【連載】
現実は映画よりも「凶悪」
新潮45編集部が徹底的に暴いた現代の闇、映画化決定までの軌跡(第一回)
死刑囚からの告発によって、ひとりのジャーナリストが闇に葬られようとしていた殺人事件を暴き、犯人逮捕へと導いたベストセラー「凶悪―ある死刑囚の告発―」が映画化された。
山田孝之、ピエール瀧、リリー・フランキーを迎えて、映画『凶悪』に挑んだのは、若松孝二監督の助監督出身の白石和彌監督だ。映画『凶悪』の脚本開発からキャスティング、そして自身のこれからについて。熱く語ったインタビューを3回連続でお届けする。
白石和彌監督
殺人はなぜ繰り返されるのか。主人公に託したこと。
きっかけは、長編第1作『ロストパラダイス・イン・トーキョー』を観た赤城プロデューサーから、骨太でエンターテイメントな作品を作ろうと誘われたこと。題材を探す中、赤城から「凶悪―ある死刑囚の告発―」を提案される。
原作を読むと、ニュースでは分からなかった事件の奥底が見えてきて、難易度は高いけれどチャレンジすべき題材だと思った。事件を突き詰めて考えていく過程で、「もしかすると、人が人を殺すというのは、人類が生まれてからずっと繰り返されてきたことで、恐らくどれだけ法が整備され、マスコミが報道によって啓発しても、殺人という行為は決してこの世から消えることはなくて、人間の営みの中の一部で、必要悪ではないかと行きついた」と言う。
悩んだ白石は、原作の宮本氏に面会し、脚本で突き詰めたこの「無常観」を、山田孝之が演じる記者、藤井に託して行けば、映画に出来ると確信した。
山田孝之演じる記者・藤井
白と黒の間にある灰色にこそ、『凶悪』が潜んでいる。
原作をそのまま映画にすると、「有能な記者が事件を解決した」というヒーローものになり、事件の深層は語れない。「白黒ハッキリつけられないところが人間。灰色の部分にこそ、何かが潜んでいて、社会も個人も、進んでいる先が本当に正しいのかどうかは分からない」脚本作りが始まった。
「脚本の高橋泉との作業は1年2ヶ月掛かり、何度も煮詰まりましたね」と笑いながら白石は続ける。「何か凶悪な事件が起きると、ワイドショーや雑誌がこぞって取り上げる。彼らは視聴率や部数を伸ばすために見出しを他よりも面白くして興味を引こうとします。事件を扱いながら、その内容はどんどんエンターテインメント化していく。僕はそのやり方が大嫌いで、最初はそんなマスコミに対して問題提起していくつもりで脚本を書き始めました。でも実際には、事件は他人事で、妙に面白おかしくしようとしたりしている自分の方が、事件をエンターテインメント化してしまっている事に気がついて...。あの時は本当に打ちのめされました」と振り返る。
見えないラストシーンを求めて、犯罪現場を歩く。
打ちのめされたり、煮詰まった時は、脚本の高橋と飲んだり延々と話した。パソコンを前にして何時間も全く話さずに考え込んだり。そんな中で「ラストシーンはもしかすると自分に向けられるものになるのかな」と思った。脚本がほぼ完成してラストシーンだけが決まらないという時、白石は実際の犯罪現場を訪れ、歩き回ったという。
「現場に行って、それまで対岸の火事、他人ごとだったこの事件が、自分の生きる世界と地続きの犯罪だと気づいたんです。その瞬間にラストが見えてきた。僕を含めて、みんな当事者になってもらおう」と決めた。現場を歩く白石の姿こそ、犯罪の真偽を見極めるために、取り憑かれたかのように現場を歩く、山田孝之が演じた記者の姿そのものではないか。
次回をお楽しみに!
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映画『凶悪』は、9月21日(土)より、新宿ピカデリーほか、全国ロードショー
写真:(C)2013「凶悪」製作委員会
【参照リンク】
・『凶悪』公式サイト
http://www.kyouaku.com/
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