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岡田斗司夫の毎日ブロマガ「『千と千尋の神隠し』解説:シータから湯婆婆まで、宮崎駿ヒロインとその成長」
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岡田斗司夫の毎日ブロマガ「『千と千尋の神隠し』解説:シータから湯婆婆まで、宮崎駿ヒロインとその成長」

2019-11-22 07:00

    岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2019/11/22

     今日は、2019/11/03配信の岡田斗司夫ゼミ「『千と千尋の神隠し』を読み解く13の謎[前編]」からハイライトをお届けします。


     ということで、いやあコメントを読む暇もない。もう35分でしょ? まだ次のコーナーも無料枠だから、今日は大変なんだよ。
     ちょっと水飲むね。えらいこっちゃ、大変だ。
     まだ無料放送は続くよ、大丈夫。いや、大丈夫でもないんだけどね、本当は30分でやめたいんだけど。
     では、「不思議な世界の謎」をやったので、次は「湯婆婆の謎」です。

     この無料枠で絶対に語りたかったのが、この湯婆婆の話なんですよ。世間で湯婆婆が誤解されているのが、もう、僕には残念過ぎて。
     お客さんというのは、基本的に「セリフで判断する」んですよ。セリフで「この人は良い人、悪い人」って考える。だから、「湯婆婆はエゲツなくて、残酷で。それに対して、電車に乗って会いに行く湯婆婆のお姉さんの銭婆は優しい」というふうに考えちゃうんですね。
     そりゃ、セリフだけ見てたら、まるで「湯婆婆はエゲツなくて、銭婆は良い人」みたいに見えるんですよ。千尋も「ありがとう、おばあちゃん!」とか言って抱きついたりするもんだから、てっきり良い人だと思っちゃうんですけど。
     「とんでもない! 銭婆の方が100倍怖いよ!」っていう話は、まあ、来週します。

    ・・・

     湯婆婆の正体なんですけど、魔女です。つまり、もともとは人間なんですね。
     顔がデカイし、鳥に変身するけども、まあまあ、それは魔法でありまして、油屋という銭湯で、たくさんの部下たち、カエルとかナメクジとか、女の人とかを働かせてます。

     この湯婆婆の経営する油屋、「実はホワイト企業だ」というふうに言われています。
     Twitterでも「どんな人にも働く意欲があれば仕事を与え、新人に対しても優劣をつけず、手柄があればしっかり褒め、理不尽な客には上司として自ら撃退する。経営者として素晴らしい才能のある魔女」と言われています(笑)。

     「理不尽な客には上司として自ら撃退する」というのが、これですね。
    (パネルを見せる)

    nico_191103_03630.jpg
    【画像】湯婆婆とドラゴンボール © 2001 Studio Ghibli・NDDTM

     コンテにも「ドラゴンボール」って書いてあるんですけど。湯婆婆が、カオナシにカメハメハを発射するシーンです。この辺が『千と千尋』の遊び心なんですけど。
     こういうギャグシーンって、湯婆婆の周りには、結構、多いんですよ。「湯婆婆は、こんなふうにカメハメハを放った後に、全然効かなくて、カオナシから泥をかけられて全身泥まみれになる」というギャグシーンなんですけど。
     でも、お客さんは、あんまり笑わないんですね。それは、もうね、ホラーとして作って「この人は怖い人」というふうに見えちゃってるから、面白くなりようがあんまりないんです。
     そこら辺を、高畑勲は「『カリオストロの城』の頃に比べて『千と千尋』にはいっぱい動きはあるんだけど、客は誰一人笑わなかった」と、すごい嫌味を言うんですけども。
     こんなふうに、結構、ギャグをやってるわけですね。「お客様とて許せぬ!」という名セリフを吐きながら。これ、なかなかいいセリフだと思うんですけども(笑)。

     その他にも「住み込み環境は完全整備。制服と着替えを支給して、食事あり。理由ある休みなら全然ありで、始業は札をひっくり返すだけ。タイムカードみたいに、始業何分前にやるべきというルールはない。就業中、一時抜けても怒られないし、従業員の機転による行動なら認める」という、まあ完全なホワイト企業として書かれています。

     面白いのは、分数の関係でカットされたんですけど、釜爺と千尋がエンガチョを切るシーンのセリフとして、本来は結構長いセリフがあったんですよ。
     これは、本編でカットされちゃった、コンテに残っているセリフです。
    (パネルを見せる)

    nico_191103_03813.jpg
    【画像】釜爺のセリフ © 2001 Studio Ghibli・NDDTM

    釜爺:この判子は恐ろしい。魔女の奴隷の判子だ。
    千尋:私、もう奴隷かと思ってた。みんな奴隷労働させられてると思ってた。
    釜爺:ふん! 俺達はれっきとした労働者だ! 自分で決めて、ここで働いているんだよ! 風呂屋にいるのも出ていくのも自由さ! 本当の名前は魔女に秘密にしているからな!


     つまり、自由契約なんですね、実は。このセリフ、カットされちゃったのが、残念なんですけど。
     実は、湯婆婆って「みんなを支配している」んではなくて「自由契約でみんなを囲っている」んですね。
     これが、湯婆婆の美徳。いわゆる「自分はこういうふうにあらねばならない」というプライドなんですけど。

    ・・・

     しかし、この湯婆婆にも欠点があるんですね。
     それは「他人を好きになり過ぎる」ことなんですよ。
     湯婆婆というのは、実に人情があり過ぎて、他人を好きになり過ぎるので「愛するものを手放せない」んですね。
     例えば、坊っていう、巨大な赤ちゃん。あれはわかりやすいんですよ。あれは溺愛しているってわかるんですけど。
     ハクにしても、千尋にしても、実はわりと気に入っているんですね。セリフではエゲツないことを言うんですけど、気に入っている。
     だから、千尋が最後の方で銭婆に会いに行ったことを知ると、すごい怒るんですね。「なにっ!? 千尋の両親、あのブタを食べさせろ! もう食べてしまえ!」と怒るです。
     基本的に、愛情が深すぎるから、一度気に入った人が自分の元を離れると、すごく許せなくなるんですね。

     と、同時に、ハクが怪我したら「もうそいつは役に立たない。捨てておしまい」と言う。
     これは「好きにはなるんだけど、それは役に立つからとか、自分にいいことをしたから気に入る」ということなんですね。
     つまり、「その人が役に立たなくなってしまったり、自分の元を去ってしまったら、極端に憎んだり、極端にいらないというふうになってしまう」んですよ。
     湯婆婆って、こんなふうに、すごく人間味が強すぎる人なんですよね。そんな、悪い顔なんですけど、憎めないという人なんです。

    ・・・

     油屋で働いているカエルとか女の人というのは、もともと何だったのか?
     これについては「元からカエルとかナメクジが、人間になった」という設定もあるし、「そうじゃなくて、全員人間で、湯婆婆のところで働けなくなったら、カエルとかナメクジになっちゃう」という設定もあって、矛盾してるんですよね。
     宮崎さんも、アニメーターに聞かれる度に違うことを言うので、実はこの設定って、公式には統一されてないんですよ。
     ただ、1つ言えるのは何かと言うと「湯婆婆は、カエルとかナメクジを使う」っていうことなんですね。
     カエルとかナメクジというのは、昔の日本では、分類学上、1つの呼び名でくくったんですよ。
     日本古来の博物学に本草学というのがあります。本草学では生き物を「人間」「獣」「鳥」「魚」って分けるんですけど、それ以外の全ての生き物を「虫」って言うんですね。
     だから、蛇も虫なんですよ。マムシっていう蛇がいるのはなぜかと言うと、昔は蛇も虫に分類されていたからですね。トカゲでも、蜘蛛でも、昆虫でも、人間、獣、鳥、魚以外の小さい動物というのは、全て虫というジャンルになっています。
     湯婆婆というのは「虫を愛でる人、虫を愛でる姫様」なんですね。つまり、ナウシカなんですよ、湯婆婆というのは。
     ナウシカでありながら、仲間たちを対等に扱い、契約を重んじるわけですね。つまり、湯婆婆というのは、エボシ様でもあるんです。
     『もののけ姫』のエボシ様が暴君化しちゃった存在なんですね。もともとはナウシカっぽかった人が、周りと戦ううちに、自分達でルールを決めて「それを守らなければいけない」と部下に強制し始める。
     これも、全員に公平にやっているうちは良かったんですよ。若い頃は良かったんだけど。でも、段々と年をとって、若い頃には自分の中で抑えていた情熱みたいなものが暴走しちゃって、暴君になってしまった。そういう暴君になってしまったエボシ御前というのが湯婆婆なんです。
     湯婆婆という人も、たぶん、もう少し若い頃は、もうちょっと判断もしっかりしていたし、人情家でもあったと思うんですけど。今は、自分が好きになっちゃった人とか、自分が好きになってしまった財宝というのに囚われて、以前の人間味というのが失われて、嫌われたり恐れられている。
     まあ、ドーラ婆さんの未来の姿であると同時に、これ、おそらく「宮崎駿から見た鈴木敏夫」なんですね。あるいは、宮崎駿自身かもわからないです。
     2人とも「気に入った人を徹底的に贔屓して、自分から離れて行った人にはすごく冷たくあしらう」ということで有名なんですけど。

     「『千と千尋』を読み解く14の謎、湯婆婆の謎」なんですけど。
     宮崎駿のヒロインというのは、幼い頃はシータみたいな、すごい良い子として書くんですね。
     それが、ナウシカみたいになってきて、自分の中の情熱を持つようになり、後にはエボシのように人の上に立つ立派なリーダーになるんですけど。
     その後は、ドーラという自分の欲が出て来る存在になって。最後は湯婆婆という、自分の中の欲望と他人に対する愛情が、もうわからなくなって暴走していく姿になる。
     これが、宮崎駿のヒロイン像なんですね。1つのサイクルなんですよ。
     僕らは、ついつい、映画を見ている時は、幼い段階で固定化されて「シータはいつまでもシータのまま」とか「クラリスはいつまでもクラリスのまま」とか思っているんですけど。
     宮崎駿は「自分の中でのキャラクターというのはいつもちゃんと成長している」と言ってるんですね。歳を取っている。だから、「『となりのトトロ』のサツキとメイも、もう僕の中では、30過ぎたオバサンになってて」という話をよく語っているんですけど。
     こういうふうに、ちゃんとキャラクターが進化して行くというのが面白いところだと思います。

     湯婆婆というのは、正義感が強く、面倒見が良くて、約束は守る。
     でも、その代わり、周りの人をつい好きになりすぎて信じられなくなり、1人になるのを怖がると、どんどん暴君化していく。
     これが、宮崎駿のヒロインの進化論だと思います。


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