


また“奇跡”が巡ってくるとは思わなかった。昨年2024年の復活・新生から一年ぶり。ツアーにともなうライヴ会場限定販売の新作CDR『Canis Lupus demo tracks』は全5曲入りで、昨年のわずかな公演でみせた激しく熱情的な感触とはまた別個に、とてもジェントリーな仕上がりをみせている。それは単純な“優しさ”や“柔らかな親和性”という表層はあるにせよ、まったく異なる音楽的バックボーンを持つメンバー各々が21世紀の現在にCanis Lupusを継続させているもっと深み、音楽的に“こうであらねばならない”矜持を強く感じさせる。ロックにおいてこういうことを言うのもどうかと思うが、ある種の気高さ、品格を強く滲ませているのだ。やはり“犬”ではなく狼の血が濃いということだろう。
5曲のうち昨年のCDR作C盤とL盤各収録曲と重複しているのは「l'assoluto naturale」のみだが、オリジナルのリリックによる歌もつけられ、その姿はかなり変化=進化している。
まず「light out field」。ファースト・アルバム収録のトップを飾っている曲だが、オリジナルにはアルバム全体を通してうかがえる硬質感がおそるべき高度な演奏力で貫かれていた。箕輪政博のひたひたと迫りながらアルカイックに空間を構築していくごとき緻密なシンバル・ワークは35年以上経た今現在でも(何度も驚くべきことに)遜色ないが、冷たい鋭利さとは真逆のあたたかな脈動が息づく。
この温もりはそのまま「l'assoluto naturale」の曲名にもあるように鳥のさえずりとともにナチュラルな沐浴を思わせる音世界へと導かれる。映画音楽の巨匠エンニオ・モリコーネが音楽を手掛けた1969年のイタリア映画「彼女と彼」の曲に、オリジナルの歌詞とウィスパーな唄がつけられている。新生Canisならではのトラウトロックな佳曲だ。ヤマジカズヒデのG手腕がいかんなく発揮された。
そして新生後初収録となった「天使」。アコGも入り森川誠一郎の低めに抑えたダブル・ヴォーカルがほんとうに、とってもジェントリー。そんな“声”とともに聞き逃してならないのはまるでデュエットのように歌いまくるベース・ラインだ。ダブル・ヴォーカルとベースの多重声がうっとりさせる。
次は最も反響を呼ぶかもしれないヴァン・ダー・グラフ・ジェネレーターのカヴァー「house with no door」。オリジナルCanis期にもライヴでは同じVDGGカヴァーの「Man Erg」とともに何回か披露されているが、スタジオ録音は音源化じたいも初。今回のツアーで最終日の5月1日の公演のみに参加する有馬純寿がピアノを奏でている。ヴォーカルはヤマジがとり、dipや数々のソロでも披露してきた口ずさむように自然な歌声がじんわりとしみ込んでくる。
最後は森川によるジョン・ウェットンも目を見張りそうなバースト・ベース音がイントロで炸裂する「bolero」。もともとオリジナル編成期でもライヴ大作として頻繁に演奏されてきた曲だが、70年代クリムゾンの「太陽と戦慄パート2」ライヴ・ヴァージョンをエンディングにおいてのみパスティーシュしたアレンジはほぼそのままに、森川がオリジナルのリリックを高らかに歌い上げる様は、キターーー、とわけもなく感動を喚ぶ。
このCDRには今のCanisの魅力のほんの一部ではあるが、優しいだけではない独特のテンションがコンパクトに収められた。また物販ブースで“もうないのかよ”といった怒号が飛び交うことがないように祈る。(石井孝浩)
【ツアー情報】
Canis Lupus Tour 2025“aeroperspective”
4/25(金)高円寺HIGH
4/28(月)名古屋HUCK FINN
4/29(火)難波BEARS
5/1(木)高円寺HIGH
-Guest Player(5/1のみ)-
有馬純寿(synth)
open/start 19:00/19:30
adv/door 4,000円/4,500円(+1D)
BEARSはドリンク代無し持込自由