岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2019/12/23

 今日は、2019/12/08配信の岡田斗司夫ゼミ「宮崎駿の最高傑作『On Your Mark』解説[前編]」からハイライトをお届けします。


 じゃあ、今日は……まあ、今日1日では済まないんでしょうけど。『On Your Mark』の話をします。
 『On Your Mark』というのは、この『ジブリがいっぱい』というショートショートに入っている6分40秒の作品です。
(DVDを見せる 『ジブリがいっぱいSPECIALショートショート 1992-2016』)

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【画像】『ジブリがいっぱいSPECIALショートショート』DVD

 この作品の絵コンテは、『耳をすませば 絵コンテ集』の中に入っているんですよ。
(本を見せる 宮崎駿『スタジオジブリ絵コンテ全集10 耳をすませば On Your Mark』スタジオジブリ、2001年)

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【画像】『耳をすませば 絵コンテ集』

 これ、表紙には載ってないんですね。背表紙を見ると、やっとここに小さく『On Your Mark』って載っているので、わかりにくいんですけど。まあ、「資料としては、ほぼこれしかない」と思ってください。

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【画像】『アニメージュ』

 いや、他にもあるはあるんですよ。ここら辺の本に少しずつ書いてあるんですけど。それでも、一番デカい資料が、この『アニメージュ』(徳間書店)の1995年の8月号という。もう、これを見るくらいしかないんですね。
 本当に資料がない作品なんです。大変でしょ?
 もともとは、チャゲ&アスカからの持ち込み企画だったそうで、コンサート用の映像兼、ミュージックビデオやプロモーションビデオとして作られたそうです。
 本来だったら、宮崎駿はそんな音楽、それもJ-POPのPVを作るような男じゃないんですよ。では、なぜ、こんなのを受けたのかと言うと。この『天才の思考』という文藝春秋の本の中で、鈴木敏夫さんがこう書いています。(鈴木敏夫『天才の思考 高畑勲と宮崎駿』文藝春秋、2019年)

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【画像】『天才の思考 高畑勲と宮崎駿』表紙

(もののけ姫の)企画が決まり、宮さんは以前に書いたプロットを基にストーリーを作り始めました。ところが、なかなか筆が進まない。最初に話を考えたのがもうずいぶん前だったから、そのときの気分が自分の中に残ってなかったんですね。結果、「この話は今の時代には通用しないと思う」と言って、スランプに陥っちゃうんです。その期間が半年ぐらい続いたでしょうか。
そんな矢先、歌手のCHAGE&ASKAの関係者から、「新曲『OnYourMark』のプロモーションフィルムを作ってくれませんか?」という話が入ってきました。僕はCHAGE&ASKAのことを知らなかったんですけど、ともかくそれに飛びついた。これはスランプの宮さんにとって、いい気分転換になる──そう直感が働いたからです。


 鈴木さんはこんなふうに書いてますけども。
 なぜ引き受けたのか? それはね「この『On Your Mark』の公開が1995年の7月だった」というのがヒントだと思います。

 1995年というのは、その3年前の1992年に『紅の豚』が公開されて、前年の1994年には『アニメージュ』誌上で、ついに『ナウシカ』の連載が終わったと同時に『平成狸合戦ぽんぽこ』が公開された。
 これ、どういうことかと言うと、ジブリの経営危機なわけですよ。
 『紅の豚』は、そんなに興行収益があったわけじゃないし、『ナウシカ』という最大のコンテンツも連載が終了してしまった。『ぽんぽこ』は、まあまあ一応ヒットしたとはいえ、制作費が回収できるような金額ではない。
 当時は、ジブリがまだまだマニア向けだった時代なんですね。今の国民的アニメとしてのジブリではなく、まだまだアニメ好きの人が見ているだけの作品だったんです。
 なので、鈴木さんとしても「このままでは危ない! ジブリは倒産する!」と思ったんでしょう。だから、今となってはすごく意外なんですけど、当時の鈴木さんにとって、チャゲアスの知名度は喉から手が出る程欲しかった。
 「それくらいメジャーなものを手がけなければ、自分達のスタジオは潰れてしまう」と思っていた時代なんです。

・・・

 鈴木さんはこの本の中で、さらに「その7分ほどの映像を作る中で、行き詰まった『もののけ姫』の構想を別の角度から見直すことができたんでしょう」と書いています。
 どういうことかと言うと、もともと宮崎さんが考えていた『もののけ姫』というのは、1980年にですね描いていた、この絵本が元なんですね。
(本を見せる 宮崎駿『もののけ姫』スタジオジブリ、1993年)

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【画像】『もののけ姫』表紙

 つまり、この絵本を元にした「かわいい女の子がお化けに連れ去られる」という話だったんですよ。それをベースにコンテを描いていたんですけども。
 『On Your Mark』を作ることによって、宮崎さんは「ああ、もうこれ、全部、話を変えなきゃダメだ!」と言い出した、と。
 そこから、アシタカという少年を主人公にしたストーリーが出来上がっていった。
 つまり、「もののけを主人公にして、もののけに好かれたお姫様だからもののけ姫」というのではなくて、「アシタカという男の子が神様に呪われて、そんな中で自立する話」という物語を描こうと思ったわけですね。
 当初は気分転換のためにこれを作り始めた宮崎駿は、結局、宮崎駿のアニメの中で最も過激な、ものすごい6分40秒の作品を作ってしまいました。

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【画像】『出発点』表紙

 『出発点』(宮崎駿『出発点〔1979〜1996〕』スタジオジブリ、1996年)という、宮崎さんのすごく長いインタビュー集があるんですけど。このインタビュー集の中でも宮崎駿は、この『On Your Mark』に関してこう言っています。
 「チャゲ&アスカの歌詞をわざと曲解して作った」と。つまり、わざと誤解して、それも悪意を持って誤解することを曲解というんですけど。悪意に満ちた映画として作ったんだ、と言ってるんです。

・・・

 なので、今日は、この不思議な6分40秒のフィルムを、6つのレベルで解説しようと思います。6つのレベル。レベル1からレベル6まであるんですけど。
 今、コメントで「裏読み」って書かれたんですけど、裏読みじゃないんですよ。これね、裏読みするどころじゃないんですよ。もう本当に、レイヤー構造になっていて、そのレイヤー構造が1段階から6段階まで、うっすらと段々と向こうに見えるようになっているんですね。

 今回の無料放送でやるのは、レベル1とレベル2です。
 レベル1は「見ていない人にもわかりやすいストーリー説明」なんですけど。普通の人は見逃すレベルまで、一応解説しようと思います。
 レベル2は、「スポンサーやチャゲ&アスカ、レコード会社にバレないように、宮崎駿が忍ばせた悪意」。その悪意というのが3つあるんですけども、この3つを解説します。
 レベル3は、「かなりのアニメファンとか大人でも、なかなかわかりにくいように隠したテーマ」ですね。
 レベル4は、「押井守とか、高畑勲への挑戦状」って僕は呼んでいるんですけども。具体的に言うと『おもひでぽろぽろ』とか『ビューティフル・ドリーマー』、あとは『天使のたまご』への批判というのが入っている。
 レベル5は、「宮崎駿が自分だけにしかわからないように仕込んだ、自分自身へのメッセージ」ですね。「こういうのを、これからお前は作れ!」という。
 レベル6は、以後の宮崎駿作品に実はかなり影響を与えているので、その影響について語ろうと思います。

 ということで、これ、今日中には絶対に最後までいかないと思いますので、来週12月11日の水曜夜7時から、追加の講義をやろうと思います。


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