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ハリウッド俳優・尾崎英二郎が語る海ドラ『ハウス・オブ・カード野望の階段』の魅力 最終回「【現実】がこのドラマの競争相手」
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ハリウッド俳優・尾崎英二郎が語る海ドラ『ハウス・オブ・カード野望の階段』の魅力 最終回「【現実】がこのドラマの競争相手」

2016-08-08 18:30

    オバマ米国大統領や安倍首相をはじめ、各国のトップ、各界のトップもファンを公言する、かつてない社会派ドラマ『ハウス・オブ・カード野望の階段』。現実の世界でも、大統領選を間近に控えており、共和党候補のドナルド・トランプと民主党候補のヒラリー・クリントンの戦いを世界中が見守っているが、そんな現実世界同様に、本ドラマの物語もついに大統領選に突入!
    AOLでは、『ハウス・オブ・カード野望の階段』のフランク&クレアを大プッシュしていくと共に、本ドラマをリアルな視点で紐解くべく、『ラストサムライ』『硫黄島からの手紙』などに出演するハリウッドを拠点に活躍する日本人俳優・尾崎英二郎さんによる連載企画、『ハウス・オブ・カード』の魅力を計3回にわたって紹介。愛されない政治家・フランクについて紹介した第1回に続いて、通常のテレビドラマとの違いについて紹介した第2回、そしてラストを飾るのは、このドラマの競争相手についてだ!




    ■このドラマの競争相手は「現実(リアリティー)」だ!


    アメリカを率いるリーダーを決める選挙は、いわゆる"密室政治"ではない。予備選挙で党の代表を決め、本選に至るまで、候補者たちの政策と信念は公開ディベートの場で討論される。言葉を入念に吟味し、カメラ映りの良い佇まいを研究し尽くし、政敵とぶつかり合う。劇場型ともいえる政治の戦いのシステムそのものがエンターテインメントにもなる。

    今年オバマ大統領が広島を訪問した際の公式のスピーチを覚えているだろうか。哀悼の意と、平和への祈念を織り交ぜ、各方面に配慮しながら丁寧に語られたメッセージは多くの人々の心を掴んだ。言葉によるコミュニケーションは、政治家たちの生命線である。熾烈な選挙戦中の討論・講演・取材を通じ、専属のスピーチライターが練りに練って紡いだ言葉は伝播し、支持者を熱狂させ、感動させる。もちろんドラマの中でもそういうスピーチを入念に綴る戦略的シーンはしっかりと描かれている。

    アメリカの市民は、一般的に政治に寄せる関心度が高い。すべての討論やスピーチを映し出す番組に、人々は注目する。大統領選挙の年は特にそうである。

    米国の街を車で走っていると、選挙で自分が支持する候補者の名前の入ったステッカーを貼っている車を度々目にする。支持候補の名前のバナー(応援ポスター)を庭に立てかけてある家もあったりする。それだけ、政治と市民の間柄が切実で密接なのだということが肌でわかる。国民の利益にそぐわないような政策や行動はすぐにやり玉に上げられる。暴言や失言、失政も、直ちに人気コメディやトークショー番組で笑い者にされる。こういう部分は実に羨ましい。


    そしてさらに見習いたいのは、『ハウス・オブ・カード 野望の階段』のような皮肉や風刺に満ちた、しかし骨太で見応えのある政治ドラマが、全4シーズン(5シーズン目も製作中)も質を落とすことなく継続していることだ。

    数年前、このドラマが初めて業界の話題になった頃は、主人公が大統領の座につく時がピークで物語は終わるのだと思っていた。そういう"ミニシリーズ"の企画なのだろうと。ところが面白さは増し、人気はさらに上昇した。

    スタート当初の政敵はフランクと同じ民主党内にいただけだが、大統領ともなれば共和党の議員とも対峙し、国外の要人や支配者や政治システムとも争わなければならない立場になる。特に米国は、世界の番人的リーダーを自負していることから、中東の和平工作、ロシアや中国と牽制し合う外交、イスラム系組織のテロの脅威など、現実の世界情勢で起こるあらゆる問題がドラマ内でも当然起こる。さらには、全米ライフル協会の圧力で行き詰まる銃規制の問題、現職大統領フランクの覆い隠された「闇」を暴こうとするジャーナリズムの執念など、よくもこれだけの懸案をさばききれるものだと思う。俳優にも、脚本家にも、各エピソードの監督たちの力量と器には脱帽するばかりだ。

    しかもシーズン3&4では、現実の米国大統領選挙戦とほぼリアルタイムの進行で、架空のドラマではあるにしてもホワイトハウスの舞台裏の攻防を目撃でき、スリルを疑似体験できる。こんなに興味深い政治テキストがあるだろうか?僕はこのドラマを観たことで、自分が今住んでいる社会の政治により好奇心を抱き始めた。と同時に、そこから影響を受ける日本の政治の仕組みにも思いを馳せるようになった。

    混沌とした今年の現実のアメリカ大統領本選。支持率ではクリントンが一歩リードしているが、トランプの嵐のような勢いは侮れず、今の段階ではまだ行方は読めない。ひょっとしたら、思いもよらないようなことが、『ハウス・オブ・カード 野望の階段』の中で、そして現実の選挙で、起こるかもしれない。


    主演のケヴィン・スペイシーは語る。「驚くのは、ストーリーを決めて、脚本が書かれて、撮影されて、まもなく配信されるっていう時に、まさに脚本に描かれていた内容に近い出来事が、毎シーズン後に起きていることなんだ!新聞のヘッドラインや記事を追いかけて作っているんだろう、と思われているが、その逆さ。我々がドラマで描いたことを、"現実"のほうが真似ているんじゃないかな...」

    シーズン1から4までをずっと牽引し続けたこのシリーズの立役者でありトップクリエーターであるボー・ウィリモンは、報道のインタビューで応えている。「もし数週間、数ヶ月前に考慮していたら、バカげてる!そんなことが起きるわけない!と思えたことでも、現実の人生では起こるんだ」と。「"現実"が、一番の競争相手なんですね?」とインタビュアーが問うと、ウィリモンは笑顔で即答した「その通りさ!!」。

    今、最も米国社会とハリウッドの業界で注目される本シリーズは、撮影も、照明も、セット美術も、衣装も、編集も、音楽も、非の打ち所がないほど洗練されている。幾重にも仕組まれる伏線を回収しながら、新たな難題を次々と投げてくる展開と、落ち着いた響きなのにグサリと心をえぐるようなセリフを繰り出す巧みな脚本も素晴らしい。

    そしてそれらに息を吹き込み、冷徹な真顔で、冷め切った目で政敵の息の根を止め、一方では庶民を安心させる優しい笑顔と味方や敵を欺く言葉を振りまき、政治家の清濁の両性を演じ切るキャストたちは見事だ。

    このドラマを観るのに、小難しい政治の知識は要らない。

    1庶民、1視聴者に、鮮烈に伝わってくる「感情」と「力」のダイナミズムが最高のご馳走になってくれるからだ。これまで政治劇を食わず嫌いだったあなたも、世界を揺るがし得る"危険と恐怖"を孕んだリーダーを「人々が選び出す」熱狂に、今、この絶好機にこそハマってみてはいかがだろうか。


    文/尾崎英二郎(俳優)


    NHK朝の連続テレビ小説「あぐり」でテレビデビュー。NYオフ・ブロードウェイでの舞台公演『ザ・ウインズ・オブ・ゴッド』の演技で現地メディアの評価を得たことを契機に、日本から米国業界に挑み、トム・クルーズ主演の映画『ラストサムライ』、主要キャストに抜擢されたクリント・イーストウッド監督作『硫黄島からの手紙』に出演後の07年に活動拠点をハリウッドの地に移す。主な出演作に『HEROES/ヒーローズ』、マーベル『エージェント・オブ・シールド』、スピルバーグ製作総指揮のSFドラマ『エクスタント』など。最新作は、戦時中のアメリカの父子の絆を描いたファミリー映画『リトル・ボーイ 小さなボクと戦争』(8月27日より公開)。ハリウッドの映画・テレビ界に参入した道のりと戦略を綴った『思いを現実にする力』著者。


    『ハウス・オブ・カード野望の階段』DVD情報

    シーズン3:2016年7月6日(水)ブルーレイ&DVD発売中、DVDレンタル&デジタルセル 同時リリース
    シーズン4:2016年8月3日(水) ブルーレイ&DVD発売中、DVDレンタル&デジタルセル 同時リリース
    発売元・販売元:(株)ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
    (C)2015 MRC II Distribution Company L.P. All Rights Reserved.
    (C)2016 MRC II Distribution Company L.P. All Rights Reserved.



    ■参照リンク
    『ハウス・オブ・カード野望の階段』公式サイト
    http://house-of-cards.jp/


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