコンプレックスという言葉は、ここでは劣等感だけではなくて、いろんな思いがこんがらがって、ほどけなくなっているという、心理学的な使い方でコンプレックスという言葉を使ってますけども。そんなお母さんのコンプレックスを解放してあげているんです。

     他にも、高校生になった自分自身も出てくるんです。
     たぶん、家出みたいなことを考えて、駅にずっと座っていて、電車が来た。その時に幼い自分が電車に乗ってしまう。
     結果、「もう、こんな家は出ていこう。こんな町を離れよう」と思っていた高校生の自分は、東京駅に行ってくれることになって、そこで自分探しをすることになった。
     これによって、高校生になったくんちゃんは、そんなことをしなくて済むというわけですね。

     星野源が声優を演じた父親だけは、ちょっと複雑なんですよ。
     お父さんは、「子供の頃、自転車に乗れず諦める」ということになっていたんですけど、大人になってから諦めずに自転車に乗る自分の息子の頑張りを見て、「過去の自分の、自転車に乗れなかった。ダメだったんだという、あの悩みには意味があったんだ。今、自分の息子を見ることで癒やされているんだ」と気がつく。
     つまり、いろんな出来事の交差点にこの主人公の男の子はいるんですね。

     こういうふうに作っていると、「この映画は『千と千尋の神隠し』ですよ」っていうのがバレないんですよ。
     でも、バレないんだけど、面白くはないんですよね(笑)。

     じゃあ、これはもう外しますね。
    (ネタバレ警報のプラモデルをどける)

     まあ、いろいろ話したんですけども。
     この「バレなきゃいい」っていう細田さんの作り方が……何と言えばいいんだろうな? そこそこ難しいことをやろうとしてるんですけども、エピソードが弱いんじゃないかと思うんですよね。
     こういう言い方も失礼ですけども、たぶん、もうちょっと素直に「何が元ネタで、実はどの作品に思い入れがあって、俺だったらそれをこう作るんだ!」っていうことを言い切っちゃった方が、もうちょっと良かったような気がするんですけどね。
    (録画映像終了)

     はい、見ていただきました。
     『未来のミライ』について、映画をパッと見た時の感想を、出来るだけ早く言ったのが、今の映像なんですけど。
     まあ、「ハッキリ言うなあ」と、我ながら思います。「この頃の俺には怖いものがなかったんだな」というか(笑)。

     と言いつつ、ついさっきも『エヴァ』の劇場版の予告について、色々言っちゃったんですけど。
     自分のFacebookを見てたら……Facebookって、やっぱり直接の知り合いが多いんですよ。そういう直接の知り合いの『エヴァ』の予告編に関する評を見たら、もう、みんな、メチャクチャ褒めてるんですよね(笑)。
     なんかもう、この、胃の辺りが苦しくて。「俺はこんなふうには褒めれない」と思うから、Facebookでは絶対に沈黙を守るようにして、直の知り合いには聞かれないようにということで、ここで話したんですけど。

     今回、YouTubeライブのコメントまで見ているんですけど。こう、3つのコメントを見てると、みんななかなか『未来のミライ』に関して冷たくて(笑)。
     「ああ、やっぱり、この番組を見るような人は、みんな僕と同じように、軽いサイコパス気味の人が多いのかな?」と、失礼ながら思ったりしています。

     ちなみに、映像の中に映っていた巨大なロボットのオモチャは、アメリカ製の、巨大なリモコンで動くロボットだったんですけど。

     さて、こう語った翌週、「いや、でもこの作品は、見る必要ないとまで言うこともないな」ということで、「じゃあ、どの部分が面白いのか? どの部分が評価できるのか?」と、もう少し話した映像があります。
     次の映像は10分くらいありますので、さっき「30分毎にトイレタイムを入れる」って言いましたけど、既に見たことがある人は遠慮なくトイレに行ってください。この映像が終わったら、また30分タイマー作動させますので。
     では、「ミライちゃんのお家はお金持ちなんだよ」という話を、去年の7月29日「アニメ回 夏の重大ニュース」の回より、お届けします。
     それでは、始めてください。

    『未来のミライ』の狙ったターゲットとは

    (録画映像開始)

    nico_190714_02259.jpg【画像】スタジオから

     『未来のミライ』って金持ちの家庭が舞台なんですよ。
     「あれは細田監督の生活だ」と思っている人がわりといるんですけど、とんでもない! 細田監督の程度の収入では、あんな生活は無理なんですよ。……細田監督、すみません(笑)。

    (オモチャを見せながら)

    nico_190714_02326.jpg【画像】ネフスピール

     例えば、これはスイスのネフ社が作っているネフスピールという積み木です。
     こんなカラフルな積み木なんですよ。独特な形をしていて、どんな組み合わせ方をしても積めるという積み木なんです。このネフスピールが、主人公のくんちゃんの家にあるんですけど。
     これ、実は1箱で2万円もするんですよ。積み木なのに。
     僕、映画館で見ていてビックリしたんですけど、主人公のくんちゃんという4歳児の家に、この積木がトミカとかプラレールと一緒に平然と置いてあるんですよね。つまり「そういう家」だということがわかるんですよ。
     こんな生活、世帯収入1千万円でも、たぶん無理です。

    (別のオモチャを見せながら)

    nico_190714_02417.jpg【画像】キュボロ

     ここにもう1つあるのが、同じくスイスのキュボロ社のキュボロっていうオモチャです。
     これ、デパートとかで見たことがある人もいるかと思うんですけど、四角いブロックに溝が掘ってあって、その中を玉がコロコロ転がるというオモチャです。藤井聡太君という天才将棋指しがいますよね。彼が子供の頃に遊んでいたということで有名になったという知育玩具なんですけど。
     これなんて、色も着いていない、本当に白木の塊なんですよね。ただ、メチャクチャ精密に作ってあるんです。
     これ、1箱3万5千円もするんですよ。
     その上、パッケージを見たらわかる通り、これはあくまでもベーシックキットなんですよね。基本が出来るだけなんです。僕、一応、これの拡張版を持ってるんですけども。楽しく遊ぼうと思ったら、このベーシックに、さらに拡張版を買って、他にも、色の着いている積み木なんかを買わないと、なかなか楽しめないんです。
     これで楽しく遊ぶためには、だいたい10万円くらい掛かるんですよ。

     くんちゃんの家のおもちゃ箱には、こういうオモチャが山のように入ってるんですよね。
     「ちょっと待てよ! これは世帯収入が2千万円を超えてないと無理だぞ!」って思ったんですけど(笑)。

    「父親が斗司夫じゃないの?」(コメント)

     僕は自分の子供には、こんな高いオモチャは買いません! ディスカバリー号と同じく自分のためにしか買いませんから!(笑)

     だけど、「じゃあ、それがダメなのか?」というと。
     日本のアニメって、これまで散々「貧乏な家」を舞台にしてたんですよ。宮崎さんのアニメにしても、高畑さんのアニメにしても、貧乏な家か、もしくは庶民の家が多くて、金持ちの家を舞台にするアニメって珍しいんですよ。
     だから、「これはこれで面白いな」って思ったんですよね。
     トミカとかプラレールの他に、こんなオモチャをふんだんに与えられた4歳児のくんちゃんというのは、実はかなり賢い子供なんですね。そういった特徴は、実は、映画の中でも出てくるんです。

     『未来のミライ』というのは、実はかなり戦略的に作られた作品です。
     内容の戦略性は前回、「これは『千と千尋』のリメイクなんじゃないか?」という話をしました。この内容の戦略についての掘り下げに関しては、ちょっと後半で話します。
     ここで語るのはマーケティング戦略です。この『未来のミライ』って、マーケティング戦略に沿って作られているんですね。

     実は『未来のミライ』って、『クレヨンしんちゃん』の上位作品なんですよ。
     『クレヨンしんちゃん』がコンビニだとすると、『未来のミライ』っていうのは無印良品なんですね。
     「子供が無邪気な感じで周りの大人を巻き込んでいるように見えて、実は周りの大人たちが癒やされたり、トラウマが解決していく」という構造は、『クレヨンしんちゃん』の劇場版と全く同じなんです。
     それを上位変換して、いわゆるコンビニの商品から無印良品に高級化させたのが、『未来のミライ』なんですよ。
     これ、狙い目としては、メチャクチャいいんですよね。安くて、下品で、「子供はおバカなものです」という『クレヨンしんちゃん』に対して、『未来のミライ』というのは、高級で知的なんですよね。
     映像にも高級感が漂っているし、主人公のくんちゃんも、すごいワガママで嫌な子供に見えるんだけど、実は理屈はすごく通じてる。理屈がわかるからこそ、「やだやだ!」って言うわけですね。普通の4歳児だったら、あんなふうに大人に説得されても、何もわからないだけですから。

     4歳児のくんちゃんというのは、5歳のしんのすけを知的にした感じなんですよ。
     例えば、しんのすけは自立してて、親の言うことを聞かなくて、一人でどんどん行っちゃうんだけど。くんちゃんは、甘えん坊で、なかなか外に行かない。ずっとお母さんの近くにいる。
     しんちゃんはおバカでエッチなんだけども、くんちゃんというのは、どちらかというと知的で恥ずかしがりである。
     こんなふうに、対照的な性格に作られているんですね。

     劇場版クレヨンしんちゃんとの共通点でいうと、例えば『モーレツオトナ帝国』も、『あっぱれ戦国大合戦』もそうなんですけども、「無垢な存在としての子供が、大人に対して救いを与える」という構造になっているんですよ。
     前回は『千と千尋』に例えて話したんですけど、『クレヨンしんちゃん』と比較するともっとわかりやすいと思います。
     『クレヨンしんちゃん』の劇場版では、「しんのすけが無邪気に振る舞った結果、周囲の大人たちも、癒やされたり、本来の居場所に戻っていく」というような構造になってるんですけど、『未来のミライ』に出てくるくんちゃんも同じなんです。

     この映画では、飼い犬が人間化して「お前(くんちゃん)が生まれてきたおかげで、それまで家の中で、ずっと可愛がられていた犬の俺が、その座から引きずり降ろされた。次はお前の番だぜ」と言われるところから、くんちゃんに不思議な出来事が始まるんですけど。
     この出来事についても「飼い犬が言いたかったことを言ってスッとする」という構造になってるんですね。そうやって、それまで拗ねて生きていた飼い犬が、もう一度、家族の一員に戻ってくるんです。

     その次は、くんちゃんの妹のミライちゃんが、成長した高校生として「好きな人が出来たんだけど、雛祭りの人形をしまってくれないから、いつまでも自分が結婚できないかもしれない」という悩みを持って、未来からやって来るんです。
     で、くんちゃん達がこれを解決してあげることで、妹のどうにもならない思いというのも解決する。
     くんちゃんというのは、実は、物語の中で「いやいや!」って暴れているように見えて、周りの人間の拘りとか悩みを溶かしてあげているんです。

     例えば、母親は「弟と遊べなかった」という思いを持っていますし、曾祖父さんは「戦争で受けた傷によって、自分は結婚できないんじゃないか?」と悩んでいる。
     高校生になった未来の自分自身というのも出てくるんです。未来のくんちゃんは自分探しの旅という、わかりやすい家出の仕方をしようとしてたんですよ。
     そんな中で、子供のくんちゃんが代わりに電車に乗ってしまう。ところが、4歳児だから自分探しというのがわからないので、東京駅で不思議な存在から「あなたの存在を説明するものは何だ?」みたいなことを聞かれた時も「それは私の家族」みたいなことを言う。すると、急に繋がっていって、高校生の自分の悩みも解決される。
     父親も父親で、ベストを尽くせなかったという後悔があったのが、くんちゃんが一所懸命自転車に乗っているところを見て、過去のトラウマを解決する。
     こんなふうに、構造自体は、すごく上手く出来ているんですよ。

     こういった構造だけで言えば、明らかに『未来のミライ』は成功作なんですけど。
     ところが、それが上手く作動しないんですよね。

     なぜかというと、この映画を見る普通の人が期待するのは「くんちゃんの成長譚」なんですよ。
     でも、実際はそうじゃない。くんちゃんは、ただ単に触媒であって、「触媒としてのくんちゃんを通じて、バラバラになりかけていた家族が繋がりを取り戻す」というトリッキーな話なんです。
     だけど、前回も言った通り、1つ1つのエピソードが弱すぎて、この構造がわかりにくいんですよね。
     この、わかりにくい理由というのは、実はもう1つあるんですけど、それは後半で話します。

     細田監督のいる陣営が狙ったマーケットは、『ドラえもん』とか『クレヨンしんちゃん』であって、ジブリじゃないんですよね。
     だから、ジブリを期待して見に行くと、やっぱり、かなり違うことになります。


     はい、というわけで『未来のミライ』の話でした。
     やっぱり、金曜ロードショーで改めて見て思ったんですけど、『未来のミライ』って、本当に、紙一重ですごく面白くなりそうな作品だったのに、いろんな人の思惑を取り入れたのか、その辺の理由はわからないんですけど、アニメファンの心にはあんまり当たらなくなってるんですよ。
     じゃあ、その代わり、ファミリー層に当たるようなものになっているのかというと、たぶん、もうちょっとファンタジー的な要素が強くないとシンドかったんじゃないかなと思いました。

     あと、さっきのオモチャの件なんですけど。
     「岡田斗司夫は数万もするブロックを持ってるということは、年収2千万以上か」と聞かれたんですけど、こんな商売で2千万もあるはずないじゃないですか!(笑)
     僕は、本当はベーシックキットしか持っていません。そのベーシックを買う時にも、「流石にこれはどうかな?」と悩んだくらいで、大切に大切に遊んでおります。

     ということで、以上で『未来のミライ』の話は終わります。

    『進撃の巨人』と「人間は巨人族が好き」

    nico_190714_03313.jpg【画像】スタジオから

     ここから先は『進撃の巨人』の話ですね。まあ、これもまたまた長いから、すみませんけど、途中でトイレ休憩を入れながらやりましょう。

     じゃあ、『進撃の巨人』始めます。
     まず、どこまで話していいかわからないので、最初にアンケートを2つ取りたいと思います。
     「『進撃の巨人』、どこまで体験してますか?」ということで、アンケートを出してください。


    Q.『進撃の巨人』をどこまで体験してますか?

    1. マンガもアニメも見ていない。
    2. アニメは見ている。
    3. マンガを途中まで読んだ。
    4. マンガを最新刊まで読んでる。

     「最新刊」というのは、「単行本で最新刊」でも、「雑誌の最新話」でもいいです。
     この4択で答えてみてください。

     みんな、どれくらい見ているのか? 昔はね、みんな見てたと思うんですけど、今はどうなのかな?
     はい、YouTubeライブで見ている人はすみません。ちょっと、ニコ生の方でアンケートを取っております。

     では、アンケート結果を出してください。
     はい、「どっちも見てない」という人が22%。「アニメは見ている」が24%。「マンガを途中まで読んだ」が29%。「マンガの最新刊まで」が24%ですね。
     これに関しては、プレミアムのアンケートも似たようなもんですね。ほぼ4分の1ずつくらい。
     原作マンガを読んでる人は、まあ25%くらいだから、多いのかなと。
     まあ、とはいいつつも、「途中まで読んだ」という人が、やっぱりね25%くらい。つまり、原作を読んだ人の半分くらいの人が、途中で辞めちゃうんじゃないかと思ってます。
     「何がよくないのかな? どこでくじけたのかな?」と思うんですけど。

     じゃあ、次はネタバレについてのアンケートです。
     「今日の話で、ネタバレはどこまでOKなのか?」というのを、ちょっと事前に確認させてください。


    Q.ネタバレはどこまでOK?

    1. アニメ版のラストまでOK!
    2. 単行本の最新刊までOK!
    3. なんでも話してOK!
    4. ネタバレは勘弁してください。

     はい、どうでしょうか?

     「アニメ版のラストまで」が11%。「単行本まで」が5.6%。「何を話してもいい」が80%くらい(笑)。「できるだけ話すな」が3.4%ですか。
     ああ、なるほどね、はいはい。プレミアムでも「なんでも話して」が86%ですね。じゃあ、もう、何を話してもいいのかな?
     とは言っても、これはあくまで「この放送を生で見ている人の意見」なんですよね。生で見ている人って、これを見ている人の中でも、だいたい1割くらいなので、まあ、このアンケートを全面的に採用していいのかという問題もありますけども。
     それはともかく、たぶん、この通りに、ガンガン行こうぜな態勢でやってみようと思います。

     流石に、今回「ネタバレ完全に禁止!」と言われると、ちょっと話しにくいので、ある程度は話しますけども。
     でも、この無料放送では、ちょっとネタバレ気をつけながら話します。
     なので、コメントを書く人も、一応、「できるだけ話すな」の人が4%くらいいるので、コメントを書くときにも、そこら辺をちょっと考えて調整してください。
     そもそも、今日の趣旨は「原作を追いかけていない人や、途中でやめちゃった人も、絶対にすごいクライマックスになるから、今から原作を読んで一緒にラストを迎えよう!」ということなので、そんな感じでお願いします。

     じゃあ、まず『進撃の巨人』を、今日、取り上げる値打ちについて。
     「何がそんなに面白いのか?」ですね。

     とにかく、『進撃の巨人』の面白さは、2大要素にあると思います。
     その1つ目が「巨人が人を喰う」ですね。
     2つ目が「壁に閉じ込められている」。
     この2つだと思います。

     この「壁に閉じ込められている」という話は、ちょっと後半で話そうと思います。
     まずは「なぜ、人はこんな巨人の話が好きなのか?」について話そうと思います。

     よく、オカルト系のニュースサイトに行くと、こういう写真が出てくるんですけど。
    (パネルを見せる。巨大な人骨の発掘現場を写した写真)

    nico_190714_03810.jpg【画像】巨人発掘現場

     「かつて、地球上には7メートルを超える巨人族というのが存在した」というふうに言われているんですね。
     こういう記事に関して、今週は検証してみようと思うんですけども。

     1933年、カリフォルニアのランポック牧場というところで、全長4メートルの巨人の骸骨が、地中より掘り出されました。
     その頭蓋骨には、上顎にも下顎にも、2列の歯が並んでいたというんですね。つまり、サメとかああいう生物と同じく、歯が何列にもなっている、と。
     イコール、物を噛んだ時、もし、歯が抜けちゃった場合でも、内側からどんどん新しい歯が前の方に出てきて、肉食に有利に働いているのではないかと言われているんですけども。
     じゃあ、彼らは野蛮人だったのかというと、これまた同じ牧場から、大量に土器とか不思議な埋葬品が発見された、と。
     この骸骨の正体が何だったのか、いまだにわからないんですよ。なぜかというと、その当時の新聞に掲載されていた記事によれば、「これを調査した役人達が、埋め戻すように指示したから、今となってはわからない」と。

     こういう話は、この『ストレンジ・ワールド』という本にいっぱい書いてあります。
    (本を見せる)

    nico_190714_03927.jpg【画像】『ストレンジ・ワールド』表紙

     これを書いたのは、フランク・エドワーズさんという、20世紀半ばに活躍した、こういう話を専門で調査したり、本を書いたりしている有名なイギリスのおじさんなんですけど。
     この人は、イギリスでラジオ番組を長いこと持っていて、こういう細かい話についても、いっぱい書いてるんですね。
     このフランク・エドワーズの書いた本が、だいたい、昭和から平成にかけてのオカルトブームの元ネタになっていると思ってくれて良いんですけど。

     で、この歯が2列になっている巨人というのは、その後も、世界中いろんなところで発見されました。
     例えば、サンタ・ロサ島という、カリフォルニアの沖にある島で発見された頭蓋骨も同じタイプです。
     この島では、頭蓋骨が発見されたのと同じ地層から、象の骨が大量に発見されたんですけど、ある時代から、出土がピッタリとなくなってしまっている。
     なぜかというと、「サンタ・ロサ島に流れ着いた、歯が2列生えている巨人達が、その島の象を食べ尽くしてしまったからだろう」と言われているんですね。

     他にも、こういう話があります。
     20世紀半ば、この手の「巨人を発見した!」という報告は、アメリカだけでなく、世界中で多かったので、スミソニアン博物館が正式に調査を行おうとしました。
     この当時、本当にアメリカでは、こういう巨人の骨の出土が多かったんですよ。ちょうど、アメリカ大陸全体で鉄道網とかが発達して、誰でもどこへでも行きやすくなったということもあるんでしょうけど。巨人の骨とか足跡の化石とか、いろんなものが出てきたんです。
     しかし、なぜだか、そういう骨とか化石が、発掘後に行方不明になるという事件が多かったんです。
     そのうち、「巨人の骨を発見した!」とか、「足跡を発見した!」というニュースも、途絶えてしまいました。

     これについて、アメリカ考古学会は「これはスミソニアン博物館が主導して巨人の存在を隠そうとする隠蔽工作だ!」というふうに主張して、最高裁判所に提訴した結果、スミソニアン側が敗北し、隠されていた巨人存在の証拠数千点を提出することを命じられたというニュースが、5年くらい前に出たんです。

     だけど、今話したスミソニアンの下りは、完全なウソだったんですね。
     これ、ロシアかどこかのウソばっかり流してるニュース通信社が出したフェイクニュースなんですけど。
     なぜ、こんなニュースが出るのかというと、そもそも、こういった巨人発見のニュースって、フェイクである可能性がすごく高いんですよ。

     一番有名な巨人発見の捏造事件として、カーディフの巨人事件というのがあるんですけど。
     1869年、今から150年くらい前に、葉巻製造をやっているジョージ・ハルというオッサンが、親戚に呼ばれて田舎に帰った時に、牧師と言い合いになったんです。
     そこで、その牧師さんをからかうために、「巨人の化石を作って一儲けしてやろう」と思ったそうなんですね。
     ハルは、7トンの石膏の塊を買ってきて、彫刻家に頼んで、自分自身をモデルに巨人の像を掘って、化石を捏造して、それを従兄弟の家の農場に埋めたそうです。……みんな農場に埋めるのが好きですよね。このハルも農場に埋めた、と(笑)。
     その一週間後、ハルは作業員に頼んで「井戸を掘る」という名目で、農場を掘らせたんですよ。そしたら、作業員はビックリですよね。この石像を掘り出した。
    (パネルを見せる)

    nico_190714_04231.jpg【画像】カーディフの巨人

     これが、その時の写真なんですけど。その結果、大騒ぎになったんですね。
     アメリカ中から詰めかけた見物客から、ハルは50セントから1ドルくらいの安い料金を取って、結構、大儲けしたんです。

     このカーディフの巨人事件というのは、オカルトの世界では有名な偽物事件なんですけど。もう1つ、これが有名になった理由があって。
     この当時の新聞は、かなり早い段階で、これが偽物だということがわかってたんです。ところが、偽物だとは報じなかったんですね。なぜかというと「本物かも!?」と書いた方が、やっぱ圧倒的に新聞が売れるんですよ。
     考古学者も、わりと初期の段階、たぶん発見から3日目だか4日目だかに来て、「こんなもん、完全に偽物だよ。古く見えるのは、全部これ塗装だよ」って言ってたんですけど。新聞はこういう証言をあんまり報道しなかったんですね。

     なぜかというと、やっぱり「その方が新聞が売れる」という理由があるんですけど。その他にも、キリスト教の原理主義というのが、この1869年の頃からあったんでしょうね。
     「聖書は歴史的な書物である。旧約聖書の創世記の中には、ちゃんと人類以前に巨人族がいたということが書いてある」と。なので、こういうふうに巨人が見つかったということになれば、聖書は本当に歴史的な書物であるということが証明される。
     なので、「ウソだった」とか「捏造だった」という記事を、あまり載せないようにしたという。

     こんな、現代でもありがちな事件が当時からあったと言われています。本当に、こんな事件が山程ありました。

     1877年、このカーディフの事件から10年も経たない頃、ニューヨーク州のホテルの拡張工事をしている最中に、巨人の化石が掘り出されました。
     しかし、これは酒に酔った発掘者が「自分でこれを作って埋めたんだ」と酒場で白状したことにより、バレてしまったと(笑)。

     あとは、現代でも、こういうニュースがまだ出てくるんですよ。
     これは、21世紀に入ってからの話なんですけど。南アフリカ共和国のトランスバール……これ、「トランスバール事件」で検索したらすぐ出てきますけど。トランスバールで、身長7.5メートルのサイズの人間の足跡が見つかった、と。
     でも、このトランスバール事件がちょっと変なのが「発見されたのは31億年前の地層だ」というところなんですよ。
     これ、20世紀型の巨人捏造事件だったら、だいたい6千年前とか8千年前の地層に埋めてから「発見した!」と言うんですよ。
     なぜかというと、キリスト教の歴史上ではノアの方舟の大洪水というのが、だいたい4千年前とか5千年前に起きたことになっているので、これに合わせるために、それくらいの時代の地層に埋めるんですけど。

     じゃあ、この31億年というのは何かというと。
     実は、オカルト業界には「今から1億年とか2億年前までは、地球の重力は今より小さかった!」という説があるんですね。
     「恐竜が巨大なのもそのせいだ! 昔、巨人がいたのもそのせいだ! 昔は地球の重力は今よりもずっと軽くて、巨大な生物というのがいっぱいいた!」と。
     しかし、ある日、ものすごく質量の高い、密度の濃い金属の塊のような隕石が落ちてきて、それが地球の中にまだとどまっているから、一気に地球の重力が数倍に跳ね上がった。
     その結果、恐竜とか巨人族は、自分の身体の重みに耐えられず絶滅した、と。
     こういうですね説を唱える人が結構いるので、トランスバールの不思議な巨人族も、31億年前という……「そんな時代に地層があるのか? 31億年前って、まだ地球が固まってねえんじゃねえのか?とは思うんですけど(笑)。
     そういう怪しげな話があります。

     まあ、巨人が実在したかどうかはわからないですけど、1つ確かなことは、「人間というのは、それくらい巨人が好き」なんですね。
     なんかね、本当に「巨人発見」で検索すると、3ヶ月か4ヶ月に一度くらい、新しいネタが引っかかる。
     それくらい、人間というのは巨人が好きだという話です。

    『進撃の巨人』世界の地理を地図で確認してみる

    nico_190714_04751.jpg【画像】スタジオから

     では、『進撃』の話に戻ります。
     今現在、お話はどうなっているのか? さっきは皆さん「ネタバレでもいいよ」って言ってたんですけど、一応、気を使いながら、ストーリーを簡単に簡単に説明してみます。
     ここから、フリップを出して話すけど、気になる人は、あんまり見ないように、聞かないようにしてください。

     現在、単行本で28巻まで出てるんですけども。
    (パネルを見せる)

    nico_190714_04915.jpg【画像】『進撃の巨人』ストーリー

     まず、「1.壁の中に閉じ込められていた人類。壁の外には巨人がいっぱいいる。その壁が破られてしまった!」というのが、単行本1巻での話です。
     「2.ようやっと壁を取り戻した! しかし、壁の外にも人類はいた! 実は俺達は閉じ込められていたんだ!」これが、2巻から22巻です。つまり、『進撃の巨人』というのは、ほとんどがここに占められています。
     そこから先は「3.巨人兵器を操るマーレ、巨人奪還作戦は失敗した!」という昔話に戻ってしまうのが、23巻から24巻の真ん中くらい。マーレという他所の大陸にある敵の国を襲う話ですね。
     その結果、「4.敵の方から、また援助も来たよ!」というのが、24巻から26巻。
     「5.そんなことをやっているうちに、パラディ島という主人公達がいる島の人達も、段々と分裂してきた!」というのが27巻28巻ですね。
     で、「6.主人公達がいる以外の全ての国が、パラディ島という島を襲ってきたぞ!」というのが、今現在、連載している部分です。

     簡単に言うと「2の部分がやたら長い」と思ってください。

     今、ストーリーをザックリと説明したんですけど。『進撃の巨人』の面白いところは、地理的なところだと、僕は思うんですね。

     これ、確か1巻に出てきた図なんですけど。
    (パネルを見せる)

    nico_190714_04957.jpg【画像】地図1 ©Hajime Isayama

     地理で状況を簡単に説明すると、人類というのはこういった3重の壁の中に住んでいます。
     外側の壁、その内側の真ん中の壁、最後の一番内側の壁。この中心の辺りに王都と呼ばれる、王様が住んでいる大都市があるんですけど。
     この壁のサイズがですね、とにかくメチャクチャデカイんですよ。

     ええと、アニメ版の『進撃の巨人』で、一応、いろんなところで設定が語られるんですけど。
     「一番中央の都市から一番内側の第3の壁ウォール・シーナまでが、半径250キロある」と書いてあるんですよ。「半径が250キロ」です。
     で、「3番目の壁から2番目の壁ウォール・ローゼまでが130キロ」。かなりあります。
     そして、「一番外側の第1の壁までは、さらに100キロ」。つまり、この一番中心の街から一番外側の壁まで、半径にして480キロ。直径で言うと、960キロなんです。かなりデカイんですね。

     みんな、『進撃の巨人』の世界を、この印象で考えるんですよ。本編の中で、こういう図が出てくるから。
    (パネルを見せる)

    nico_190714_05034.jpg【画像】模式図 ©Hajime Isayama

     「この図はいわゆる模式図だ」というふうに書いてあるんですけど、なんとなく、これくらいで考えてしまう。

    nico_190714_05130.jpg【画像】概念図 ©Hajime Isayama

     作者が、概念図として描いてくれている、こういうイラストを見て、「ほぼこのまんまのサイズ」って思っている人が、かなりいるんですけど、実際は違います。

     じゃあ、実際の地図上に置いたらどれくらいのサイズなのか?
    (パネルを見せる、アメリカ大陸の地図)

    nico_190714_05205.jpg【画像】アメリカ地図

     例えば、アメリカ合衆国に、この『進撃の巨人』の壁があったとしたら、一番広い壁が、ほぼインディアナポリスからダラスまで。つまり、アメリカの中央平原をまるまる飲み込んでしまうような、巨大な円だと思ってください。
     赤ペンで書き込むと、こんなデカいんですよ。アメリカ大陸の中央部が、ほぼ丸々入ってしまうくらいのデカいんです。

    nico_190714_05221.jpg【画像】アメリカ地図赤丸

     ヨーロッパに置いたらどれくらいのサイズかというと。
    (パネルを見せる。ヨーロッパの地図)

    nico_190714_05238.jpg【画像】ヨーロッパ地図

     ヨーロッパに置いたら、だいたい、フランスの東部から、ポーランドの果てまでが、もう全部入ってしまうような円なんです。
     だから、完全な円形では無理なので、「スペインからギリシアの東までの範囲までが、壁の内側だ」と考えた方がいいんじゃないかと思ってしまいます。
     これ、何かというと、ほぼ古代ローマ帝国と同等のサイズです。

     日本で言うと、どれくらいか?
     中心を東京に置いた場合、一番内側の壁ウォール・シーナの西の果てが名古屋で、北に行くと新潟くらいまで入ります。かなりデカいです。
     その外の2番目の壁ウォール・ローゼが、大阪から仙台まで。すごいデカいですね。
     一番外側のウォール・マリアに至っては、東京から半径で鳥取まであります。北の方は秋田まであるという、日本列島がほぼすっぽり入ってしまうサイズです。

     さっきのアメリカの地図でもわかる通り、マンガの中では、これを「島」って言ってるんですけど、違うんですね。ほぼ大陸なんですよ。
     オーストラリアくらいの大陸でないと、こんな巨大な壁、作れっこないんですね。

     この壁のデカさというのをよくわかってないと、『進撃の巨人』の面白さが、なかなかわかりにくんですよね。
     なんとなく僕らは、さっきも話したように、この模式図で考えちゃうんですよ。で、この模式図で頭の中に入ってると「東京都くらいのサイズかな?」って考えちゃうんですね。
     「全体が東京都のサイズで、まあ、一番内側のウォール・シーナというのは、山手線の内側くらいかな?」というふうに考えている人、絶対に多いと思うんです。
     「この端っこの方に出ている、なんとか区って言われるやつも、まあ、吉祥寺くらいだろう」とか、「荻窪くらいだろう」とか、「新宿の公園くらいじゃないの?」って思っている人、すごく多いと思うんですよ。
     僕もね、本当にキッチリ調べるまでは、そう思ってたんですけど。
     でも、実際には、とてつもなくデカいんですね。さっき言ったカンザスからアトランタくらいまで。アメリカで言うと、中央平原がほぼ入っちゃうくらいなんです。

     じゃあ、この壁の上に登ると、どれくらい遠くが見えるのかというと。
     これ、簡単な計算方法があって、もうGoogleとかで「高さ 見える範囲」とかで検索したら、こういうのが出てくるんですね。
    (パネルを見せる。高さを入力すると見える範囲が計算できるフォーム)

    nico_190714_05519.jpg【画像】計算フォーム

     「高さ50メートル」に設定すると、どこまで遠くが見えるのかというと、「26.77キロ」。つまり、27キロまで見えるわけです。
     ということは、一番狭い間隔のウォール・マリアからウォール・ローゼまでも100キロだから、この世界ではかなり高い50メートルの壁のてっぺんに立っても、地平線の向こうにすら隣の壁は見えないわけですね。
     それくらい広いんですよ。壁のてっぺんに登っても、向こうの壁は見えないし、おそらく、壁の丸みも、なんとか分かるかどうかというギリギリだと思います。
     一番外側の壁なんか「ほぼ直線で地平線の端っこがちょっと内側に曲がってる」というような感じじゃないかなと思います。

     この日本の本州がほぼ入ってしまうくらい巨大な面積の中に、125万人、江戸時代の人口よりもちょっと少ないくらいの人間が住んでいるわけです。
     こんなに広大な世界だからこそ、壁の中の人達は「外には世界がない」と思っていたんですね。「壁の外には人類はいない」と言われて、なぜ信じられたのか、なぜ、エレンとアルミン以外は、外の世界に興味を持たずに生きられたのかというと、実は壁の内側というのが、ものすごくデカいからなんですよ。
     物凄くデカいし、中にちゃんと湖もあるし、生態系も一通り揃ってる。だから、外側に行かなくても十分に幸せに暮らせていけたわけですね。壁の内部だけで生きていくにしても、十分以上の面積があった。
     中央のウォール・シーナの内側の、王様が住んでいる大都市には、工業都市もあるし、あと天然資源を採掘出来る鉱山や、加工プラントもあったでしょう。
     なので、第1次産業、農業というのは、この一番外側と二番目の壁の中で賄われたと考えるのが、地図的に見るには正しいと思います。

     主人公の3人が住んでいるのが、この壁にできた出っ張りです。シガンシナ区というんですけど。
     この出っ張った部分のことを、中国語で甕城(バービカン)というふうに言います。
     これが、実際の中国にある甕城なんですけど。
    (パネルを見せる)

    nico_190714_05803.jpg【画像】甕城

     城塞都市の周りに、攻められた時に防衛しやすいように作っている出島みたいなものです。隣に写っている自動車がこのサイズですから、そんなに大きくはないんですけど。
     これの特別デカいやつが、シガンシナ区。主人公達が住んでいたような街だと思ってください。

     今、コメントでも出てた通り真田丸なんですね。大坂城の真田丸のようなものだと考えてください。
     しかし、この『進撃』の世界では、このバービカンというのは、とてつもなくデカいです。
     これは、トロスト区の壁に登った時に、向こうを見ている風景なんですけど。
    (パネルを見せる)

    nico_190714_05852.jpg【画像】トロスト区壁 ©Hajime Isayama

     登場人物達が、厚み10メートルの壁の向こうに広がる甕城部分を見ている。その向こうには、もう、山があって、地平線の先にはウォール・マリアがあるはずなんだけど、壁なんて完全に見えていません。
     これ、単行本でいうと、20巻のちょい手前くらいの絵だと思うんですけど。この頃になると、作者もようやっと描き慣れてきて、正しい縮尺で絵が描けるようになってるんですね。
     この、幅が2、3キロ、長さが5キロから、下手したら7キロくらいあるのが、この甕城部分だと思ってください。
     これ、ウォール・ローゼから見ているんですけど、「一番外側のウォール・マリアは地平線の遥か向こうにあって、全く見えない」というところに注意してください。

     さっきも話したように、物語の中で、シガンシナ区という、突出した一番外側の部分の甕城の外側の門が、破られます。
     これ超大型巨人のキック1発で、穴が開いちゃったんですけど。さらに、その穴から入ってきた鎧の巨人というやつが、ウォール・マリアという外側の壁そのものの入り口を破壊してしまいます。
     つまり、「2つのエアロックの内側扉と外側扉の両方を開けられた」ようなもんですね。
     エアロックの両側の扉が破壊されたら、中の空気が全部漏れる。それと同様に、外にいた巨人たちが、この穴からどんどん入って来て、結局、それまで人類が持っていた土地の3分の1を失うことになってしまいました。

     これ「領土の3分の1を失う」と言っているんですけど、農業面積で言うと、もう半分なんですよ。

    nico_190714_05947.jpg【画像】農業面積 ©Hajime Isayama

     最初に説明した通り、もともと、壁の真ん中の部分というのは、工業プラントがあったりですね、鉱物資源採掘場があったり、あと王様の都市があったり、いろんなものがあるから、あんまり農地としては使えないんです。
     つまり、外側の部分で農業というのをやっていた。そんな中で、ウォール・マリアが破られるということは、食料生産能力の半分を失ったのも同じわけですね。
     壁の内側の人口125万人というのは、この面積を使った農業で暮らしていたわけなんですよ。
     しかし、食料生産能力が半分になっちゃったので、「人減らし戦争」と後に言われることになる、25万人、総人口の20%を投入した戦いをすることになるんです。この辺が、1巻2巻の流れですね。
     まあ、ただ、その125万人のうち25万人を投入して、人減らしのための戦いをやったとして。例え、人口が100万人に減ったとしても、慢性的な食料不足は解決できないんですよ。
     食料を作れる土地が、いきなり半分になっちゃった時に、果たして人口のどれくらいを食わしていけるのか、と。

     まあ、これが、地理的な要因で見た『進撃の巨人』ですね。
     『進撃の巨人』というのは、いろんな見方が出来るんですけど、案外、こうやって「正確な縮尺で考えたらどんな話なのか?」と考えると面白いと思います。
     実は、壁に囲われている範囲はすごく広大だから、中で暮らす人に「壁に囲われている」という意識がなくても当たり前で。
     ところが、その外側の壁が破られただけで、一気に食料が半分になってしまうというのは、おそらく、本当に誰も予想してなかったことだと思うんですよね。
     なので、徐々に徐々に、壁の中が生きていくだけで地獄のようなことになっていく。
     そういうような部分が、この地理的なところで抑えたらわかると思います。

     ちょっとだけネタバレを話してみましたけども。
     ここから先の後半の有料部分では、どんな話をするのかを、予告します。

     ラストを面白く読むために押さえておいて欲しいと思うのが、やっぱり「第1話の伏線がすごい」ということなんですね。
    (パネルを見せる)

    nico_190714_10317.jpg【画像】1話 ©Hajime Isayama

     第1話の最初のこの見開き。
    (パネルを見せる)

    nico_190714_10323.jpg【画像】森の中での巨人 ©Hajime Isayama

     あとは、第1話で森の中で初めて立体機動の戦闘をやる時に、「奥から来ているこいつは誰なのか?」ということ。
    (パネルを見せる)

    nico_190714_10342.jpg【画像】エレン ©Hajime Isayama

     あとは、第1話のほとんど頭の方になるんですけど、「主人公がなぜ泣いているのか?」という、この辺の伏線の置き方がメチャクチャ上手いので、ちょっとこの第1話というのを見ておいてほしいと思います。

     あと、後半で話したいのが壁の中にいる巨人ですね。
    (パネルを見せる)

    nico_190714_10405.jpg【画像】壁の巨人 ©Hajime Isayama

     この巨人の顔のアップからわかること。
    (パネルを見せる)

    nico_190714_10414.jpg【画像】ヒストリア ©Hajime Isayama

     あとは、このヒストリアというお姉さんが妊娠しちゃうんだけど、これがどういうことなのか?
    (パネルを見せる)

    nico_190714_10426.jpg【画像】最後のページ

     あとは『情熱大陸』で、去年の11月に『進撃の巨人が』が特集された時に、「ラストシーンはもうすでに出来ている」ということで、公開された最後のページ。
     「お前は自由だ」っていうふうに子供を抱えた誰かが言っているんですけど、これは何なのかというのを、後半ではゆっくり語ってみようと思います。


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