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岡田斗司夫の毎日ブロマガ「こんな現場のアニメは落ちる一歩手前~アニメ地獄『なつぞら』編」
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岡田斗司夫の毎日ブロマガ「こんな現場のアニメは落ちる一歩手前~アニメ地獄『なつぞら』編」

2019-10-14 07:00

    岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2019/10/14

     今日は、2019/09/29配信の岡田斗司夫ゼミ「【番組終了記念】『なつぞら』総決算+マンガ版『攻殻機動隊』解説 第3弾」からハイライトをお届けします。


    『なつぞら』残念な2つのシーンと「70年代テレビ局の事情」

    nico_190929_00857.jpg
    【画像】スタジオから

     じゃあ、NHKの朝ドラ『なつぞら』の話を始めましょうか。
     ついに『なつぞら』も最終回を迎えました。今日はちょっと1話ずつというか、月曜から順番に最終週、月曜から土曜の各エピソードを、1つずつ語ってみようと思います。
     まず、9月23日の月曜日。舞台は昭和50年、1975年ということで、だいぶ現代に近づいて参りました。
     なつの娘の優っていう女の子の小学校の入学があったんですけど。この小学校入学祝いに、旦那であるイッキュウさんのお父さんお母さんから、百科事典が届きました。
     ……『なつぞら』の紹介で百科事典を取り上げるのは俺くらいだと思うんですけども(笑)。
    (パネルを見せる)

    nico_190929_00303.jpg
    【画像】百科事典 ©NHK

     この百科事典、ちょっと嘘なんですよ。何が嘘かと言うと、この時代、大学の教授をやっているような両親が孫に贈る百科事典は、日本には1種類しかないんですね。
     それが、平凡社の『世界大百科事典』というやつです。全35巻なんですよ。中身が32巻あって、その他に、索引だけで1冊あって、地図帳だけで1冊あって、あとは現代編みたいなのも付いてたと思うんですけど、それだけで1冊あるという、もう本当にバケモノみたいな百科事典が当時はあったんです。
     昭和40年代から50年代くらいまで「百科事典」と言えば、平凡社の35巻を指していました。で、これ、1巻だけでも結構デカいんですよ。
     この全35巻というのがあまりにも売れすぎたせいで、本棚まで付いてたんです。百科事典を1セット買うと本棚が付いてくる。なので、もし、皆さんの家に『世界大百科事典』があったら、それにピッタリの本棚もあったと思うんですよ。それは何かというと、百科事典に無料で付いてた本棚なんですけど。
     これ、1セットで10万円もしたんですよね。この10万円というのが高いのか安いのかっていうと、まあ、オールカラーだったから、かなり安かったと思うんですよね。平凡社はこれのおかげで大儲けしたそうなんですけど。
     うちにもセールスマンが来ましたし、あと、当時、大丸、そごう、高島屋なんかの大阪のデパートでは、どこにでも売っていました。そんな時代です。1970年代あるあるですね。
     だから、百科事典を出すなら、その全35巻のやつをちゃんと出してほしかったんですよね。
     僕は、1972年版、つまり、本来だったら『なつぞら』に出て来るべきバージョンを中学2年生の時に買ってもらったんですけど。
     第1巻の「あ」から読み始めて……1972年版なのに、69年の「アポロ計画」の記述がもうすでに古かったんですよ。というのも、実は百科事典って、5年くらい前に記事を書いているんですね。それで間違いがないか徹底的に調べるから、72年に売っているバージョンには、1967、8年くらいの知識しか入っていないんですよ。
     それでも、メチャクチャ面白かったですね。早く「う」の「宇宙」のところに行きたかったんですけど、まあツラい。百科事典を頭から読むのって、本当にシンドくて。僕は結局「さ」とか「た」まで行ってなかった気がするんですけど。
     ただ、百科事典を読むのの何が良いかって言うと。「この世の中には知らないことが無限にある」ということは、別にネットでもなんでもわかることなんですよ。ただ、百科事典のメリットというのは、ネットと違って「この世の中には知識は無限にあるんだけど、それらには限界があって、だいたいなら把握可能である」ということが、物理的にわかるところなんですね。
     「ここからここまで読めば、一応はわかったことになる」ということがわかるので、ネットを触った時の「うわっ、世の中には無限に知らないことがあって、キリないや!」という、あの絶望感がないのが百科事典のいいところだと思います。

    ・・・

     あと月曜日の『なつぞら』の最後の方で、泰樹じいちゃんが、アニメ『大草原の少女ソラ』を見て感動していました。
     感動していたのは、レイという第1話で拾った男の子との別れのシーンです。
     これは、その夜明けのシーンなんですけど。
    (パネルを見せる)

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    【画像】夜明けシーン ©NHK

     夜明けのシーンって描くの難しくて。これは天陽君のお兄さんが背景を描いているところなんですけど。この岩の上の縁のところに白い塗料を乗っけているのがわかりますか? これは、向こうから朝日が昇ってきて、その朝日のハイライト、照り返しだけを描いているんですよね。
     これは、なつがお父さんを描いているところなんですけど。ここではお父さんの顔に影を入れてるんですよ。
    (パネルを見せる)

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    【画像】影入れセル画 ©NHK

     実際のセルになったらこんな感じですね。
     このアニメは、キャラクターに影がないんですね。たぶん、動きを重視するために。まあ、絵としてはちょっと安っぽくなっちゃうんですけど。
     ただし、こういう太陽が昇る時とかは「顔に日が当たって、その反対側には影ができる」というコントラストをちゃんと描いているんですね。

     天陽君のお兄ちゃんが描いている背景も、太陽そのものを描こうとするのではなく、そのハイライトを描いています。
     アニメーションの表現というのは、太陽みたいな光るものを描く時、太陽そのものを描くのではなくて、その影響、例えば「岩の端っこにハイライトができる」とか、もしくは「顔に日差しが当たって、その反対側に濃いめの影ができる」というふうにして、夜明けに見せているわけですね。
     これは前回の、美味しそうな食べ物をどう表現するのかというのを「美味しそうな食べ物の作画を頑張る」のではなく、「そのにおいを嗅いだキャラクターの美味しそうな顔を見せる」ことで、見ている人の頭の中に「美味しそう!」と思わせるのと同じです。
     リアクションを描くことが、実はこのアニメーションの基本なんだということです。
     ただ、まあ、それはいいんですけど。残念なところもあって。
     ここでは「太陽が昇って来る」んですよ。でも、このアニメでは、太陽が昇ると、影が段々と伸びるんですよね。
    (パネルを見せる)

    nico_190929_00852.jpg
    【画像】伸びる影 ©NHK

     この「影が伸びる」って、変な話で。だって、伸びるはずがないんですよ。太陽がゆっくりと昇っていくということは。まあ、こういうふうに描きたいのもわかるんですけど。短い影というのは、太陽が高い位置にあるってことですよね? それが段々と伸びているということは、これ、日が沈んでいる時の描き方なんですよ。
     でも、なんとなく「太陽が昇って来たら影が伸びる」みたいな印象があるから、ついつい、こういうふうに描いてしまっている。たぶん、アニメを描いている人もわかって描いているんでしょうけど。こういうふうに描くと、日が沈んでいるように見えちゃう。
     まあ、ちょっと、そこが残念ですね。

    ・・・

     ところが、9月24日火曜日のシーンになるんですけども、そうやって頑張って作っていたところ、テレビ局のプロデューサーから電話が掛かってきます。
    (パネルを見せる)

    nico_190929_00945.jpg
    【画像】電話を取るマコさん ©NHK

     マコさんが電話を取るんですけど、向こうにいるイッキュウさんは気が付いていません。
     どんな電話をしているのかというと、局のプロデューサーが「一週間前の納品の約束なのに、どうなっているんだ!? お前ら、前日納品するつもりか!」と、ものすごく怒っています。
     マコさんは一生懸命謝りながら、「でも、みんな、今、プライドを持ってやっているんです! 彼らを支えているのは誇りだけなんです! 今、質を落とせと言ったら、みんな逃げてしまいます!」と言うんですが、「プロデューサーを脅すつもりか!?」と、ちょっと口喧嘩になってしまいます。

     なんでテレビ局のプロデューサーは、納品が遅れていることにこんなに怒っているのか?
     これ、もう、今ではかなり事情が違ってくるんですけど、当時1970年代くらいのテレビ局の事情というのがわからないと、ただ単に横暴なプロデューサーとか「納品スケジュールを守れ」と言ってるだけの無能なプロデューサーに見えちゃうんですね。
     そうじゃないんですよ。あのね、この当時のテレビ局って、まだコンピューターで制御するようになる前なんですよ。
     今のテレビ局って、全ての放送データを、一度VTRテープに落としているかどうかはわからないんですけど、デジタルデータにして局のコンピューターの中に溜め込んで、タイミング合わせて順次送り出しているから、生放送とかにもすごく強いし、CMの差し替えとかも対応できるんですけど。1970年代までのテレビ局ってそうじゃないんですよね。

    ・・・

     例えば、『大草原の少女ソラ』の放送は日曜日の夜なんですよ。
     日曜日の夜で1週間前納品ということは、前の週の月曜日か、もしくは前々週の土曜日の午後くらいまでに、完成したフィルムを納品しなきゃいけない。アニメーションですから。
     当時のアニメは普通、16ミリフィルムで撮影されているんですけど、『アルプスの少女ハイジ』って、クオリティを上げるために、劇場映画並みの35ミリで撮影してたんですね。『ソラ』も、たぶん、品質にこだわるイッキュウさんですから、35ミリで撮っているんじゃないかなと思います。
     そのフィルムが納品されたら、局はそれをそのまま現像所に持って行って、ビデオテープに「テレシネ」します。
     テレシネというのは、簡単に言っちゃえば「良い映写機にフィルムをかけて、それを反対側か同じ側からすごく良いビデオカメラで直撮りすることによって、ビデオ信号に変えること」。これをテレシネと言います。
     そして、テレシネすると同時に、16ミリフィルムに「デュープ」します。
     デュープというのは、局の中で見る時には扱いにくい35ミリのフィルムを、16ミリのフィルムに落とすことですね。35ミリフィルムを上映するためには、映画館の劇場並みの設備がいるので。
     なぜ16ミリに落とすのかというと、スポンサーと局と代理店の試写会を開かなきゃいけないからなんですよ。これは、テレビ局に納品される、ニュースや局制作以外の作品、全てそうなんですけど。だいたい「スポンサー試写」っていうのがあるんですね。ひょっとしたら、バラエティーでも、まだあるかもわからない。「今回放送予定のVTRです」というような試写をして「問題ないですね?」と、全員の同意を取らなきゃいけないわけですね。
     そうやって、16ミリにデュープしたフィルムで、局の中にある上映所で試写を行って「これで問題ないですね?」と、スポンサーと局と代理店の3つのOKが取れたら、テレシネした1インチ幅のVTRテープ、まあ、リールのビデオテープですね。「『大草原の少女ソラ』第39話」とかラベルされたものが、放送マスターに決定されるわけです。
     この放送マスターはどうするのかというと、次の段階で、3時間くらいのオンエア用のマスターを作ります。
     これ、何かと言うと、アニメは25分とか20分とか、それくらいしかないじゃないですか。その前とか後ろの番組までくっつけて、間にCMを入れて、夜6時から9時までの3時間分のテープを作るわけですね。これが放送用マスターです。
     このマスターというのは、だいたい生放送の報道番組とか歌番組とは別枠で、放送当日の3日か4日前に作るんですよ。
     つまり、日曜日に放送予定のアニメだったら、その前の週の火曜か水曜日にはオンエア用マスターの3時間くらいのビデオテープができてなければいけないんですね。
     だから、もし、このアニメが放送1週間前に納品されてないとなると、そろそろ担当のプロデューサーは、同じ長さの別番組を用意するハメになります。
     再放送でもいいですし、まあ、別のドキュメンタリーでも何でもいいから用意して、それを差し込んだマスターテープを作るわけですね。
     それと同時に、新聞のラテ欄……ラジオ・テレビの番組欄というのが当時の新聞にはあったので、そこの人たちに電話をして「次回の『大草原の少女ソラ』に(仮)を入れてくれ」って言うわけですね。
     番組名と放映されている内容が違ったら、後で新聞社に苦情の電話とかハガキが来るもんだから、「仮入れ」というのをやってもらうんです。
     こうやって、完成した3時間のマスターテープを、タイマー付き自動再生機というやつにガチャッとはめるわけです。これ、ガチャッとはめたら、局によっては鍵まで掛かるんですよね。
     それが予約した夕方の6時になったらガチャッと動き出して、再生が始まって、それが放送されるわけです。9時からの機械は別にあって、9時からのテープも、また3日くらい前からガチャッとはめているわけですよ。
     そうやって、生放送があるところまでタイマー付きの自動再生機がずーっと並んでて、順番にガチャッガチャッと動き出して、僕らが見るテレビ番組が出来ている。
     これが、1970年代の、電子化されていないが、タイマー付きで電気化されている放送局のシステムなんですね。1時間から3時間毎くらいに再生装置が自動的に切り替わって、オンエア用のマスターが次々とノーカットで流れるわけなんですけども。
     もし、『ソラ』というアニメが放送に間に合わず、そのまま代理の番組、再放送なりなんなりが流れちゃったら、担当プロデューサーは始末書を書かなきゃいけなくなります。
     しかし、マコさんに怒りの電話を掛けている担当プロデューサーが恐れているのは、それではないんですよ。
     「放送が間に合いませんでした。 → 穴が空きました。 → 代わりの番組、もしくは再放送です。 → 始末書を書きました」っていうのは、まあ、避けたいんですけど、あることはあることなんです。それはもう、仕方がないことなんですね。
     でも、彼が恐れているのは、もうちょっと最悪の事態なんですよ。
     それが何かと言うと、前日納品なんですよね。「落とすより怖い前日納品」というやつなんです。


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