岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2019/12/18

 今日は、2019/12/01配信の岡田斗司夫ゼミ「明治娯楽物語」からハイライトをお届けします。


 『バンカラの時代』という本があって。これ、日本画の話なんですけども。
(本を見せる 佐藤志乃『バンカラの時代ー大観、未醒らと日本画成立の背景』人文書院、2018年)

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【画像】『バンカラの時代』表紙

 「ハイカラ(高襟)VSバンカラ(蛮襟)仁義なき戦い!」と本の帯に書いてあります。
 日本画の世界には、岡倉天心の言葉として「芸術は気魄の発露である」というのがあるんですよね。実は、明治時代の画家というのは、思想家でなければならなかったし、あとは国士、国を憂えて絵を描くのが仕事だったんですよ。その上、徒労を組んで、かなり無茶な旅とかをしてたんです。
 この本は「明治という時代は、西洋文化に心酔するハイカラと、自らのナショナリティを重視するバンカラの軋轢であった!」として、そんな時代を紹介した本なんですけど。
 では、具体的にどんな内容かと言うと。Amazonのカスタマーレビューに、簡単にまとめられていたので、読んでみます。


アジア諸国は次々と西洋に侵略され植民地となり、独立を保持する為には日本は西洋に対して戦いを挑まなければならなかった。
その戦いは、単に物質文明の領域に於ける戦いだけではなく、文化、芸術、伝統等、精神文明の領域に於ても、西洋に対し日本文明の独自性対等性を示す必要があった。
よってこの時代の画家たちの、覚悟や気概は破格で、以後の個人趣味的な絵の時代の画家とは全く違っていて、ほぼ烈士、国士の様を呈している。


 要するに「みんな『竜馬がゆく』の坂本龍馬みたいな気持ちで絵を描いてた」というんですね。
 絵を描く目的は「国家のため」という、ものすごい時代なので、今の常識では判断できないんですよ。
 この本によりますと、ハイカラとバンカラの対立というのも、さっき僕が言った「ハイカラのオシャレなヤツが気に食わない! だから、バンカラだ!」というのは、まあ後になって出てきた定義で、最初の頃は「日本を開国する時の岩倉具視と西郷隆盛の対立から始まる」と書いてあるんですよ。
 開国論者で「西洋に早く追いつこう!」と言う岩倉具視派がハイカラ派で、西郷隆盛がバンカラ派だ、と。言われてみれば、確かにそうなんですよ。
 これが尾を引いて、後に鹿鳴館事件が起こります。
 鹿鳴館というのは、まあ、中学の歴史で習う通り、明治時代に、西洋のモノマネ丸出しの、宮殿みたいな、お城みたいなダンスホールを作って、そこに毎晩毎晩、男も女も似合わないドレス姿で現れては、必死にダンスを踊った。
 これに対して悪口を言っているのは何も現代の僕らだけじゃなく、明治時代の頃から、新聞から講談師までがみんな悪口を言ってたんですよ。「何だよ、あんなみっともない、全然似合わない服を着やがって!」って。これがハイカラをバカにする元にもなったんですけど。
 しかし、これは実は、不平等条約改正のためであったんですね。
 明治政府から不平等条約の改正を求められたイギリスの代表は「いや、不平等と言っても、そもそもあなた達の国は野蛮であって、文明国でないでしょ?」と切り返したんですね。
 「なぜかと言うと、我々文明国は、大臣とか偉い人の奥さんやお嬢さんが、ちゃんと公式の場に出て来ます。それは、我が国が安全だからです。でも、あなた達の国の奥様やお嬢様は、全く公式の場に出てこないじゃないですか。つまり、これは安全でないということです。我が国の国民が、そんなあなたの国に往来した時に、あなたの国の警察や司法、裁判所に任せられるはずがない。だって、危ないでしょう?」というふうに言われたわけですね。
 なので、「日本は危なくありません。我が国の奥様やお嬢様達もちゃんとこういう所に来て踊っております」というのを見せないと、イギリスが不平等条約を改正してくれなかったという理由があったんです。「イギリスが一番頑なで苦しかった」と、後に当時の外務省の人が語っているんですけど、こういう状況だったんですね。
 しかし、そんな事情は、戦後の教育でわかってきたのであって、戦前の日本人、国民は、全くそんな都合を知らずに、一斉に「鹿鳴館はけしからん! ハイカラはけしからん! 西洋かぶれはけしからん!」ということで、みんな本当にプンスカ怒ってたわけですね。
 これが、アンチハイカラブームであり、そんなバンカラブームが、明治の中頃、だいたい明治の30年代くらいから起こりました。

・・・

 戦前のバンカラってね、資料があんまり残ってないんですよね。バンカラの人達は写真とかを撮られるの嫌いだったのかもわからないんですけど。
 そんな数少ない戦前のバンカラの写真というのが、この辺の写真なんですけど。
(パネルを見せる)

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【画像】戦前のバンカラ

 服がボロボロなのはなぜかと言うと、生地や仕立てが安いので、とにかくすぐに服がボロボロになったんですよ。「しかし、それでも構わない」と。「思想を貫くためには、見た目は気にしないのだ!」というのが戦前のバンカラです。
 一方、僕らがよく見るバンカラが、これ。
(パネルを見せる)

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【画像】戦後のバンカラ

 これは、戦後の拓殖大学のバンカラの皆さんなんですけど。これが、僕らがよく知っているバンカラというやつですね。これが戦後のバンカラなんですよ。
 戦前のバンカラと戦後のバンカラというのは何が違うのかと言うと、さっきも言ったように、戦前のバンカラは「本当に布が安っぽくてすぐにボロボロになった」んですけど、戦後のバンカラというのは、服の仕立てがいいんですよ。なので「みんな帽子や服を自分で破って、靴の方が安いのに、わざわざ高い下駄を履いて、バンカラを気取っている」わけですね。
 つまり、戦後のバンカラっていうのは、すでにファッションの再生産になってたんですね。
 それが、昭和40年代になると、『男一匹ガキ大将』とか『昭和バンカラ派』というマンガになってくる。
 と言っても、まだこの時代は大真面目で、このボロボロの服というのを本気で「カッコいい」と思って描いているんです。
 マンガの中でバンカラたちは「あんた、古臭いわね」と言われるんですけど。この「古臭いわね」というのは「拓殖大学のバンカラの写真のような、戦後すぐの時代というのを思い出させる古臭いものだ」とやっているわけです。
 しかし、それがこの『男塾』になってくると、もうすでに笑われる対象になってくるわけですね。「時代錯誤だ」「変だ」ということで、笑われるようになってくるんです。
 そして、現代では、そろそろ『男塾』すらも通用しなくなって来て、バンカラという概念は消えて行ってしまっている。バンカラという言葉自体が通用しなくなっているわけです。
 おかげで「バンカラみたいなものを、バンカラと知らずに笑う」ということは出来るんですけど、「バンカラなヤツをカッコいい存在として出す」というのは、もう無理になってきちゃってるんですよね。
 バンカラを主人公にしたアニメとかマンガは、パロディしか話題にならない、と。
 それと同じく、おそらく、50年後か100年後くらいになってくると、こういう事態になっていると思いますよ。
 今から50年後か100年後になってくると、例えば「ゲームばっかりやっている平凡な中学生とか高校生が、いきなり事故で死んだと思ったら、異世界に転生してて、そこには美少女の魔法戦士が~」みたいなアニメってあるじゃないですか。
 ところが、これって「バンカラ VS ハイカラの対立で、あの服が生まれた」というのと同じように、いまの僕らの身近にあるラノベとかマンガとか、いろんな状況のお約束の上に成立しているんですね。
 50年後の人たちが、そういうお約束を知らずに、いきなり異世界転生モノを読んだら、「これは、何かの宗教的な儀式を表しているのではないか?」とか「当時の日本人は、来世では中世ヨーロッパに生まれ変わり幸せになれるという宗教が流行ってたんだな」というような想像しか、おそらく出来ないと思うんですよね。
 もっと時代が下った千年後くらいの人類とか、あとは人類の遺跡を研究している宇宙人から見たら、僕らの今のラノベ的な世界というのは、完全に狂ってるわけですよね。なので「宗教的な目的で作られた物語」としか解釈されないんですよ。
 例えば「亡き父が作ったロボット」というモチーフが、遺跡のあちこちから見つかるわけですね。これもお父さんが作ったロボット。あれもお父さんが作ったロボット。これはおじいちゃんが作ったロボットって。
 「なんか、20世紀の後半から21世紀の頭くらいに、やたらとお父さんやおじいちゃんがロボットを作るという物語が流行っているんだけど。たぶん、この国に平和をもたらそうとして、鎌倉時代に大仏を作ったように、昭和・平成・令和と呼ばれる時代には、巨大ロボットを作ることが国家安定のためだったんだな」という解釈がされるはずです。
 あとは、少女マンガでよくある……今の少女マンガにあるかどうかは知らないんですけど。「遅刻、遅刻」と言ってパンをくわえて走ってたら、曲がり角でドンと男とぶつかって、「何よ!」って言いながら学校にいったら、その男が転校生として現れて「あっ、嫌なヤツ!」というやつ。
 あれも、おそらく「これは稲作豊作を願うための儀式みたいなものに違いない」と(笑)。
 だって、わからないですもん。僕らは膨大なお約束の果てにそれを受けとっているので、お約束を知らない未来人や宇宙人には、そんなことがわかるはずない。「どうなってるんだ?」となるんだと思います。
 まとめますと、バンカラというのは、もともと明治30年くらいの言葉で、その時代には、こういう服を着ていたんですけど。まあ、この服も「戦前」と言っても昭和になってからなんですけどね。
 その後、戦後の拓殖大のこの服を見たらわかる通り、ファッション化しているわけですよ。
 さらには、それがパロディになって『男塾』の世界になって、現在は消滅して行っている。
 おそらく、未来は宗教として解釈されるだろう。
 そんなものが、バンカラなわけです。

・・・

 さて、バンカラがわかったところで『「舞姫」の主人公が~』の話にやっと戻るんですけども。
 いやいや、バンカラを説明するのに15分くらい掛かってるんですよ。
 皆さんの中には「そんなこと言われなくてもわかってる」と思う人もいるかもわからないんですけど。
 このところ、YouTubeのデータを見ていくと、20代の人が僕の動画をやたらと見ているんですよね。
 「なんで俺の番組なんかを、20代の人が見てるんだ?」と思ったら、この間、ヒントをもらって。どうも『名探偵コナン』が原因らしいんですよ。
 『名探偵コナン』で、作者の青山さんが、もうやることがなくて飽きてしまって、「もう『ガンダム』をやろう」と『コナン』の中で『ガンダム』をやろうとしてるそうなんですね。
 最初は赤井というキャラを出して、その次には安室っていうキャラを出して。段々、部下とか妹の名前とかが変になって来て、『ガンダム』をやってると。
 で、『コナン』好きの女性の方々が「『ガンダム』を見なければいけない!」と。これを彼女たちは「『ガンダム』を履修する」と言うらしいんですけど。
 「『ガンダム』を履修するために何を見ればいいのか?」ということで、なぜか僕のガンダム講座を見ているそうで。
 それで、こないだから、20代30代女性の比率がドッと増えたんです。男女比で、女の人の割合がいきなり10%も上がったのはなぜかと思ってたんですけど。「そうか。『ガンダム』の履修目的で見ているんだ」と。
 なので、一応、そういう人らにもわかるようにバンカラを説明するには、このレベルからまず話し始めなればいけないんですよ。


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