randc1.jpgゲーム制作集団NIGOROがFlashゲームとしてリリース、「華族の女同士の激しいビンタ合戦」という昼メロのような世界観で世界的に人気を集めた「薔薇と椿」がiOS/Android用スマートフォンアプリに移植され、「薔薇と椿 ~伝説の薔薇の嫁~」としてリリースされました。NIGOROのボス・楢村匠さんとパブリッシングを担当したroom6代表の木村征史さんに、スマホ版リリースに至る経緯や開発の裏側についてお話を伺いました。

“おビンタ格闘バトルゲーム”がスワイプ操作に対応

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薔薇と椿は、タイマン勝負でビンタを打ち合い、相手を倒す“おビンタ格闘バトルゲーム”。相手のほっぺためがけて“おスワイプ”でビンタを打ち、相手が攻撃してきたら下がる方向におスワイプしてスウェイ。Flashゲーム版は攻撃と回避をマウス操作のクリックで切り替えが必要でしたが、スマホ版はより直観的に画面をおスワイプしてビンタし、避けることができます。

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さらに新要素として、特定の条件を満たすと相手がピヨるので、胸ぐらをつかんで往復ビンタのラッシュが可能になりました。

薔薇と椿 ~伝説の薔薇の嫁~ Rose & Camellia(YouTube)
https://youtu.be/2IoARlIe-Hc

ウソ画像は仕様書だった!?

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実はこのスマホ版の仕様は、今から11年前に投稿されたNIGOROのブログ記事で予告されていました。iPod touchでスワイプ操作に対応する移植版を動かしているように見せつつ、実は静止画を表示してそれっぽく撮影したウソ画像だったのですが……。

2009年2月24日に投稿された記事:
3匹が企む: 缶詰2個目
http://3hiki.blogspot.com/2009/02/blog-post_24.html[リンク]

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Skypeインタビューで、当時のことについて聞いてみました。楢村さんはゲームイベント出展時に着ていく予定がイベント自体キャンセルになってしまったといういわくつきの、薔薇と椿Tシャツを着用しています。

――11年前のブログ記事を見つけたときには驚いたのですが、その頃にはもうスマホ版の仕様が楢村さんの頭の中にあったのでしょうか?

楢村:この頃はWiiウェア版の「LA-MULANA」の開発が進んでいて、NIGOROとしてブログで外に出せる情報がなかったので、「よし、ウソをつこう」と。それでiPhoneに対応できたというウソ画像を公開しました。

――エイプリルフールでもないのに(笑)

楢村:薔薇と椿をネタに使ったのは、知名度があったというのもあるんですが、スマホ版を出して一番ホントっぽく見えるだろうというのと、スマホにすると直観的に操作できるだろうな、と考えていたんです。

木村:この画像自体、スマホ版を作るときに僕らが最初にもらった企画書でしたよね。

楢村:企画書と言えば以前にもコンシューマー版を出そうと企画書を提出していたんですが、どれも実現には至りませんでした。WiiのブラウザでFlashを動かして、Wiiリモコンで操作できるか試してみたり、スマホのブラウザでどれぐらい遊べるか試してみたりもしましたね。

さういえば薔薇と椿をゲヱム機で出すといふ企みもありました。ボツになつたやうですけどもね。
もう十二年も前のことですわ。ようやく往復ビンタが日の目をみるのですわ。#薔薇と椿 pic.twitter.com/6ryWzxvN3o

— 薔薇と椿(公式) (@Bara_to_Tsubaki) March 11, 2020


https://twitter.com/Bara_to_Tsubaki/status/1237665824518754307

もともとはなかった「攻撃」「回避」ボタン

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――Flash版とスマホ版の大きな違いが、Flash版にあった「攻撃」「回避」ボタンがなくなっていることですよね。Flash版はボタンをクリックしてからマウスを操作することで攻撃や回避ができるのに対して、スマホ版では攻撃や回避のターンになったら、そのままスワイプするだけで直観的に攻撃や回避ができるようになりました。

楢村:もともとはFlash版もボタンはなかったんですよ。でも実際に遊んでみるとやりにくかったので、「ここからドラッグするんですよ」と分かるようにボタンを設置したんです。攻撃する前には右下にポインタがあるように、回避するときにはビンタで左上に払ったポインタを左下に移動するように誘導しているんですね。

スマホ版では想定した操作そのままで作れるのではと考えて、ボタンをなくすことは始めから決まっていました。ただ、画面を触って操作するとゲーム性が変わるだろうと。Flash版のように律儀に交互にたたき合うよりも、もっとアクション性が高くなるだろうと考えました。そこで、叩き方で状況が変わるように仕様を変えている部分があります。

回避も大きく違う部分ですね。Flash版では「回避」ボタンを押してドラッグできれば回避できたのが、アプリ版では相手がアニメーションしてタイミングをずらしてくるので、本当に叩く動作をしたときに回避しないとよけられないようになっています。そういう面でもアクション要素が強くなっていますね。

手描きアニメーションにこだわりアニメを増量

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――キャラクターが回避する動作もそうですが、スマホ版では対戦開始の入場や勝敗が決まったときのキメポーズなど、キャラクターに動きをつけるアニメーションがふんだんに使われていますね。

楢村:Flash版を出した当時は大きな絵を表示すると表示が遅くなるので、止め絵で色数も落としたGIFが中心になっていました。あれから10年以上経って今出すなら、多少はアニメーションしないと……。

ゲームを売るプロモーションの意味で言うと、Flash版の薔薇と椿はキャラクターが立っていない。主人公はずっと背中を向けているので絵が地味になってしまいます。人にハマってもらう要素として主人公が立つように、前を向いて入場したり、キメ顔で振り向く動作が必要だと考えたんです。

そうなるともう止まらないですよね。入場から勝ちポーズからフルアニメーションで描いていくので、NIGOROで他の企画が動いていてもそれに集中してしまう。NIGOROのメンバーも本当は止めなきゃいけないんですけど、ゲームづくりバカばかりなので(笑)、そのインパクトと効果が分かっているから止めなかったんですよ。

――アニメーションはアニメーションツールを使わず、手描きで作っているのでしょうか。

楢村:最近はアニメーションツールが安く手に入ったり無料だったりしますが、回転とずらししかできなかったり、紙で作った人形劇みたいなアニメーションのゲームが増えてきたように思うんですよ。「2Dアニメなめてんじゃねえよ」と。

これは印象深かったんですけど、薔薇と椿をやることになって初めてroom6に打ち合わせに行った日が、京都アニメーションの事件(2019年7月18日の京都アニメーション放火殺人事件)があった日だったんです。あの事件で僕がどうこう思っているわけじゃないですけど、手描きで作ったもののよさ、そのこだわりをあの事件がプッシュしてくれた面はあると思います。「手でアニメ描くってすげえことなんだ」「アニメーターってすげえ」と、毎日思いながら描いてました。

木村:最初見たときはビックリしました。膨大なアニメーションファイルが入ってるのでサイズも大きくなっています。

楢村:パーツに分けて動かしてますが、回転やスライドでごまかしてるところはないですね。

NIGOROとroom6でアプリ化

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――NIGOROとroom6はどういう経緯で一緒にアプリを作ることになったのでしょうか。

木村:最初にお会いしたのは2015年の「東京インディーフェス」でご挨拶したときかな。room6は2015年から現在までインディーゲームのイベントはほとんど全部出展していたので、たびたび顔を合わせていたという感じです。

楢村:「LA-MULANA 2」の開発が終わって会議をしていたときに、「2020年にFlashゲームが動かなくなる」という話題になったんです。自分たちの作品をスマホアプリで残すことを考えたとき、薔薇と椿なら出せるのではないかという話になったんですが、LA-MULANA 2もコンシューマー版を出したり海外で出したりと、やることが残っていて手を出しづらい状況で。困っている話を聞きつけて来たみたいですよ(笑)。

木村:(笑)。NIGOROさんは日本のインディーゲームシーンを引っ張ってる、憧れというか目標みたいな人たちでしたからね。一緒にやってみたい、というお話は前からあったので。

楢村:実際にやることが決まったのは去年の「BitSummit」のときかな。みやこめっせの喫茶店で「やろう」という話になって。

木村:取り急ぎ「東京ゲームショウ 2019(TGS)」に出展することを目標に進めました。

楢村:TGSで反応は上々でしたね。僕らも今でも薔薇と椿は破壊力があると思っていたので。過去に遊んだことがある人もいましたが、通りすがって爆笑してブースに来てくれたりとか。

木村:女性やカップルで遊ぶ人が多かったですね。出展が楽しかった。

スマホ版「薔薇と椿」プレイ動画https://t.co/GMc4cb2pQM #TGS2019 pic.twitter.com/UWZ76G90pr

— 宮原俊介@getnews.jp (@shnskm) September 13, 2019


https://twitter.com/shnskm/status/1172377644408561666

TGS2019:NIGOROの名作Flashゲーム「薔薇と椿」がスマホゲーム化! インディーゲームコーナーroom6ブースでプレイアブル出展
https://getnews.jp/archives/2205602[リンク]

――room6はアプリ化についてどのような知見を提供したのでしょうか。

楢村:我々はアプリについてはノウハウがゼロだし、苦労するだろうなと。無料で広告モデルで、課金など難しいことを考えずにやってもらえればと。

木村:広告の入れ方やアプリストアに上げる方法とかですね。アプリの審査は意外なほど一発で通って。アプリ化について細かく指定はしていないのですが、いい感じに対応できたかなと。

――プログラムはFlash版で動いているものをプログラマーさんが“目コピ”でUnityに移植したそうですね。

楢村:担当したのがFlashをやったことがないプログラマーで、過去のソースファイルを分析する手間をかけるより動くものを作る、という人だったので。当時のFlashのソースファイルは開けないので、Flash資産はほぼ残ってないですね。

木村:Flashゲームはロジックはシンプルなものが多いので、移植しやすいというのはあると思います。今回はアートの書き換えの工数が大きかったですが、元のリソースが流用できれば工数が少なく移植できるのではないかと。

――今後の展開の予定はあるのでしょうか。

木村:薔薇と椿の評判がよければシリーズや違うタイトルを手掛けてみたいという意向はあります。Switchのコンシューマー版とか、スマホアプリでも通信対戦を実装するとか。

楢村:ドラマ化してほしいですね。宝塚とか。女優さん同士でビンタ合戦してもらいたい。

--昼ドラに逆輸入(笑)。見てみたいです。

木村:そういう横の広がりもできたらいいですね。この世界観があるから、ここだけで終わるのはもったいないので。夢はいっぱいあります。

幻の「薔薇と椿3」構想

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楢村:Flash版には「薔薇と椿2」「薔薇と椿とLA-MULANA」というシリーズ作品があって、さらに幻に終わった「薔薇と椿3」という企画もありまして。キャラクターが決まったところで、まだ動きはナシという状態で止まっています。

実はアプリ版には「2」や「3」を再現するために仕込んだ仕掛けが、“実装されているけど使ってない”状態なんです。もし「2」や「3」を作ることになって、その使っていない仕掛けを使うと、より巧妙なタイミングずらしをする敵が作れたりします。

薔薇と椿ではキャラクターが棒立ちしている状態ですけど、仕組み上ではキャラクターは動けるんですよね。なので、相手がデンプシー・ロールしたり、俊敏に動き続けるようなこともできます。

「薔薇と椿 ~伝説の薔薇の嫁~」基本情報
タイトル名:薔薇と椿 ~伝説の薔薇の嫁~
ジャンル:おビンタ格闘バトルゲーム
プラットフォーム:iOS / Android
発売地域:グローバル(日、英、繁体、簡体、韓国、フランス語対応)
価格:無料
開発:NIGORO
配信、開発協力:room6
発売日:iOS: 2020年3月22日 / Android: 2020年3月20日
ストアURL
iOS版
https://apps.apple.com/jp/app/id1494666973[リンク]
Android版
https://play.google.com/store/apps/details?id=nigoro.room6.rc[リンク]

「薔薇と椿」をはじめとするNIGOROのFlashゲームはNIGOROのウェブサイトで公開中。Flash Playerのサポートが終了するまでの間、「遊ぶ人には遊んでもらって、動画も残して欲しい」(楢村さん)とのことです!

NIGORO
http://nigoro.jp/[リンク]

room6
https://www.room6.net/[リンク]

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