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『LOVE & MERCY』は、愛と慈悲を歌ったブライアン・ウィルソンの曲をタイトルにした映画。日本では『ラブ&マーシー 終わらないメロディ』というタイトルで、8月1日(土)公開となる。映画は、ビートルズと同時代に一世を風靡したアメリカの人気グループ、ザ・ビーチボーイズのコンセプトメーカーで、音楽的リーダーでもあったブライアン・ウィルソンを、ふたつの時代でとらえた意欲作だ。



1960年代、つきることのない創作活動の過程と、人気グループであるが故の非日常的な毎日。1980年代、ドラッグ中毒のリハビリを続ける日々では、専属精神科医によって厳しく管理された非日常が浮き彫りになる。映画は、ふたつの時代の全く異なる「非日常」を現出させることで、ブライアン・ウィルソンという希有なアーティストに迫っていく。

1960年代のブライアンを生き映したかのように演じるのはポール・ダノ。
1980年代のウィルソンに扮するのは、『セイ・エニシング』や『ハイ・フィディリティ』など、音楽がキーとなる作品で好演したジョン・キューザック。
2人のかけがえのない俳優を得た監督ビル・ポーラットは、この映画の鍵となる女性メリンダ役にエリザベス・バンクスを起用。名脇役ポール・ジアマッティの悪辣をブレンドし、見応えのある敬意に満ちた映画を完成させた。
だが、この作品は、音楽映画ではないし、ひとりのスーパースターを讃える映画でもない。『LOVE ACTUARY』に挿入されたザ・ビーチボーイズの名曲『God Only Knows』や、最もヒットしたナンバー『Good Vibration』を堪能できるわけではない。過酷なリハビリテーションの過程で生み出されたブライアン・ウィルソンの音楽を満喫させてくれることもない。

では、この映画が作られた意図はどこにあるのか。

ザ・ビーチボーイズのマネージメントを担当していた癇癪持ちで暴力的な父親との軋轢と葛藤、16歳で結婚した最初の妻に語る初めてのLSD体験。ザ・ビーチボーイズの2人の兄弟と2人のメンバーとの確執の日々。カーディーラーで女性と恋におちる姿。自分を飾ることなく、素直にありのままを語る彼は、異常なまでの監視下におかれているという現実。レコーディングに没頭し、スタジオ・ミュージシャンたちに対して「理想の音」を求め続ける。耳に鳴り響く音を掴み取り、ピアノでの弾き語って父に聴かせる。精神科医の監視を逃れて街を彷徨う。
やすらぎ、張り詰め、身構え、怯え、笑い、泣き、耐え、からかい、助けを求める...。

ふたつの時制に幾重にも重ね合わさせる細かなエピソードの先に、観客とブライアン・ウィルソンとの邂逅が待っている。
1960年代と1980年代、異なる俳優によって演じられるブライアン・ウィルソンとは、どんな人物なのか。そして、彼が生み出したかけがえのないナンバーの数々とは...。
この映画は、今年に73歳を迎えたブライアン・ウィルソンを知るためのガイドとなる作品だ。彼のことを知る人も、映画を通して初めて出会う人も、誰もがブライアン・ウィルソンが生み出した珠玉のナンバーに耳を傾けたくなる。それこそが、この映画に携わったすべての人たちの、慎ましくも勇気に満ちた敬意が生み出した大いなる成果だと思う。
73歳のブライアンを前にしたら、きっと、誰もが若者なのだ。

『ラブ&マーシー 終わらないメロディ』は8月1日(土)全国公開



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■参照リンク
『ラブ&マーシー 終わらないメロディ』 公式サイト
http://loveandmercy-movie.jp/

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