発売が延期されていた『ウィザードリィ外伝 五つの試練』Steam先行配信版がとうとうリリースされた! もちろん筆者も早速購入。すると配信後Steamの国内売上トップ、世界全体では一時2位を記録するという好調ぶり。『ウィザードリィ』シリーズのファンとしても非常に喜ばしい事態だ。そこで、今回はその『ウィザードリィ外伝 五つの試練』のレビューをお届けしたい。

ダンジョンRPGを新たな時代へ引き継ぐ作品『ウィザードリィ外伝 五つの試練』

『ウィザードリィ外伝 五つの試練』のレビューをお届けしたいとは書いたものの、本作は新作タイトルではない。かつてPC向けに発売されていた同名タイトルがSteam版として再配信された形。現在のPCに合わせて内部的なアップデートは行われているが、基本的な内容はこれまで発売されていたタイトルと同様だ。

さらにいえば、Steamの国内売上トップするほどなので、筆者がレビューするまでもなく、『ウィザードリィ』ファンは既に購入してプレイしていることだろう。そこでこの記事は、シリーズを知らない人に向けて書いていきたい。というのも、今この令和の時代に『ウィザードリィ外伝 五つの試練』が改めて発売されるということは、ダンジョンRPGという遊びを新たな時代へ引き継ぐという意味をもっているように思うのだ。

だからこそ、『ウィザードリィ』やダンジョンRPGを知らない世代の人に是非、その魅力をお伝えしたい。

『ウィザードリィ外伝 五つの試練』は、『ウィザードリィ』というシリーズの一作で、ゲームジャンルとしてはダンジョンRPGだ。ダンジョンRPGというのは、読んで字のごとく、ダンジョンを舞台にしたRPGなのだが、それだけではない。狭義では、以下の3つの特徴を備えたものがダンジョンRPGと呼ばれる。

1)ダンジョン内の移動は前後左右4方向に限定されている
2)敵と戦うハックスラッシュ要素を主要なゲーム性のひとつとしている
3)アイテムを集めて主人公を強化するトレジャーハンティング要素を主要なゲーム性のひとつとしている

2と3については、現代的なRPGでも持っていることが多い。しかし、1については、3D全盛の現在、ダンジョンRPGのみの特徴になっていると思う。このダンジョンRPGという形式を作り上げた元祖が『ウィザードリィ』シリーズだ。

正直なところ、ダンジョンRPGをプレイしたことがない人や、最近のゲームグラフィックになれた人の目には、本作のグラフィックが地味に映ることだろう。地味で、古臭く、おもしろくなさそうに思えるかもしれない。だが、それは違う。確かに、ビジュアルもゲームの大切な要素のひとつ。ビジュアルが悪いことで、ゲーム内の臨場感が損なわれ、ひいては面白さを感じられない…ということもあるだろう。

しかし、『ウィザードリィ』やダンジョンRPGは、ビジュアルが直接的にゲーム性に繋がるゲームジャンルではない。いうなれば「麻雀」や「トランプ」のようなもので、ゲーム性そのものの時点でおもしろさが完成されており、ビジュアルはサブ的な要素に過ぎないのだ。これは『ウィザードリィ』ラブな筆者が必死で擁護しているわけでは決してなく、シリーズの歴史がそのことを証明している。

『ウィザードリィ』はアメリカで生まれたシリーズだが、育てたのは日本だと言っても過言ではないように筆者は思う。たとえば、『ウィザードリィ』というと、「本格ファンタジー」というイメージが強い。しかし、そもそもの原点であるApple II版『ウィザードリィ』は、ネタ的なおふざけ要素が詰め込まれた作品だ。

有名なエピソードとしてあるのが「カシナートの剣」。このネタ元は、フードプロセッサーを販売するアメリカの調理家電会社クイジナート。フードプロセッサーのように回転する剣…「カシナートの剣」というわけだ。制作者が大学生の時に作っているだけのことはあって、ネタ精神に満ちている。「本格ファンタジー」というイメージとは遠い。こうしたイメージが塗り替えられたのが、日本でファミコン版『ウィザードリィ』発売時。

ファミコン版『ウィザードリィ』は、BGMに羽田健太郎氏、モンスターデザインに末弥純氏を起用。日本ローカライズに伴い、『ウィザードリィ』のイメージを、大人が楽しむ本格派ファンタジー路線へと転換させた。日本発売当時の広告キャッチコピーは「13歳以上の方にオススメします」。大人的な雰囲気に憧れる、中学生世代を狙って打ち出されているのだ。

当時小学生だった筆者は、このキャッチコピーに痺れて『ウィザードリィ』を購入した。「これが、13歳以上が楽しむ本格的なファンタジーか…」なんて思ったものだ。ちなみにファミコン版『ウィザードリィ』における「カシナートの剣」の設定は、「名匠カシナートが鍛えた剣」。もちろん筆者は「なるほど、名刀鍛冶みたいな奥深い設定があるんだな…」なんて思っていた。まさか調理家電会社とは思わなかったなあ…。

このファミコン版『ウィザードリィ』こそ、日本での『ウィザードリィ』の方向性を決定づけた作品だと思う。原典となる『海外版ウィザードリィ』は、剣と魔法の世界をストレートに描いたI~Vと、システムが刷新されたVI~VIIIという形で明確に区分できる。海外での認知度が高いのはVI~VIIIだと聞いたことがあるが、日本での認知度が高いのはまちがいなくI~V。

そして、I~Vに共通するのが、先に書いたダンジョンRPGの要素。実験的な作品であるIVを除き、I~Vのシステムに大きな変化はない。マイナーチェンジ的な部分はあれど、ほぼ同じシステムで、ダンジョンやシナリオ、モンスター、武器、アイテムなどのデータ面が異なる作品といってもいいだろう。

しかし、VI以降は違う。システムが刷新されたと書いた通り、VI以降はNPCとのコミュニケーション要素の強化や3Dフィールドの導入など、当時モダンとされていた新要素を次々導入していった。このため、ダンジョンRPGというカテゴリからは離れた作品となっている。そして、システムだけでなく世界観も大きく変化。正統派のファンタジーのカテゴリからはやや外れる印象だ。

こうした状況もあってか、日本においてはV以降もI~Vが持っていた旧来のダンジョンRPG的なシステム×本格ファンタジーをベースとした作品が作られ続けた。そのひとつが『ウィザードリィ外伝』シリーズだ。

つまり、『ウィザードリィ』というシリーズは、今日の『ウィザードリィ外伝』に至るまで、「結果的に」システムを大きく変えることなく続いてきたシリーズだといえる。「結果的に」とつけたのは、敵ボスであるワードナを主役としたIVや、VI~VIIIなど、システムに大きな変更を加えた作品もあるから。

ただ「結果的に」、現在まで受け継がれてきたのは、細かい改善はあれど、I~Vまでのシステムをストレートに継承した作品なのだ。これは、初代『ウィザードリィ』の時点で、ゲーム性が完成していたからだろう。「麻雀」や「トランプ」など長い歴史を持つゲームのように、「遊びの形式」そのものがおもしろい。だからこそ、今でもプレイする価値があるし、未来へも引き継ぐ価値があるのだ。

アイテムと死は背中合わせ! スリルと高揚感でやみつきになる

「『ウィザードリィI~V』の時点でシステムが完成しているんだったら、続編作る必要ないじゃん! シナリオとかデータだけ配信し続ければいいじゃね?」…そんな風に思った人はいるだろうか。実は筆者もそう思う。そして、本作の開発者もそう考えたことだろう。なぜならまさしく『ウィザードリィ外伝 五つの試練』こそ、「システムの完成した作品に対して、無限のシナリオ提供を可能にする」性質を持つ作品だからだ。

本作は、メイン5本のシナリオに加え、ユーザー側で新規シナリオの作成を可能にするシナリオエディターがパッケージされている。もちろん、作ったシナリオは配信可能。つまり、シナリオを作成するユーザーがいる限り、無限にプレイできるというわけだ。

ただ残念ながら、今回のSteam先行配信版にはこのシナリオエディターが用意されていない。2022年内のリリースを目指して準備中だという。なので2021年現時点では、シナリオが無限にあるというわけではない。しかし、Steam版発売までにユーザーが配信した作品が、Steam版向けにコンバートされ、プレイ可能になっている。なので、おそらくプレイしている内にシナリオエディターが実装され、結果的にシナリオ無限状態になることだろう。

さて。ここまでさんざん持ち上げてきた『ウィザードリィI~V』のシステムだが、何がそんなに面白いのか? それは、トレジャーハンティングの高揚感と、死のスリル。この2つが連続で、相互に訪れることが、やみつきになるほどの快感をもたらすのだ。

まず、本作のゲームの流れについて話そう。多数のシナリオが存在するが、基本的に本作のシナリオは、冒険者が依頼を受け、依頼達成のためにダンジョンを探索するというモノ。よほど奇をてらったシナリオでない限り、依頼を達成するためにはダンジョン最深部へ至る必要があり、そのためには冒険者のレベルアップともに、強力な武器・防具の獲得が必要になる。

もちろん、ダンジョンの最中には様々なイベントが用意されており、先へ進むにはそれらのイベントをこなさなければならない。

『ウィザードリィ』はちょっとしたミスですぐ死ぬ。その上取り返しがつかないこともある。たとえば、レベル1だと、HPが10前後。これに対して被ダメージは3~5くらい受ける。つまり、2~3撃くらったら死。魔法を適切に使わなければすぐ死ぬので、ちょっとコマンド入力をミスったら終わりだ。

このため、ダンジョン探索中は残りの魔法使用回数に注意しなければならない。イキってダンジョン深部に進んでいけば、魔法が使えなくなって死ぬ。また、ダンジョンはオートマッピングだが、マップを見るには魔法を使わなければならない。なので、迷いやすさが死にやすさに拍車をかける。

そして、最大限にスリルを高めている存在が、ロストだ。ロストとは、キャラクターを完全に失うこと。キャラクターは死んでも蘇生することが可能だが、蘇生は失敗することもある。死体の蘇生に失敗すると、死体は灰に。灰からの蘇生に失敗すると、ロスト…。データから消え失せ、何を持ってしても復活できなくなる。

完全にゼロ! 文字通り、取り返しが付かない。現在のゲームでは考えられないほどのデスペナルティ。手塩にかけたキャラクターがロストした時の喪失感、残酷さは筆舌に尽くしがたいものがある。

こうした死にやすさとロストがあいまって、本作プレイ時は高い緊張感に包まれることになる。ホラー要素などないのに「怖い」と感じるほどの緊張感だ。だが、ただ緊張するだけじゃない。緊張の先に待っているのが、トレジャーだ。

『ウィザードリィ』では、基本的に武器を敵から獲得する。敵を倒すと確率で宝箱が出現、宝箱の中からランダムで武器・防具を獲得するという形だ。ランダムと書いたが、基本的により深い階層にいる強敵ほど、強力な武器・防具を持っている。つまり、高いリスクを払うほど、強力なアイテムが獲得しやすいという仕組み。

言い換えると、高い緊張感に耐え抜いた結果、強力なアイテムをゲット!というシチュエーションが生まれるということ。緊張感が高いだけに、強力アイテムを手に入れた時の喜びもまた筆舌に尽くしがたく、もはや快楽といっていいだろう。だからこそダンジョンにまた潜りたくなるのだ。

単なるダンジョンRPGなら、『ウィザードリィ』以外にも多くのゲームがリリースされている。その中にももちろん、傑作は少なくない。しかし、ここまでのスリルと快感をもたらしてくれるのは、『ウィザードリィ』だけではないかと思う。30年もの間ほとんど形式を変えず、今の時代へと引き継がれていることにも納得の楽しさだ。

テンポよく訪れる楽しさ! 表現はレトロでも楽しさは現代的

また、今回プレイしてみて改めて『ウィザードリィ』の魅力だと気づかされたのが、ゲームのテンポだ。『ウィザードリィ』について、ゲーム性そのものの時点でおもしろさが完成されており、ビジュアルはサブ的な要素に過ぎない…と書いた通り、本作はビジュアル演出を押さえている。イラストのクオリティは高いし、解像度は現代のゲームに合わせているが、3DCGやエフェクトをバリバリに効かせた演出などはない。この結果、ゲームのテンポがすこぶる速い。

街からダンジョンに入って周囲を探索、戦闘を数回行って街へ帰還…という1サイクルに対し、早ければ1分もかからないだろう。本作において時間がかかるところといえば、戦闘の際にどんなコマンドを使うべきか悩んだり、戦闘後の宝箱の罠を外すパートなど、「プレイヤーの判断が問われる」部分だけ。逆に言えば、「プレイヤーが何もせずにただ演出を眺めるだけ」という時間は非常に少ない。

ゲームプレイ中のほとんどの時間を、「実際にプレイしている時間」が占めている。こうした仕様は『ウィザードリィ』に限らず、レトロゲームでは珍しくないものだが、実は非常に現代的ではないだろうか。

現代の生活ではゲーム以外にもSNS、動画等々といったやりたいことに溢れている。さらには仕事や勉強といった義務としてやるべきことももちろん時間を圧迫する。こうした状況にあってはゲーマーであっても、1つのゲームにどっぷり時間を割くことが難しい。「だったら短時間でもいいや…」と思ってプレイすると、広大なマップや豪華CGによる演出など、「実際にゲームをプレイしている時間」は短いという状況に陥ってしまう…なんて状況はないだろうか。

こうした状況を踏まえると、短時間でもしっかりゲームをプレイした実感が味わえる本作は、現代的な仕様を持っているといえるだろう。

麻雀やトランプのような文化へ! とにかくシナリオエディターの提供が待たれる

筆者はファミコン版『ウィザードリィ』をプレイした時、あまりの楽しさと中毒性に、「世の中にはこんな面白いものがあるのか!」と感じた。本作のスリルとトレジャーハンティングの快感が脳髄を直撃したため、学校生活でつらいことがあっても、「でも家に帰れば『ウィザードリィ』があるもんね!」と思っていたほどだ。『ウィザードリィ』は当時の筆者に対し、確実に生きる力を与えてくれた。

あれから30年が経過した今、『ウィザードリィ外伝 五つの試練』という形で改めてダンジョンに潜ってみて、やっぱりおもしろかった。断っておくが、「懐かしい」のではない。現在進行形でおもしろいのだ。ダンジョンは怖いし、アイテムゲットは気持ちいい。

だからこそ、本作未経験プレイヤーには、「世の中にはこんな面白いものがあるぜ?」と伝えたい。麻雀やトランプのような文化として、ゲームの歴史に残ってほしい一作だと思っている。先行配信時にシナリオエディターが提供されなかったことは残念だが、逆に考えればまだお楽しみイベントが残っているということ。それまでは、先人ユーザーたちが作った大量のシナリオ…いや、大量のダンジョンに繰り返し繰り返し潜りたい。

文/田中一広

(執筆者: ガジェット通信ゲーム班)

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