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古今東西の歴史を紐解いてみると、歴史上、まったく無名の人物はともかく、「有名でありながらも謎」な人物が、思いのほか多く存在していることに気づかされる。そんな人物について不定期にご紹介するこのコーナー、記念すべき第1回目となる今回は、ヨーロッパの社交界で活躍し、数多の史料にその名を連ねていながらも、その一方で「不老不死伝説」まで囁かれるという謎の人物・サンジェルマン伯爵(1707-1784)だ。
このサンジェルマン伯爵、もともとはスペイン王室の流れを汲む貴族の生まれだというが、その前半生はハッキリとせず、その正体が少しずつわかるようになるのは、彼が欧州の社交界で注目されはじめた1750年代後半、つまり、彼自身が「アラフォー」を過ぎてからのことだった。歴史の表舞台に登場した時点で既に彼は、なぜか古今東西の学問を究め、多言語を自在に操る知識人として位置づけられており、そればかりか、科学者、音楽家、画家でもあるという、なんとも多才すぎる人物として華々しい活躍を見せ、当時の社交界に衝撃を与えている。
しかしそんなサンジェルマンは、同時に、その"謎めいた人物像"からなのか、「不老不死説」が囁かれるなど、どこかオカルト要素を感じさせる人物で、自ら考案したという不老不死の薬を使うことで、2000~4000年も生きていたのではないか?という、にわかに信じがたい逸話が多数残されているのだ。こうした点からも、当時からサンジェルマンは、まさに「人智を超えた存在」として位置づけられていたことが窺い知れるというものである。
だが、実はこのサンジェルマンと、その「設定」が、極めて酷似している人物がいる。ほぼ同時期に欧州の社交界で暗躍し、後に詐欺師呼ばわりされることとなってしまった自称「カリオストロ伯爵」ことジュゼッペ・バルサモ(1743-1795)だ。
実は彼の場合も、表向きは当代きっての博学さが「ウリ」の人物であったが、その出自は不明な点が多く、一説にはシチリアの貧しき家に生まれて放浪の人生を送ったとか、下級貴族の出でありながらも非行が元で勘当されて諸国を漫遊しただとか、その史料によって描かれている内容は様々だが、ある通説によると彼の場合は、放浪生活の末に知り合ったマルタ騎士団のグランドマスターに巧く取り入ることで、彼から紹介状をもらい、それを持ってパリへと渡ると、その紹介状を元に社交界へと出入りするようになり、持ち前の口八丁手八丁の外交術で、瞬く間にその地位を確立。錬金術をベースとした知識で「不老不死の薬」をつくると吹聴して、貴族たちから金を騙し取ったり、オランダのハーグに無許可でフリーメイソンのロッジを建設してしまったりと、元手はなにもないのに、そこから短期間で強大な富と権力を手に入れるに至ったという、ある意味、詐欺師としては大成功を収めた人物である。
そうは言っても、結局、最後には宗教裁判によって死刑となってしまうのだが、その半生として語られる内容や、「ある」とされた能力については、なぜか前出のサンジェルマンと重複する部分が多い。そのため、見ようによっては、バルサモが演じていた「もう一人の知識人キャラ」が、サンジェルマン伯爵なのではないか?という疑惑も浮上してくるのである。
実際に、この二人が本当に同一人物であるかどうかは別にして、少なくとも、奇妙なほどに多くの共通項を持つことだけは紛れもない事実。なお、サンジェルマンは、欧州に昔から存在する都市伝説「彷徨えるユダヤ人」と同様に、様々な時代に現れては、数々の逸話を残しているが、もしかすると、こうした後世の都市伝説を含めて、"バルサモ劇場"とも言える、天才的な詐欺師・バルサモの"作品"であったのかもしれない。
文・興津荘三
RSSブログ情報:http://news.aol.jp/2016/07/12/monster/