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岡田斗司夫の毎日ブロマガ「映画『ジョーカー』の評価が真っ二つに分かれる理由とは?」
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岡田斗司夫の毎日ブロマガ「映画『ジョーカー』の評価が真っ二つに分かれる理由とは?」

2019-10-28 07:00

    岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2019/10/28

     今日は、2019/10/13配信の岡田斗司夫ゼミ「映画『ジョーカー』特集&試験に出るバットマンの歴史」からハイライトをお届けします。


     では、映画『ジョーカー』の話なんですけど。最初はネタバレなしで話します。
     すごく面白かったですよね。僕、5段階評価で言うと「4.1点」くらいなんですよ。

     まあ、ぶっちゃけ「タイツを履いたヒーローが出てこないから面白い」というところもあると思うんですけどね。
     なぜかと言うと、スーパーヒーローものって、やっぱり見る時に「ちょっとだけ知能指数を下げる」というか、そういう操作を自分に課さないと、なかなか難しいところがあると思うんですよ。
     この例が良いかどうかわからないんですけど、『魔法少女まどかマギカ』って、見る時に、ちょっと自分の知能指数を下げるじゃないですか。やっぱりこういう「女の子が世界を救う話」というのは、頭から真剣に見るのではなくて、一旦、階段を1段か2段下りるつもりで見て「おっ! すごいすごい!」って。こういう見方が正しいと思うんですけど。
     スーパーヒーローものというのも、マーベルにしてもDCにしても、やっぱり、知能指数を一旦下げないと、人間が空を飛んだりとか、目から怪光線を出したりとか、エネルギー保存則に反するような現象を起こしたりというところで、なんか納得できない部分があるんですけども。
     まあ、1段か2段下げた後なら、存分に物語世界に入り込むことが出来るんですけどね。まあ、ヒーロー映画というのは、多かれ少なかれ、この操作が必要だと僕は思っています。

     その点、この『ジョーカー』には、こういった操作の必要性がゼロなんですよ。「最後まで自然に見れる」というのが、ちょっと不思議なところですね。
     そして、そのおかげで没入感がすごいんですよね。
     なんと言うかな? スーパーヒーローものでもリアルなものってあるにはあるんですけど、やっぱりそれは「よく出来たCG」っぽく見えちゃうんですよ。その中にスーパーヒーローがいたり、不思議な現象が起こったり、あまりにも力が強いヤツとか、あまりにも能力高いヤツが出てくると、やっぱり嘘の世界っぽい要素が入って来ちゃうんです。
     だけど、『ジョーカー』には、そういう、よく出来たCG映像と、ちゃんとしたロケ映像という差があるんですよね。そのおかげで、とにかく映画世界のリアリティと、没入感がすごくなっているんです。

    ・・・

     しかし、これを見に行く前には注意が必要です。
     例えば、映画.comには、こういう紹介文が載っているんですよ。この紹介文くらいではネタバレにならないから、ここで紹介しますけど。
     これがね、困ったことに、微妙に嘘が書いてあるんですね。


    「バットマン」の悪役として広く知られるジョーカーの誕生秘話を、ホアキン・フェニックス主演&トッド・フィリップス監督で映画化。
    道化師のメイクを施し、恐るべき狂気で人々を恐怖に陥れる悪のカリスマが、いかにして誕生したのか。原作のDCコミックスにはない映画オリジナルのストーリーで描く。
    「どんな時でも笑顔で人々を楽しませなさい」という母の言葉を胸に、大都会で大道芸人として生きるアーサー。
    しかし、コメディアンとして世界に笑顔を届けようとしていたはずのひとりの男は、やがて狂気あふれる悪へと変貌していく。


     これが、映画『ジョーカー』の宣伝文句なんですけど。実際のストーリーは、これとは違うんですよね。
     どの辺が違うのかと言うと「悪のカリスマ」って書いてあるところなんですよ。
     これを期待して見に行く人がわりと多いんですけど、だいたいそういう人はガッカリして、コメント欄に「大したことなかった」とか「ガッカリした」と、書き込むことになるんです。

     ためしに、映画.comの評価欄を見てみてください。本当に、評価が極端に2つに分かれるんですよ。
     評価「4.5点」か「5点」の「ものすごく良かった!」と言う人と、評価「2点」とか、酷い人になると「1点」の「ダメだ」とか「ガッカリした」「つまんない」「寝ちゃった」と言う人に、完全に分かれるんです。
     こんなふうに「悪のカリスマ」という言い方とか、そういう内容に過剰な期待をした人というのは、やっぱりガッカリしちゃって、そこをあまり期待しなかった人は、逆にメチャクチャ衝撃を受ける映画になっています。

    ・・・

     でも、悪のカリスマを期待している人は、みんなこれを見に行っちゃうんですよね。
     これは『ダークナイト』というバットマン映画の中に出てきたジョーカーなんですけど。
    (パネルを見せる)

    nico_191013_00907.jpg
    【画像】『ダークナイト』版ジョーカー © 2008 Warner Bros. Entertainment Inc. © DC Comics.

     「映画史上最高の悪役!」とか「悪のカリスマ!」と言われたのは、このバージョンのジョーカーなんですね。
     これが好きな人が多いから、今回の映画も、かなりの人がこの路線で見に行っちゃうんですよ。このジョーカーの誕生秘話として、見に行っちゃうんです。
     だけど、それを期待すると、やっぱり映画.comのように評価が極端に分かれることになるんですよね。

     一応、どういうことになっているかを説明するために、映画.comに投稿されていた評価が低いレビューの中から、ネタバレにならないものを紹介してみます。


    星2つ
     映画鑑賞する前にジョーカーに対するイメージがあったため、自分の中のジョーカー像と作品の中でのジョーカーの精神の変化に隔たりがありました。
     あらゆる極悪な犯罪に手を染めることに何の抵抗もない、そんなジョーカーにそんなことでなっちゃうのって思ってしまいました。
     人ってそんな簡単に変わらないでしょって。
     私は個人的にジョーカーがあのジョーカーにどうやってなってしまったかを観たかったので、そこをつなげてしまうと時代背景とか気になってしまいますよね。


     こんなふうに、やっぱり「『ダークナイト』のジョーカーに繋がらない」ということで、気になっちゃうみたいです。

     星1つのレビューは、もっと酷いですね。


    星1つ
     どうしてもダークナイトと比較してしまうのが悪いのであろうか
     いや、贔屓目にみたとしてもただの低予算スピンオフ金集め映画としか感じない
     途中で席を立とうかと思ったのは久しぶりだった
     芸術性があるだろ? といいたいようなマッドでなく変な演出演技
     ここが見せ場ですよ? 感動してねというようなわざとらしいシーン
     薄すぎる内容なのに、that’s lifeを流してしまうとは
     いろいろな映画やドラマを見ている人は感じるかもしれないが
      その変な演出演技さえ全て借り物で、使い方に統一性や信念というものが感じられない
     はっきりいって軽薄で根性が悪い映画だ
     ぜひ見に行って、金をどぶになげいれてみてください


     これが星1個のレビューなんですよ。
     さらに、もっと低い、星0.5個という人がいるんですね。


    星0.5個
     アーサー・フレックとかいう人の物語ではあったけど、俺の見たいジョーカーじゃなかった。
     あんなわかりやすい不幸な背景がジョーカーの発端だとしたらがっかりだね。
     あの程度で狂ってたら世界は狂人だらけだぞ。
     同情すら寄せつけないのがジョーカーなんだよなあ。
     こんなのに賞あげるベネチア映画祭は品位を落としたね。
     予想を超えることが全く起きなくて、3回くらい寝た。


     と、ここまで怒るんですよね。

    ・・・

     なぜ、こんなに評価が低い人がいるのか?
     僕はこれを、こういうのが好きな人には申し訳ないんですけど、『羊たちの沈黙』現象って呼んでいるんです。

     『羊たちの沈黙』現象というのは「悪というものには、何か理由があるはずだ。ヒーローというのは平凡でつまらない。そんなヒーローには決して届かない深みのようなものが悪にはあるに違いない」と。
     『羊たちの沈黙』に出てきたレクター博士というのは、そういう考え方が好きな人にとっては、本当に、リアルな意味でのヒーローだったんですよ。
     誰よりも頭が良くて、教養深くて、オシャレで、芸術にも詳しい。そんな完全無欠の人間が悪人だったら、どんなにスカッとするだろう? そういうふうに考える人が『羊たちの沈黙』を好んで見る人には多かったんですね。
     でも、こういうふうに考えちゃうのは、だいたい、現実の世界ではあんまり悪いことをしない善い人が多いんですよ。こういう悪に憧れを持つ人というのはね、お坊ちゃんやお嬢ちゃんという善人が多いんです。
     これは、凶悪犯罪と言われる事件の裁判記録とか、そういうドキュメンタリーとかを見ればわかるんですけど。実際に起きた残酷な事件とか犯罪、大量殺人の記録では、そういった犯人の証言というのは、あまりにも単純で乱暴な場合がほとんどなんですね。
     まあ、テッド・バンディみたいな例外中の例外も、いるにはいるんですけど。現実のシリアルキラーのほとんどは、退屈で平凡な、単なる乱暴者のオッサンが多いんですよ。
     煽り運転をするヤツや、歩きスマホをしている女の人に体当たりする輩って、いるじゃないですか? ああいうオッサンも、捕まえて言い分を聞いてみたら、やっぱり単なるバカという場合が多い。
     つまり、どういうことかというと、実は「現実の悪というのは凡庸でつまらない」んですね。
     それに対して、正義というのは、まあ残酷で多様なんです。
     本当にいろんなロジックがある。ヒットラーもそうですし、スターリンもそうですし、イスラム国も発端はそうなんでしょう。
     そういう正義の理想を掲げて、多くの人にから「いいぞ! いいぞ!」と支持されて、結果的に悪魔のような所業をして大惨事を生み出すところに、正義というもののヘンテコさ、面白さというのがあって。その正義が別の正義に負けて、悪と認定されることで、ようやっと悪のカリスマっぽさが生まれるんです。
     ここからわかる通り、悪のカリスマというのは、もともと正義だった人達が、後から「お前達は正義じゃない!」と言われた結果、生まれる場合がほとんどなんですよね。
     この『ダークナイト』のジョーカーみたいなカッコいい悪のカリスマというのも、正義からスタートしていなければ、カリスマとして存在できないんですよ。「なんで、それがわからないかな?」と思って。
     『ダークナイト』のジョーカーって、映画の中で部下を裏切ったり使い捨てにするんですけど。そんなブラックな親分に従う子分がいるはずがないんですよ。
     つまり、あの『ダークナイト』のジョーカー自体が無理設定なんですね。ジョーカーという個人のキャラクターを立てるために、部下を次々と使い捨てるようなシーンがあるんですけど。あんなことをやってたら、本当に保たないんですよ。
     でも、やっぱり、あれを本気にしちゃう人が多い。で、そういう悪に憧れる人っていうのは、そういう現実的な話には、なかなか納得してくれない。なんか「すごい悪のカリスマがいて、忠実な手下がいて、もしくは、手下たちを洗脳したり、暴力や恐怖で操ったりして、その理屈には思わず正義の味方も黙るしかない」という、そういう展開を欲しがっちゃう。
     もう、みんな「ちょうだい、ちょうだい!」っていうふうに、悪に憧れてしまうんです。


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